カップルを絶対に殺すコラボダンジョン
構想12月24日、執筆12月24日の超大作。
ボクの名前はシィ=ルヴァー。
呪われし魔女と呼ばれている、ボクっ娘だ。
身体は平均的な少女といった感じだが、紫ローブに金刺繍をしたもので全身を隠しているので、それなりに怪しげだったり威厳があったりする。
数ヶ月前に未来視的なものを発動させた事があるのでメタ……もとい、大局的な発言が出来る。
話を戻そう……ここはいわゆる中世風のファンタジー世界。
ボクは未来を救うために、それなりに腕の立つ冒険者を集めている。
密かに動く、旅の賢者ポジションという奴だ。
今日も過酷な運命に立ち向かうため、孤軍奮闘をし──。
「ねぇねぇ、今日は12月24日なのに一人って寂しいわよね~」
「はは、そんなことを言うなよマイハニー。仕事で忙しいだけかもしれないだろう? そうじゃなかったら、神様でさえ救えない不幸だけどな」
町中で回想をしているぼっちのボク、
横を通り過ぎるカップル。
こちらを見ながらニヤニヤされている。
……大丈夫、大丈夫だ。
ボクは年齢イコール彼氏いない系女子だけど、特に気にしていない。
本当に気にしていない、本当に。
「でさぁ~、どうする? この後に宿屋にでも行くぅ~?」
「もうどこもいっぱいだよ~。っと、ゴミ捨てよっと」
飛んでくるピンク色の精力ポーションの瓶。
まだ中身が残っていたのか、ボクにかかる。ブチかかる。
「あれ~? 彼ピッピの投げたのが気持ち悪いローブの人に当たったよ~?」
「ぼっちなんてほっとけよ、今日は神様がくれたカップルの日なんだからさ」
──よし、気にしていないがカップルを殺そう。
* * * * * * * *
ここは王都展示場前で有名な冒険者ギルドだ。
通称、ヒックサイドとも呼ばれている。
カップル殺しで有名な手練れも多いと聞く。
ボクは金に糸目を付けず、報酬は言い値でギルドの掲示板に募集を出す。
最高ランクの冒険者のみに絞っているので、一人来るかどうかだろう。
待つ間、汚れてしまった服を着替えに戻る事にした。
宿屋が盛っているカップル達のせいで取れなかったので、公園にテントだ。
そこで同じローブに着替える。
同じ服しか持っていない、が……モテ無い原因の気もする……が、たぶん気のせいだ。
女騎士は毎日同じ鎧でもくっ殺言えばオークからモテるし、ロリ奴隷的なものなんてボロを着ててもモテてそこらの貴族並みの生活まで成り上がる。
きっと幼少から魔術の探求ばかりしていたボクには、何かが足りないのだろう……まだ歳だってかなり若いというのに。
身体と知識ばかり早熟で、異性とのコミュニケーションもあまりしたことが無い。
男の人の裸を見たのも、魔導書や、ゾンビを作る時くらいだ。
……そういえば、このヒックサイドは魔導書が有名だった気がする。
もしかしたら、高名な魔術師が、いや、それより上の段階──魔法使いが依頼を受けてくれるかもしれない!
