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第 46 話 リューグナー始末 1

 驚かすつもりは全くないけれど、ギルマス達に近付く際は気配を消してみたりする。


 ギルマスと姉さんには、全く通用してないようで、俺も本気の気配消去でも無いし、転移で現れた瞬間に気付かれたのがわかったが、流石脳筋兄貴は全く気付いている様子も無いので、いたずら心で、直ぐ真後ろに短く転移(ジャンプ)した。


 で、殺気をチョロっと当ててみたり……。


 ザンッ‼︎ッッッ?


 その刹那、完全戦闘状態の旅装でやって来ている兄貴は、聞き手を背中の大剣、もう片方を両腰に手挟んでいる双剣の片方に添えて、腰を大きく捻って後方に張り付くように現れた不審物(つまり俺)に殺気を込めた一撃を加えようとした。


 俺は殺気はチョロっとだけで直ぐ切って、気配も全開に戻したからね、流石の兄貴も振り返る間、コンマ数秒で気が付いたみたいで、俺に当たったのは急激な動きで生じた砂煙りくらい。


 こういう時は下手に距離を取るより、くっついていた方が危なくないので、大剣を掴んだ方の腕の腰の辺りに、へばり付くように移動した。


 だから腰を捻って半身を後ろに向けた兄貴の目の前にいたのは、若干兄貴の後ろを歩いていた渋い表情をしたギルマス。


 転移の魔方陣から街の中に続いているこの道は、そう多くもないがそれなりに通行量がある道だから、そんな所に転移(ジャンプ)した俺も俺だが、そんなところで大剣を引き抜こうとした兄貴には、いくら敵地という認識がある場所でも軽率の謗りは免れない……かも……ギルマスや姉さんから……。


 ギルマスと顔を見合わせて(お見合いをして)動きが止まった兄貴の側頭部を、姉さんが何処から取り出したのか、ハリセン以外の何物にも見えないもので張り倒す。


「ガァッ‼︎……イッ痛テェ〜!」


 目の端でそれを捉えた俺は、今度は躊躇なく兄貴から距離を取る。


 久しぶりに見た兄貴のボケと姉さんのツッコミに、こんな時なのに腹を抱えてしまった。


『うぷぷぷ〜』


 勿論サイレント大笑いだ。ここで声を出したら二人、いや三人から突っ込まれるかもしれないから……。


 兄貴から離れた俺は、渋い顔でそのまま歩みを進めていたギルマスの横に並ぶと、ここに来た本来の目的である王弟殿下の伝令役を遂行する事にした。


 ギルマスも俺が何の目的でこの場に来たのか、直ぐに察知したのだろう。王弟殿下の書簡を端から見てもわからないように手渡すと、一番近くの一膳飯屋にそのまま足を向けた。皇女殿下の囚われている下級貴族の屋敷近くの宿も押さえてはいるのだが、まだ宿に入るには早い時間にどう見ても(怪しい)冒険者の風態の者達が、町外れの流行っていない宿に入る所を敵方に見られてもまずいだろうということで、取り敢えず手近な所にということになった。


 置いていかれる形になった兄貴達も、直ぐに状態を立て直して、何も言わず飯屋に入って来た。


 時間的に飯屋は空いていたので、周りに誰もいない席を確保して消音と隠蔽の魔法を机周りに半球のように掛けてから、ギルマスは俺が渡した殿下からの手紙を読んだ。


 この世界のこのような飯屋は、言うなれば全てセルフで行わなければならないファストフードの様なもので、厨房前のカウンターに飲み物も食べ物も取りに行かなければならない。逆に言えば机周りに店のものは近づいてこないということだ。


 俺は厨房前のカウンターに乗せられたカップ3つにエールと1つに果樹水を入れてテーブルに戻った。


 温い飲み物は頂けないので、運びながら冷却魔法を掛ける。


 口をつけた3人は少し驚いた様に眉毛を上げると、うまそうに冷えたエールを飲み干した。


 一息ついたところで、兄貴が話の口火を切る。


「暫く姿を見ないと思ったら、こんな所に来ていたのか?お前のせいで俺はまだギルドランク上げられないままなんだぞ」


 唇を尖らせながら、20歳過ぎたごつい男がそんなことしても全然可愛くないよ、と思いながらもここで反論しても面倒なことになりそうなので、もういっぱい冷えたエールを持ってくることで勘弁してもらう事にする。


