挿話 5 伊勢 綾芽
前話と同じく挿話です。視点は伊勢綾芽。時間経過は重なりつつ少し進んだだけ……です。
みやびのステイタスが上がって、この国の私たちに対する本心のようなものを感じ取れた時から、できるだけ『呪われた腕輪』をつけないようにするとか、言われる事を鵜呑みにしないとか、自分たちの身を守る為にもレベル上げに励むとか、それなりに過ごしてきた。
私は、まぁ自分からそう思わせているところもあるけれど、結構軽いというか考えていないというか、つまりちょこっと『おバカ』と思わせているところがある。
そう、思わせているの。あくまでも……。
見た目もね……、年齢どうりに見られていない自覚も十分にあるし……。そうよ、小さいことがいけないの。背が140くらいしか無いのが一番の問題。もうこれは諦めたわ、中学を卒業した時には……。
元々好奇心も強い方だし、明るくはちゃっけていることが苦でも無いから、そのポジションというのかな、そんな状態でいる事を自分から望んで演じていたことも事実。
高校生になって尚更緩衝材のような私のポジションは重要になっていったと思うの。新しく仲良くなった本城君やみやびも何だか訳ありな感じはプンプンしていたし、元々のつるんでいるきょうちゃんも、『しっかりして真面目、無口な武道家』なイメージのその通りでない中身も、結構初めから気づいちゃってたしね。
そう、私こんな感じだけど結構本人すらも気がついていない『本心?』に気付いちゃうんだよね……。でもって、私の本心は結構上手く隠し通してたりするんだ。
だから、こんな世界に放り込まれて、一日中一緒にいる事になって、尚更みんなの内面がわかっちゃったりしたんだよね。
できるだけ『呪いの腕輪』を外すようにして過ごす事が決まったけれど、頭が良くて元々語学に強いみやびと、言葉数がこれでもかってほど少なくて極度の人見知りを疑われているきょうちゃんは共に、言葉の事はそれ程影響は無いと思われるけど、話す事で自分の能力のほとんどを埋めている私としては、通訳のツールがなくなる事は死活問題だ。一番の問題として言葉を覚えない限りきょうちゃん並みに無口になっちゃうし、それでうたがいをもたれて、自分たちが『呪いの腕輪」の事に気がついている事に気がつかれる事が一番あってはならない事だから、私自身の身体の事よりもね……。
だから、特にみやびは良い顔をしなかったけれど、私はこの世界の人たちと顔を合わす時には腕輪をつけておく事にした。
意識をすれば確かに腕輪をしている時の思考は薄っすらと霞がかかっているような感じがする。
特に腕輪を外す時の忌避感は何度体験しても嫌なもので、これをつけ続けている時の恐ろしさをわかっているのに、外す時その時は、大好きなケーキを取り上げられて、それを眼の前で食べられる以上に嫌な気持ちになる。その嫌な気持ちは装着時間の長さ比例していて、長くなって取り外すのが難しい時には眠った後に外してもらうくらいだ。
そんな、長時間腕輪をつけておかなければならない状況に今3人ともが置かれている。下手をすれば誰も腕輪を外す事が出来ない状態になってしまうかもしれない、そんな状態に置かれている。
早朝から馬車に乗り、初めての野営の準備も終わり(お茶飲んでいただけだけど)、我々女子組3人に与えられた天幕に落ち着いて、ホッとしてぽやっとしているうちに腕輪を外された今、よく思い出せない今日1日を振り返りながら取り戻した思考の元に、地面に直接寝具を引かなくて良くなった事に安堵しながら、1人用の折りたたみ式ベットに寝転ぶ。
みやびの忍耐力には頭が上がらない。同じ時間『呪いの腕輪』をつけていたにもかかわらず、すんなりと自分から腕輪を外し、きょうちゃんのも外した上に、一番抵抗しそうな魅了状態下にある私の腕輪もすんなりと外したのだから。
「……これからこの状態が何日も続くというのは……少し困ったものよね」
こめかみを華奢な指で揉みながら、外を慮ってか囁くような声でみやびが呟いた。
「……」
無言のままだが肯定するように大きくきょうちゃんも頷き返している。
もちろん私も激しく同意。だけど、腕輪を外された直後に襲われる倦怠感から頭を動かす事が出来ない。
寝転んだままの私にみやびは回復魔法を掛けてくれた。少し気分の悪さも無くなってくる。
「今日は初日という事もあって朝から今まで着けていたけど……、恭子ちゃんは袖付きの服を着てさえいれば外していても大丈夫かもしれないわね。……綾芽は……今日のままの状態でいるなら外すタイミングを見つけるのが難しいかもしれないわね。でも……、折角魅了状態も異常にまでいかないように維持しているこの形が、勇刀の様な状態にならないとも限らないのよね、装着したままで何日間も過ごす影響が計り知れないから……。恭子ちゃんと私が腕輪をしない事で、綾芽から腕輪を外す事ができない状況になる事は避けられると思うけれど」
私が一番状況が重いとして、みやびやきょうちゃんに全く腕輪からの影響が無いわけでは無いから、このまま3人とも魅了や隷属の影響を受け続けていたら、尚更腕輪を外す事すら難しくなってしまう。