ボクは、本来の旅の目的を忘れつつカップル殺しの依頼がどうなったのか、冒険者ギルドのヒックサイドに戻る事にした。
依頼を貼り付けた掲示板の前には人だかりが出来ていた。
研ぎ澄まされた魔剣のように鋭い眼を光らせる者。
ふらりとしているが、底に秘められし力が測れない者。
小山のような筋肉を滾らせる者。
一瞬で分かった。
こいつらは──カップルを殺す者たちだ、と。
「カップル殺し依頼、受けてくれるのかしら?」
ボクは気圧されながらも、問い掛けた。
返ってくる答えは最初から決まっていたのに。
「ああ、俺達はヒックサイドの中でも、カップルを粉砕することにかけては誰にも負ける事が無いスペシャリスト」
「ふふ、私達もそれなりにやりますわよ。呪われし魔女、シィ=ルヴァーさん?」
数十人規模──それがいくつかの徒党に別れているらしい。
最初の男性は、はげ散らかした頭を臆せず晒し、下品な笑みを浮かべている。
見せられた冒険者証明書には、最高ランク10と一緒に『NTR』という記号が書かれていた。
「NTR魔術……聞いた事あるわ……幸せの絶頂から、一気に何もかも奪い取るという最悪の外法」
「ゲッゲッゲ。俺達はNTR島というチーム。盗賊とかいう生やさしいモノとは違うぜ、なんせ心を犯すんだからなぁ!」
「お、恐ろしい……」
続いて、もう一人のリーダー格であろう女──いや、貴婦人と言った方が良い華麗さと余裕が見られる。
その冒険者証明書には、BLと書いてある。
「BL魔術……見た事があるわ。普通の男子が、一瞬にして常識を書き換えられて……それはもう恐ろしい」
「カンラカンラ。私達はBL島というチーム。カップルの片方は任せておきなさい。最も恐ろしいのは絶望では無く、新たな快楽だという事を教えて差し上げましょう」
「お、恐ろしい……」
こちらはかなりの数の女冒険者が所属しているようだ。
さすがにここまで人数が多いと、所持している金貨で足りるかどうか心配になってくる。
遠隔地の隠れ家まで戻って取ってくるというのも、12月24日中に決行したいので難しい。
「それで、望む報酬は?」
内心、ドキドキしながら問い掛けた。
「この依頼内容から、私達は感じ取ったのよ」
「そう、俺達は感じ取った。同じ独り身だとな。だから格安で良いぜ」
何とも複雑な気持ちだ。
だが、これだけの高ランク冒険者が揃えば向かうところ敵無しだ。
「吾輩も力を……貸そう」
新たに現れた、一人の男。
いや、男と判断して良いのだろうか……それは異形。
伝説と言われる竜の鱗で作られた禍々しい鎧兜を全身に装備している。
ただならぬ雰囲気。
孤高、その周りには誰もいない、到達出来ない。
モーゼのように人が割れていく。
決して触れてはいけない禁忌の存在だというように──。
「あ、あなたは……?」
男は冒険者証明書を取り出した。
そこにはランクSと──つまりイレギュラーランク。
書かれていた文字は『DCS』だった。
「こ、これは……ドラゴンカ──」
周囲の人間達が跪いた。
絶対的王者の降臨だ。
この最強コラボレーション。
カップルは死ぬ。
* * * * * * * *
ダンジョン作成。
過去にボクは700層のダンジョンを作り、その奥に宝を置くという……俗に言うWIZ的な事をやらかした。
今回もその経験を活かしてダンジョンを作る事にする。
だが、本日中に終えたいので小規模なモノだ。
地下三階。
聖なる数字と言われている三──カップルを殺すにはそれで十分、むしろ相応しい。
材質は石と、牢獄用の鉄。
牢獄は中から鍵をかけられる構造にしておく。
それがNTRチームからのリクエストだった。
中に入った者が、自ら堕落を示せるようにと。
「ひゅうっ、さすが悪名高い呪われし魔女だぜ」
「今はもう正義の味方」
「ははっ、確かにな! それじゃあ、正義っぽい使い魔を召喚するぜ!」
はげ散らかした男は一冊の魔導書を取り出した。
それは特徴的だった……厚さが。
「それはヒックサイドで有名なウスイグリモアね」
「ああ、俺達はこれを扱うだけでは無く、作る側……」
魔導書を扱う者はそれなりに存在するが、それを作成するとなると魔術への理解力が段違いで必要となる。
それが多数集まる場所──ヒックサイド。
彼ら自作のウスイグリモア、特徴としては薄いのと、他の魔術のアレンジが多いという事だ。
ちなみに他の魔術を引用していないグリモアは異常に魔力濃い内容となっており、魔術師でも扱いきれないものが多い。
「さぁ、出でよ! インキュバス!」
