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先日、フィジャの腕を治すために、魔法の研究書を探しにいった際に見つけた屋敷を調査する……らしい。案の定というか、なんというか。
そして、わたしに調査の協力をしてほしい、という依頼がやってきたのだ。イエリオによる依頼ではなく、彼の勤める研究書から直々に。
というのも、わたしは、この研究所の中で『シーバイズの文化を細々と継承してきた一族の末裔で、自国から外に出て旅をしている途中にイエリオたちと出会った』という設定になっているらしい。シーバイズ語を翻訳したはいいけれど、そこのあたりどう説明したんだろう、とイエリオさんに聞いたら、そういうことになっている、と教えてもらった。
フィジャの家にいるのもあと一週間程度。次はイエリオさんの家にお世話になることになっているので、一足先に研究所のほうにやってきて、話を聞くことになっている。
ちなみに、腕が完治したフィジャだが、『リハビリを頑張った』でごり押したらしく、医者に「無茶をするな」と散々叱られたらしい。
しかし、なんというか、まあ……。
研究所の入口こそ綺麗だったものの、イエリオさんたちの研究チームに割り当てられているという研究室に入ると、カオスというかなんというか、すごい有り様だった。
どことなく、新しい魔法の研究をしている師匠の部屋を思い出す。研究職の人間が使う部屋は、皆こんな感じになるのだろうか。
「さて、マレーゼさん、こちらにおかけになってください」
わたしは研究室の奥にあったソファーへイエリオさんに案内される。普段から客を案内する時に使っているのか、それとも休憩スペースなのか、二組のソファーとそのソファーに挟まれた机、というさほど大きくないこのスペースは書類や本が侵食していないようだった。
わたしがソファーに座ると、目の前に二人の獣人が座る。
一人はイエリオさんで、もう一人は健康そうに肌がやけている獣人さんだった。なんの獣人かはちょっと分からない。耳が頭頂部にあるから、なんか毛のある動物系なんだな、というのは分かる。哺乳類系か。
「初めまして、自分はオカルと言います。この研究チームの副リーダーを勤めさせてもらってるっす。本当ならリーダーが出るべきだと思うんすけど、今日は不在なんで、代わりに自分が」
朗らかに笑う彼は砕けた敬語で自己紹介をしてくれた。砕けた、といっても、わたしを見下しているような感じではなく、すごく気さくな印象を受ける。
「今回、西の方の平原で新たな遺跡……というかまあ、屋敷らしいっすけど、それを発見したということで。えーっと……この辺りだったかな?」
オカルさんが地図を広げてくれる。
丸が書き込まれた場所は、確かにヴィルフさんに見せてもらった地図の辺りと一致している。
……それにしても結構遠いな。またここに徒歩で行くのかと考えると、ちょっとな……。前回は切羽詰まってたからそこまで苦でもなかったんだけど。




