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ピン、と張り詰めていた緊張感が、なんとも言えない空気になっていく。先ほどまで、つい傍にいた死が、バチバチと、それはそれは派手な音を立てて黒焦げになったのだから。
わたし以外の誰もが状況を理解できていなくて、当のわたしはどう言い訳するかを考えていて。
誰一人として、発言しようとしない。
微妙な空気が流れ、永遠にも感じられる間の中、一番に動いたのはヴィルフさんだった。
剣を取り戻し、少し離れた位置から魔物を検分し、死んだことを確認する。警戒なんかしなくとも、すっかり息絶えていることは分かるだろう。
彼は魔物の死を確認すると、持っていた剣で空気を薙いで、剣についた血を飛ばす。
そして、鞘に剣を戻すと、何事もなかったかのように後部から車に乗り込んできた。
「ファンリュルは死んだ。他のが来ないうちにさっさと出るぞ」
荷車の中から布を取り出し、体に付着した血を拭きながら、彼は言う。彼の体に付いた血は、ほとんど返り血のようでしろまるの出番はないな、と、わたしは現実逃避をしていた。
未だ状況が理解しきれていないが、とりあえずここから離れないといけない、ということだけは分かっている様子のジグターさんが「えっと、じゃあ出るよ?」と混乱したままの様子で御者台に乗った。
車が動き出すころ、ようやく理解が追い付いたのか、オカルさんが思わず、と言った風に立ち上がる。
「いやいやいや、ちょっと待って――うわっ」
思い切り立ち上がったからか、荷車が少し揺れる。荷車の屋根はそこまで高くないので、オカルさんは天井の布に頭をぶつけていた。
当たった頭を押さえながら、しゃがみ、そのままハイハイをするようにこちらに近寄ってきた。
「えっ、今のなんすか? なんでファンリュルが死んだんすか? いやそれよりなんで誰も突っ込まないんすか? おかしいでしょ!」
なんで! と混乱をそのまま叫びに買えて、オカルさんがわたしに詰め寄る。いやそうなってしまうよな……。わたしが魔法を使えることを知っているのを抜きにしても、ヴィルフさんの反応はあっさりしすぎている。特級冒険者って、これが普通なんだろうか……。まあ、確かに状況を受け入れて冷静に判断しないと、こんな戦闘がある冒険者では生き残っていけないんだろうけども。
「そうだよねえ!? えっ、なんで死んだの!?」
御者台の方からも声が聞こえてくる。荷車は、側面と屋根部分は布で覆われているが、前後はなにもないため、ジグターさんの混乱した声がよく聞こえる。まあ、そうじゃなくても、普通に聞こえたかもしれないくらいには、でかい声だった。
でも、叫びながらも、そこは冒険者。しっかり前を向いて魔物を御している。
「え、えっと、あれは、その……ま、魔法で、えーっと……数少ない、わたしたち一族が受け継いできた物の一つで、その、ええと……こう、バチッと? して? 暴漢から身を守る……的な? そんな感じの魔法です、はい、うん、そうです」
完全な嘘である。でも、素直に送電〈サンナール〉の説明をするわけにはいかないだろう。こうして歴史は歪んでいく……。