「この依頼を受ける前、貴方とよく一緒にギルドに来ていた男の子が貴方のことを聞きにきたことがあったけど……」


 姉さんは東支所で受付の仕事もしているから、兄貴よりは俺の置かれた立場もわかったのだろう、それ以上深くは聞いてこなかった。


 ギルマスは王弟殿下と知り合いであるくらいだし、あの謁見の間にも居たのだから、今度の蛮行についてもある程度知っていた可能性もある。グラオザームの貴族でもあるのだし……。


 ギルマスはそちらの立場でここに来ているのかな?王弟殿下の命を受けるというのは貴族の立場でなのか、さっき姉さんが入っていた依頼云々ならば、冒険者としての立場なのか?それともギルマス自体の立場というのは、どういうものになるのか?


 俺の考えが顔に出ていたのか、チラリと俺と目を合わせた後、ギルマスは手の中の殿下からの手紙を隣に座る姉さんに渡した。


「どの国でも優秀な冒険者は自分の国に引き込みたいものなんだよ。儂なんかもそうだよ。自慢じゃないが若い時から飛び抜けていたからな、Sランクに上がる時に無理やり貴族にされた。基本はその時点で基軸としているギルドがある国でだな。こいつだってSランクになれば否応なくお貴族様だ」


 平民の冒険者がSランクになり貴族になった時は、貴族と言っても半分平民の様な準騎士爵からで、実績が上がれば爵位も上がり。ギルマスになった時点で下級貴族としては一番上の子爵になったらしい。


「生粋の貴族達にしてみれば儂みたいな冒険者上がりは全部名前だけの貴族だ。一応はその身分扱いはしているが、腹の中じゃバカにしてやがるのが見え見えだ。得意の腹芸もしやがらねえ。だからというわけではないが、儂の中で貴族だという意識は高くないな。グラオザームの貴族だ、なんて意識は皆無だな。あんな腐った奴らと同じだと思われるとヘドが出る」


 すっごく嫌そうに鼻に皺を寄せると、もう何杯目?のエールを俺に催促した。


 これから直ぐに本格的に行動を起こしてもらうのに大丈夫なのか?


 ギロリと俺を睨みつけるその目の色には、こんな薄い酒が儂に何か影響を与えるとでも、と雄弁に語っている。


 ゆっくりとここに腰を落ち着ける訳ではなく、取り敢えずで入った店ではあるが、人気がほとんどいないのは、悪巧み?(敵にとっては)にはもってこいの場所なので、ここでこれからの作戦も話してしまう事にする。音も姿もこの目に見えないドーム状の結界の外からは伺い知ることもできないからね。今この魔法を張っているのは姉さんです。流石……。


 兄貴は姉さんに叩かれた頭があまりにも痛かったのか、それとも最初っから頭脳労働は丸投げにするつもりなのか、話は聞くつもりなのだろうけど、言葉を挟むつもりは全くないらしい。しかし、兄貴もランクAの冒険者、まだ飲み足らないだろうエールも、飲み終えたカップを弄びながら我慢しているのが見て取れる。


 元々兄貴に頭脳労働は求めていないのだろう、殿下からの書簡を兄貴には回すことなく、ギルマスと姉さんに今現在の状況を教える様に催促された。


 俺はテイムで薄く繋げたままの黒猫に意識を合わせた、先程見た時とあまり変わりは無く、囚われの皇女殿下は膝に目覚めていない幼い息子を抱いている。


 サーチで表示されている光点は目立った増減も無く、もちろん真っ赤な色のままだが、そう差し迫ったものはまだ見られなかった。


 サイラス首領の方も、王弟殿下から知らされたつまり俺の知らせた、味方と思われる人物をかき集めてなんとか状況の打開を図ろうとしているが、何と言っても人質が敵の手にある内は、どんな行動も取れないで、焦燥のみ募っている事だろう。


 王弟殿下が籠城している、敵の親玉の一人がオーナーの宿では、未だに結界を破る事はできずに、当初と同じ様子が繰り返されているばかりだ。違う所といえば、皇女殿下達が攫われる場所で見学状態だった勇者(笑)達が、今朝出発した宿、つまり王弟殿下の籠城先に帰ってきた事くらいだろうか。


 宿に戻って来たはいいが、王弟殿下の事で手一杯の魔術師達は、勇者達の存在に気が付いていない様だ。まぁ、目はしのきく志津野が居るから、そう厄介な事もしないでいてくれるだろう。このまま静かに指咥えて見ていてくれる事が俺としては一番の希望だな。



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