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第 16 話 三の曲輪 北演習場 2

 一番初めのスライムに出くわした後は、それまでが嘘のように次々とエンカウントする。スライムは体の中の核を打ち壊さない限り、体を何度削ぎ落としても体当りを仕掛けてくる。体色でその属性がわかるスライムだが、魔法を打ち出してくる訳でもなく攻撃は体当りだけなので、こちらとしては消滅後残何故か残される魔石の使い道が変わるくらいのものである。


 あっという間に初級冒険者キットに入っていた魔石収納用の皮袋の中程までスライムの魔石のみで埋め尽くされた。


 スライムが入れ食い状態…⁈


(やかた)(かしら)が例年の後始末だと言っていたけど、違うんじゃないかなぁ。いつもはこんなにスライムは残っていないよ。第一普段はこの辺りなら藪は全部刈られているし……」


 堀から離れて藪が途切れた少し見晴らしが効く丘で一旦休憩を取ることにした。


 最弱のスライムと言えどもこう間断なく攻撃をされると十のうち二つ三つは体当りを食らう。直撃を受けないようにそれなりに避けているので、胴体に受けることはなく主に両手足のどこかに体当りを受けている。袖をめくると少し赤くなっているところがある。そんな所にはキュアをチョチョイと掛けておく。


 一方ネルケはこのくらいはなんて事ないのか涼しい顔で周囲の警戒を続けている。


 慣れない事に体中に力が入っていた事がわかる。ぼきぼきと首と肩を回して、その場に腰を下ろす。目線がネルケの足元に向かうと、何十匹も倒したスライムの体液で履いているブーツがぐっしょりと濡れているのが見えた。本人はまだそれに気づいてはいない様なのでクリーンを掛けておくことにする。


 俺のブーツの方は元々サイズ調節の付いている一種の魔道具でもあるのだが、それに自分で自動修復の魔法も重ね掛けしておいた物だ。それのお陰か濡れることもなくピカピカのままだ。


「ワタル、君の冒険者としての一番最初の仕事がこんなにすごいのは運がいいのか悪いのか…」


 ネルケが自分のスライムの魔石が詰まった皮袋を叩きながら笑っている。


 そう金にならないスライムの魔石でもこのくらいは量あればまあまあの稼ぎになるらしい。それに始めてまだ一時間足らずでこの量だし。


 アイテムBOXから飲み物を出してネルケにも渡す。


「今日の朝入れてもらったお茶?温かいね」


 さすがアイテムBOX、入れた時から時間の超過が無い。


「今日、三の曲輪でこの依頼を受けたのは僕たちだけだけど、いつもと様子が違うから僕ら以外の冒険者や騎士様も居るかもね」


 ネルケのその言葉を聞いて初めて今まで全くサーチを使っていなかった事に気がついた。実践という事で随分と自分がテンパっている事に気が付いた。


 早速サーチを使う。


 自分を中心に北の演習場内に範囲を広げて行く。


 マップに映し出される光点に、会った事がある人や知っている種類の魔獣にはその名前も表示される。光点の色を人と獣で変える。


 スライムはまだまだこの演習場の外苑にある藪の中に多数見られる、所々中心部に近い草むらの中にも居るようだが。草むらにはスライム以外の魔獣が隠れているようだ。


 人も結構な人数この演習場内に居るようだが。


「…ん?!」


 俺たちが居るのは演習場の東側入り口、つまり東の石橋の近く。それとは一番遠い場所、北の掛け橋入り口の近くに、余り会いたく無いと言うか、顔を合わせたく無い勇者様ご一行が何人もの人々,騎士か、に守られるように動き回っているのがマップに映し出されている。


 これだけ離れているし、彼等の周りにもたくさんの獣の光点が映っていることからも、こちらが気を付けておけば遭遇することも無いだろう。


 お茶を一杯分飲むだけのかも休憩をすると、腰を上げて魔獣討伐を再開する。


 またスライム討伐でもいいが、ちょっと違う魔獣も倒してみたいので、さりげなくネルケを先導してまだ正体の知れ無い魔獣の光点に近づく。


 一度でも見たことがある、つまり解析をした事がある物や生き物はその正体がわかっているのでサーチ画面で名前が表示されるが、そうで無い物は非表示で表される。仕方ないと言えば仕方が無いのだが、俺はこの世界の物は知らない物だらけだから、折角の能力も宝の持ち腐れだな。解析スキルが上がれば良い解決策でもあるのかもしれ無いが……。


