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第 37 話 リューグナーの街中で 2

 流石に到着初日。今日くらい休息をとって高級宿から動く事がないのかと思っていたが、体力化け物の勇者達はじっとしていられなかったのだろう、特に小さいのが……。


 護衛騎士達もいい迷惑だが、何も言えないよね、特に文句なんて。勇者様は王弟殿下より扱いは上みたいですし……。


 サーチの範囲をリューグナー(この街)中に広げてみる。表示する光点は知っている魔力の光点のみとする。


 光点には名前のタグを下げてくれるケイのサービス付き。


 高級宿には殿下とその従者、護衛騎士の存在が確認できた。その他の人は、殿下達と違う棟らしき所に御者2名と、同僚のBOX持ち姉さんが一緒にいるように固まって光っているのが見える。


 因みに光点の色は何故か緑。ケイ曰く、赤の敵、黄色の中立、青の味方。に加えて、敵に近い中立はオレンジ、味方に近い中立は緑色に設定したらしい。


 黄色はこれからの行動でどちらに動くかわからないもの達だから、はっきり敵と認定している赤の光点の者より、注意が必要かもしれない。いつ赤に変わるかわからない者だから。


 ケイの審査はとても厳しくて、今青色に表示される人物はネルケ、パルメ含め5人に満たない。ほとんどの者は黄色系。赤も少ないが勇者筆頭に王族関係はほとんど赤。


 王弟殿下は今回の旅行?での表示は中立の黄色。緑にはなっていない。ケイ厳しいな……。


 赤に表示されている護衛騎士の頭と魔術師は、リューグナーの中心である城の近くにある高級住宅地辺りにその光を見る事ができた。悪巧みか……。


 この場所の事を調べればこれからの行動の推測もできるが……。


 殿下に知らせるかどうかは別にして、自分の行動の為にも情報は持っていた方がいいだろう。という事で、何かいい手はないかケイにお伺いをたてる。


 俺よりも俺自身の能力について知っているケイ。


 まだリンにしか使っていない契約(テイム)の中で、魔獣にも勿論使えるが周りにいる普通の動物にも使える軽いもの、一定時間だけ体や意識を乗っ取って使役する魔法を使う。


 窓を開けて隣の建物の屋根の上で羽を休めている鳥に狙いを定める。と言って何をするわけでもなく、俺はただ意識を集中して自分の感覚をケイに委ねるだけ。いつもは意識しない事をただ少し考えるくらいの心持ちだ。


 これも並立思考のお陰か、すべての意識を持っていかれることはなく、普段浮かんでくるマップの中にスカイ◯の画面のようなものが現れた。


 大きく屋根が写っている。やけに前後に揺れている。酔いそうだ……。


 俺の気持ちがわかったのか、ビデオカメラの手振れ補正が働いたようにブレは無くなった。


 鳥は向こうの世界の鳩に似た鳥だ。鳩よりは幾分図体が大きいかな?


 鳥は護衛の筆頭騎士や魔術師がいると思われる高級住宅地に向かって飛ぶ、マップ上の青の光点が赤く点滅するそれらに近付いていることがわかる。飛行速度は幾分ゆっくりしているように見えて、マップ上に切り取られた画面は、向こうで見慣れたド◯ーンの写すそれにそっくりだ。


 ゆっくりと高度が下がり、この宿とは趣が違う、殿下達の高級宿の外観とよく似た建物の上階の窓、バルコニーの手すりに止まった。


 建物の周りには結界が(ちゃちなものだが)張られているが、ドーム状態にまで張ることが難しいのか、建物の上には何も張られていない。鳥のような飛行生物なら侵入も容易いものだ。


 鳥にそこまで知能は無いはずだから、ケイが何かしているのだろう。バルコニーの手すりから下の舞台に飛び降りると、窓に近付いていく。


 流石高級住宅地の建物、そこまで透明で滑らかでは無いがしっかりガラスが嵌められている窓がある。


 中のカーテンは開けられていて、歪んでいながらも中にいる人物を確認できるくらいには様子がわかる。


 中の音までは拾え無いだろうと思っていたが、これもファンタジー?魔法の力かそれともこの鳥の能力なのか?まるで合っていなかったラジオのチューニングが次第に合って音がはっきり聞こえてくるように、徐々に音声がクリアーになっていく。


 会談は丁度佳境に入っている様子で、声を抑えるという事を気にすることなく進められているようだ。


『王弟の事は考慮外だったが、この国に入って来たのだったら、これからの行動は幾らでもこちらの思う様にできる。殿下はいい面の皮だな』


 俺にはわからないが、言葉のアクセントがリューグナーとグラオザームでは結構違うらしい。俺は全世界言語理解を持っているので、本当に何の障害もなしに会話も文字も読み書きできてしまうので、違いがわからないという弊害が有るのだ。


