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第 38 話 リューグナーの街中で 3

 殿下も今日の明日という事で、随分と驚いていたが、彼方が作戦を急いだ理由が、自分の姪の子供に当たる人物が病気になったための外出という事で、自分の身より幼い子供の病気の事を気にしている殿下の様子の方が面白かった。肝が太いと言うかなんと言うか……。


『たしかにな、居城に入り込んで攫うよりも余程外出した時に攫う方が効率も成功率も高いからな。……ところで、この国に知り合いなど全くいないのではなかったか?私でも知り得ていない情報をどのようにして手に入れたか、気になるな……』


 まぁそれは聞かない約束での情報提供だから約束は守る。そう言って、一度通信を切った。命を狙われる身として、護衛の騎士達と相談するらしい。


 勇者達にどう言って誘拐なんぞやらせるのかはわからない。実働は護衛騎士達にやらせるのか?きっと、何もこちらの事を知らない彼奴らを、巫女姫(笑)の魅了で言う事聞かせているのか、それとも全部の事情をわかっていて、手を貸しているのか……。


 彼らの行動がどう言う理念を持って行われているかはそう気にすることではない。誰のためにどう行われているかが問題なのだから。


 俺はここで放り出されても全く問題はないのだが、御者役の騎士や、もう1人のカバン代わりはきっと殿下のこれからの扱いや、グラオザーム(母国)リューグナー(この国に)しようとしていることは全く知らないだろう。


 殿下の一味扱いでその場で切り捨てられることも十分考えられる。俺のようにとっても上手に死んだふり(忍法空蝉の術もどき)もできないだろうし。ここに来るまでの焚き火横の四方山話で、御者二人やBOX魔術師のお姉さんも、何だかあまりこの世の中に柵がほとんどない人間であることが見て取れた。


 旅客死しても騒ぎ出す者がいないような人選だ。それは俺にも言えるけど……。


 サーチで見てみると、秘密会談を済ませた騎士と魔術師は、ある意味ターゲットである王弟殿下のいる宿へ近付いてきている。マップの光点もあの話を認識した後だからか、黄色からオレンジに変わっていた。話し合いも終わったのだろうあの時にもう酒盛りに入っていたからな、1日早い祝杯とでも言いたいのだろうか。


 明日の午後、殿下になんと言って宿から外出させるつもりなのか、それとも物言わぬ状態で運び出せば良いと考えているのか。


 あまり慣れない頭脳労働をして少し疲れたな。この宿は一階に食堂というか一杯飲み屋というか、があるのだが、日が落ちて間もない今でも胴間声が聞こえてくるから、なんか食堂へ行くのが面倒くさい。


 俺は宿に入室できないように結界と、それを開けようとした時に報せる警報を付けて異空間部屋(マイルーム)へ。この部屋でのルーティーン、リンをもふり、風呂にゆっくり入り、溜め込んでいる食料を食べる。室温は一番快適に感じる気温及び湿度に保たれている。ベットに入っても薄いタオルケット一枚でぐっすり寝られる心地よさ。


 今日起こった様々な情報から、これから起こりうる予測をケイに任せて俺は眠りについた。しかし、考えることをケイに任せてばかりだと、自分が馬鹿になってしまうかもしれないな、なんて思いが浮かんできたが、思う側から、『わたしは、あなた、じしんです』とケイから軽いツッコミが入った。




 翌朝、彼らの言うところの作戦決行当日。この国のこの時期には珍しいらしい雨がシトシト降っている。これもこれから人攫いを行おうとする者にしてみれば恵の雨か?


 俺が本当に泊まって居なければいけない安宿のドッペル君には何の接触もないみたいだ。所謂全くの放置というやつだね。けれども、今日の凶行へ俺を利用しない手はないのだから、犯行予定時刻の昼前までには、何かしらのアクションがあるはずだ。


 俺はもう少しはこの国を堪能できるだろうと思い借りた中宿(中くらいランクの宿の略)を引き払って安宿の自分の部屋に転移(ジャンプ)した。ここで、変えていた髪と瞳の色を元に戻した。


 クッションが全く効いていないベットに横たわっているドッペル君1号。側から見るととてもシュールである……。


 これは見なかったことにして、ドッペル君を仕舞う。


 ドッペル君が居なくなったベットに腰掛けると(他に座る物がないし…)思い違わず全く反発力ない座面に体が沈んだ。


 こんな所で寝たら、いくら若くても体がおかしくなりそうなベットだ。


 稼げないからこんな所に泊まっているだろう冒険者は、こんな所に泊まっている限り稼げるようになれそうもないな。底辺に近いような安宿ではあるが、この宿にも一階の入り口横には簡単な料理や安い酒を出す食堂が付いている。場所が中央機関にやや近過ぎることもあってなのか、少し種類の違う安宿の(…連れ込み宿…)と兼用はしていないことが俺としては少し助かったことの一つだ。こんな所に泊まってみるのも、世の中のことを知る一つには違いがないのだろう。これから呼び出しを喰らうまでの短い時間だろうが、ここで少し人物や世情観察をさせてもらうことにする。