「なっ!? そんな強大な召喚を可能とするの!?」
インキュバス。
それは低俗な知能のない使い魔とは違い、インテリジェンス溢れる存在。
モンスターとも呼ばれる事はあるが、場所によっては人と同じような知性体としての地位を得ている。
それ故に契約を結ぶのはかなり難しい。
「我を呼び出したか、友よ」
「ああ、インキュバス。今日も頼むぜ」
呼び出されたインキュバスは貴族のような仕立ての良い服を着ていた。
スマート体型、髪はサラサラで、鼻筋が通った凜々しい顔。
その全てを達観したような落ち着いた声は、女性を無差別に魅了するだろう。
ボクも魔力を制御できなかったら危なかったかもしれないやったイケメンだ。
い、いやいや。ボクには好きな人がいたりするのでこんなもの平気だ格好良い。
「ふふ、呪われし魔術師もまだまだノーマルの女の子ってところかしら」
BLチームの女性達はイケメンインキュバスをモノともせずに正気を保っている。
恐ろしい精神力だ。
「私達は地下二階で待っているわね。そうそう、例のモノも後で準備できたら寄越してね」
「ああ、わかったぜ」
何やら二つのチームは連携が取れているようだ。
利害の一致というやつだろうか。
後は地下三階の最終地点に宝箱と、最後の番人が鎮座している。
「それじゃあ、外でカップル達を呼び込みましょうか」
「ああ、楽しい楽しい俺達のコラボダンジョン」
「ほほほ、12月24日を破局の記念日にして差し上げましょう」
* * * * * * * *
暇を持て余していたカップル達。
手にしたチラシには『真実の愛を試すダンジョン! カップル限定! 肉体的な危険は全く無しでドキドキのスリルを味わえる! 基本無料! 奥まで別れずに辿り着いた者には賞金として金貨を──』
と書いてある。
面白いように集まってきた。
「ぐふふ、まるで聖夜のロウソクに集まるゴミ虫のようだぁ……!」
NTRチームはゲス顔全開だ。
果たして、この最初の関門を超えられるカップルはいるのだろうか。
「一組目が来たわよ、準備お願い」
「ああ、任せろ。このNTR──寝取り魔術にかかってはひとたまりもあるまい!」
寝取り魔術、それは愛する二人を引き裂くためだけに存在する外法。
ありとあらゆる手段を使って別れさせ、精神を屈服させる。
今回は──。
「やっだぁ~。ダンジョンとかあたし超こわぁーい」
「ははは、マイハニー。キミのナイトが守ってあげるよ」
「賞金もらったらぁ、アクセ買ってアクセ! ねっ!」
二人のカップルが入ってきた。
賞金の使い道のところで、一瞬だけ男性が渋い顔をした気がした。
「やぁ、素敵なお嬢さん」
開け放たれていた牢の中で、インキュバスが甘く呼びかける。
何か良い感じにデコられた牢の中、いつの間にか質の良い絨毯やら、天蓋付きのベッドが設置されている。
どこから運び入れたんだ、これ。
「やだ、イケメン~」
カップルの女性の方が多少反応した、反応したが、まだ甘い。
その手は硬く硬く恋人繋ぎされたままだ。
「我はちょっとした領地持ちの貴族なのだが──」
女性の顔が、イケメンを見られて幸せ、の段階からマジ顔になった。
あれはサバンナで獲物を見定めるハンターの眼。
「結婚を前提に付き合ってくれる乙女を探していてね──」
女性の恋人握りが速攻で離れた。
「ちなみに次男坊で気ままに資産運用できて、両親の面倒も長男が見てくれる」
「嫁になります、結婚します!」
女性は猛ダッシュ。
インキュバスがいる牢っぽい部屋に入り、自ら鍵を閉めて、ベッドに直行していた。
「え、えぇ~!? 急にどうして!? 彼ピッピとか俺の事を言ってたのに!?」
「ごめんね、好きだったけど仕方ないの! 本当に好きだったの! ごめんね!」
インキュバスと共に全裸になり、ベッドの中でダブルピースを元彼氏に向けている。
「お、恐ろしい……寝取り魔術」
「ぐふふ……愉悦、愉悦」
はげ散らかした魔術師が、RECと書いてある録画用の水晶玉を使っているのがチラリと見えた。
速攻で牢が埋まっていき、ピンク色ダンジョンとなってしまった。
ちょっとボクには刺激が強いので地下二階へ避難した。
「あら、呪われし魔術師ちゃん。こっちも順調よ」
地下一階を通り抜ける猛者カップルもたまに存在していた。
元から金も地位もあって、全てにおいて恵まれたような境遇。
その類には、インキュバスを使った寝取り魔術は効果を発揮しにくい。
そこでBL──ボーイズラブ魔術が有効……有効なのだろうか?
