白球にかける恋2
ガラッとドアを開けて先生っぽい人が入ってきた。
たぶんこのクラスの担任だろう。
「あー、俺がこのクラスを受け持つ・・・」
先生の自己紹介はいらない、トータ君のが聞きたい。
「よーし、それじゃあまずは全員自己紹介をしてもらおうかー。」
よしキター!
「藤正・・・藤太です。・・・皆さんよろしく。」
んん!終わり?
チャ、チャラいよりは断然いい、クールなのね。
・・・寡黙で素敵。
「本多 拓巳で〜す!趣味はマンガ、ゲーム、アニメでー、特技は・・・・・」
チャラいのがいるな。
・・・イケメンだとは思うけど、あんたに用は無い。
「弓原 静葉です。中学の頃は野球部のマネージャーをやってました、高校でもやるつもりです。よろしくお願いします!」
私の自己紹介が最後だ。
「えー、君達はこれから高校生として・・・・。」
担任教師の話が長い。
私は早く入部届けを出さなきゃなんないの!
トータ君と一緒に!
「あー、それから明日部活動の説明会がある。もう入る部を決めてる奴もいるだろうが、それが終わってから入部届けを受け付けるようになるからな。」
・・・なーんだ、今日はダメなのか。
じゃあ早く帰りたいな・・・漫画も描きたいし。
この趣味はトータ君にはバレない様にしなくちゃいけないから、今日が描き納めでしばらく封印しよう。
「よーし、今日はこれまでだな、明日からは早速授業とテストがあるぞー。」
・・・そう言えば新入生学力テストとかいうのがあるって、入学パンフに書いてあったな。
うー、受験終わってから何にも勉強してないからなあ〜。
でもまあ、みんなも似たようなもんでしょ?
「じゃあ今日はこれまで、えーっと・・・藤正、帰りの挨拶を頼む。」
おお、いきなり日直みたいな事をさせられるとは、さすがはトータ君!
滲み出る頼もしいオーラというヤツだね。
「・・・はい。起立・・・礼・・・着席。」
やっと終わった。
早速今日はうちに帰って描き納めだ、描くぞー!
「ねえ、弓原・・・さんだったよね。」
む?なにか用ですか、本多何とかくん。
「弓原さんは野球部のマネージャーをやるんだよね、俺も自己紹介で言った通り野球をやるんだ。」
そんな事言ってたっけ?聞いてなかったな。
「俺ってばシニアでやっててさー、自分で言うのも何だけど結構やるんだぜ!俺が君を甲子園に連れてってやるよ・・・何つってなー。」
いや、シニアとか知らないし。
甲子園?初対面で何言ってんのコイツ?
聞いてもいない自分語りとかキモっ!
甲子園にはトータ君に連れてってもらう予定だから間に合ってるよ。
「そ、そうなんだ・・・うん頑張ろうね。」
としか言えない。
あっ、トータ君にサヨナラの挨拶を・・・ってもういない!?
そんな・・・せっかく隣の席なのに挨拶もしてくれないなんて・・・。
な、何か用事があるんだよね、急いでたんだよね。
よーし、明日からもっと仲良くなるぞー!挨拶して貰えるくらいには。
という訳で翌日。
トータ君に会えるのは嬉しいけど、今日は学力テストがある。
あー、やだなー。
でもそれが終われば部活説明会で、その後に晴れて野球部のマネージャーになれる!
まさかマネージャーを断られはしないでしょう。
そして放課後、無事と言うか当然と言うか、入部届けは受理された。
よし、これで正式に、大手を振ってトータ君と話す大義名分が出来た。
でも今日もトータ君とは碌に話は出来なかった・・・手強い。
あと本多君がうざかった。
何でか知らないけど、やたら私に話し掛けてくるんだよなあ・・・。
まあ私が初日に、中学からマネージャーやってたとか言っちゃったからかなあ・・・変に悪目立ちしちゃったかな。
さらに翌日・・・。
今日から部活も始まる。
そう、これからよ、これから。
「ようトータ!お前も野球部入ったんだよな、まあ頑張ろうぜ!」
「本多・・・君だったね、シニアをやってたって話だけど、頼りにしてるよ。」
「ふ、俺はリトル、シニアとクリーンナップを打っていた男だぜ!俺の力でこの無名校を有名にしてやる。」
だから本多君、君の事は別にイイノデスヨ。
私がトータ君と話したいのに・・・私もトータって呼んでも大丈夫かな?
