第 31 話 三の曲輪 最後の休日
翌日には殿下から次の俺の休日に王城の外で会合を持つ事を約束させられた。殿下の信頼できる臣下との顔合わせがあるそうだ。殿下自身はすでに軽い軟禁状態になっていて、自身の居室以外に出る事が難しくなっているらしい。三日後の俺の休みに行う会合にも勿論殿下は出てこられない。
三の曲輪で過ごす最後になるかもしれない数日を、俺は淡々と過ごした。
そんな俺を見守るパルメの方が日々憔悴していくのを見ると、異世界に召喚された事で得たスキルのせいで、既に今までの只の人間ではなくなったのかもしれない事を実感した。
ネルケや他のお世話になった人に何も言えず消えなければならない事は十分に悲しい事であるのだけれど、それが身体にまで全く影響する事がないのだ。
悲しい寂しいと言うのも、表面だけというか、思わなければいけないから思うというか、どこか他人事な気がして……。情動が薄くなってしまったのか……。耐性スキルの所為なのか……。
パルメの憔悴する姿以外、誰にも勘付かれる事なく休日の朝を向かえた。
いつもと変わらない休日の朝、一番最初に顔を合わせたのは、これもいつもと変わらないネルケだった。
「おはようワタル。今日は休みだったよね。ギルドに行くの?」
「うん、今日一日でできるクエストでも探して受けてみるよ」
最近は一の曲輪での舞踏会が毎日のように立て込んでいたので、休みも一緒に取る事が出来なくなっていた。
ネルケとは、昨日の夜いつものように風呂に入って、とりとめのない話をした。これからの事を考えたくもなかったからあえてこれからに関する話は一切しなかった。
このまま何も言わずネルケの前から消えるのは、波立たなくなった俺の心にすら漣が生まれる。ネルケの身に俺の事が原因で何か起こるのは嫌だが、何も言わずに心配させるのも、イヤ、何も言わずに姿を消す事で嫌われるのが嫌なのだ。
(我儘だな……)
身勝手な自分に反吐がでる。
そんな俺の自己満足の一つに過ぎないが、俺の本当の姿を少しは知っているネルケに、しっかり置き土産を置いていこうと思う。
風呂はネルケも気に入っていたから、水桶が湯船に変わる『湯沸かし』の魔道具と、音が漏れない『サイレント』と簡単に結界が張れる『結界』の魔道具を作って彼の部屋に置いておく事にする。
本当の魔道具は、魔石にそれぞれの魔法陣を彫り込んで発動させる物らしいが、俺に魔法陣を描くとかできないので、魔石に魔力を込めながら、発動させる魔法を念じたら、何故かできていたりしたんだよね。
もう余り深く考えるのはやめた。できるものはできるのだから良しとする。
只の石にしか見えない魔道具に説明書をつけてベットの下に置いておく。ネルケは綺麗好きだから彼の次の休みに掃除した時にでも見つける事だろう。
俺が三の曲輪からいなくなる事については、トップの奴らがどうにかするだろう。最悪、俺は外出先で死んだとでも頭に言わせるのかもしれないが……。
(ネルケやパルメさんたちに心配をかけることだけが気がかりだけどな……)
できるだけいつもと変わらない態度を取って、寮から外に出る。
ネルケの言葉ではないが、今日は本当にギルドに行くことになっている。王城以外で一番警備が硬いのがギルドだからだ。そして、それも東支部に。
それぞれの支部の特性から、王家と神殿の権力に侵食されていないのは東支部だけらしい。俺からすれば別の意味で一番やばい支部であるにだが、これも王弟殿下の御下知、行くしかあるまい。
乗合馬車で行くのは時間が掛かって面倒臭いが、今日は何かあったらそれ以上に面倒臭いことになるので転移は使わない。こちらのカードはできるだけ相手に見せたくないしね。
王弟殿下からの通信によって東支部に行っていつものようにギルドの受付で手続きを取ればわかるようになっているらしい。
勿論今日のこの話し合いに王弟殿下本人は来ない、と言うか来れないので殿下の信頼できる部下がギルドに出向く。俺と面識のない者は、こちらから殿下の部下であると判断がつかないので、連絡手段でもある渡された一対の魔道具を持っている者を判断材料とすることにする。
ギルドの外からサーチをすると、ギルマスの存在は確認できたが姉さんと兄貴の魔力を感じることはできなかった。
ギルマスも支部長室に居るみたいだ。今回のことにギルマスは関係がないのだろう。
いつものようにローブを深くかぶり、受付の列に並ぶ。もう早朝と言えない時間だったので、並んでいる冒険者の数もそう多くない。
一番列が短いのはやはり男性の受付で、俺とは初顔の受付の人だった。
Fランクのギルドカードを見せてから、今日の用件であるギルドルームの借り出しについて申し出た。
殿下からの指令は二つ。一つは今日東ギルドで一部屋借りること。そして二つ目は、部屋の中で通信が入ることを待つこと。
殿下の部下もこのギルドで部屋を借りる。この東ギルドの貸し出し部屋のフロアーは一つだけで、この時期とこの時間部屋を借りる冒険者もほとんどいないと言う。
ギルマスのオーラを感じる支部長室からは階も棟も違うようなので、偽装スキルをフル稼働すれば見つかることもないだろう。見つからないと信じたい……。
正午まで一部屋借りる手続きをして部屋の鍵を借り、教えてもらったフロアーに向かう。
部屋に入ってもこちらからは何もすることがないので、ケイがこの前王城内で仕入れた情報等をもう一度整理することにする。
王弟殿下の情報によれば、五日後つまり今日明日あたり、三の曲輪の方に俺の捕獲?の騎士が向かうことになるかもしれないと言っていた。余り表立って行動はできないだろうから、仕事中の俺を捕まえるつもりだったようだ。
俺は今日休みだけど……。
それも、以前から決まっているシフトだから、こんなこと調べればわかること。
この国の上の方の人間にしてみれば、自分の事情だけが重要で、平民の事なんて従って当たり前と考えているから、今日俺が三の曲輪内に居ないなんて考えてもいないのだろう。
色々漏れ漏れな計画は、勇者達4名と、彼等の監視役も務めている例のエドゥアルドと、他の騎士2名、まぁまぁ使える魔術師2名、このうち一人は少し空間魔法が使えるらしい、と俺の10名。
これだけ少人数であると、機動性を重視して移動は馬を使うらしいが、勇者の中の2名のお姫様が、この短期間では乗馬のスキルを持つ事も出気なかったらしく、馬車を使う事にしたらしい。
はじめはそれこそ巫女姫様が乗るような、華美で豪奢な馬車が用意されることになっていたが、これでは隠密行動にそぐわないと言う事で、小金持ちが乗るくらいの物に落ち着いたとか。
馬車は一輌で6人乗りらしく、勇者達と魔術師に使ってもらうとか。俺は騎士様達と同様に馬に乗るらしい。俺が馬に乗れるかの確認は一切なかったが……。荷物扱いか?
