第 3 話 謁見室前控え室
迎えに来たエドゥアルドと共に隣の部屋へ向かうと、扉を開けてくれたのはもう一人の戦うメイドさんだ。エドゥアルドの後ろにいる騎士より強いメイドさん……。
扉が開くと共に 、女子達の大声の会話も耳に飛び込んできて、こちらの国の騎士達は驚いたような顔で、仲間である本城は呆れた顔で、俺とメイドさん達は無表情で部屋の中に視線を向けた。
そこに見えたのは、ソファーの上で仁王立ちしている、クリーム色の服を着た小さい女の子(伊勢彩芽)と、それと向かい合って対峙している黒いドレスを着た背が高いスラット(胸のあたりも)した女の人(柏木恭子)。そして、我関せずで、向かいのソファーに座りお茶を飲んでいる臙脂のドレスを着た女(志津野雅)。
こちらが驚くほど素早く態勢を立て直した彼女達は、何食わぬ顔で廊下の行列に加わる。本城は早速クリーム色にゼル◯のリン◯だと揶揄われていた。
俺たちが連れて行かれたのは、客間があった建物とは違う棟の最上階。
最上階に上がると、廊下は建物の半分くらいの所で途切れていて、その廊下には一番手前の扉一枚しか入り口の存在を見つけられない。
その扉の両横にエドゥアルドと色違いのマントを羽織った騎士が一人づつ立っている。
エドゥアルドと背後の人数を確認し、騎士のうちの一人が手をかざすと音もなく扉が開いた。
入った部屋には何もなく、廊下と垂直に立つ壁の中央に先程と同じ扉があるだけだ。
今度はエドゥアルドが扉に向かって手をかざす、すると扉がまた音もなく開いた。
次の間は、部屋の作りとしては前の間と同じ。
ただ、廊下と反対の窓際に長めのソファーセットが二組置かれていることと、そこに大きな箱を携えた人物が数名いること、腕輪についている透明な石とよく似ているこぶしだいほどの大きな魔石が置いてある事が前の間と違う所だ。
「この部屋にはその腕輪と同じ通訳できる魔法が掛かっていますので、腕輪を持っていない者とも会話できます」
エドゥアルドはそう言うと一歩下がり、部屋にいる者達と俺たちの顔合わせをさせる。それが合図であったのか、中の一人が箱の中身をとりだしテーブルの上に並べ始めた。
「この先の謁見室はステータス確認をし登録した者しか扉を潜ることができないのです。ですから、まずこの場でステータスの確認と登録をして頂きます。この道具がステータスを確認する為に使う物で、普段は神殿にある物を持ってきました」
話しながらテキパキと道具類を並べているのは神殿に勤める神官で、騎士とは違い簡素な足首を隠すくらい長い貫頭衣を着ている。また、神官以外にも数名違う服装をした者たちがいる。
黒いローブは魔術師。フードで顔が見えないので召喚室にいた者と同じ人物かどうかはわからない。
神官と形は似た貫頭衣だが作られた布地の質感と色が全く違う者が数名、手元に筆記用具を携えている文官と呼ばれる事務作業を行う者たちで、勇者達のステータスを記録する為にこの場にいると思われる。
道具類の準備ができたのか、神官の中で一番恰幅がいい男が大きく一つ咳払いをした後話し出す。
「ヴェルトは女神リュゼルリシオン様の慈悲によって造られた世界です。
生まれた人間全てが、名付けと共に女神の祝福を頂きます。この祝福がない者はこの世界で魔法を使う事ができません。10歳になると本洗礼をし初めてステータスの確認をします。生まれてから十年間の信心や個人の適性を女神様の慈悲の力で魂に刻み込むのが本洗礼です。勇者様達は祝福はお受けになっていらっしゃいますので、この道具で登録をして頂きます。この石版に手を置いて頂くだけですので、お願いいたします」
そして、五人の一番前に立っていた本城に恭しく手を差し伸べると、身振りで石版に導く。
本城は背後にいる仲間三人を気にしつつ、石版の前へ。ちらりと俺にも視線を送ってきた。
少し躊躇しながら右手を石版の上に置いた。
どのような仕組みかまるでわからないが、手を置いた石版がほんのりと光を放つ。その光を石版の横に置かれている透明な大きな玉が吸い込んだ。
手を戻していいと言われた本城が姿勢を戻すと、それと入れ替わるようもう一人の神官が、着けられた腕輪によく似た丁度ドックタグ大の銀色の板を、光を吸い込んだ玉に翳す。すると、その銀の板に何かが刻み込まれて行くのが見える。
本城達はこの世界の文字を読むスキルを持っていないようので何が刻まれているのかがわからないだろうが、全世界言語理解のスキルを持ってい俺にはそれを読み解くことができる。
《 名前 ユウト ホンジョウ 》
《 レベル Lv.1 》
《 年齢 17 》
《 H P 80 》
《 M P 50 》
《 種族 異界の人間 》
《 加護 リュゼルリシオンの加護 》
《 称号 異界を渡し者 リュゼの勇者 聖剣の担い手 》