本人達は有効と言っているが、ボクにはいまいち分からない。
「ほら、ごらんなさい。この新たなカップリングを!」
男男、男男、男男、男男、男男男。
それらが良い感じの顔をしてまぐわっている。
呆然と立ち尽くす、元カップリングだった女性達。
だが──その目はギラギラと輝き始めていた。
「こ、これはいったい……」
「ふふ、上で片割れとなった男の子をこちらに寄越してもらって、その復讐心を利用してボーイズラブ魔術をかけてあげたのよ!」
ボクは何故か、肌色蠢く男達の情事をジッと見詰めてしまう。
これではまるで、脱落した女性達と同じようだ。
「もうあのビッチ達はいらない……男だけの方が楽しいだろう?」
「お、俺にはまだ大切な人が……んんっ、そんなところ止めてくれ、汚いから!」
「お前のだ、綺麗さ」
低めの声で、何というか、囁きあったり、喘いだり……。
ええと……。
「顔を真っ赤にしちゃって、呪われし魔女ちゃんもこういうの好きなんでしょ?」
ハッと我を取り戻し、地下三階へ避難した。
さすがに、ここはまだ誰も到達者が存在していないようだ。
冒険者ランクS──竜装備の彼も、仁王立ちしたままだ。
無言のそれは、何度目にしても凄まじい威圧感。
「……来たか」
ポツリと一言。
最初はボクに言ったのかと思ったが、それは違った。
降りてきた背後の階段に二つの気配。
「な、何があっても絶対にきみを守るから!」
「うん、わたしも大きくなったら将来のお嫁さんになるからね!」
地下一階、地下二階の地獄絵図を突破してきた最強のカップル。
ゴールデンカップルと言うべきか。
黄金の精神を持つ二人……。
それはまだ年端もいかない、金や性というものすら意識していない最強のピュア。
ショタと幼女であった。
「……やはり奴らでは太刀打ちできない者が現れたか」
竜装備の男──いや、違う。
その存在は、魔力濃すぎて見えないくらいのウスイグリモアを開く。
瞬間、身体が人間を超越──ドラゴンへと変化した。
その腕は鉄柱のように雄々しく、表面の鱗一枚一枚が鈍い光沢を放っている。
こちらを睨み付ける三白眼は神話の畏怖、口鼻から噴かすのは空気を歪ます炎熱。
体躯は巨大で、高めに作ったはずのダンジョンの天井に背中を押しつけている。
「そ、そんな……肉体の改変、しかもドラゴンだなんて……魔術じゃなくて魔法の領域よ!?」
魔によって世界の法すら操る力。
この存在──疑似ドラゴンは、その信じられない現象を持って何を成すのか。
「見よ、これが『DCS』──」
疑似ドラゴンはおもむろに小さな何かを取り出した。
小さな箱──いや、違う。
馬車だ、ドラゴンとの体格差でミニチュアサイズに見える馬車だ。
「これがドラゴン──」
それを腰の位置まで持ってくる。
「馬車セ○クスだ!」
そして、全力で腰を振った。
ボクや、幼いカップルは目の前の現実が受け入れられなかった。
人類を凌駕するドラゴンが、小さな馬車に向かって全力で腰を振っているのだ。
幻術……ではない。
実際の出来事だ。
「ふぬううううう!」
ドラゴンは真剣だ。
全力で腰を振っている。
ボクと幼いカップルは全力で逃げ出した。
* * * * * * * *
街のカップルは一掃された。
地下一階、地下二階超えは出てきても、鉄壁の三階でブロックされた。
地下三階まで行ってしまったカップルは精神を破壊されて口をきけなくなっていた。
そして、何もかもを忘れるために別れるケースが多いようだ。
一緒に誰かいたという現実すら消したいがために。
ドラゴンカーセ○クス、あれは人類……いや、神々ですら早すぎる領域だろう。
まさに孤高の存在。
だが、彼……彼らは普通の魔術に関しても一流。
未来を救うために必要……かもしれない、たぶん。
来たるべき危機の折りには、力を貸してくれると約束してくれた。
そして、ボクはまた神々に抗うため、仲間を探す旅に出た。
──次はもうちょっとまともな奴を選ぼう。
シィ先生の活躍が見られるのは異世界序列のシムワールドだけ!
最終話まで書きためてあるので毎日連載中です。