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1.妹との再会

高校一年の夏休み。

十年前に離婚が原因で父方へ引き取られた妹が帰ってくることとなった。

離婚の原因は父の浮気。知らない女性との行為を目撃した私の発言から家庭が崩壊した。その頃は出ていく父と妹に困惑していたが、ただの喧嘩だと思いすぐに戻ってくるものだと思っていた。

しかし、私の考えは愚かだった。

一週間、二週間と時が過ぎても父と妹は帰ってこなかった。


『おかあさん、おとうさんと椛ちゃんはいつ帰ってくるの?』

『おかあさん、椛ちゃん連れておとうさんどこに行ったの?』

『わたし、椛ちゃんと遊びたいよー』

『おかあさん、ケータイ貸して!おとうさんに連絡する!』


私は、母に父と妹の居場所を毎日のように聞いていた。

だけど、母は何も言わずただ泣いていた。

父と妹が戻ってこないと分かったのは、父と妹が消えてから一か月後だった。











町内で正午を知らせる鐘が鳴り響く。

私の住む田舎町では、この鐘の音が午前部終了の合図だ。

スポーツドリンクを手に取り、カラカラの喉を潤す。


「楓お疲れ!今日も一緒に帰ろうよ!」


同じテニス部の同級生から肩を叩かれ、口から数滴零してしまう。


「ちょっと、飲んでいる時にそれは反則!」


「ごめんごめん、ついいつもの癖……っていてぇ!」


ゲラゲラ笑う同級生に軽くデコピンをお見舞してあげる。


「これくらいの罰で許してあげる」


コートを出て更衣室で制服に着替える。そのまま先輩に挨拶後そそくさと帰ろうとする。


「楓、先に行っちゃうの?」


「えっ、私言ってなかった? 今日十年ぶりに妹と再会するんだよ!」


同級生は思い出したかのように手を叩き『そっか、頑張れー!』と言った。

頑張れ……か、確かに昔仲が良かったとはいえ、十年も経てば関係も初めからやり直しなんだろう。妹との再会は楽しみだけど、同時に緊張もする。


「でも、お姉ちゃんとして私がしっかりしないと!」


私よりも緊張しているであろう妹のためにも。そう思いながら私は家へと向かった。






家に着き、庭の掃除をしているおばあちゃんの前で立ち止まる。


「おばあちゃん!ただいま!」


「おや、おかえり楓」


「おばあちゃん!椛もう帰ってきてる?」


「ああ、さっき来たばかりだよ、荷物の整理をしているだろうから挨拶しにいってきなさい」


「うん!楽しみだなぁ!……椛、もみじいいいいいい!」


玄関に鞄を投げ捨て、階段を駆け上がる。

そして、椛の為に掃除した空室の扉を勢いよく開けた。


「椛っ!私だよ、お姉ちゃんだよ!」


勢いに少し驚いたのか、大きく目を開けている女の子がそこに立っていた。

見た目も身長も私とほとんど一致している。違いがハッキリしているところは、髪の色や髪留めの位置くらいだろう。彼女の髪の色は綺麗な蜜柑色をしている。。

私は部屋に入り、彼女の目の前で止まる。


「……」


「久しぶり!」


「……お久しぶりです」


かしこまった口調の彼女。十年前とはいえ知らない土地に来たようなものだから、反応としては正しいのだろう。


「椛ちゃんだよね!」


「……はい、そうですけど」


「わああ椛ちゃんだ!私とそっくりだね!やっぱり姉妹だね!」


嬉しさのあまり、手を取って上下に振る。妹との再会という、こんなに嬉しい事は他にない。

怪訝な表情の椛ちゃん。お構いなしに手を振る私。

勢いよく振っていたせいか、椛ちゃんが腕を引き離す。


「……あの、いきなりそういうのは困ります」


「あ、えっと……ごめんね?」


うっ、なんという塩対応。でもお姉ちゃん負けないよ!


「椛ちゃん、今何してるの?」


「……荷物の整理です」


「一人じゃ大変でしょ!私も手伝ってあげるよ!」


「……いえ、一人で大丈夫です」


「そんなこと言わずに!せっかく再会できたんだから、姉妹の共同作業しようよ!」


そういって段ボール箱に手を伸ばそうとすると——



ドンッ!!



椛ちゃんに肩を押され、床に倒れこんでしまった。


「……そういうの迷惑なので、やめてもらえますか?」


えっ……


「……出ていってください」


「そんなっ……ちょっとまっ——」


「出てって!!!」


椛ちゃんの怒声に思わず部屋から飛び出てしまう。

思いきり扉を閉められ、一人になった私はぽつんと廊下でたたずむ。



あれ、私もしかして……



いや、信じたくないけどまさか……



私、椛ちゃんに…………



……嫌われた?


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