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第 36 話 リューグナーの街中で 1

 俺の事を知っている者がこの国に居るわけでもないから、別に変装する必要もないのだが、なんとなく折角持っているスキルを使わないのも何なので、後腐れないこの地で使ってみる事にした。


 偽装のスキルでステータスだけでなく姿形も偽る事ができる。


 この国の平均的人間族に擬態するか、思い切って人間族に以外の亜人に変化するのも面白いかもしれない。表向きどの様な種族の者も拒まないとう事になっていると聞いていたが、実際の亜人の扱いがグラオザームと同じようなものだった場合、態々差別をされる事になるのもストレスになるだろうからそれも面倒くさいか……。耳や尻尾がある姿に憧れがないわけでもないからな。と言って、俺はモフられるよりモフりたいわけで……。


 この国はグラオザームがヨーロッパ系の種族に近い風貌をしている事に対して、中東系の容姿に近い感じがする。髪や目の色も茶色っぽい者がほとんどで、金髪や違う色の者はポツポツと見る事ができるくらいだ。背の高さも俺と変わらないくらいなので、とりあえず、俺の事を知っている奴が呼びに来るかもしれないこの安宿の部屋に入ってから、髪と眼の色を茶色に変えた。


 ギルドの近くにある宿は大抵ギルドカードを提示すると宿泊代が割安になるのだが、今回は入国も正規のものでないし、一般の商人の振りをする事にする。


 待機だけを命じられている彼らからいつ呼び出しが入るかわからずとても面倒くさいが、ドッペル君1号を設置した宿の部屋に誰か来たらダイレクトに俺に連絡が入る様にした。


 宿を二つも取る事は不経済だが、宿に缶詰になっているのも嫌だ。折角違う国に来たのだからなるたけ自由に行動したいものだ。


 俺は、ドッペル君1号に見送られ?ながら、安宿から目を付けたギルド近くの宿の近くで、誰にも見咎められなそうな所に転移を使って一瞬で移動した。


 この世界の街中はどこも、大通りから脇道に入り裏通りと言われるところに一歩入ると、人通りはパタリとなくなり、細い道は昼間から建物の影で薄暗く、自分から好んで歩きたいと思わない場に成り代わる。


 安宿の一室から転移した場所はそんな所だった。


 陽の光が全く入らないその道は今が宵の口で在るかのような暗さで、湿っぽい空気は時間の淀みを表すような濁った黴臭さをかんじた。


「スラムに片足を突っ込んだって感じかな……」


 この国にもスラムは存在するようで、『リュゼルリジオン神を信ずる人間は全て我が国の臣民である』を標榜しているグラオザームは表向きスラムの存在を否定している事に対して、商業の国であるリューグナーは、個人の自助努力を掲げスラムの存在も認めている。究極国そのものがスラム、つまり貧困に陥ろうともそれは国の力が及ばなかった事で仕方がない、と考える国のようで在る。


 あくまでも商人の集合体が国を作っている形であり、その烏合の集をまとめ上げるための名誉の長が共和国首長。第一皇女が嫁いだ婿はその長男で、名誉職である事から政治的な力はほとんど無いとされている。ただ、この長男はその位置に留まらず、独自に商売を立ち上げて結構な売り上げを伸ばしているという。その力の裏側には第一皇女の力が、そのコネとともに在るや無しやとも……。


 表通りに出る手前のあまり綺麗とは言えない一杯飲み屋。この世界に飲酒に対する年齢制限は無い。情報収集を兼ねて、宿を取る前に覗いてみた。ギルドに近いだけあって冒険者らしき姿のものが殆どだ。門が閉まるまでまだ時間がああるこの時に、こんな所でクダを巻いているもの達は、そう褒められた冒険者では無いのだろう。その口から溢れ出る言葉は、誰それに対する愚痴ばかりだ。そんな中でも少しはこちらが求める情報も紛れ込んでいたりするものだ。


「……ところで、最近町や村の近くの魔獣討伐の依頼、増えてねえか?」

「時期的なもんだろう?」

「いんや、確かに増えてるぜ。去年と比べた、そう差がないかも知れねえが、5年前と比べれば確かに季節的なものだけでは片付けらんねえぞ」

「増える分にはありがてえじゃねえか。おいら達の仕事が増えるんだからな」

「だからお前は頭がたりねぇっていわれるんだよ。増えているのは俺たちが扱える雑魚だけじゃなくて、確実に強えヤツの数も増えてるんだぞ」

「そうだ、この前は自警団だけの手では間に合わなくて、帝国との街道にある村が二つほどやられたらしいぞ」



 俺の座っているカウンターの後ろ、4、5人で汚い丸テーブルを囲んで話し込んでいる年齢もバラバラに見える冒険者たちが、安いエールを飲みながら声も憚らず言い合いをしている。


