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第 50 話 リューグナー始末 5

 もう一人の主役(?)である、商業ギルドのギルドマスターも、今の政変とも言える動きが気になるのだろうが、彼の一番気にする所である自分の城、王弟殿下の宿泊している例の宿に、居ても立っても居られずに駆けつけたと言う所だろうか、彼の居場所はそこを指している。


 これもいいタイミングだ。目の前で自分の金の元が無くなってしまうのを見ることは、守銭奴であろう彼にはどんな罰よりも大きいだろう。


「一緒に攫われたはずのヴェスターが一人でこの場にいることで言い訳はできないだろう。言い訳をする気も無いかもしれないがな……」


 この建物に転移してきた瞬間、出入り口に掛けた『分別』の結界で、味方以外のものがこの建物の中に入る事を防いでいるのだが、その分別を任せているケイにある事をする様に指令する。まあ指令と言っても心の中で思うだけだけどね……。


 この結界が効いたのか、建物の中で転移して来た時には聞こえていた敵との斬撃音や、魔法の弾ける様な音は既に聞こえなくなっている。建物の外ではまだ何とか攻めこもうとしている無駄な爆音が聞こえているが。


 建物内の音が落ち着いてからしばらくすると、この建物内の各所から負傷者の報告や、捕虜のことについての報告など、違う意味で建物内がざわざわし始めた。


 それに、今まで体験したことのない様な結界。


 建物内で戦っていた相手が、建物のどこかに体の一部でも触るとその場から消えてしまうのだ。


 建物の外ではその逆に、追い詰められていた首領側の人間がその建物に触れると、建物に吸い込まれる様にその場から消えるのだ。そして、建物内で戦っていた味方が勢い良く弾き出された様子で目の前に転がり出てくる。


 戦闘音が消えた建物の内と外で、困惑した気配とともに理解しがたい現象に対する騒めきがその場に溢れてくる。


 建物内の一番安全な場所でこれからの事を話し合っていた面々も、戦闘中とは違う気配を感じて誰とはなしに口を噤んだ。


 その中でも一番レベルの高いギルマスが、胡乱な表情を浮かべたまま俺を睨みつける。自分にわからない現象が起こった時には全てお前のせいだろうと言いたげな表情だ。まぁ、当たっているんだけど……。


 今まで色々抑えていたけど、もうコソコソするのはやめた。今度のことが解決したら、この世界にできた今までの柵は何もかも無かったことにすることに決めたので、今の俺には怖いもの無しだ。


 ギルマスの視線に気がついたのか部屋のなかのすべての瞳が俺に向いている。


「ちょっと、この建物に入った時に仕掛けをしたんですけど、それがうまいこと作動したみたいです」


 俺はわかりやすい笑顔を顔に貼り付けて、この建物に張られている結界の効果について説明した。


「もう暫くこのなかに止まっているだけで、求めるネズミは自ら罠に飛び込んでくれますよ」


 ケイが知らせてくれたアラートに、求める人間達が痺れを切らせたのか近付いてきたことを知らせてくれる。


「折角なのでこの部屋まで直接招待することにしますか?」


 俺の行っている事は、流石にこの世界の魔法の法則からも随分と外れたものであるのだろう。この中で一番魔法に詳しいだろう姉さんは呆れを通り越して、化け物を見るような視線だ。仕方ないかな……。後で質問攻めかもしれない。どうか、体には訴えてこない質問(ゴウモン)にしてほしいなぁ……。


「ヴェスター氏は自室のある建物から出て、この建物の近くまで来ています。流石にこの部屋から見えるところには来ていませんけどね」


 外でも今起きている現象が理解できずに責任者というか今回の謀の首謀者であるヴェスターにお伺いを立てたのだろう。この建物から一定の距離をとって構えている騎士達の中でも一番偉そうな格好の者と話し合っている姿が見える。


(言うなればケイのミラクルアイだな……)頭の中でまるでいくつものモニターが色々な風景を映し出している。並列思考もその数が増えたようで、頭に掛かる負荷も殆ど感じなくなっている。


 目の前の景色はそのままに、透明なモニターが重なるように目の前に展開されているようなそんな感じ。


 見えているモニターにはこの建物の近くだけではなく、俺の気になっている場所の様子も映し出されている。


(いつの間にこんな事までできるようになった……)まるで、監視カメラの映像を中央管制室の中で見せられているような……。この前まで、というかさっきまでできなかったよね。


 そんなことを考えていると、ケイ曰く、俺がこんな風にできればいいなぁ、と今さっき考えたことを実行したまでのことらしい。流石のケイも、俺が考えない事までは実行する事は難しいらしい。


