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ふ~ふ~  作者: 辰野ぱふ
5/7

5.

 菅生がコーディネートした店は、チェーンの居酒屋だった。でもまあ、一応個室になっている。乗らない気分のまま、あたしは約束の時間に居酒屋に行った。

 もう、菅生も後藤さんも着いていて、なんだか話をしていた。

 でも、ちっとも仕事らしい話にはならない。

 わけわかんないな、と思いながら、あたしはぼんやり座っていた。

 手持ちぶさたなので、ついついお酒が進んでしまう。

 そんなあたしの気持ちを察したのか、菅生が話を進めようとし始めていた。

「あ、後藤さんの会社の方でも綿ニットの方に力入れようとしていらっしゃるんですよね」

「ええまあ」

 とジロリと後藤さんがあたしの方を見た。その目がけっこう怖かった。

「うちも、そうなんですよね? ね、社長」

 と、菅生が話を発展させようとしている?

「え、ええまあ」

 とあたしも後藤さんと同じような返事をしていて、何なんだろう? ってモヤモヤが心の中にたまってきていた。

「後藤さんの方では、もう、商品を作り始めていらっしゃるんですよね」

 と菅生がちょっとドギマギし始める。

「ええそうですよ」

「社長、うちでも始めようとしているんですよね」

「ええ」と言い、「そうですよ」と続けて言うのはやめた。それを言うと、まるでオウム合戦だなと心の中で思って苦笑した。

「どういう?」

 と後藤さんが聞いてくる。

「え、まだ、はっきり方針を決めているわけではないんで」

 とあたしはごまかす。

 あたしの頭の中では、まず、素材っていうのがあった。やっぱりコットンは素材の王様って、あたしは思っていた。まず自然だし、それが細いニットになるとやわらかでしなやかになるし、最近パソコンで自在に模様編みを入れられるようになってきている。まるでイラストをお洋服に描くように。

 それは、綿シャツとか、Tシャツでは今までだってやってきたことだったけど、できた布の表面に描くのではなくて、コットンの細い糸で織られたものが柄として浮き上がっているというのが、おもしろい。肌さわりがいいし、身体に心地よくフィットするので、ラグラン袖にして、ちょっと長めのシルエットにして、だっぷり着れるようなのがいいかな、と漠然と思い描いていたのだ。

 柄が問題。これが、ほかの店ではやっていなくて、漫画やキャラクターとかのありものじゃないやつ。デザイナーやっている森口さんて人の描く絵があたしは気に入っていて、大きいポイントにして真ん中に柄を入れてみるのもいいし、片方の肩や裾だけにアンバランスに入れるのもいいし、全体に散らすのもおもしろそう。彼女といろいろ作ってみたいなとぼんやり描いている方向はあった。

 だけど、そんなことを今ここで話す気はなかった。

 だって、この後藤って人の第一印象がまず、失格だった。ほら、恭介が言っていたみたいに「あたしには人を見る目がある」んだよ。ハハハ。自虐~。

 まず菅生がなにを描いているのか、それを先に聞いておくべきだったのかな? とあたしはぼんやり考えながら、ビールをごくごくと飲んだ。

「うちはいいですよ。工場ありますから、たぶん、タカギさんを中継ぎにするよりは、一着あたりかなり安価にご提供できると思います。それに…、コラボしませんか? おたくの商品は伸びてきていて、それはぼくも注目しています。でもなんせ、まだ広がっていないでしょ? うちで取り上げたら、それなりに注目されますよ」

「はあ?」と言う言葉は飲み込んだ。おい、菅生、どういう路線なんだよ、とジロリと菅生を見る。

 あたしはすぐにでも席を立って帰りたかった。

「そう。お安く、しかも宣伝効果も出るというのでは、うちも考えたいところなんです」

 と菅生が返す。

 おい、「うち」って何なんだよ。あたしは何も了解していないっていうのに。「わたし」くらいにしておけよ、とあたしは心の中で毒づいた。

「どういう路線で、デザインとかを展開する方向ですか?」

 と後藤さんがジロリとまたあたしの方を見た。

 もう、その目にあたしは拒否反応を起こしてしまう。で、あたしは今さらながらに気がついたのだ。

 あたしはあたしの道を行きたいだけなんだってことに。たまたま、サナちゃんの名前に乗っかって、資本も出してもらって、なんだかトントン拍子に来ているけれど、そんなにがつがつ金を稼ぐって方向は見ていなかった。とにかく、あたしはお洋服作りが好きなのだ。そこはぜんぜんぶれていなくて、自分が好きじゃあないものには心が動いていかない。

 菅生は何を考えているのか? どっちにもいい顔して、立役者的なそんな立ち位置の大根役者になりたいのか?

「ね、北村さん、まだこちらの話がちゃんと固まっていないのに、後藤さんの会社のような巨大な偉大な所にいろいろお願いするのは失礼だし、北村さんの路線を進めていただいて構わないのですけど、もう少し社内で話を煮詰めませんか?」

 と、あたしは菅生に真面目に話しかけた。そして後藤さんの方に向き直った。

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