「何ならピッチャーだって出来るぜ!弓原さんも見ててくれ、今日から俺の伝説が始まるのさ。」
「うーん、でもトータって凄いピッチャーだよ?本多の出番は無いんじゃない?」
キャー!言っちゃった!トータって呼び捨てにしちゃった!
別に大丈夫だよね?クラスメートでチームメートなんだから。
本多もトータって呼んでるし、私がダメな道理はないよね・・・当然本多にも君付けなど必要無い。
「出番無しとは酷えなあ〜、でもそうなんだ。こっちこそ頼りにするぜトータ!」
「ああ、一緒に甲子園を目指そう。」
あ、それ入学式の時に私が言ったことだ・・・。
本気にしてくれてたんだ、嬉しいな。
その“一緒に”に私も入ってると思うと、舞い上がっちゃうよ!
「ふふ、二人とも頑張ってね!」
「おおー、弓原さん、任せてくれよ!でも俺の活躍見たら惚れちゃうぜ。」
「・・・マネージャーにも期待してます。」
うわー!ついにトータ君が会話してくれた!
最初に挨拶してくれて以来だよー!
そしてまた翌日・・・。
学力テストの結果が返ってきた。
五教科合計320点・・・まあ・・・勉強して無かったしね、しょうがないよね?
「しずー、結果どうだったー?」
同じ中学だった舞が答えたくない事を聞いてきた。
「うん、まあ・・・まあかな?・・・マイは?」
「あたしもまあまあ、平均70点ちょっとってとこかな。」
う、私よりだいぶ良い。
「おーすげーな!俺より平均で10点ぐらい高けーじゃん!」
くっ、私は本多と同レベルか。
ってか話に入ってくんな。
「トータはどーよ、何点だった?」
おっ、ナイス本多。
私もチョットだけ気になる。
「・・・いや、俺は・・・。」
「なんだよいいじゃん!見してくれよー!ってうわ!」
「何々?トータ何点だったの、私にも見せてー。」
!?500点・・・全教科満点・・・え、何、本当にそんな人いるんだ・・・初めて見た。
トータって・・・凄すぎるでしょ。
本当に何でこんな学校に来たの?個人の事情に立ち入るのは良くない事だと思うけど、気になるなあ。
「うっわ!トータ君すごっ・・・もっといい学校行けたんじゃん!?」
マイの疑問ももっともだけど、そんな事されてたらトータと違う学校になっちゃうじゃん。
それは困る、気にはなるけど。
・・・そんなこんなで三ヶ月・・・。
トータの事がずいぶん分かってきた。
トータはやっぱり凄いピッチャーだった。
これまで練習試合を五試合やったけど、その全部で先発完投。
まだ一点も取られてないし、ヒットだって二桁も打たれてない。
私だって一応中学から野球のマネージャーをやってたんだから、これがどれほどの事かくらい分かる。
1年生ピッチャーが上級生相手に、それが例え強豪校ではなかったにしろ、破格の成績だ。
オマケに全試合でホームランを放っている。
コレ絶対どっかからスカウトとかされてるよね?
本当に何で?何でうちの学校に?謎だよなあ。
あ、本多も言うだけあって結構上手かった。
でもトータとは比べるまでも無い、と言うと言い方が悪いかな。
トータが凄すぎるだけだよコレは。
たぶん本多もトータがいなかったらうちでエースで四番とかなのかもしれない。
少なくとも同級生はおろか、先輩達の誰よりも上手い・・・可哀想に、相手が悪かったね、チョットは優しくしてやるか。
たぶん勘違いじゃないと思うけど、本多は私の事が気になってるんだろうな。
実際中学の時に三人から告白された事があるし、男子からは私は可愛いと思われてるんだろう。
趣味の事は隠してるしね。
でもゴメンね、到底釣り合わない気がするけど、やっぱり私はトータの事が好きなの。
全然相手にされてない感じだけど。
・・・そう、この三ヶ月で分かった最大の事。
トータは女子に興味を示さない、話さない、顔を見ない。
野球の話にしか反応してくれない。
当然私以外にも、トータの事が好きなんだろうなって娘がいるけど、喋っているのを見たことが無い。
もちろん、話し掛けられたら返事くらいしてるけど、それは喋ってるとは言えないよね?
つまり、今の所トータとまともに会話している女子は私だけなのだ。
・・・野球部関係の話ばっかりだし、名前じゃなくマネージャーとしか呼んでくれないけどさ。
でも、女子の中では何歩もリードしてる。
釣り合いがどうとか考えるより、もっと自分をアピールする事の方が大事だよね!
さあ、来週から夏の大会だ!トータ、頑張ってね!私も全力で手伝うからさ!
あと、まあ・・・本多も頑張ってね。