7.
家に帰ると、恭介は起きていて、ゆるい格好で居間でゲームをしていた。
「あ、おかえり。どうだった?」
と聞いてくる。
「どうもこうも…」
と言いつつ、あたしはクサクサしていた。
「ちょっと! レモンちゃんおめでただって! あんた知ってたのに、なんであたしに言わなかったの?」
「あれ? キーコは知らなかったんだ…」
と恭介はシレっとしていた。
「あんたには言ったって、スガオが言ってたけど」
「ああ、言ってた」
と恭介にゲームをやめる気はなそうだった。
「仕事の話はどうだったんだよ」
と恭介は仕事人間のふりをしてきた。
「仕事って言っても…、ただ、なんか、大手のアパレルの自社工場を使えるとか、それで量産の時には安くできるとか、それで、そっちの会社でうちの製品に注目してて、コラボしないかとか、そんな話」
「コラボ?」
「そう。ほら、あそこ、いろいろなパターンのもの置いてるから、おたくのデザインも取り上げてあげましょうか…、そうすればお得ですよ、みたいな…、上から目線の話」
「ありがちだな」
と言いつつ「お、やった!」と恭介がゲームの中のゾンビを倒した。
「ね、そんなことやって、おもしろいの?」
と言うと、
「そこそこな」
と言って、あたしのことをじっと見つめた。
「その、後藤って人、キーコの友達とつきあってたってほんとだった?」
恭介の中の悪魔がずるそうに笑う。
「うん。そうだよ。あんまり顔は覚えてないけど、会ったことあるんだ、あたしは」
「ふうん。大手のやり手ってことは、エスコートもうまいんじゃない?」
「さあ?」
とあたしはとぼけた。
「肩とか、はらって来なかった? 何かついてるとか言って」
おいおい、皆同じ手を使うってことなのか?
「さあ?」
とあたしはまたとぼけた。
「な、おれ、ずっと子どもでいるから、ずっとおれのことを愛せよ。それなりに仕事もするし」
唐突に恭介が言い、あたしは恭介の目をまっすぐに見ることができなくなった。
今日はあたしが猫になって、恭介のとなりに寄り添おう、そう思って恭介のとなりに座って寄りかかかろうとすると、
「おい、シャワー浴びて来いよ。酒くせーよ」と言われて、
「はいはい、あたしは酔いどれですよ」
と、あたしは立ち上がった。
「キーコ姉ちゃんの言いつけまもって、ちゃんと掃除しといたぞ!」
と言って、ジロリとあたしの方を見て
「今日、部屋の鍵かけ忘れろよ。あとでとろとろしに行くから」
つい目と目がからみあいすぎるくらいからんで、あたしはいやらしい気持ちになった。
「おれのために、ピカピカに磨けよ!」
恭介の声を背中で聞いた。
天才バカボンのお父さん、あんたは偉い! これでいいのだ。あたしと恭介は。
あたしたちは、そうやってかわりばんこに猫になって、トロトロしながらやっていこう。なんたって仕事はあるんだし、生活はできているんだから。
あたしは、今日までたまった汚れとかアカとかを、全部流すぞ! って意気込みで、入念にシャワーを浴びた。