《 魔法 光魔法適正 》
《 ユニークスキル 聖剣生成 Lv.1 》
《 スキル ライトニングショット Lv.2 剣術 Lv.1 》
【 状態異常 : 魅了 隷属 状態 】
【 装備:ミスリルの腕輪・魅了・ 隷属 ・グラオザーム話語理解 付与】
銀色のカードはステータスカードと呼ばれる物で、この世界の身分証にあたる物らしい。
カードに表示されるのは上から三項目のみで、それより下の表示は、このような魔道具のある特定の場所だけで、本人の承諾のもと見る事ができるということだ。
記録を取っている文官が、字が読めない本人に何が刻まれているのか説明している。内容については召喚時の女神とのやりとりで知っていたのと同じ事のようでそんなに驚いた様子がない。ただ実際にカードとして形になって出てくると、これが現実なのだと実感させられるからか、本城達は皆神妙な面持ちで聞いている。
結局下二項目の説明はないままで、それをこの部屋にいる誰も指摘をしない。
それがこれからの俺たち異世界人の扱いなのだろう。
女子三人も順番に手をかざす。
《 名前 ミヤビ シズノ 》
《 レベル Lv.1 》
《 年齢 17 》
《 H P 30 》
《 M P 90 》
《 種族 異界の人間 》
《 加護 リュゼルリシオンの加護 》
《 称号 異界を渡し者 リュゼの勇者 慈悲の聖女 》
《 魔法 水属性魔法適正 》
《 ユニークスキル ヒールオール Lv,1 》
《 スキル キュア Lv.1 ステータス閲覧 Lv.1 》
【 状態異常: 魅了 隷属 状態 】
【 装備 : ミスリルの腕輪 ・魅了 ・ 隷属 ・グラオザーム話語理解 付与 】
《 名前 アヤメ イセ 》
《 レベル Lv.1 》
《 年齢 17 》
《 H P 20 》
《 M P 100 》
《 種族 異界の人間 》
《 加護 リュゼルリシオンの加護 》
《 称号 異界を渡し者 リュゼの勇者 》
《 魔法 火属性魔法適正 土属性魔法適正 》
《 ユニークスキル メテオストライク Lv.1 》
《 スキル ファイヤボール Lv.1 マッドスピアー Lv.1 》
【 状態異常 : 魅了 隷属 状態 】
【 装備 : ミスリルの腕輪 ・ 魅了 ・ 隷属 ・グラオザーム話語理解 付与 】
《 名前 キョウコ カシワギ 》
《 レベル Lv.1 》
《 年齢 17 》
《 H P 60 》
《 M P 60 》
《 種族 異界の人間 》
《 加護 リュゼルリシオンの加護 》
《 称号 異界を渡し者 リュゼの勇者 》
《 魔法 風属性魔法適正 》
《 スキル 身体強化 Lv.3 刀術 Lv.3 ウインドカッター Lv.1 》
【 状態異常 : 魅了 隷属 状態 】
【 装備 : ミスリルの腕輪・ 魅了 ・ 隷属 ・ グラオザーム話語理解 付与 】
やはり、最後まで下二項目の説明は全くなく、女神の神託によって呼ばれた四人の勇者のステータスの確認が終わった。
部屋中の視線が最後の一人である俺に集まる。この部屋に来るまで言葉がわからないはずなのに、何の文句も言わずに従ってきた人物が理解できず、どの様に扱っていいのか混乱しているのだろう。
俺も少し無理があると思うんだよなぁ。余りにも従順過ぎたか?
ただ、初めに問答無用で掛けた、魅了と隷属の魔法が深く掛かっているために 何も言わずに従っているのではないか、とも考えられるのであえて何も仕掛けてこないのか。
人間と言う生き物は何事も自分の都合のいいように考える者だからな。
そんな人の心の中を読むスキルなんてもらっていないのに、彼等の考えが手に取るようにわかるのがとても可笑しかった。
(つまり、利用できなきゃ廃棄って事だろ……。)
もう一度偽装隠蔽する自分のステータスを心の中で反復しながら、石版に手を置いた。
(……下から二項目めはそのままコピーしないと……)
《 名前 ワタル アマミ 》
《 レベル Lv.1 》
《 年齢 17 》
《 H P 25 》
《 M P 50 》
《 種族 異界の人間 》
《 称号 異界を渡し者 》
《 魔法 空間魔法適正 》
《 ユニークスキル アイテムBOX Lv.1 》
《 スキル 鑑定 Lv.2 空間魔法 Lv.2 》
【 状態異常 : 魅了 隷属 状態 】
俺本来のステータスが現れる事なく思い描いたものが表示できたのでホッとした。それを顔に出す事なく髪で隠した瞳でまわりを観察する。
まず加護も祝福もなく、勇者の称号もないことに驚かれた。そしてまた、加護がないと魔法を使うことのできないとされるこの世界で、なぜか魔法の適正を持っており、かつそれがユニークスキルである事それだけで利用価値があると判断したのだろう、俺を含めた五人とも王に謁見する事が決まったのだった。