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エターナル・ブラック・アイズ  作者: segakiyui
7.運命の交差点

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18/36

3

 走り去って行く追っ手から目を逸らして声のする方を振り仰ぐと、未だ追跡者から瑞穂をかばうように仁王立ちになったまま、誰かが背中を向けて立っている。

 夜目に白い半袖のカッターシャツに黒いスラックスは制服風、どう見ても学生にしか見えないほっそりとした華奢な骨格の後ろ姿、ただし、乱れた髪の毛は目を見張るような金髪だ。

 さっき、黄金色の閃光が走ったと見えたのは、この髪のせいだったのだ。

「大丈夫だったのか、って僕が聞いてるんだよ」

 相手は応えない瑞穂にいら立つように、なおも振り向かないまま繰り返して尋ねた。

 追っ手は既に姿を消している。そちらが改めて襲ってくるかということを警戒して見張っているというのではない。

 ただ、瑞穂の顔を見たくない、そんな感じがいからせた肩に漂っていて、見事な回し蹴りを食らわせた脚に先にまで緊張が残っている。

 そのいからせた肩、かばった仕草にも、瑞穂は覚えがあった。

 ついさっき、『エターナル・アイズ』で見たばかりだ。

(あんなに怒ってたのに、助けてに来てくれたんだ)

 瑞穂はほほ笑んだ。

 そっと、丁寧に、からかう口調にならないように返事する。

「うん、大丈夫よ。『グリーン・アイズ』」

「ちっ」

 瑞穂がかけたことばに、正体を知られたと言いたげないまいましげな舌打ちをして、相手はゆっくりと振り返った。

 黄金の髪が汗にぬれて濃い褐色になり額に幾筋もへばりついている。その下に、思った以上に深い黒目がちの瞳が瞬きもせず、瑞穂を見つめている。薄い唇はわずかに開いて荒い息を繰り返していて、今の出来事が見えているほど楽な仕事ではなかったのだと瑞穂に教えた。

「高樹、晃久だ」

「え?」

「だから」

 相手はいらだった顔で繰り返した。

「僕の名前。タカギアキヒサ」

 なぜ急に名前を説明されているのかわからずにポカンと見ている瑞穂に、相手は余計にいらだった。

「畜生、あんたって、なんてわかりが悪い奴なんだ。さっきのおばはん相手には、あれだけわかりがよかったのに、僕のことにはどうしてぴんと来ないんだ」

 晃久はいきなり罵倒し始めた。

(怒ってる?)

 瑞穂はあっけに取られた。

 晃久は地面に座り込んだまま自分を見上げている瑞穂にますますいらだったらしい。

 瑞穂が抵抗する間もなく、腕をつかみ軽々と引き起こした。そのまま、ぐいぐいと引きずるようにその場を離れようとする。

「あ、あの、待って」

「何、怪我でもしてるの? してないよね、僕にはわかってるから」

「そうじゃなくて」

「とりあえず、さっさとここから離れよう。さっきの奴がまた来ると面倒だし」

 瑞穂のことばに耳も貸そうとせずに、矢継ぎ早に続ける。

「そうじゃないの、『彼』なら来ないわ、そんな…」

 瑞穂は一瞬ことばを迷った。

「そんな?」

 なおも瑞穂を引っ立てながら、晃久は振り返って不愉快一色の声で促した。

「そんな、覇気はない…あなたにあれほど派手にやられたんだもの、プライドがとても高い人だから、勝てないとわかってるのに戻ってこないわ」

 晃久は一瞬体の動きを止めた。追っ手の逃げた闇と瑞穂を交互に見た後、眉を厳しく寄せて瑞穂をにらむ。が、すぐに、

「いいから、ここから離れるの。今夜はもう十分だろ、わかってんの、ひどい目にあったんだぞ」

 小さなわけのわかっていない子どもに言い聞かせるように吐き捨てた。

「あの、でも」

「でも、なにさ」

「鞄が」

 ぴた、と晃久は立ち止まった。冷ややかに瑞穂を振り返る。そのままじっと珍しい動物でも見るようにねめつけて、瑞穂がどうにも動きそうにないと知ると、

「ああ、もう!」

 煮え詰まったような叫びを上げた。瑞穂の腕を引きずりながら元の場所に戻り、ほうり出されたままの鞄を拾い上げて瑞穂に押し付け、居丈高に尋ねる。

「他には?」

「ううん、ない」

「じゃあ、帰るからね」

「はい」

 それ以上何か言うと相手が爆発しそうな気がして、瑞穂は慌ててうなずいた。

 痛いほど握られた腕は軽くしびれてきていた。けれど、それがなぜか、相手が嵐の海で必死に命綱を必死につかんでいるような感じがして、離してくれとは瑞穂にはとても言い出せなかった。

 そのままずんずん歩き続ける晃久と一緒にどのぐらい黙って歩いていただろう。気がつけば、瑞穂は住んでいるマンションのオートロックのガラス戸前まで連れて来られていた。

「あれ、あいつだったろ。あんたがさっき占ってた奴」

 無言でいた晃久が立ち止まったとたんにぽつりと言った。

 瑞穂は黙って晃久の強ばった横顔を見上げた。こうして隣に並ぶと、やはりかなり背が高い。

「知ってた?」

 瑞穂の腕を離さないまま、マンションのガラス戸をにらみつけながら、晃久は確認するように尋ねた。そして、すぐに瑞穂の心を読み取ったのだろう、こくんと一つうなずいて、

「そうか、知ってるんだ。じゃあ、何であいつがあそこに居たんだ? あいつはずっとあんたをつけて歩いてた。バーガーショップから出るときはいなかったのに。あんた、何をしたんだ?」

 たて続けに問いかけた。

「わからない」

 瑞穂は首を振った。

 それは本当にわからなかった。

 なぜ、あんなところに、長部がいたのか、どうして瑞穂をつけてきて、しかも襲いかかろうとしたのか。

(私の占いが原因?)


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