妹として4
「ああ〜疲れたー、喉かあいたー。」
「ちょっとユカー、だらしないよ。」
「志帆もあんまり他人のこと言えないんじゃない?」
練習が終わって、体育館の床にうつ伏せに寝そべるユカ、脚をだらし無く広げて座り込む志帆、orzみたいになってる有希。
皆んなレギュラーだ。
有希以外の二人はあたしより背が高い。
くっ、悔しくなんかないんだから!絶対あたしも皆んなと一緒にレギュラーになってやる!
「皆んな、そんなんじゃ優勝なんて狙えないよ!」
そう、レギュラーになるのは目標じゃない、県大会優勝、全国出場だ!レギュラーになるのは前提条件なのだ。
「藤子、あんた体力だけは凄まじいわよね。」
「藤子ゆうな!」
「志帆の言う通り、相変わらずの体力お化けだよね、りょこちは。」
「りょうちん頑張ってるもんね!」
志帆は藤子、ユカはりょこち、有希はりょうちんと、全員呼び方が違う。
今更だけど何故なのか?
「志帆!体力だけとはどういう意味よ!後ユカ、お化けとは何事だ!」
それに比べてさすがは有希さん、よく分かってらっしゃる。
そう、あたしは春休み中、それこそ化け物みたいな兄さんの自主練に付き合ってたのだ。
正直死ぬかと思ったけど、心配そうな兄さんの顔がなんか悔しいので、意地で最後まで付き合った。
おかげでこの程度の練習で根をあげることはない、が、だからと言ってあたしも喉が乾いてないわけではない。
でも今日は水筒を忘れてしまった。
「ちょっと、そこのコンビニまで飲み物でも買いに行かない?」
ユカ、今いいこと言った、あたしもそう言いたかった。
「そうね、まだ時間はあるし。」
「今ならペット二本はいけるよ!」
有希、それは飲み過ぎだよ。
「じゃあ、このままいく?着替える?」
あたしはこのまま行きたかったが、だいぶ汗もかいちゃったし、皆んな着替えたいかもと思って聞いてみたが、みんなそのまま行くというので、ジャージだけ羽織って、練習着のまま近くのコンビニに向かった。
「ねえりょうちん、今日帰ったらお兄さんにごめんなさいって伝えといて。」
「なに?有希兄さんに何かしたの?」
「うん、ちょっと、今朝あったときにね、その、失礼な事を・・・。」
「兄さんには大概何言っても大丈夫だと思うけど。」
「うん、何も言わず、私の顔見て微笑んでくれたんだけど・・・。」
有希の顔が紅い、あの腐れ兄、なに有希に色目使ってくれとんじゃ!
「えー、なになに、藤太先輩の話?」
「え?と、藤太先輩がどうしたの!」
ユカと志帆が気色ばんで話に加わってくる。
さっき迄死にそうな顔してふらふら歩いてたのに急に元気になったようだ。
「そう言えばりょこちは藤太先輩と同じ高校行くって言ってたね。」
「藤子じゃ、成績足りないんじゃないの?」
「大丈夫だよりょうちん、私と一緒に頑張ろう。」
「・・・。」
そうだった、バレーも大事だけど、その後には受験が控えている。
何というラスボス感。
正直勝てる気がしない。
まったく兄さんも、もうちょっとあたしの事を考えて高校選んでよ!
有希も同じ高校を目指しているので、勉強を教えてもらってたりする。
バレーが上手くて成績も良いなんて、有希はホント凄い。
無理をしてでも兄さんと同じ学校に行きたいだなんて、まるでブラコンだが、別に家でも学校でも一緒にいたいとか、そんなのではない。
ただ、あたしが見張ってないと兄さんは何かと心配なのだ。
周りは完璧超人か何かと勘違いしているが、いや、スポーツ万能で頭が良くて、カッコ良くて、実は意外に優しいとか、それはそうなのだけど、抜けてるし、考え込むと周りが見えないし、対人能力低いしで、こっちは結構心配・・・ではなく、そう、不安なのだ。
あたしは妹として、兄さんを守ってあげなくてはならない、妹として。
特に変な女に誑かされないように見張らねば、妹として!
