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第 1 話 グラオザーム王国の召喚の間

やっと本文到達です!ここから一人称で話を進めます。

 目の裏に眩い光が射した。その眩しさに思わず目を開けると、剥き出しの石の床の上にうつ伏せに倒れている事に気が付いた。


 目の前の石の床には見た事も無いモザイク模様が浮かび上がっていて、それは徐々にその光量を落として消えていった。


 床に手をついて身体を起こすと、自分のステータス以外に数人同じ様に倒れている者がいる。


(あれがオネットの言っていたユウシャ……?)


 まだ倒れたままの彼等をよく見てみると、忘れたくても忘れられない奴が含まれている。まだ2年だ早々忘れない。勇者では無い巻き込まれただけのパンピーが俺であると知られた時の扱いがいいようには思えなくて、重なる不運に顔をしかめた。


(そう言えば、スキルで姿も変えられるって……)


 皆が目覚める前に偽装を発動しようとして、ふと思い出した。それが当たり前だったから忘れていたが、自分は日本にいる時こそ偽装をしていた事を……。

 外国人で有った祖母の血が濃く出たのか、俺達兄妹は皆日本人らしからぬ容姿をしていた。妹の色はそう日本人と変わら無いものだったが、俺の方は髪の色と瞳の色が変わっていたので、両方とも黒く変えていたのだ。


(もとに戻せばいいだけだ)


 こちらには、毛染めも無いかも知れないし、カラコンも無いだろう。


(奴らも俺の本当の姿を知ら無いし、この2年で随分と変わっただろうし……それよりも偽装で元に戻れるのか?思うだけで発動するって言っていたが……)


 最近取る事がなかった本来の自分の姿を思い出す。金色にも見える薄茶色の髪、群青色の様な濃い碧の右眼と、若草にも見える薄い翠の左眼のオッドアイ。誰も日本人とは思うまい。


 鏡が無いから確かめられ無いが、どうやらスキルは上手く発動した様だ。引っ張って見てみた髪の毛は染めていた黒ではない薄茶色。この世界の人々の持つ色はわからないが、悪目立ちしなければいいが……。


 そうこうしている間に、勇者四人も気が付いた様子で、頭を振りながら立ち上がろうとしている。周りを見回し、自分達だけでなくもう一人いる事に気付くと、明らかに警戒した様子で、俺から距離を取り四人で固まった。


(1対4……少し寂しい……)


 馴れ合う気持ちはまるで無いが、全く知ら無い世界で、一人きりで戦わなければならない事を自覚する。


 彼等は全く俺の素性に気が付いていない様だ。ステータスを知られても偽装もあるし、そんな事しなくても、彼らの知っている名前と今の名前は違うのだ。

 (名乗れなくなった姓と、読み方の違う名。好都合だな)


 1対4で向かい合うこと数分。明らかに俺を気にしている視線を無視して、部屋の中を観察した。


 広さは学校の教室程度、窓は無い。壁自体が薄っすらと青緑色に発行している。

 真っ暗でないことはありがたいが、余り体験したことのない光の色だからか少し落ち着かない。

 床の発光はすっかり消えていて、現れていた模様を確認することはできない。

 長方形の部屋の短い方の一辺に、以前教会で見たことがある祭壇に似た様なものが設えられていることがわかった。中央の高い所に髪の長い女性の像が見て取れる。


(もっとはっきり見てやろうと)

四人の事は無視して女性像近づこうと一歩踏み出した時、背後から何かが動く感覚と、その少し後にカビ臭い風の流れとともに入ってくる沢山の足音が聞こえた。


 体ごと振り返ると、今まで在ったはずの壁がなくなり、まるで中世ヨーロッパの映画にでも出てくる様ないでたちの男達と、その真ん中で守られる様に立っている一人の女性。容姿もヨーロッパ人に近いもののようで、髪の色は目で見る限り青や赤など突飛な色は見えない。


