第 23 話 召喚状
一応この世界にも活版印刷は存在した。コピー機はまだ目にしていない。三の曲輪やギルドで手にする印刷物は、あちらでは半世紀位前によく使われていたガリ版印刷の様な物。
今俺が手にしているこのカードは手書き風味の印刷物か?何枚発行しているかわからないが、この世界では手書きより印刷の方が余程価値があるらしい。
『有難くも尊い女神リュゼルリシオン様の慈悲の元。明日モーントが顔を出す頃〜。』
なんだかんだキラキラしい文字で長々と書かれているが、内容はたいした事なく明日各国大使や(大使なんていたんだ…)上級貴族を招いてパーティーを行うのでそれに出席する事と書かれていた。
よく見るとカードの他にも薄い紙が入っており、それには普段使われている文字で、第六刻(夕方の四時頃)に二の曲輪入り口まで来る事。服装その他はこちらで用意しておく事が書かれていた。
カードを目にした時に一番初めに思い浮かんだのは、売ってしまったぜ◯ダ服の事だったので、服装を気にしなくて良い事に安堵の息をついた。
俺の慌てる事のないそんな様子に、意地の悪い思惑が外れたのか、尚更不機嫌な態度を隠さない頭。
三の曲輪の中では唯一人の貴族である頭だが、それこそタダの準騎士爵、貴族の最下位位である頭が一の曲輪で行われる催し物に参加した事など一度もないのだろう。態々準騎士爵の叙任式を国王がする訳はないし、この三の曲輪に勤めて随分と長い時間になるだろうが、今まで一の曲輪に足を踏み入れた事すらないだろうと、パルメが言っているのを聞いた事がある。
ここで、『代わってほしいくらいですよ』なんて言ったら、どうなるかなんて想像に堅いからそんなKYな事は言わない……。
でもそんな気分なんだよなぁ、この半年ギルドで依頼を受けつつ、この世界の情勢なんかもそれなりにリサーチしてきたつもりだ。
余りにも物を知らないから、そのまま知らない事を質問攻めにすれば不審がられる事はわかっていた。だから、物を聞ける対象がほんの数人に限られてしまったが、その中でネルケはすごく優秀な先生だった。
この世界の本当の形はここに飛ばされる時に見て知っていた(きっとこの世界で知っているのは俺だけだろう……)が、人間達が勝手に引いた国や街の線引きは実際見る事が出来ないので知らない。
ギルドで手に入れたどれだけ正確かわからない地図で、この国の位置や周りの国の名前や、それぞれの国の特徴を教えてもらった。
地図は一つの大地が大きく三つに分かれているところは、まぁ大きさは正確と言えないまでもきちんと現わされている。
縮尺も随分といい加減に見えるが、日本だって伊能さんが地図を作るまでは、そう大したものは無かったし、この世界は魔獣なんかがウヨウヨしているらしいから、とても歩測で地図を作る事もかなわないだろう。
俺は転移の魔法が使えるし、頑張ちゃえば空も飛べそうだけど、俺以外で出来る人が居るって思えないし。…と、そんな埒もない事をつらつら考えてしまうくらい、この地図?それともタダの絵?は、あまりにも稚拙な作りの癖にやけに高かった事を思い出してイライラしてしまう。
何と言ってもこの国の発行している地図(?絵?…ってくどい!)で一番面積を取っているのは、この国で、この地図上で人間の住む国として表記されているのはこの国を含めて三ヶ国のみ。
大地は約1対2対3の割合で分割され、その一番広い部分に存在する人間達の国。
ほぼ大地の中心部分で大きな亀裂を持って約半分の面積を持つ右側、人間達はそれをゲッティン大陸、女神の大陸と呼んでいる。の、南側に位置するグラオザーム王国。
その他の二つの大陸は、地図の左上にある、面積が二番目に広くてここから一番遠いトイフェル大陸、悪魔大陸の名の通り魔族が多く住むと言われている大陸と、地図の左下つまり悪魔大陸の南側にある、一番面積の狭いものがガイスト大陸、精霊大陸で、人間の言うところの亜人、獣人やエルフ達が数多く住んでいると言われている大陸だ。