 やはりこう言う時は経験が物を言うのか、サーチなんか持って無い筈のネルケが近づいて行っている先の魔獣とその正体に気が付いた。


「あの薄い繁みの中に一角兎(ホーンラビット)発見」


 嬉しそうでそれでいて気を遣ったのか囁くような小声でネルケが俺に教えてくれる。


「一角兎はスライムのような体当りの上に額のツノを突き刺すように飛び掛って来るから注意してねな」


 その言葉が終わら無いうちに初めの一頭、一羽?が飛び出してきた。飛び出してくるのがわかっていても驚く物は驚く。


 兎の名前に想像していた物よりも随分と大きい、柴犬位の大きさでその体長の半分近い長さのツノを持ったこげ茶の物体。


 躊躇なく俺とその物体の射線に入ったネルケが額のツノをに向けて剣を振るった。

 キーンと、金属と金属のぶつかったような高い音をたてて兎が弾かれる。


「流石に硬いなあ…」


 一瞬刃こぼれを気にしたのか刃先に視線を向けた後、小さく口の中で何か呟いたと思ったら、ネルケの握っている剣が薄ぼんやりと光った。


(魔力?)


 解析してみると確かに魔力で、ネルケの持っている加治スキルの一つなのか物質硬化を伴うものだった。


 スライムと速度は随分と違うが、真っ直ぐ突っ込んで来る所は一緒の単調な攻撃。二撃目はキーンと言う音もさせず、サックリとスイカかかぼちゃでも切ったような音をさせて

 一角兎の一角を断ち切って、戦闘は終了した。


「僕のは量産品の剣だから、少し大きい奴に出くわすとツノを断ち切る事が出来ないんだ。それで拙い魔法だけど刀身を強化してなんとかツノを断ち切る事が出来るんだ」


 ツノさえ落としてしまえば一滴の血を流す事なく一角兎は死んでしまうらしい。毛皮も傷付けず倒す事が出来れば、毛皮、肉、魔石そして魔法薬の溶媒にもなる角、とスライムと違い実入りのいい低級の魔獣である一角兎は、剣さえ潰す事がなければ嬉しいい魔獣である事は間違いない。


「この魔法は一度掛けると暫く続くからその間に出来るだけ倒そう」


 ネルケのその言葉が引金であったかのように、魔法が切れるまでの間途切れる事なく一角兎が特攻をかけてきた。


 勿論俺も二匹目からはビビる事なく対処する事ができた。


 スライムの一匹目を槍でついた時に何故か生えていた槍術スキルに、一角兎を倒す毎に一角兎のスキル『貫く』が槍術のレベルに上乗せされていく。みるみるうちに槍捌きが洗練されていく事が自分でもわかる。


 ネルケの魔法が切れる小一時間の内に槍術のレベルと、体当りされた事で生まれたのか身体強化のレベルも上がっていた。


「普段は丸々持って帰れるの精々二三匹なんだよね」


 今日は俺がいるから俺のアイテムBOXで何匹でもOK。入れと念じながら触るだけでスルスルと入る、と言うか姿が消える。数を数える事なく入れてもきちんと分類整理される機能は素晴らしい。その上同じ一角兎でも、俺の倒したものとネルケの倒したもが分けてカウント表示されたのを見て俺自身驚いたものだ。


 気付けば太陽は天中に。


 この近くの一角兎も狩りつくした様で、スライム共々影は見えない。


 サーチの範囲を北入口の方まで広げて見れば、まだまだスライムに手こずっている様子の彼等が光点の動きだけで伺える。気を尖らせて集中すれば彼等が使っている魔法の属性まではわかる様になった。


 解析のレベルまで上がったのかな?平時より有事に使った方が上がりやすいのかもしれない。レベルなんかは帰ってからゆっくり確認しよう。



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