「……三銃士のダルタニアンとエリザベス一世……」


 思ったことが口に出ていたようで、俺との零した小さな呟やきは、思いの外部屋に響いて全員の視線が俺に集まる。


 俺の呟やきの意味がわかった四人組の内の一人が、思わずっという感じで吹き出した後も笑いが止まらず、隣の一人に窘められる。


 そんな少し緩んでしまった空気がお気に召さなかったのか元凶である俺のことを中央のエリザベス(仮)が一瞬睨みつけると、目線を俺から外し四人組の方へ向け微笑んだ。


『ようこそお越しくださいました勇者様!我がグラオザーム王国へ!』


 両手を胸の前で合わせ、まるで祈りでも捧げる面持ちで勇者達(?)に近付くエリザベス(仮)。背後にはダルタニアン(仮)と三銃士(仮)を引き連れて………。

 勇者達は彼女が何を言っているのかわからないのか、怪訝な表情を浮かべている。


 その時俺は、先ほど壁が無くなった時と同じ様な、何か動くものがこちらに向かってくるのをエリザベス(仮)から感じた。


 何だろう?と考えるだけでスキル解析が発動したのか、頭がこれは魅了の魔法だと理解した。

 耐性スキルも発動した様で、俺は魅了に掛かることはなかった。


 しかし、耐性スキルを持っていないだろうし、何もわからない状態で不意をつかれたこともあり、いとも簡単に勇者達は術に掛かってしまった様だ。

 勇者達は先程と顔付きが明らかに違う、表情が抜け落ちた様な全くの無表情。

 俺も表情を伺われない様に少し俯き気味にし、前髪で目元を隠す。


 勇者達の様子に満足したのか、自身の魅了の魔法に納得したのかエリザベス(仮)は大きく口角を上げると、ダルタニアン達の後ろに隠れる様に立っている、これもテンプレの様な黒い床まで届くローブを着てフードで顔を隠した人物を顎で呼び出した。


 正に魔法使い。ローブの中から、これもテンプレの大きな杖を出すと、口の中でゴニョゴニョと何事か呟やき、杖を俺達の方へ振りかざした。

 目には見えないが、魅了の時に感じたものと同じ様な何かが、胸の中に入り込もうとして霧散した。


(今度は隷属……?)


 勇者達が胸を押さえて苦しそうにしているので、俺も同じ様に演技する。少し抵抗はしたものの、魅了もあってか、勇者達は結局隷属魔法にも掛かってしまった模様である。苦しそうな様子から元の無表情に戻る。


 エリザベス(仮)は大きく頷くと、今度はおぼん状の板を捧げ持っている黒ローブを前に呼んだ。


『女神リュゼ様は、確かに勇者は四人と仰ったはず……』


 ぼんの上にひかれた光沢のある柔らかそうな布地の上に、黒と青と透明な石をはめ込まれた銀色の腕輪が4個置いてある。


 俺は早速前髪の隙間からそれらを盗み見て解析を行った。


(あの石が魔石…黒が隷属、青が魅了、透明が言語理解の魔法か……。そしてあの金属がミスリル……)


 ミスリル、キターーー!!と言う、心の叫びを顔色に出すこたなく、ぎゅっと手を握りしめることで耐えると、俺はこれまでの彼等の動きから魔法について予測を立てた。


 先程掛けられた魅了はエリザベス(仮)のユニークスキルか何かなのだろう。詠唱も全くなくて、瞳を見つめる事で発動する様だ。それに対して隷属は唯の魔法なのだろう、長々と詠唱していたし。

 唯どちらにしても長時間は維持できないのかもしれない。同じ効果の魔道具を準備している事からもそれが伺える。


 言語理解はどうなのだろう?言語理解の魔道具を持っていれば誰とでも会話が成り立つのか?それとも、持っているもの同士でなければ会話が成り立たないのか?

 隷属魔法を掛けるくらいの奴らだから、後者の様な気がするけどな。


『悩んでいてもしょうがありませんわ。後でステータスを見ればわかること。とりあえず女神様が仰っていた、黒髪の勇者と言う御言葉からも、そちらに集まっていらっしゃる四方だと思われます。とにかくこのままですと言葉が通じないのですから、腕輪をこれに』


 そう言うと、エリザベス(仮)はどこから取り出したのか、折りたたんだ羽根扇子で勇者達の左腕を指し示した。


 カシャンと言う音とともに、4つの腕輪が一人一人にはめられていく。勇者の表情は変わらない。


 エリザベス(仮)は、半分ほど開いた羽根扇子を口元にあて呟やいていた。


『それでは、先程の私の最初の挨拶は通じていなかった……』


 彼女の中では全て無かった事にしたようで、咳払いを一つすると、隷属魔法を掛けた黒ローブに再び合図した。

 黒ローブは恭しく頷くと、またも大仰な杖を取り出して4つの腕輪に魔力を流した。

 3つの魔石が一瞬光を放った後、勇者達の無表情が元に戻った。


「ようこそお越し下さいました勇者様!我がグラオザーム王国へ!」


 満面の笑顔で話し掛けるエリザベス(仮)に、少し腰が引けながらも対応している四人。


「さっきは何を言ってるかわからなかったけど今はわかるね……」


 四人の中では1番背の低い少女が、横にいるもう一人の少女にナイショ話をするように声を掛けている。


 その小さい話し声に間髪を入れずエリザベス(仮)が解答を示した。


「腕にお付けしたのが翻訳の魔導具です。この魔道具を装着した者同士で会話ができるという物ですの。今はこちらで魔力を流して使えるように致しましたが、直ぐに御自身で使う事がお出来になると思います」


