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第 32 話 作戦出発準備⁉︎

 王弟殿下の遣いと別れた後、カモフラージュのためのギルドの依頼を態々受ける気もしなかったので、これからの気の進まない旅行のための準備をすることにした。


 幾ら荷物運びの馬要員としても、食べ物を与えられないなんてことは無いと信じたいが、初めの扱いが扱いだった奴らの下で働かないとならないから、一応の準備として食料や非常事態に必要そうな物で、買える物は買っておくことにする。


 食料は、食べられる状態でアイテムBOXに入れておく。


 表向きの俺のレベルは低いから、ほぼ無限に近い状態で物が入れられるとは想像もすまい。


 思いつく限りの買い物を済ませると、中央広場から出ている王城方面行きの乗合馬車に乗る。


 昼を過ぎてまだそう時間の立っていない、地球感覚で3時前位のこの時間は、中央広場に向かってくる人は多いが、その逆は少ない。出発したときそれなりに乗っていた人々も、王城城門前の大道理を右折するときには俺一人になっていた。


 あと10分は終点までかる。その間に誰にも見られないことを確認して一仕事する事にした。


 リンが居る異空間部屋(ディメンションルーム)を、いざという時俺の退避空間としても使えるようにする。何と言っても俺は野営とかなんとか、そんなもの体験したことが無い現代人(もやしっ子)でずぞ。


 きっと野営なんかもあるだろう、何と言ってもこそっと作戦なんだから……。


 というか、野営しかしないのじゃ無いか?隠密作戦なんだから、途中の宿に泊まることなどないかもしれない。いや、きっとないだろう。


 勇者様やお貴族の騎士様達、つまり俺以外の人たちはきっと立派な野営キットがあってそれで過ごされるだろう。殿下なんて言わずもがな。


 で、俺は?荷物持ちの俺は、そんな野営道具を持たされるだけ持たせれて、俺の準備なんかはなにもないだろうなぁ。だから、一種の自衛行為です。


 なんとなくまだ起こってはいない自分の待遇の理不尽さに腹が立って、この世界では王族でさえ体験できないであろう、超快適空間を創ってしまった。


 俺が知る最高級リゾートホテルのスイート並みの空間を……。


 空調は勿論のこと、ミストサウナ付きのジャグジー風呂。ベットも自重を感じないウオーターベット。8Kもビックリの超画質テレビ。(ケイが俺の要求に応えて何かしらの

映像を流してくれるらしい)食事も創造すれば出てくるらしいが、今の所これは使わない。手持ちの材料がなくなれば吝かではないけど。


 空間に俺が入り込んだときに、全く俺の気配がなくなるのはまずいだろう。一応のそれなりに魔法を使える魔術師がいるのだから、気付かれないことに越したことはないので、俺の魔力を纏った人形を作成する。近づいて来たり何かしらの接触を取られたときに、すぐにわかるセンサー付きの、入れ替わりは瞬きの間に終わります人形。


 片手間で行うにはこの世界の標準でなくても考えられない事を、10分弱で済ませて、三の曲輪寮前で乗合をおりる。というか、ここが終点。乗合馬車はここでUターンすると、また中央広場に向かって進んでいった。


 朝、あんな覚悟をして出てきた寮にあっさり帰ってきて、一人心の中で恥ずかしさに悶えていた。


 この時間は仕事から帰っている人は居ないし、寮の食堂を使う遅番の人も居ない空白の時間だ。


 俺は誰とも顔を合わせることなく自室に入った。


 アイテムBOXの中身を整理したり、さっき作った俺専用ホテルの具合を確かめたり、身代り人形(ドッペル君1号)の性能確認をしたりして夕食までの時間を潰した。勿論、リンをモフることも忘れない。


 殊更普通を装おうとして、普段あまり声をかけてこないような人に、心配そうな声をかけられたりして、自分の演技力のなさに密かに凹んだりしながら、今度こそ三の曲輪最後の夜は過ぎていった。


 翌朝、いつも昼近くならないと顔を出さない頭が、やけに早い時間に館に居ることに周りは騒ついていたが、暫くするとそれも落ち着いて、いつもと変わらない三の曲輪の朝になった。


