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第 39 話 反撃の狼煙⁈ 1

 いつの間にか、リンを抱きしめたままうたた寝をしていたみたいで、頭の中にケイからのアラームが鳴って目を覚ました時に、おとなしく腕の中で俺の顔を見つめているその姿……


「ゔゔゔ〜ん!なんてお前はきゃわいいんだぁ〜!」


 勇者達(あいつら)の事も、殿下の事も、もうどうでもいいからこのままに永遠にリンをモフっていたい!


 でも(ないはずの)ケイの視線が痛い!


 俺は意識をケイのアラームの方にシフトして、しぶしぶリンを手放した。リンが微妙に取った俺との距離がなんか寂しい……。


 魔力マップを見てみると、首領家族の住居に張り付いているはずの騎士の魔力が、馬車の動く速度に合わせて動いて、その人数が道を進むたびに一人二人と一緒に動く魔力が増えている。認識している騎士に追従するように動いている知らない魔力は、この国の人間なのかグラオザーム(あっちの国)の人間なのか……。随分と人数が増えている。確かにこの国に来た騎士の人数のみで、この国の超重要人物の誘拐なんてできないよな。


 体感時間より随分と長い時間が過ぎたのか?昼過ぎに行動を開始すると思っていたが、雨が降っていると時間が何時であるかわかりずらいな。


 で、現場が動けば舞台裏も動く、殿下の方についていた魔術師(首謀者の一人)が行動を起こそうとしているようだ。殿下には殿下の護衛騎士が付いている。彼は魔法も使える魔法剣士と言われる者のようだ。かっこいい。


 彼らの計画だとまずは殿下を攫わないといけないわけだから、皇女殿下達の外出が早くなった事に、慌てている事だろう。この世界の通信環境は非常に脆弱というか、魔力が余程強くなければ、馬や鳥で運ぶ世界だからな、襲撃者達の間での情報の交換はタイムリーに行う事は不可能だろう。俺が殿下に渡したような魔導具でも持っていれば話は違うのだろうが。


 俺はその魔導具に現在の状況を知らせるべく声を送った。通信用ピアスを渡す時に念の為に、と一緒に渡しておいた一回限りだが超強力な結界具を必ず今作動させる事も伝えて。


 意識を魔力マップに戻すと、殿下とは別棟に居る御者とBOX持ちの姉さん達が厩舎のある方へ移動している。きっと魔術師に本当の馬車の利用方法を教えられず、ただ用意するようにでも言われたのだろう。魔術師は正に殿下の居る高級客室の棟に足を踏み入れる所。殿下の部屋にはどう足掻いても入る事はできないだろうが……。


 勇者達は……、故意か偶然か、皇女の向かっている病院の近くを散策中の様子。


 王弟殿下を攫わせることはさせないことは当然として、このまま何事も起こさずこの国を出て行くことは簡単だが、それでは命をダシに使われた王弟殿下が面白くないことは当たり前として、俺も面白くない。


 グラオザームの姫巫女一派とリューグナーの反首領一派の思い通りにすることなど、これっぽっちもないが、何も起こさないつまり、なんの罰も与えない、そんなつもりもないのだ。


 といって、奴らの利になる両国の間に諍いを起こすことも良しとしない。だから、グラオザームの仕業である事がまるわかりになる勇者を今回の事に周りがわかるように関わらせる事はできない。わからないようには関わってもらうつもりだが……。




 王弟殿下には今の状況をライブで伝えている。結界の張られた部屋からは出ない事と、その場に自身が居たという一切の証拠を残さないようにする事。


 皇女を乗せた馬車はかかりつけの医者の所に着いたようだ。診療は昨日から決まっている事なのだから、攫うとしたら要件が終わった後になるだろう。


 道の途中にいた者や他の場所を張っていた者もこの場に集まってきている。殿下の襲撃担当者である魔術師はまだ殿下の部屋の前で右往左往しているが……。


 事が動いたのはそれから一時間もしない時だった。診察が終わったのか皇女殿下と、ご子息がそれとはわからないような質素な馬車で、診療所の敷地から出てきたのだ。


 本当はその場に攫った王弟殿下の姿がある事が当初の計画であったが、殿下は来ない。

 皇女達の乗る馬車を襲撃する予め決められた場所、人気がそれなりに有り尚且つ警備隊が直ぐに駆けつけられないような、そんな場所。


 当初の計画よりも皇女達の出発時間も随分と早かった、しかしそのような場合でも子息を診療している時間内には誘拐犯に仕立てる予定の王弟殿下をこの場に攫ってこられる準備はしているつもりだったのだろう。殿下の付き人を僅か1人にしたのもそうであるし、殿下に与えられた部屋も、関係者以外は近付いてこないような隔離された場所だった。この国に着いてから全く殿下を誰とも接触されないようにしていたのも計画の一環だろう。


 しかし、そこに考えられないようなイレギュラーを連れて来ていたんだから、女神さまの加護も大した事ないんじゃないの?


 俺は再びテイムした鳥の目と、魔力の動きを合わせて観ながら、襲撃誘拐犯がこれからどうするのか高みの見物と洒落込んだ。


 皇女殿下の乗っている馬車も診療所に来る時と今との動き方があからさまに違うから、こちら側もきっと協力者なのだろう。この世界の上の方は全部腐っているのかな……?