 昨日はちゃんとした所を見つけたかったこともあり、ドッペル君を設置する時もまとも部屋の中すら見ていなかったので、改めて見てみた。


 っと言って、本当に軋んだ襤褸ベット以外何もない部屋だ。朝、顔を洗う時に使う桶すらない、三畳に満たない空間だ。窓なんて洒落た物も在る訳もなく、ベットヘッドのあたりに木製の鎧戸が在り、つっかえ棒で外側に押し開ける形になっているように見える。


 扉も簡単な閂が一つだ付いているだけの、何の防犯機能もないただの大きな板が在るだけだ。


 呼び出されるまでこんな狭い空間に居るのも嫌なので、一階の食堂に行ってみることにする。


 冒険者というとなんとなく野蛮な者の集団という感じがして、いつも酒を飲んでクダを巻いているイメージしかなかったが、この世界の冒険者は朝早くから行動をする、結構勤勉な者達なのである。毎日働かないと宿代も出ないという下級の冒険者になる程、勤勉でなければ生きていけないそう言う世界だ。


 今朝もまだ暗いうちから動き出している者も多いようだ。


 ただ今日はこの時期、この国に珍しい雨が降っている。雨程度で外出禁止にする柔な冒険者は居ない。が、若干戸惑いもあるようで、いつもより腰が少し重たい者も結構居たりするようだ。


 俺が一階の食堂を覗いた時もそのような者が多かったようで、そう広くない食堂はむさ苦しい男どもで溢れていた。俺は、姿を元に戻した事もあり、ローブのフードを深くかぶり髪や瞳の色を見えないようにしながら、入り口から一番奥のカウンター席が一つだけ空いていたのを見つけて、流石に朝から酒を呷っている者はいない食堂の中を、気配をなるべく消して歩いて行く。


 男達は雨の様子を気にしつつ、硬くて不味そうなパンと、具が殆ど入っていない皿のそこまで見える薄い色のスープを掻き込んでいる。と言うか、硬くてまずいパンと薄くて味のないスープだったが、これも大切な体験というやつだ、しかしこんなのでこの大男達の体に栄養が足りるのか心配になる程のものだ。これが毎日、毎朝だときついな……。


 しかし、彼らはその事に別に不満をあげる事なく、黙々と食べている。このくらいの物が彼らの中の朝食の常識という事なのだろう。


 グラオザームの三の曲輪の食堂でもここまで酷い物は出てくる事はなかった。腐っても王城ということなのかもな。


 彼らは昨晩の食堂の冒険者より、また何段階下がる冒険者達だ。技術も技量も底辺であるだろう彼らはより自分の命を賭けて毎日を生きている者達だ。この辺りの魔獣の変化や、採取に直結する天候についてもより敏感だ。


 この時期のリューグナーは乾季とも言える季節らしく、雨が降ることは殆どと言ってないそうだ。それが朝からやむことなく雨が降っている。雨量は豪雨とは言えないが、弱雨と言うほど弱くもない。この世界の道の殆どは舗装などされていないものだから、外の道はすでにグチョグチョだ。


 これも女神の恵みの雨だと言いそうな魔術師の顔を思い浮かべながら、あまりひどく雨が降ると逆に、お目当ての人物の外出が禁止になってしまわないのだろうか、なんて変な心配をしてしまう。


 今日が採取依頼の最終日だから、森に入らないといけないという俺とそう変わらない歳に見える冒険者が憂鬱そうに薄く開けられた鎧窓から外の様子を伺っている。それを同輩くらいの男がからかっている。その同輩は昨日の内に同じような依頼を済ませてしまっているようだ。


「昨日、誘った時に一緒に行けばよかったんだよ。バネッサちゃんといい感じになりそうだなんて言ってたが、結局昼飯奢らされただけだろ。スッカラカンになって、こんな天気でも依頼を断れないなんて、運が良いなお前!」

「うるせい!お前なんてバネッサちゃんに会話すらしてもらえないくせに」

「なんだと!」

「やるかこいつ!」


 と、よく見られる光景がここでも繰り広げられていた。

 朝だから酒も飲んでいないのによくやるな。これも彼ら流コミュニケーション方法なのだろう。一時騒がしかったが、雨でも今日稼ぎに行かなければならない方が遅くならないうちにと、安宿から飛び出して行った。


 時間をかけてまっずい朝食を食べ終えた後、確認を兼ねてもう一度サーチをかけるために狭い部屋に戻る。知っている魔力のみを追うように設定して魔力を展開。


 王弟殿下は昨夜泊まった部屋にそのまま居る事が確認できたし、この計画に関係ないと思われる御者たち3名も殿下とは違う棟の昨晩と同じ所に反応がある。


 それと共に、勤勉なる強襲者はすでに宿にはその存在がない事がはっきりとし、どう調べ上げたのか、きっと内通者から知らされたのであろう、今日掛かる予定の病院を監視できる場所と、皇女殿下の現在の屋敷と病院をつなぐ地点に点々と襲撃者に成り下がった騎士が居る事が確認できた。勇者達はなぜか朝から中央広場にその存在を見つける事ができた。朝から屋台で買い食いか?皇女の出発は昼過ぎらしいから、今から襲撃地点にいるというのも早すぎるって言えばそうなのだろう。もう少ししたら誰かが呼びに来るのか、予め落ち合う場所と時間を決めているのか……。


俺は暇つぶしも兼ねていつものように異空間部屋でリンをモフって心のリフレッシュをし、頭の隅に魔力マップを表示しながらその時が来るのを待っていた。



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