第 4 話 グラオザーム王城謁見室
今作られたばかりのステータスカードを首から提げて、俺たちが入って来た以外にある唯一の扉をくぐる。
広さはふた部屋分、内装も豪華になっている。ここが謁見者の控えの間で、先程の部屋は従者のための物なのだろう。
隣の謁見の間に続く扉の上には、豪華な飾りに見せかけた様々な効果のある魔石が取り付けられている。本当はここで丸裸にして謁見したい所だろうが、そう言う訳にもいかない。色々な装身具が魔導具になっているこの世界で心配する気持ちはわかるが、ここまで疑心暗鬼になるのはそれなりの理由がある訳だ。
(なんだか身内すら信用できないような物々しさだし……)
扉の上だけでなく、部屋中に散りばめられた魔石達がその効果を使うたびに、身体の中を覗かれるような感じがして良い気分ではない。
気持ち悪くなりそうな所は、俺の状態異常無効・精神攻撃耐性くん達が働いてくれて、そよ風が吹いているくらいの感じで済んでいるが、魔法適正が強そうな二人、志津野と伊勢は随分と顔色が悪くなっている。どちらかといえば体力に特化した脳筋の二人は大丈夫そうだ。
なんとなく時間を持て余したので、改めてエドゥアルドのステータスを見てみることにする。
ここに来るまでの覗き見では上から五項目までしか見ていなかったからな。
これより詳しい情報はこの世界でも専用の道具を使わないと見れないように、まだ俺も少し集中しないと感じ取れない。要練習かな。
《名前 エドゥアルド・カヴァレリス 》
《レベル 18 》
《年齢 25 》
《 H P 64 》
《 M P 32 》
《種族 人間 》
《称号 カヴァレリス伯爵家次男 姫巫女の聖(性)騎士 》
《加護 リュゼルリシオンの加護 》
《魔法 火属性魔法適正 》
《スキル 剣術 Lv.3 身体強化 Lv.2 》
【装備: ミスリルの腕輪 ・ グラオザーム話語変換 】
まだステータスのサンプルが少ないから判断が難しいけど、このレベルは年齢にしたら高い物なのだろうか。
ところで……称号の所の聖(性)騎士ってなに?通訳の間違い?それとも俺の解析凄すぎ!って事?
なんか、すっごく真面目なザ・騎士!って感じだけど、やっぱ人は見かけではわからない。
これから、ステータス見てセイキシがいっぱい居たらどうしよう……。疲れたな……。
……巫女姫の聖(性)神官が居たよ!
そんなこんなで随分と待たされた。
部屋の中に居る人物の俺によるステータス確認も終わり、魔石の解析も終わって手持ち無沙汰になりかけた頃、何の前触れもなく中央の豪奢な扉が開いた。
両開きになった扉と同じ幅の真っ赤な絨毯が真っ直ぐに伸びた先に階段状の舞台が見える。
一番上の段に金ピカに光る豪奢な椅子に座った人物と、その横に立つこれ又金ピカのヒラヒラしたドレスの人物が見える。
赤絨毯の両脇には、向かい合うように何十人ものオジさんが立っている。
女の人は舞台の上の一人きりしか見えない。
(そう言えば、謁見時のマナーなんてなにも聞かなかったな……)
赤い絨毯に足を踏み出してから気付いた。他の四人も一緒だから良いか。一番後ろに居るし、前の真似すれば良いよな。
結構段差の手前で止められて、先導してきたエドゥアルドに倣って片膝をついた。
前と横からの値踏みの視線をヒシヒシと感じる。
一番上から一段下がったところに立っていて、文官の人によく似た服を着たでもすごく高そうなアクセサリーを沢山つけた、髭のオジさんがその場を仕切り出した。
「巫女姫様の受けられた神託は結実した。今この場に女神リュゼルリシオン様の御遣いとして異界からの勇者が降臨された。今こそ蛮族どもを打ち倒し、女神様の御威光を知らしめ、我がグラオザーム王国の覇を唱える時が来たのだ」
両腕を振り上げ、大きな身振りで何かに憑かれたように熱弁をふるっている。口調はすごく熱いが、瞳を見ればそれが凄く冷めている事がわかった。
《名前 ガルゲン・フュルスト・シュトライト 》
