第 35 話 リューグナー共和国首都?の名もリューグナー
リューグナー共和国の首都、その名もリューグナー。この街もこの世界の街々と同じように堅固な城塞で囲まれている。
やたらと掛かったここまでの行程も、勇者達のレベルと経験を上げる為であると言われれば誰も黙るしかない。
この世界で魔法を使う事は、あちらの世界で電気やパソコンを使った時と同じで、何かしらの痕跡が残るのだそうだ。特に出入国(街)の折には、どんなに小さい村でも結界が張られている処に入ったり出たりすれば、必ず痕跡が残るようになっているそうだ。だから移転陣を全く使わず地道にここまでやって来たのだ。
折角ここまで(一応レベル上げと言う理由があったとしても)時間をかけて移動に転移魔法を使わず来たのだから、この街に入る時に痕跡を残したら意味がない。
しかし、入城する時に使おうといしていた王弟殿下は、今この場に一緒に居て使用不可能。入街時の記録をもみ消すほどの伝手が他にあるのか知らないが、この共和国を標榜する国も、もしかしたらグラオザーム位腐っていて、門番に金でも握らせれば簡単に入れたりするのかもしれないが……。
と言って、この集団のまま堂々と入場もできないので、門番や門に並ぶもの達からは視認が難しい結構離れた茂みの中に、気づかれないように偽装の結界を張って様子を伺っている状態でもう半日は過ぎている我々がいる。
ここから見えるのは街の東門、人族の国々から来るもの達が使う門。一番使用する人数が多い門である。
グラオーザム方向に一番近い門であるから、隠れて訪れている我々としては使いずらい門であるが、この門以外の西、南、北、の門は人間がほとんど使わない門であるらしく、逆に使えば目立ってしまうことは間違いない。
今は一番待っている人間の数が少ない時と見えて、夕方の門が閉まる直前の混雑時に紛れて入ってしまおう、という誰でも思いつきますよね、な作戦で行くらしいことを御者が話していた。
それからしばらく動きはなかったが、騎士数名と魔術師がどうも門番(内通者)の処に行っていたらしく、これからの我々の行動についいて説明するらしい。
この20日近く、18人と言う少人数のまとまりの中で、勇者達と顔を合わさないことはとても難しいものであったが、彼ら勇者の周りにいる者達の選民意識が、下っ端に過ぎないと思われている俺が彼らに近付く事を拒んでいた。そのお陰で俺は全く彼等の目に触れる事なく20日過ごす事ができた。顔もローブのフードに隠したままだしね。
リューグナー共和国への潜入作戦は、作戦というほどの事もなく本当にベタな、門番に金を掴ませると言うものだった。
こんなに簡単に街壁をくぐり抜ける事が出来るのであれば、別に魔法陣を使って転移して来ても良かったんじゃねぇ!って思ったのは俺だけか?
夕方の門が閉まる時間が近づくと、目に見えて街の中に入ろうとする商隊や冒険者の数が増えてきた。
リューグナーの街の近くにはそう強い魔獣は居ない様だが全く居ないわけでもなく、一番近い村でも半日以上は歩かなければならない処にあるらしい。だから、駆け込んででも街の中に入らないと、この城壁の近くで野宿する事になる。
移動する際一番最後まで働く事になるのは、荷物を全てしまいこまなければいけない俺だ。何時も俺が仕舞い終わるまで待ってくれるという事は無く、動き出した馬車に飛び乗る事になるのだが、今回も御多分に洩れず、一番大きなターフを片付け終わる前に俺が何時も乗っている馬車が門に向けて動き出した。俺の乗っている馬車は殿下が乗っている方の馬車。この事から普段は考えられないが、王族よりも勇者達の方が大切に扱われている事がわかる。
お金を掴ませたお陰か、長々と列を作っているその横をすり抜ける様に門に入って行く。大きな塊では目立つと考えたのか、一応馬車二両はそれなりの間隔を開けているが、こんな風にズルをしてますと堂々と宣言する様に、横入りをして入門するのはどうなのだろう?
久々の王弟殿下からの通信が、彼の大きな溜息だけだった事が尚更事の重大さを表していると感じられた。
こんなに目立って入門記録きちんと消去できるのかな?これからの行動にも大きく影響する事なので、俺も「関係ない」では済ます事ができない事項だ。
しかし、そんな俺の思考に御構い無しに馬車は進む。そして、隠密行動の筈なのに、馬車は中心にある大通りを粛々と進み、どう見てもこの国で一二位を争う様なとても立派な宿泊所の前に馬車が停まったのだった。
中の人々を正面の入り口前で下ろすと馬車は裏にある駐馬車場?に馬車を回す。俺も馬車に乗ったまま緩々と建物の横の道に入っていく。御者役の騎士も、首を何度も傾げながらも、上司に言われるまま馬車を操作している。
どうも、堂々としている方が、こそこそしているよりも逆に目立たない、と踏んだ様だが……?殿下の考えじゃないよね?