 俺のレベルの問題で、見ることのできる範囲もまだ自分を中心にしてそんなに遠くまでは見れないらしい。これもレベルが上がれば、この世界のどこでもそれこそ監視衛星で見るごとく見ることも夢ではないらしい。


 と、俺の中でケイが胸を張る。……それって、どんな状況で必要になることなんでしょうかね……。


 と、心の中で突っ込んでいると、待ちに待った瞬間が訪れる。


 今の状況に焦れたヴェスターが、何が原因かわからないことも手伝って、味方(こっちら側からは敵)が弾かれたり、吐き出されたりする結界に手を触れたのだ。


 同じく手を触れたり体の一部が触れたりしたもの達は、今まで通り結界に弾かれて中に入ることはできない。


 一方結界に軽く触れたヴェスターは、弾かれることなく結界に吸い込まれるように体が建物の方に傾いだ途端、そこにいる誰の目からも突然煙のように消え失せた。


 実況中継のように俺の頭の中ではその映像が音声と共に繰り広げられている。


 しかし……この映像のカメラワークって、いったいどうなっているのだろうか?……まぁケイがやっている事は俺如きが考えても仕方がないんだけどね……。


 突然消え失せたヴェスターは、もちろん煙のように儚くなったわけではなく、結界に埋め込まれていた選別の中で、この隣の部屋に弾けとぶように設定させてもらっていたのだ。


 この部屋でも良かったんだけど、まだ何が起こるか知らせていなかったし、突然人が湧いて出るのを見るのも慣れない人は気持ち悪いかもしれないからね、脳が処理できなくて……。


 先程から無言の圧力と視線に晒されている俺だけど、そんなものには負けないで、一切の空気を読む事なく今の状況を伝える事に徹する。


「皆さんがお待ちかねのヴェスター氏が隣の部屋までやって来てくれました」


 戦闘音が消えた静かな建物の中で、俺の声だけがこの部屋の中で交わされる音だ。その中、そう薄くない壁の向こう側からガタンガタンとそれなりの重量のあるものが、壁や扉にぶつかっているような音が微かに聞こえる。


 隣の部屋にもきっちり結界を掛けている。どう足掻こうが部屋の中に張られた結界からは外に出る事は叶わない。その範囲も自由自在。今は部屋の中一面動き回れるようにしているが、こちらが隣の部屋に入ればその範囲は半分以下に減らさせてもらいますけど。消音もあえてかけてない。ジタバタ足掻く姿には音も必要でしょ。


 いろいろとこの世界で言われる魔法からはかけ離れている事は、ギルマスや姉さんの様子を見るまでもなくわかっているが、ここまで俺がやらかしているのは、どうもヴェスター達に自分が思っている以上に腹を立てているからかもしれない。


 自身も子を持つ親であるはずなのに、その自分の野望のため、自分の子と変わらないアンリを殺す事もいとわないその根性に。自分の子供のためと言いながら、ただ権力とそれに伴う利権を我が手にしたいがための行動である事は疑いのない事実であって。未だにぐったりとして母にもたれるように眠っている廃屋に監禁されているアンリの姿を脳裏に浮かべる度、嫌らしい笑を口の端に浮かべて笑いあっていたヴェスターと商業ギルド長のその姿を思いだして、腹の底から怒りが湧いてくるのだ。


 みんなを促して隣の部屋へ向かう。ヴェスターには扉から離れてもらうため、部屋の中央まで退去して頂く、無理やりに……。


 廊下に待機していた騎士数名が、いきなり響き始めた隣の部屋からの怪音に、厳しい顔つきで剣に手を添えた格好で隣の部屋の扉を睨みつけている。


 俺の視線を受けて、この場の長であるサイラスが騎士達に場所を空けるように言うと、自ら扉を開けて入室しようとする。流石に、先頭でこの国のトップを危険かもしれない所に進ませる事はダメであろう。素早く兄貴が体をスルスルと移動させると、ためらう事なく扉を開けた。


 兄貴、ギルマス、サイラス、俺の順で部屋に入る。姉さん以下他の人達は入室する事なく廊下や、または今までいた執務室にそのまま残るようだ。転移した時に使った部屋だが、元々御付きの者の控え室らしく、執務室よりは随分と狭い部屋でもあるからだろう。


 家具が隅に片付けられているこじんまりとした部屋の中、その中央あたりに大の男がひっくり返っているのが見える。と言うか俺がひっくり返させたんだけどね。


 ひっくり返っているヴェスターはなんとか起き上がろうともがいているが、そこは俺が結界の範囲を弄る事で、床に体が押し付けられている形にしているので、何をしようが無駄。無様な格好のままこちらを仰ぎ見ているばかりだ。