《レベル 11 》
《年 齢 40 》
《 H P 31 》
《 M P 27 》
《 種族 人間 》
《 称号 シュトライト侯爵家当主 グラオザーム王国宰相 》
熱弁中に思わずステータスの解析をしてみた。少し慣れてきたのか、そう集中しなくても上から七項目目までは簡単に解析できるようになった。
《名前 アライン・ヘルシャフト・グラオザーム 》
《レベル 15 》
《年齢 42 》
《 H P 38 》
《 M P 30 》
《種族 人間 》
《称号 グラオザーム国国王 独裁者 》
《名前 リスティーナ・メーディウム・グラオザーム 》
《レベル 7 》
《年齢 18 》
《 H P 20 》
《 M P 33 》
《種族 人間 》
《称号 グラオザーム国第二王女 神託の姫巫女 》
目の前のキラキラしい二人も解析してみた、姫様をもう少し詳しく解析しようと気を入れ直した瞬間、背後から刺すような何かを感じて、集中力が途切れてしまった。
まぁ、解析するチャンスはいくらでもある。
今する必要性もないし。
ただ背後からの視線は気になるな。背後を見れないのが痛い………。
意識を背中に向けている間に宰相閣下の演説は終わり、王様や姫様も加わった寸劇にスイッチしたようだ。
恭しく頭の上に銀の盆を捧げ持つ少年……小姓?と介添えの騎士が舞台に登場する。
紅地に金の細かい模様の入ったクッションに一振りの剣が乗せられている。小姓は捧げ持った姿勢のまま王の前に差し出した。
王は片手で無造作にそれを掴み取ると、視線で横にいる姫に合図を出す。
「光の勇者。聖剣の担い手。ユウト・ホンジョウ。前へ!」
召喚の間で高笑いしていたのと同じ声が、広いこの場に響いた。
斜め前に見える本城の肩がビクリと震えた。エドゥアルドに小声で促され、ゆっくりと立ち上がり階段の下まで近づく。
「これへ!」
短くきつい声が上から降ってくる。
本城は一度背後に振り返り、エドゥアルドの頷きを確かめでから、一段一段上に上がる。
階段を一番上まで上がると、王の前でまた片膝をついて頭を下げる本城。
王の持つ剣は一度姫の手に渡され、姫から本城へ手渡された。
「これは、代々我がグラオザーム王国に伝わる『聖剣 ブリーゼブリンガー』である。これを持って蛮族共を打ち払い、女神の御威光を全世界に知らしめ、我がグラオザーム王国に栄光を導くと共に覇道を貫徹せよ。これは君命である‼︎」
初めて口を開いたと思ったら随分と物騒なこたを言ってくるオヤジだ。一番言いたかったことは最後の『覇道』だな。
周りの連中は酔っ払った様に顔を赤くして王の言葉に嵐の様な拍手を送っている。
この部屋の結界の中では、魔法攻撃無効が働いているが、俺がユニークスキルの解析を使えた様に、攻撃魔法ではない魅了は使えると見えて姫様は国王の話が終わると共に発動させていた。
(上手い使い方だ)
聖剣を貰って浮かれている本城は別としてあの計算高い志津野が、『君命』とか言われたことに気がつかない筈は無いのに、まるで大好きなスターを見る様にほんのりと染まった頬のまま王様達を見上げている。
(女神になんて言われてきたのか……召喚された国の手足になって働け!と言われて来たのか……)
利害が一致すれば方法は問わないのか?
女神の信者では無いもの人間では無いものを皆殺しにすれば、結果として人間の治める国が世界制覇する。
母数は減っても、女神信者以外を全て抹殺すれば信仰の力は100%となりポイントが貯まる。
召喚してきた子供を、魅了と隷属の魔法で勇者にし、己の欲望を満たそうとする、汚い大人を見ただけで、もうこの国を亡くしたくなったよ。
今の俺の力では、とても一国を相手取る事は出来ないし、自分の目で見て判断を……って言われたからもう少し我慢するけどね……。
勇者達……俺を含めて……は、暫くここで訓練を積んだのち、『君命』を速やかに遂行するために旅に出る事が、この場で言い渡されたのであった。