「一緒に乗っている王弟殿下もこの国の王族なのだから、姫巫女様たちとそう変わらない立場であると考えていた方がいいと思うから、腕輪を外している事を知られるわけにはいかないと思うから、外しっぱなしも難しいと思うの、恭子ちゃんは口をきかないキャラだと今日1日で認識されていると思うから、このまま腕輪なしでいきましょう。重要な事付けなどあっても、私が後で伝えるから」
隣の国に行くのに街道も通らず、荒野を馬車で行く様であればエンカウントする魔獣も多いのでは無いかとみやびが言う。彼女は上には隠れて文字の習得もして、この世界の事を事前に情報収集してきたみたいで、たまたまなのかわざとなのか全くこの世界の情報を教えてもくれないこの国の王族の人々を、尚更信じる事ができなくなるような内容を調べて来てくれたのも彼女。
そもそもの、『皇女殿下救出作戦』自体の前提が嘘である可能性が高い事もみやびが調べて来てくれた。
と言って、隷属状態であるはずの私たちに拒否できる事もなく、彼らの思惑に乗りつつ、自分たちのレベル上げにこの機会を利用しようと決めた訳だけど、それもこれも魅了隷属状態に陥らないという事が前提である訳だから、一番危なそうな私が、呑み込まれないという強い意志を持たないといけないのだ。
「元凶が近くに居ないこの状況を何とか利用して、勇刀の正気も取り戻したいのだけど……」
暫く振りに近くに居て、本城君の異常状態の重さに心が重たくなったのも事実。側から見たら腕輪をしている時の私達も大して変わらない姿であるのだろうと考えるだけで怖気が走る。
流石に男女同じ天幕で寝起きはできないという事で、今も本城君だけこの天幕内には居ない。王族と一緒というのも憚られるという事で、一番この部隊の中で一緒に居たくないエドゥアルドと同じ天幕で過ごすみたいで、彼に近付くリスクが大きすぎるのだ。
何とかしたい気持ちは勿論3人ともに持っていたが、結局彼が独りきりになる瞬間が訪れる事はなく、本城君の『呪われた腕輪』を外す事は出来なかった。
私達もなるたけ腕輪をしない時間を持ちたいので、馬車移動中は腕輪を外す事にした。外したまま馬車に乗るときには王弟殿下たちに気付かれないかとても緊張したけど、別に気にするような事はなく……つまり突然無口になった私にも何か突っ込まれるという事もなく、異常に静かな馬車移動が強いられている事に誰も文句を言う事なく粛々と隣国への移動を続けていった。
途中途中で魔獣を討伐しながら、討伐のときには護衛の騎士さんたちとの連携も必要で腕輪をつけなければいけない事が苦痛だったけれど、この旅の一区切りであるリューグナー共和国に着いた……辿り着いた時には、この短期間にかかわらず、王城の演習場で行っていたレベル上げとは比べる事が馬鹿みたいに、私たち3人は成長したと思う。
ただ、戦闘中の意識はあるようで無いから、これも腕輪の魔力かも……、強くなった実感はあまり無いのだけど。
意識がはっきりしている時、つまり腕輪をしていない時に、私たちと一緒に異世界召喚された男性がこの旅に同行している事を聞いた時、初めて今の今までその人の事が全く意識になかった事に気がついて腕輪の、魅了と隷属の魔法の怖さに気がついた。
彼は明らかに私たちとの扱いが違っている事が見て取れる。どう見ても使用人の扱いだし、特に騎士たちの彼に対する態度はこの旅の人員の中で一番ひどい扱いに当たるものだと感じられた。
知り合いでは無いけれど、私たちと年齢もそう変わらないように見える同じ世界から連れてこられた?彼が、どう見ても理不尽な扱いを受けている事に憤って、文句を言いに行きそうになった事も何度かあったが、その度に私たちは自分たちの保身のために見て見ぬ振りをすることになるのだ。
「綾芽、気持ちは痛いほどわかるけど、私たちは腕輪をしている限り彼に気付くことすらしない状態になっていない時にいけないのよ。彼の事を気にしていることに気付かれたら、腕輪をしていない事に気付かれてしまう。そうなったらどんな事をされるのか想像もつかない……」
だから、彼がどんなひどい目を騎士たちから受けていても、気にする素振りすらしてはいけないとみやびは言う。
私が、『そんな事はできない……』と言うと、できないならば気にしないようにする為に腕輪を日中ずっとつけている事になる、と真面目な顔でみやびに言われた。
「それに、今更私たちはあなたの味方なのよ、みたいな顔して彼を庇ってどうなるの?彼も腕輪を着けられている可能性も高いし、私たちの事だってきっと全くし知らない『勇者様』でしか無いのよ……」
「優しい綾芽には厳しい事を言っている事は分かっているけれど……ごめんなさいね……」
私たちに中で一番クールに見えるみやびが一番そうで無い事はもう随分前から気が付いている。彼女の隠そうとしている表情からそうで無い気遣うようなものが滲み出ていて、謝らせた事が辛い。
私はそれ程優しくは無いよ。私も自分の身は可愛いもの。いくら同じ世界の人間であるとしたって、大して知らない他人を自分の身を捧げてまで助けようとなんてしないよ。
だから、彼の事はシカトする。どんな扱いをされていたとしても全く知らないものとしてスルーする。呪いの腕輪は恐ろしいもの、自分の意思がなくなるなんて想像すらしたく無い。
本城君は元々外の事に全く興味を持たない状況だから置いといて、私たち三人も見て見ぬ振りを貫いて、この旅程を終わらす事を決めたのだ。
次話も挿話になりそうです。中々本編まで時間が進んでくれないので……。