などと話しているうちに、コンビニに着いた。
「私はスポーツドリンクにしよう。」
「あっ、りょこちズルい!あたしもスポドリがいい!」
何がずるい?買えばいいでしょ買えば。
別に早い者勝ちというルールはない。
言いながら、ユカはスポーツドリンクを、志帆は炭酸系のジュースをそれぞれ買って店を出る。
あたしは有希を待って一緒にレジに並ぶ。
有希は緑茶だ、りょくちゃ、りょこち・・・うーん似ている。
緑茶はユカが買うべきだろう。
「あっ!」
チャリーンと、有希が小銭を落とした。
「ゴメンりょうちん、そっちの拾って。」
「ハイハイ。」
落ちた一円玉数枚を拾って有希に渡す。
消費税ウザい。
その時、信じられないものを見た。
トラックが店に向かって猛スピードで突っ込んでくるのを。
「有希!危ない!!」
一瞬時間が止まったようだった。
それでもあたしは咄嗟に、有希の手を引っ張り安全と思われる方向へ放り出す。
ガシャンという音とほぼ同時だったろうか、全身を襲う強烈な衝撃と痛み。
有希は大丈夫?あたし死ぬのかな?兄さんゴメン。
そう思ったのだったかどうだか・・・・私の意識はそこで途絶えた。
ブ・ブッチチチチ・ビビリビリリリリイイイイイ
何かを引き裂くような下品な音と共に、痛覚を直接刺激したかのような激痛と奇妙な浮遊感を感じた。
ギャアアアアア痛っイタタタタタタタイタイ!
「はっ!」
強烈な痛みが治まったと同時に何故かベットに寝ている自分に気が付く。
いつの間に寝てたんだ?
そ、そうだ涼子は?涼子はどうなったんだ?
「妹さんの魂は、今あなたの魂によって繋ぎ止められているわ。」
この声、三神さんか?
「あなたの魂は元々、二つの魂が混ざり合って、一つになってしまっているので、更に二つに分けるのは簡単ではなかったけれど・・・ちょっと痛かったかもしれないわね。」
いや、ちょっとでは無かった。
って、おい!
魂を二つって、死に別れた双子の弟か?
ちょっとホントもうどうなってんの?
「何故、俺がベットに寝ているんだ?」
「正確には、あなたの魂の入った妹さんの身体よ。」
フォオオオオオオオッ!どおおおいうことだあああっ!
「な、何だ・・・と。」
と、何やら外が騒がしい。
何だか俺の名前を呼んでるように聞こえる。
俺はゆっくり起き上がり、病室の外へと歩き出す。
ドアを開けるとそこには、俺が倒れていた。
周りが俺を見て騒ぎ出す。
だが俺の耳には何も入ってこない。
何、俺、死んでんの?そりゃ命くらいくれてやるとか言ったけど。
ふと、上に気配を感じ見てみるが、別に何も無い・・・・何だ?この感じ。
俺がぼーっとしている間に、俺の死体?が運ばれていく。
「あなたのもう一つの魂は無事にリフェーリアに着いたわ。」
そういう事か、それで魂を二つに・・・か。
「しばらくすれば、あなたのその魂も妹さんと同化するでしょう、それまで気を付けてね。」
しばらくってどれくらい?それまで俺は涼子として暮らすの?嘘だろ、だって女子中学生だぞ。
妹として生活するって・・・文字通り妹と一つになったって・・・って言うか、俺はそのうち消えるの?
ナニソレ、めっちゃ怖い。
考えがまとまらない、今後の生活の不安や、消え去る恐怖。
「どうすりゃいいんだあああああ!」
思わず涼子の身体で叫んでしまった。
・・・・・暗い・・・・ここはどこ?・・・・あたし、どうなったの?・・・。
『あなたはお兄さんと一つになるのよ。』
なに?この声、何処から・・・。
『あなたの今後に幸あらん事を。』
ちょっと待って、どういう事?兄さんと一つにって・・・・・。
・・・もう声は聞こえない、何も見えないわからない・・・。
ただ、暖かさだけを感じ取れる気がした・・・兄さん?
暖かさに向かっていくよう念じた。
兄さんが手を差し伸べる姿が見えた様な気がして、その手を掴もうと思った・・・。
兄さんと、まだ一緒に生きていける、そう確信できた。
涼子と合体してしまった藤太は、今後苦労するのでしょうね。
この兄妹はどうなっちゃうのかな?
果たしてこれはつづくのか?はたまたただの伏線なのか?もしくは別になんでもないのか?・・・未定です。