「ヴェスター、朝の報告では君も妻達と共に攫われたと聞いていたのだが?」


 サイラス首領は、怒りを押し込めるような低い声で、足元でひっくり返ったままのヴェスターに声を掛ける。その横では一番初めに入室した兄貴がこれ見よがしにピカピカと輝く大剣を翳し、切っ先をヴェスターの首元に向けている。


 この状態(結界の中)のヴェスターには流石の兄貴と言えども傷の一つもつける事はできないのだけれどね。


 その事をヴェスター自身が知らないから、目の前で揺らされている大剣の輝きに股間を濡らすほど恐れおののいている。もちろん兄貴は結界の張られている事に気がついているから、傷つける心配の無い分大胆に剣を動かしている。


 この状態のままでは埒があかないので、とりあえず部屋の隅に纏めて片付けられている椅子を二脚手前に引っ張り出す事にする。


 仰向けに倒れたままのヴェスターの横に椅子を置くと、結界の範囲を弄る感じで無理やり彼を起こして椅子に座らせる。


 対面するようにもう一脚、これはサイラス首領が座る分。俺やギルマスは首領の背後に立つ。


 もうこの場での俺の仕事はほぼ終わったので、話の進み具合でこの場以外の俺の仕事を済ませる事になる。


 ゆっくりと腰掛けたサイラス首領は、目の前の椅子に座らされてもなお抵抗を続けているのか、体を動かそうと足掻いているヴェスターに冷たい視線を送っている。


「先ほども尋ねたと思うが……。何故、妻達と共にグラオザームの王弟殿下らしき者に攫われたヴェスターがこの場に居たのだ?この執務棟を襲撃している謀反人達と共に」


 体の自由は奪ったままだが、言葉の自由までは奪っていない。しかし、ヴェスターは唸り声を上げるだけで、意味のある言葉を発しようとはしない。どんな言い訳をするのか楽しみであるのに。


「あぁ、そうであった。攫った輩だが、グラオザームの王弟殿下などではなく、商業ギルド、と言っても裏ギルドの方だが、その裏ギルドで依頼したならず者達であったがな」


 なんか、首領として話すときのサイラスさんは話し言葉がいつもと違って面白いな。流石にいつもはこのような話し方ではないことは友人、いや義兄弟だったヴェスターにはわかりきったこと。あえて、このような話し方をしているのは、今までの関係を断ち切っていることの表明の一つなのだろう。


 でもやっぱりこの話し方は面白いな。なんて、この場にそぐわないことを考えていたら、横に立っていたギルマスに睨まれた。もしかしたらギルマスも公式の場ではこんな話し方をするのかもしれないな。


 一方、真面目な話でにらみ合っているリューグナーの2人は、こちらでこんなくだらないことを考えているなんて思いもしないだろう。


 サイラス首領にはあらかじめ、皇女殿下とご子息は誰も入り込めない結界で守っていることと、いつでも救い出せることを伝えている。


 サイラス首領の駒があまりにも少ないのであちこちへと人を配置することが難しい。


 この場が思いの外早く方がつきそうなので、この話し合い?が終わったら、ギルマス達には皇女殿下の元に向かってもらう事にする。俺が助け出し運び出すことの方が簡単だが、表向きにできない方法では意味がない。きっちり後腐れなく反乱分子を殲滅するためにも、表に出さなければいけないところは思い切り出させてもらう。


 ヴェスターの顔色は青を通り越して紙のように白くなっている。サイラス首領の言葉から、自分達の立てた計画が、結構細かいところまで暴かれていることがわかったためだろう。一応一国の宰相の役割のような事をしていた男である、少ない言葉から物事を推量することは容易い事なのだろう。


「商業ギルド長、いや裏ギルド長か、には出頭命令を出したところだが。彼奴はなんでも自身の持ち宿に不具合でもあったのか、手が離せない様子であるが、まぁこちらも直ぐ方が付くであろうよ」


 抗うことを諦めたのか、ヴェスターは体から力が全て抜けきったように、だらりと弛緩して頭をうな垂れた。


 この場はこれで収まったようなので、ヴェスターに掛けていた拘束の魔法を解くと、椅子に座っていることもできなくなったのか、力なく床に崩れ落ちたのだった。



今回は少し長めの5000文字越えです。

リューグナー始末をこの回で終わらせたかったので、長くなった上に遅くなってしまいました。

それなのに、まだ終わっていません……。次にはなんとか!

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