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「は? 普通に嫌だが?」
イエリオさんの仕事終わり。
今日はフィジャの帰りが遅い日なので(もう仕事に復帰しているのは流石というかなんというか)ご飯でも食べに行こうか、と話していたら丁度ヴィルフさんを見つけたので、イエリオさんが声をかけ、わたしとイエリオさんとヴィルフさんという謎メンバーで夕食を取ることになって。
調査の護衛の話をするとヴィルフさんは嫌そうな顔で言った。
「西の平原は弱い魔物しか出ねえ割には遠いんだよ。めんどくせえ」
「前回は行ったじゃないですか~!」
「そりゃフィジャの腕がかかってたからな」
ワイルドに肉料理を食べながらイエリオさんをあしらうヴィルフさん。そしてそれを横目で見ながらパンをかじるわたし。
パンは結構好みの味、固さだが、料理の方はフィジャの作ったご飯のが好きだな、と思いつつ二人の行く末を見守る。
ヴィルフさんを説得できるだけの材料も親交もない。イエリオさんが言って駄目ならわたしなんかが何かを言ったところで駄目だろう。
「あの辺に行くまでだったら中級冒険者一人いたら十分だろ。どうしても俺に来てほしいっていうならギルド通して正式に依頼だせ」
「そんなお金、ありませんからこうして頼んでるんじゃないですか!」
うーん、これは本格的に駄目っぽい。わたしとしても、ヴィルフさんが護衛なら魔法を使うことになっても面倒にはならないだろうからそっちの方がよくはあるんだけど……。
でも多分、お金の問題じゃなくて行くのが面倒なだけなら、フィジャの腕に匹敵する何かがあれば、ついてきてくれるような気もする。うーん、流石にあのレベルの問題は今起きてないからな……。
逆に言えば、なにか見返りがあれば協力してくれるだろうか。でも、お金には困ってなさそうだしなあ。
「……分かりました」
スンッとした顔でイエリオさんがヴィルフさんに縋りつくのをやめ、姿勢を正す。
「分かったなら――」
「今回の調査、逐一ヴィルフに進行状況を報告させていただいますね。ええ、あの遺跡の第一発見者ですから。報告するのは当然です」
ピクリ、とヴィルフさんの耳が動いた。
うげえ、という表情を隠しもしない。わたしが、フィジャの腕が治るかよりこの屋敷のことを知ったイエリオさんをどうなだめるか考えた方がいい、と言ったときと同じ顔をしている。
「護衛として一緒に来ていただければ、そんな必要もありませんけど。来てくださらないのですから、隅々まで、それこそ一から十……いえ、百でも千でも、いーっぱいご報告させていただきます」
にっこりと笑うイエリオさんの圧が強い。
ヴィルフさんが深い溜息を吐いた。
「あー、分かった、分かった!行きゃいいんだろ、行きゃあ!」
折れたのはヴィルフさんの方だった。あの距離を再び移動することより、延々とイエリオさんから前文明の話込みでの報告を受ける方が面倒だと判断したらしい。
腕っぷしは多分四人の中でヴィルフさんが強いんだろうけど、口では敵わないらしい。
そうして、ヴィルフさんも、五日後の調査へと参加することになったのである。