 その横のテーブルでも似たような格好のうだつの上がらない様子の冒険者たちが口角に泡をつけて大声を上げている。


「グラオザームでなんか不穏な動きが有ったって、ギルドの受付たちが話してるの聞いたけど……」

「お前今日ギルドに行ったのか?朝姿が見えなかったが」

「寝坊して、行った時にはあらかた何も残ってなくてよぉ、暫くウロウロ掲示板の前で唸っていたら、俺の事に気付かなっかたのか誰も居ないと思ったのか、受付たちがそんな事を話し出したんだよ」

「……受付も迂闊だな……おしゃべりな女達だからな」

「不穏な動きって何かな?あの国は元々めんどくさい国だろ。身分だとかなんだとか」

「俺のかみさん半分獣人だからな、あの国には近付きたくないんだよ」

「加護持ちの魔術師も多いと聞くし、触らぬ神に何とやらさ」


 噂どうり、リューグナーは人間以外にも寛容なようだ。言葉どうり人間以外の亜人と言われるような外見のものも、数は少ないが見られるし、話をしている冒険者の中にも、純粋な人間種以外にしか見えないような、ごっつい外見の者も居るしな……偏見かもしれないけど……。


 おれは小一時間ほど時間を潰して、情報収集をしたのちこの飲み屋から目と鼻の先にある中級ランクの宿屋に入った。冒険者用の宿は安宿から一杯になるようでまだこの宿は幾分か空室があるようだ。シングルでなるだけ隅の方の部屋を希望する。こんな所はそうラブホ扱いをされる事はないだろうが、念には念を入れて、聞こえない事に滬した事はない。そう言えばここより危なそうなさっきの宿では、鼻から泊まる気がなかったからかそう気にしなかった事に今気がついた。


 この宿の一番上の階の端っこに部屋を取る事ができた。この世界の宿は、エレベーターなんてモノがないのだから。上に行くほど代金は安くなる。と言ってここ以上の高級宿になると、セキュリティーの都合から3階くらいの階層が一番高かったりするらしい、1、2階は簡単に入り込む事ができるからな。


 ちなみにギルドに近いだけこの辺りはそれなりの高さの建物が建っていて、この宿は4階建て、だから俺は4階まで階段を登った。


 殿下達のとった宿にはもちろん風呂は付いていたが、ここ中級レベルの宿にはそんなモノは付いてないし、街中に銭湯のようなモノの存在も確認できなかった。宿裏で水浴びなのか?


「部屋の中にテント張ろうかなぁ」


 誰が入ってくるわけでもないしそんな気分さ。あぁ、忘れてた、別にテント張らなくても異空間部屋(ディメンションルーム)には入れるのでした……。


 この街にいる時の拠点も確保したので、今回は大人しく普通に宿から出かける事にする。一応さっきの飲み屋で軽く昼食代わりのツマミを食べていたが、折角商人の国に来たのだから、宗教臭い国より食文化は発達しているだろうと言う期待を込めて、街に繰り出す事にした。


 初めての国でも働き者のケイさんのお陰でマップが脳裏に浮かんでくる。自分のいる場所も青い光点で表示されている。目指す屋台村は歩いても直ぐそこ、小さい旗がその位置を示している。まんまナ◯タイム。


 人の種類が色々だからか食べ物の種類も沢山ある。


 まあ同じような構造の生き物が食べるものだから、そう突飛な形のものがあるわけではないが、俺は片っ端から美味そうに見える屋台の食べ物を買いまくった。


 カバンに入れる振りをしながら俺専用のアイテムBOXに突っ込んでいく。


 リューグナーに来るまでに中の食糧を結構減らしてきたから、買える機会を逃さず買い漁る。すぐ近くの屋台で大量購入をすると怪しまれるから、きっちりBOXに仕舞い込んだのち少し距離を開けた所でまた大量購入を繰り返した。


 この国の風習なのか夕飯は自宅で作ることなく、外食で済ます事が多いようだ。


 まるで台湾の屋台村のような雰囲気の中、暗くなるほど人手が多くなる。人混みの中呼び込みの声も大きく激しく飛び交っている。ちょっとした祭りの余韻のようなものを感じつつ、屋台村を一回りする。


 するとマップにアラート音と共に知っている魔力の現在位置が写し出される。


 自分の半径100m程に設定していた警戒警報が反応したようだ。


 裏工作に忙しいはずの作戦部隊の中で、やはり勇者達の扱いには困っているのか、放置されているのか赤い光点で現されたのは、四人の勇者達だった。


 この人混みの中まだ目視できるほど近くに居ないし、目が効く奴も居ないだろうし、何と言っても姿を変えているので万が一にも見つかる事はないだろうが、俺がその存在を目にしたくないので、宿に戻る事にする。


 赤の光点の近くには黄色の点が囲むように光っている、騎士達か。


 宿の部屋から異空間に入り、何の気なしにマップ上の人の動きを観察した。




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