殿下はこの前もこの国に大使として滞在していた位だから、こんなに立派な宿であると知り合いに出会う確率も上がるのではないか?
馬車から馬を外し厩舎に連れて行く。本当は御者の仕事であるが、急遽御者も騎士ではあるので、馬を預けに来た他の騎士に呼び出しを受け、馬車から馬を外した時点でそちらに向かわなければならなくなった。俺は馬車から外された二頭の引き綱を両腕に持ち厩舎へと歩く。二頭ともこの20日間で随分と仲良くなったものだ。
ここでも全く声をかけられなかった俺は、これからの行動をどうすればいいのか考えあぐねていると、殿下から通信が入った。
『驚いた事にこの宿に泊まるらしいぞ、ここは時々グラオザームの役人も使用している上級宿だ。グラオザーム本国と通信はできないから、筆頭騎士が判断しているのだろうが、私に一言の相談もなしにこんな所に連れてきた。一応顔を見られないように私もフードを被っているが、このような状態では作戦も何もあったものではないな』
下手をすれば拘束される恐れもあるのに、随分と悠長なものだ。そう言い捨てて殿下からの通信は切れた。
これからの行動について何も言われなかったが、さすがにここで俺の部屋が取られていないなんて事は……もしそうだったら騒ぎを起こしてやろうかなぁ。まぁ面倒だからそんな事しないけど……。
厩舎の近くに宿への出入り口があったので、そこからロビーに向かう。
ロビーにはすでに殿下や勇者の姿は無かった。ただ一人俺が乗っていた馬車の御者が在所なげに立っていた。
俺の姿を見つけると、彼の方から近づいて来て俺の部屋はこの宿にはなく、自分で裏にある安宿の中から泊まる所を探せという事らしい。なぜなら、俺はこれからの作戦の第二段階である城内への侵入には必要がないからで、泊まる所が決まればそれを彼(御者)に知らせた後、作戦終了までその場に待機しておけという事らしい。
彼も直接作戦に参加はしないが、馬車や馬の管理も含めてこの宿で待機するらしい。
彼らは俺が普通の冒険者で、ギルドを通さない直接契約でこの作戦に参加していると思っているらしく、詳しい作戦内容を話さないのも勿論、テントの準備も食事の用意も俺のものはなく、今度の宿泊代も全く渡す用意はないようだ。始めに結んだ(事に彼らの中でなっている)契約料にそれも入っているのだろうと言わんばかりだ。
ここにいる彼を責めても仕方がないので、宿が決まったらこのロビーに連絡する事にして、先ほど入った裏口からこのホテルを出る事にする。
リューグナーの事は何もわからないので、ケイにサーチをしてもらって、そこそこの宿を見つける事から始めた。
呆れた事にここは、この国の中央官庁群の直ぐ横にあり、大通りを挟んで城も目の前だ。
確かに直ぐアクセスを取れる位置だが……。
殿下が呆れていたのはこの位置取りもあったかもしれない。
俺は定石どおりに、この国のギルドの近くにある、中級冒険者が泊まるレベルの宿を見つけて泊まる事にした。
彼らが求めていた上級宿の裏にある安宿にも一部屋取り、こちらの方の宿の名前を伝える事にする。こっちには俺ではなく居るのはドッペル君だけだけどね。
真面目な俺は宿の名前をメモに取り、約束どおりロビーに伝えておく。殿下には通信で自分が違う宿に泊まる事になった事と、表立っては作戦に参加させてもらえないらしい事を伝え、これからの俺の行動について一応の指示を仰いだ。
『私もこれからどうするつもりなのか見当もつかないな。いきなり私だけで城に入り、皇女を連れてこいと言われても驚かないね。勿論そんな事を言われれば無謀だと拒否するがね』
殿下の声は随分と呆れを含んだ疲れた声をしている。
俺は表向き宿に引きこもっている形を取り、殿下の方のこれからの動きが分かった時点で、殿下をサポートするという始めの決め事通りの行動確認をして、通信を終了した。
今日明日に動きを起こす事もないだろうといのが殿下の見立てだった。
首都の名前が国の名前と言うか、国の名前が首都の名前と言うか……。
考えるのが面倒くさいから一緒と言うか……そんな所です。
m(__)mすみません……。