話を女神大陸に戻すと、この国グラオザームは位置的に言っても悪魔大陸から一番遠いところにある。王都の北側に広がる魔の森を北境として、それ以外の三方は比較的強い魔獣の湧くことのない豊かな草原が広がる国土をもっている。グラオザーム王国の別名は『宗教の王国』『女神の使徒』。
かつて、大陸が一つの頃、その中央に聳え立っていた中央大神殿をこの地に移し参らせたのがこの国の始まりと言われている。
この世界で唯一認められているのは主神女神たるリュゼルリシオン唯一柱という考えのもと、『女神の祝福は唯人間族のみに与えられる』という事実から、人間以外人に非ずと、人間以外の亜人は人と見なさず、この国での存在を許されていない。
グラオザームの北側魔の森を挟んで広く中央に横たわる深い亀裂まで届く領土を誇っているのは、ムーティヒ皇国。別名『実力主義の皇国』つまり軍事国家。皇族に人間以外のものは居ないが、その名の通り実力主義であるから、亜人も軍隊の中に存在し、将軍になった獣人も居るという。大陸の北部にある国なので、面積は一番広大ではあるが、食料自給率は低く他の国からの搾取や貿易で賄わざるおえない。また国の南部に当たる魔の森と同等に国の至る所で魔獣が湧くらしく、国の南進政策は国是とされていると言う。
あと一つの国は、リューグナー共和国。別名『商業商人の国』。首都はグラオザームが廃棄した以前の中央大神殿跡の近く。とても荒れた荒涼とした大地を、一から開発し作り上げた国というか一つの都市国家。はじめの国民は他の二大国からの流民とも言われていて、表立ってはどの種族も差別なく暮らしていると言う。その国の位置や種族の関係から女神大陸のみならず、他の二大陸とも貿易をし富を得ていると言われている。
女神大陸にあたる地図の上には細い二重の点線で大体の国境と、赤色で引かれた主要街道。その街道に沿うように所々まるで囲まれた町の名前らしきものも見える。
しかし、それ以外の二つの大陸には、その大陸にあたる歪な形の四角形より他に何の書き込みも見えない。
この国と言うか、この大陸に住む者にとって、他の大陸のことはその名前を知っていることで十分であるようで、これがギルマスにでも聞けばまた違う事を聞けるのかもしれないが、わざわざ異世界からその脅威を取り除くための召喚を行うほど、魔大陸の魔族が邪魔な存在なのであれば、あまりにも魔族に対しての無関心さ無教養さに、召喚という大それた行為を行ったことの目的の歪さを感じずにはいられなかった。
何て事をつらつら考えながら、もう明日のパーティの話は終わりとばかり、今日これからの買い出しについての話を担当者とはじめた。部屋の中央に置かれた立派な机に戻っている頭は、相変わらずこちらを睨んでいる。きっと俺からしたらくだらない事を考えているのだろう。
頭は、明日二の曲輪に向かう時も、自分がついていくと譲らなかったが、そのまま一の曲輪に行く事になった時ついて来てもらう事ができない。その点今は平民であっても元皇太后の侍女であったパルメに着いてきてもらう事にした。何故なら彼女は一の曲輪にまで入る事のできる許可を元々持っていたので……。頭にはそれも納得できないのだろうなぁ。
今日の明日だ、城のお歴々はきっと俺の事なんてすっかり忘れていた事だろう。
半年経って、何とか勇者達の準備が取り繕われたのか。この国の人達の勇者召喚の目的である『覇道』?だっけか、その旅に使われる荷馬車。その荷馬車扱いの俺。すっかり半年間放って置かれ、全く訓練も教育もされなかったのだから、正に人扱いされていない事がわかろうというもの。そのまま置いておいても勿体無いから三の曲輪で荷物持ちとして使われていただけ。そんな事、頭だったら一番に知らされて…いないのか?
これも並列思考の恩恵か、いくつもの事を考えながらもしっかりと今からの買い出しの事を確認して、ジメッとした視線をスルーし館を後にした。
説明回この世界の国々について!
これからの少し物語が動く…か?