 襲撃予定地に馬車が到達した。色々予定と狂っているだろうが、現場にその変更についての情報など届くわけはなく、つまり当初の計画どうりの行動を取るしかないわけだ。


 王弟殿下には見えなくもない顔を晒した人物と顔を隠した数人が、わざと周りの者に認識されるように不自然に止まった馬車に近付き、わざとらしく剣のぶつかる音を響かせながら馬車に付いていた護衛と御者を排除した。そして、そのまま馬車ごと奪うと人の目を引きながらも警務隊が巡回していない通りを選ぶように裏道を進んでいく。


 この辺りもしっかりとリューグナーの国の奴らと調整が付いているのだな。


 馬車は貴族街の外れ、下級貴族が多く住んでいる辺りの、もう何年も人が住んでいないような廃屋の奥庭に入っていった。


 鳥を廃屋の上空に旋回させて様子を伺う。馬車の扉が開き中から妙性の夫人とその腕に抱かれたまだ幼さない男の子、そしてよく見るお仕着せ姿の侍女の3名が降りてくるのがわかった。そしてその馬車に同乗していたのか、先日認めた悪巧みしていた痩せぎすの男も降りてきたのだ。うな垂れて、皇女殿下と同じ被害者としか見えない風情だ。


 4人が廃屋に入る事を確認してから、鳥とのパスを外した。スキル向上のためにも回数をこなさないといけないから、必要があればまたテイムする事にする。


 王弟殿下の居る宿の方に意識を戻すと、どのようにしても殿下の部屋に入る事ができない事がわかった魔術師が、すでに皇女殿下の誘拐の実行が行われた事が知らされたのか、殿下の部屋の前に少数の手の者を張り付かせる事は忘れずに、宿から離れていく所だった。


 今直ぐに殿下を同行できなくても、この国に残しさえすれば彼らの目標は達成できる。その第一弾として王弟殿下が馬車を襲撃したように見せたのだから、とにかく次の事態に備える事にしたのだろう。


 殿下たちが廊下の次の間より奥、寝室に居ることを確かめてから俺は手前の部屋に転移した。


 一応殿下達が籠っている寝室のドアをノックする。


 誰も入ってこれないと聞いていたはずの結界の範囲内に侵入者が居た事に驚いたのか、それまで流れていなかった随分と剣呑な空気が漂ってきた。


 俺はその殿下の感情の動きが俺の結界の事を信頼した故の事とわかって、口元が緩んだ表情のまま寝室の扉を開けた。


「……っ、と君か……」


 入ってきたのが俺と知って、殿下は止めていた息を吐くように肩から力を抜いた姿が見えた。何時も硬い雰囲気の殿下の力が抜けた様子がなんとも可笑しかった。


 防音の結界も重ね掛けして、隣の応接室で話をする事にする。一応リアルにその状況報告はしていたが、改めてこれまでの襲撃者(やつら)の動きと、これから起こすだろう行動予想、及び我々の行動について話をした。


 グラオザームの人間はとにかく帝国に人身御供として引き渡す『皇女』が欲しい。なぜなら、戦が起こっても今の戦力ではグラオザームに勝ち目がないから。しかし、今居る妙齢の年齢の未婚の皇女は、姫巫女しか居ない。だから無理やりにでも既にリューグナーに嫁いでいる第一皇女をこの国から引き離して無理やり帝国に送ろうとしている。


 一方リューグナーの人間は、今の首領の行っている政治に不満を持つ一派で、政治的な齟齬を与えてその地位から引き摺り下ろす事を目指している、その事で自分達以外の者が被害を受けてもそれはどうでもいいらしい。


 政治的な齟齬とは、今回はグラオザーム国との間の戦争にもなりうるような事。例えば

 、グラオザームの王弟殿下が姪である首領夫人(第一皇女)を誘拐するという事件とか……。


「今私は姪の誘拐犯でその子供の殺人犯にされる可能性が有るのだね。最悪殺されて」


 部屋の外からはまだ諦めきれないのか、形振り構わずドアを破壊しようとする大きな音が響いてくる。これだけ大きな音をさせている所からも、我々の周りには敵しかいない事がわかるというものだ。


 そのもの音に対する苛立ちを隠しもせずに、眉間にしわを寄せ開かない扉を睨みつけている殿下の護衛騎士の肩を宥めるように叩きながら、それでも殿下は薄い微笑みを口の端に浮かべている。


「意外かい?こんな状態でも私が落ち着いていられるのは、何も全て諦めたからではないよ。その逆さ。君の力をここまで色々と見せつけられてはね。それもほんの一部だろ?今は、姫巫女一派の頭の悪さに感謝しているくらいさ。勇者達(あっち)を取って、君を放り出してくれた事を……ね。」


 どうにかしてくれるだろ!と悪びれずに侍従に俺のお茶を入れるように命じる殿下。


 結界には外の音に対する消音効果をわざと入れていなかったので、まだまだドアを破ろうとする音が響く中、新しく入れられた紅茶を優雅に飲む殿下に、なんとなく敵わないなぁと感じながら、これからの行動について話を詰めていく事にする。


「私もここまでコケにされたのだから、もう陛下()の思い通りに動く事はやめた。先王()の遺言を守る事が第一と考えていたが……自分の命を賭ける価値があの方々にあるとは思えなくなったからな」


「殿下!」


 侍従が王弟殿下のその言葉に喜びの声を上げる。護衛騎士もさっきまでの苛立った表情が嘘のように、こちらも笑顔を浮かべている。


「私を巻き込んだ事を後悔させてやらなくてはな。……君をこのような事、いや、この世界に巻き込んだ者の血族の一人として、このような事を頼む立場にはない事は分かっているが、お互いの向いている方向()、が同じであれば手を組む事になんの躊躇を持つ事があろうか。その担保は私の命で」


 殿下の手に持っていたカップをソーサーに戻すカチャリという音がやけに耳についた。






冬休みですね。次話は年が明けてからになるかもしれません。

年末にもう一本頑張りたいんですけど……。


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