 服装の違いからも判断できるが今発言している、やたら派手な衣装を纏ったでっぷりした少し老年に差し掛かっているように見える頭の寂しい男性が、この国リューグナーの交渉窓口というか悪巧みの相手の一人なのだろう。殿下を卑下して罪を被せようとする気満々なのがその証拠のようなものだ。


『王弟のこの国からの退去の痕跡はなかった事にしておるよ。かのかたは先月この国に首領の奥様たる第一皇女様を見舞った後、自身が病に見舞われ、今現在も本懐していないという事になっておるよ』


 これはさっきのでっぷりおじさんの横、こちらは随分と痩せぎすな感じの隣よりは華美な飾りの無い服装の男。年齢はよくわから無い風貌だ。なんとなく雅っぽく感じる言葉遣いはこの人物が上流階級の者である事を表しているのか。


『わざわざ転移陣を使わずここまで来たのです。その苦労を報いてもらわないと割りが合いませんからね。王弟殿下もこの国から帰る折に、急いだ上に秘密裏に行動していたと見えて、その行動を察知できなかった事は痛かったが、そのお陰か転移の痕跡も簡単に除去できるものになって助かった。皇女殿下をすぐにでも帝国のヒヒじじいに献上して、この国を貴方達に、尊い巫女姫様はそのまま我が国に、そして帝国の権益は我らの有志の元に。これは我が国の国王陛下並び巫女姫様、そして女神リュゼルリジオン様の御心です』


 魔術師は神官でも有るかのように女神を褒め称えている。この世界では女神の加護が無ければ魔法が使えないようだから、女神に対しての尊敬の念が濃い事は仕方が無い事ではあるが、なんか気持ちが悪い……。


 護衛の筆頭騎士殿はあえて言葉を挟まないようだ……脳筋か?


 それからは、魔術師と細い方の男と話を進めるようで、脳筋騎士は黙って待機、太った方は自分の仕事は終わったとばかりに酒を飲みだす始末だ。


 計画とやらは王弟殿下もが探り出したものとそう変わる事はなく、殿下の振りをした殿下によく似た背格好の者がわざと姿を見せて皇女殿下を攫う。そして、こちらの国の警備兵と交戦させたように見せかけて、本物の殿下はその場で殺されたように装いこの国に放置。罪を王弟に被せた上にこの国からグラオザームに抗議をよしんば宣戦布告させる。その戦争を止めると言う名目で今のこの国の首領一派を排除。そしてこれらを画策した彼らが首領の位置を占め、グラオザームは帝国への贄となる第一皇女を得る。


『帝国は増長しすぎなのです。女神の代弁者たる巫女姫様を、じじいの側室に差し出せなどと。しかし、現状での軍事力では中々帝国を屈服させるのは苦しいところ。女神様の信託で帝国と事を荒立てるのは得策でないとの事もあり、この度は皇女を差し出せとの事だった事を逆手に取り、皇女という事に嘘のない第一皇女殿下をを差し出す事にしたのです』

『我らの国も、商業の国という看板を掲げているのだから、武器なり傭兵(奴隷)なり売ってしまえば宜しいのです。下手に人道だか何だとか言いおって、首領の務めは自国民を守るのだとかなんだとか、まるで王族のような振る舞い。それに同調する若い者が増えて参る始末。本末転倒とはこの事、儲けなくして何処が商業の国じゃ』


 細いのの言に太いのが大きく頷いている。


『しかし……この国が王政を取っていなかったとしても、首領たる人物の奥方を攫うというのはそう容易い事ではない、いくら貴方方重鎮が裏から手を廻していただけたとしても。その所は如何になっているのですかな?』

『その点は、巫女姫(女神のご加護)がこちらについて居られるからか、一番下のご子息が風邪を召されたとか。この国には御典医など存在して居らんので、明日の午後、市井の中で腕のいい医者の所にお連れになる予定とか、聞いておりますな。母君として帯同されるよし、警護は最小で……』


 細い方は余程首領一家に近しい所に居る者らしい。


 何処もここもこの世界は世紀末なのか、まだ2、300年余裕があると聞いていたが……。女神が腐りすぎているから早まったのかな?


 それからはただの酒盛りになったので、鳥とのリンクを外して自由にした。


 マップ上の画面も消えて、聞こえていた会話も聞こえない。俺は宿の窓辺に立って外を見ている体勢のまま、一瞬で夢から覚めたような感覚を味わった。初めての試みだし、今度この契約を使う時には、ゆっくりした体勢になって使うようにしたい。


 結構な時間、鳥とリンクしていたみたいだ。外はすでにオレンジ色から徐々に薄い群青色に変わりつつあった。


 俺は通信の魔道具を使って殿下と連絡を取ることにした。このまま何もしないで殿下が殺されてしまうのも後味が悪いし、何と言ってもここまで連れてこられた俺は少なくても何もないままこの国を出られるとも思えないからな。殿下と同じ扱いを受けそうだし……。


 ニュースソースの入手方法は聞かない約束で、今俺が聞いた明日起こりうることを知らせた。




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