それと、あの時殿下の机の上に積まれていた書類の中で、ケイが認識できた物をきちんと意識してみる。ケイが必要な知識順に頭の中で並べてくれている。
(おお〜勇者のレベルについての報告書もあるよ……)
呪いの腕輪にはそんな解析能力は付いていないから、鑑定能力のある者に覗かれているのか。
ユウト ホンジョウ レベル3 HP 150 MP 100
ミヤビ シズノ レベル3 HP60 MP180
アヤメ イセ レベル3 HP40 MP200
キョウコ カシワギ レベル3 HP120 MP120
皆レベルは3まで上げている。普通はここまで早くレベルを上げる事はできないようだ。
それぞれの数値がほぼ倍になっている。はじめの数値でこの世界では結構な化け物じみていたから、これを見たら気が大きくなったのも仕方がないのかもしれないな。
しかし鑑定能力が低いのか、重要視しているのが数値だけなのか、スキルについての報告が全くない。
レベルが上がっているんだからスキルのレベルもそれなりに上がっているものもあるだろう。以前三の曲輪の演習場で聞こえた爆音や、荒らされた演習場の様子を見れば、この世界の一般人間種からすればとてつもない力を持っているのだから。
何と言っても勇者だし。
それから、リューグナー共和国の現状認識についての報告書や、もう一つの大国であるムーチィヒ帝国の今回の件の役割についいての推測などの文書の解析もする事ができた。
ケイは王弟殿下の諜報能力や、分析能力の高さを認めたようで、このまま殿下の創るシナリオに乗って行動する事に否はないようだ。と言うか、殿下の敵対相手でもある女神一派にこのまま使われる事は絶対良しとしないだけかもしれないが……。
程なくして殿下の部下から連絡が入った。このフロアーの一番奥の部屋に入ったらしい。サーチでもそれなりの魔力の人が一番奥の部屋にいることがわかっている。
一番奥の部屋に移動し、魔道具の確認をしてから書類を受けたった。その場で読んで、読み終われば遣いの人の目の前で燃やすことにする。ペラっと捲れば内容は把握できるけど、一応形だけでも時間をとって了解の意を伝えてから燃やした。
最新計画は、俺を含めて10人の進行部隊から、王弟殿下とその護衛など5人を含めた15人の部隊に変わっていた。殿下も勿論馬車移動である。これは勿論殿下が馬に乗れないからではなく警備の関係上だが、馬車二輌での進行となった。馬車の御者は護衛役の騎士が兼ねることになっている。殿下の護衛騎士は殿下の連れて行ける一人以外、巫女姫側の人間であるから中々気が抜けないかもしれない、と書類に殿下の走り書きがあった。
そして、書類の一番最後に、明日の昼頃二の曲輪に呼ばれることになるだろうから、今日は何時ものように休日を過ごし明日を待て、と書いてあった。
俺と殿下が繋がっていることは秘密だから、連絡は(悪巧み含む)この魔道具を使うことになっている。
このトランシーバーはそう簡単に手にできる物ではないがないが、全くないものでもない。だから、見る人が見れば揃いの魔道具であるとわかってしまうかもしれない。結構大きいし。
「背に腹は変えられない」
余り持ち手は見せたくなかったが、一見通信道具とわからない魔道具を作って王弟殿下に渡すことにする。
その場に遣いの人に待ってもらって、ギルド内の売店で小さい魔石を購入した。殿下の目の色に合わせて深い青色。自分の借りた方の部屋に入り、魔石を通信用魔道具に。殿下の魔力のみに反応するように調整して、その形をピアスに加工した。
「俺って錬金術系のスキルを持ってたかな」
(……)
ケイの暴走が止まらない。ケイは俺の命に関わるかもしれないことには自重しないようだ。
アイテムBOXを漁ってちょうどいい小箱を見つけたので中にピアス型通信機を入れて、簡単な仕様書をそえて遣いの人に渡した。今晩通信確認をすることも仕様書にしたため、必ず今日中に殿下に手渡ししてもらうように念を押して。