 そう言うと、ヒラヒラのレースが飾る袖口を少し上げて、銀色の腕輪を掲げて見せた。


「今ここで魔導具を装着しているのは、勇者様以外は私ともう一人だけですの。簡単に手にできる物ではないので……」


 ニコリと柔らかく微笑みを浮かべて四人を見るが、四人共に怪訝な表情をしたままである。


 エリザベス(仮)は一瞬眉間に皺を寄せるが、ハッと何かに気づいた様に頷くと、一度軽く頭を下げた後声を出した。


「これは、大変申し遅れました。私このグラオザーム王国第二王女、神託の巫女を務めております、リスティーナ・メーディウム・グラオザームと申します。勇者様の御世話は御神託により私が務めさせていただきます」


 豪奢にゆい上がられた茶色い髪と茶色い瞳、鼻筋の通った冷たい感じの美人は、言葉の最後にドレスを優雅に捌いて大きくお辞儀をした。


 頭を下げられた四人組は、そこは日本人の性か思わず頭を下げていた。


 四人と少し離れて立っていた俺は、勿論彼女の話している内容も理解していたが、腕輪がない自分は言葉が理解できてはいけないはずなので、ポーカーフェースを保って何もわからない風体で立っていた。


「ここは中央大神殿の地下にある、召喚の間です。勇者様はこちらにいらっしゃる前に、直接女神リュゼルリシオン様にお聴きになっていらっしゃるでしょうが、ここはこの様に何も無い所ですので、詳しいお話は王城に着きましたら……皆様をご案内して!」


 前の言葉は勇者に、後の言葉は護衛騎士だろうダルタニアン達に言いつけると、リスティーナ姫は先頭を切って部屋から出て行った。

 勇者達から見えなかったろうが、俺から見えたの横顔に笑みはなく、表情の向け落ちた様なそこからは、彼女の心の底の気持ちをうかがい知ることはできなかった。


 後を任された形になった騎士の中で、金髪碧眼のザ・王子と言う容姿の一人が進み出ると、銀の腕輪を掲げながら名乗りを上げた。


「私は、これから皆様の護衛をさせていただく、エドゥアルト・カヴァレリスと申します。この部屋を出ましたら直ぐに移転の魔法陣が在りますので、そちらで王城に移っていただきます。まずはこちらへ!」


 流石騎士らしく、きびきびした動作で皆に退出を促した、がそこで腕輪をしていない俺に気付き、こちらに近づいてくると俺の前で足を止めた。


「申し訳ございません勇者様。彼方のお方に私の言葉を通訳していただけませんか?腕輪を付けていらっしゃらないと、言葉が通じませんので」


 気にはなっていたのだろう、四人で固まったまま、後部の開いた壁に向かっていた勇者達は、初めて俺に声をかけた。


「ここから城に移動するらしい。僕達について来て」


 騎士達にも促され、勇者達と適度な距離を取り、ゆっくりと付いて行く。


 廊下もやはり壁自体が発光してるようで、仄暗い中、騎士のブーツだろうか、やけに大きい靴音が石造りの廊下中反響している。


 一回廊下を曲がると、割と直ぐに行き止まりになっていて、少し広くなったそこにうっすらと円陣が光っているのが見えた。


「さあこちらに!」


 エドゥアルドの右腕で大きく指し示された円陣に、俺も含めた五人とも召喚者全てが乗る。

 五人とエドゥアルド、騎士二人そして一人の黒ローブが乗ると、黒ローブの詠唱とともに視界が揺らぎ、一瞬にして目の前に大きな扉のある家具が何も置かれていないがらんとした小部屋にいたのだった。


 あまりの呆気なさに、全く言葉もなく淡々とただエドゥアルドについて行く。

 廊下と壁の作りが簡素な物から、随分と煌びやかなものに変わったなぁと思った所でエドゥアルドが足を止めた。


「大変お疲れの事と思いますが、こちらで一度身支度を整えていただきます。その後ステータスの確認をさせて頂いたき、会食の予定になっております。なお、腕輪や性別の関係上、こちらの2部屋に分かれて御準備いただきたいと思います」


 廊下に並んだ2つの扉を開けて、男女別に分けた。男二人に女三人。

 男二人が部屋に入ると、スカートの長さが踝まであり、秋◯原でよく見かけるのよりピラピラしていないリアルメイドさんが一人立っていた。


 来賓用の客室なのか大きなソファーセットのテーブルの上に、2組の男性用と見られる着替えが置いてある。


(ステータスを確かめるまでは一応勇者達と同じ扱いで行くみたいだ……。見た後はどう来るかな……?)


 勇者でさえ、 問答無用で隷属魔法を掛けてくる輩である。これは覚悟を決めて臨まなければならない。


 俺は、まだこちらに警戒する態度を崩さない勇者に愛想笑いを浮かべながら、ステータスの表示内容をもう一度心の中で確かめた。



まだ勇者達の名前出てきません……

国の名前。人の名前。名前を考えるのが一番大変です…>_<…


姫と騎士の髪色と目の色を書き足しました。20151124

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