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エターナル・ブラック・アイズ  作者: segakiyui
7.運命の交差点

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17/36

2

 長部を見て、『グリーン・アイズ』を見て、挙句の果てに、遠山とおるの件に勝手に首を突っ込んだ。

 一日の仕事としては十分すぎるほど十分に動いたはずだ。

(でも、まだ、何も見えてこない)

 長部のことで、また『エターナル・アイズ』のことで、瑞穂は自分の力をうまくコントロールするか、生かせる方法を見つけないと、自滅すると感じた。

 『グリーン・アイズ』に煽られて、その思いは一層強くなった。

 あの炎の夢に飲まれないために動かなくてはならないと感じ、だからこそ、この件にもリスクを侵して突っ込んだとも言えるのに、いつもならぼつぼつとでも見えてくるはずの『道』はまだわからない。

(あのバーガーショップには、しばらく行けないなあ)

 瑞穂はまたため息をついた。

 繰り返し、自分の力の限界と不安定さを思い知らされるだけだ。

(いったい、どうしたらいいんだろう)

 自分は焦り過ぎているだろうか、と瑞穂は思った。

(どちらにしても、今夜はもう疲れ過ぎてるよね)

 『気配』を読むのに疲労は最大の敵だ。

 読まなくていい合図に引っ掛かり、読まなくてはいけない大切な、けれどささやかなものを見過ごしてしまう。

 瑞穂はもう一度深いため息をついて、人混みからゆっくりと離れて歩きだした。


 足音に気がついたのは、住宅街からかなり離れて、閉店時間を過ぎて静まった商店街を歩きだしてからだった。

(気のせい、じゃない)

 ひたひた、ひたひた。

 ひたひた、ひたひた。

 その足音は静かに、けれど途切れることなく、一定の距離を置いて瑞穂の後ろをつけてくる。

 ひたひた、ひたひた。

 ひたひた、ひた。

 右へ曲がれば右へ、立ち止まれば立ち止まり、足を急がせればリズムが上がる。

 一度、小走りになった後で急に立ち止まって振り返ってみたけれど、背後にはそれらしき人間はいないし、ただぞろぞろと歩く人波があるだけだ。

(誰かがつけてきている?)

 いつから、そして、何のために?

 胸元でこぶしを握って『気配』に尋ねてみたが、反応はない。

(身の危険はないってことかな)

 とりあえず安心したけれど、それでも無意識に足を速めてしまったのが、追跡者を刺激してしまったのかもしれない。

 角の酒屋を曲がったとたん、背後の足音がばたばたと激しく響き出し、瑞穂は背中がすくむ思いで肩越しに振り返った。

 人気のなくなりつつある商店街、ちかちかとそこだけ無機質に眩い自販機、目を閉じたようなシャッターの前をみるみる瑞穂に向かって距離を詰めてくる影がある。

(まずい!)

 『気配』よりも体が反応した。

 身を翻して駆け出すが、足音はすぐに真後ろに迫ってくる。見えてはいないのに、その人物の影の中から容赦なく伸びる黒い手が瑞穂を背後の闇に引き戻していく。

 恐怖に足がすくみ、次の瞬間、瑞穂は前のめりに転がった。

「あっ…」

 自分の声とは思えないほど心細い悲鳴が口からこぼれ、鞄を投げ出すように飛ばしてしまって道に両手を突き、必死に体をひねって振り返る。

 手は瑞穂の想像どおりに、いや、想像よりはるかに猛々しい殺意を満たして闇から伸びていた。

 明らかにそれは人の手なのに、その先が街灯を外れた闇の中に飲み込まれ、禍々しい気配をまとって、はてしなく中空を伸びてくるような、くねり近寄る蛇に見える。

 もう少しでその手の持ち主が、商店街の街灯の光輪の中にさらされる、その直前、

「ちいっ!」

 夜の空気を切り裂くような鋭い舌打ちが響いた。

 街灯の光に、ふいに鮮やかでまばゆい黄金の光が走る。その光は瑞穂と追っ手との間に割り込むと、空間に金の幻を残してぐるっと旋回した。

「は、あっ!」

「げ!」

 追っ手の口から呻きがもれ、相手の体が後ろへ吹っ飛んでアスファルトの上に転がるのが見えた。

「何する気だ、貴様!」

 閃光は怒気を満たした大声で相手を威嚇した。

「やるなら、骨の一、二本は覚悟しろよ!」

 びりびりと辺りの空気が震えるほどの気迫のこもった怒声だ。

「く…」

 吹っ飛ばされた相手が街灯からわずかに外れた薄闇の中でくやしそうに唸り、勝ち目はないと思ったのだろう、意外に素早い動きで跳ね起きて逃げ出した。

(あの、動き)

 瑞穂はその動き方に目を吸いつけられて、凍りついた。

 人は考えられている以上に個人個人で違うものだ。思考感情ふるまい方、いわゆる性格と呼ばれる内面的なものだけではなく、体そのものもかなり違う。

 部品はけっこう似ていても繋がり方が違っていたり使われ方が違っていたりすることで、個人特有の動きが生まれる。そしてそれは、基本的な要素をほとんど変えることがない、よほどの訓練を積まない限り。

 そして、瑞穂の『気配』はそれを的確に読むことができる。

 たとえ相手の顔が認識できなくても、手を振る動作一つ、首を曲げる仕草一つで、瑞穂に相手の本質を知らせてくる。つまり、相手が何者であるかを教えてくれるのだ。

(あれは…忍だ)

 瑞穂は茫然とした。

「おい、大丈夫なのか」

 荒い調子で呼びかけられて、我に返る。


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