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ガタゴトと揺られながら平原を行く。ある程度道が舗装されているからか、多少揺られる程度で、酷い揺れは起きない。荷車に乗るからには、もっとがたがたするかと思っていたが、全然そんなことはなかった。何も敷いていないとおしりがいたくなりそうだが。
ヴィルフさんは外を見ることもなく、じっと隅に座っている。たまーに耳が動くので、全く警戒していないわけじゃないんだろうけど。
わたしはと言えば、最初のうちはぼーっと外を眺めていたが、景色が変わらないのでイエリオさんと会話に興じていた。
会話、というか、イエリオさんがいつの間にか持ち込んでいた、文献のコピーを見せられながらの質問攻めに答えているだけだが。多分、これはわたしが肋骨を負って、フィジャの家で療養している間、暇を潰す用にと持ってきてくれたあの段ボールたちの続きなんだろう。
朝早めにでて、屋敷に到着する予定時刻は日が沈む少し前。前回よりは圧倒的に早くつくものの、何もしないで待つには暇すぎるので、こうして時間が潰せるのなら質問に答え続ける方のがマシというものだ。
「――マレーゼさんは、本当にシーバイズの文化を受け継いでいるんすね」
わたしとイエリオさんが話している横で、ふと、オカルが言った。
シーバイズの文化について詳しすぎただろうか、とわたしは内心で冷や汗をかく。わたしにとってはつい最近まで生きていた時代だが、彼らにとっては千年も前の話。
わたしが人間でシーバイズ時代の生まれだということを隠し通したいのなら、魔法以外にもいろいろと気を使わないと行けなかったのに。
流石にやりすぎただろうか、と、言い訳を考えていたが、どうやら少し違うらしい。
「イエリオは研究所の中でも桁違いに『前文明好き』っすから。話についていけるのが、もう、すげーなって。自分だって前文明に興味を持ってこの研究を始めましたけど、イエリオは話が止まらないから疲れるんすよ」
本人の前でそう言ってしまうのはどうなんだろう……と思ったが、イエリオさん自身はあんまり気にしていないように見える。
もしかして、言われなれてるんだろうか。まあ、ヴィルフさんを連れてくる際に、脅しにくるくらいだもんな。ある程度、自覚はしているのかも。
「まあ、確かに話は長いですけど、それなりに楽しいですよ。少なくとも、今はぼーっと外を眺めるよりは、こっちの方がいいかなって」
イエリオさんと前文明の話をしていると、シーバイズ時代のことを思い出せて、なつかしさみたいなものを感じるのだ。多分、シーバイズの話をあれこれしても、ある程度分かってくれるのは、四人の中ではイエリオさんだけ。
元の時間に戻ることもすぐに諦めたけど、分かってくれない人ばかり、というのがさみしくないわけじゃない。まあ、今ここでの時間がそれなりに楽しいので、さみしさになかなか目が行かないだけだが。