 皆それぞれの今日の仕事を確認し、仕事場に向かう。


 俺の今日の仕事は、頭からの買出しになっていた。昨日の内に今日の俺の呼び出しのことは聞いていたらしい。


 事務室から殆どの人がいなくなり、事務室専従の人とパルメ以外居なくなったところで、頭から声を掛けられた。


 今まで入ったことのない扉に迎え入れられる。ちょっと立派な応接室。三の曲輪にこんな部屋が在ったんだと思いながら、出入り口に一番近い席に着く。


「ここで働かせるように上から言われたときも、お前の事情は尋ねなかったし、今度も尋ねる気持ちもない。俺は下っ端と言えども貴族の端くれなのでな。それこそ、仕事をクビになるときは、本物の首も斬られちまうのさ。だから悪いがお前さんのことは何も突っ込まずに言われるままに渡すだけだ」


 所謂お誕生日席にあたるところに座った頭が開口一番そう言った。


 この異世界でも辛いのは中間管理職、どこでも変わらないなぁと思いながら、ただ頭の話を聞いていた。


「今朝早く二の曲輪の遣いから、ワタル・アマミを昼までに連れてくるように、と通達が有った。これから後三の曲輪に戻ることはないのでその様に、と言う言葉を添えられてな」


 頭の顔は心持ち苦いものでも噛み潰している様な渋い表情に見える。


 そんな表情のまま、自分の懐に手を入れると、カチャリと音を立てた小さな袋を取り出して、俺の座る席の手前までテーブルの上をその小袋を滑らせた。


 手にとっていいものか逡巡していると。


「それはこの月の貴様の正当な報酬だ」


 だから、手に取れと頭が顎で受け取ることを促す。


 小袋は思いの外嵩がある。今月分の給与としてもまだ月途中、少し多くないか?


 手のひらの上に乗せて思わず小首を傾げる。ケイが計量した金額も一月分よりももっとずっと多い金額を弾き出している。


「少し色を付けておいた。金は持っていて邪魔になるものでもないからな」


 ぶっきらぼうにそう吐き出す頭の顔は薄っすらと赤い。


「まぁ上の者が考える事はわからんが……依頼が終わり帰ってきたら顔だけでも出せ。俺はどっちでも構わないが、パルメ達が喜ぶだろうからな」


(頭がデレタ……)


 強面で、三の曲輪でただ一人の一応貴族として、威張るだけで何も仕事ができないで人だと思っていたが、あのパルメがカシラとして立てていた人なのだ、もしかしたら俺が知らないだけで、それなりにできた人なのか?


 思いの外可愛い人だとはわかったけど……。


 なんとなく、俺まで顔を熱くしながら、その後無言で応接室を二人揃って後にした。


 少し昼には早めの時間だったが、早く行っておくことに越した事はない。俺の一歩さきを行く頭にも俺にも全く交わす言葉はなく、何日か前パルメと歩いた二の曲輪との連絡小道を門に向かっておっさんと二人で歩く。


 門が見える所まで歩くと、頭は歩みを止めて振り返る事なく声を出した。


「気を付けて行けよ。少なくない人数の者が貴様の無事を祈っているのだから……俺は違うけど……」


 最後に取って付けた言葉が少し震えている様に感じたのは俺の気のせいか?


 心の中でクスリと笑って、やはり頭の人物像を少し上方修正する事にした。


 何事もなかったかの様に、門番の騎士達に挨拶をして俺を伴い門を潜る頭。


 結局二の曲輪の取次の人が現れるまで頭は無言のまま俺に寄り添い、そして声も掛けずに三の曲輪に戻っていった。


 なんだかこの世界の人間の不器用な優しさに触れられて、少し柔らかくホッコリとした気持ちが芽生えた気がした。


 三の曲輪に帰る頭の背中を無意識に目で追っていた俺に、初見の二の曲輪の侍女が冷たく声を掛けてきた。


 その声に促され俺は一つ大きく深呼吸をして気持ちを切り替える。


 これから、会う人全て敵とみなして気を抜けない日々がやってくる。


 今日も又、暗いまっすぐ伸びる廊下が、これからの道行を暗示している様で、漏れ出てくる溜息を押し殺して、ピシリと伸びている侍女の背中に視線を向けて、気を引き締めて俺はただついて行く。



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