第 14 話 冒険者ギルド 5
背に腹は変えられない。腹を括ってこれからの事を考える。兄貴の勘も侮れない(かもしれない)が、どう見てもたぬきならぬ熊オヤジのギルマスはそのランク、レベル、スキル込みで下手を打てば全ての秘密が暴かれそうで、少しの機密漏洩は致し方ないと諦めるべきか……。
皆の記憶から俺のもののみを消してドロン!といスキルは持っていないし、はっきり言ってSSランクがGランクをわざわざどうこうしようとするとも思わない。
しかし、あくまでも国の組織の一員であるのだから、上から何か言われればそれに従い、それまでに育んだ情なんてスッパリとぶった切って敵対する事になるかもしれないが……。
なんとなくこの短時間であるが、この人たちを信じたい気持ちが生まれ始めている事を感じた。幾ら精神攻撃耐性をもらっているとしても、一人として知らない人の中で結構大きな秘密を抱えて、今までと全く違う環境の中で生活していくのは辛い。それに、自分がされたこの異世界召喚を誰かに知ってほしい、特に加害者側に!そんな気持ちがある事に今更ながら気が付いたのだ。
積極的にこちらから事実は教えないが知られた時は仕方がない、関係を切られた時も仕方がない。今敵対すれば瞬殺されるかもしれないが、相手を利用して逃げ切るくらいには強くなろう。そう思ったら肩から少し力が抜けた。
俺の雰囲気が変わったのがわかったのか、それまで黙って見守っていたギルマスが、
「では行くかな」と言って腰を上げた。
それまで机を挟んで何やら不毛な舌戦を繰り広げていたファルケとリーリエも、ピタリと言い合いを止めると、ギルマスとシンクロする様に腰を上げ先を争う様に廊下に出た。
何も説明のないまま置いてけぼりを喰らいそうになる。扉を出る間際のギルマスが顔だけ俺の方に向けて顎をしゃくって着いてくるように合図した。
ギルド地下の訓練場。サーチで探った時見たようにすごい広い空間だ。何人ものごついおっさんが其処此処で剣や槍を交えている。ここからは見えないが壁で仕切られた向こうでは魔法の修練でもしているのだろうか……。
入り口から突然現れたギルマス達に気が付いた男達(よく見るとご立派なガタイのお姉さまもいるような……)は驚いたように固まって動きを止める。
そんな様子に気も留めず、ズンズンとフィールドの中心に進んで行く一行。一足先に歩みを進めるファルケとリーリアは、どこで手にしたのかそれぞれの獲物らしき物を持っている。本物ではなく訓練用の刃引きをされた物であるようだが。
ギルマスも長い槍を扱きながら中心へと向かう。
俺の武術?武道?ような経験は、中学の体育の授業でちょこっと齧ったくらいだ。スキルを見ても俺は身体主体ではなく魔法特化の存在のようだし……。
フィールドに入ると入り口近くの壁に何種類もの練習用の武器が掛けられているのが見えた。何か俺も得物を持った方がいいのか?一応手にした事がある武器?の竹刀に一番近い形である両手剣に目をやるが、自分がその剣を上手く扱っている様子が全く想像できなくて首を振ると、無手のままギルマスの後について行った。
そんな俺の姿にギルマスは一つ頷くと、ファルケではなくリーリエの方を手招きした。
「ボウズは魔法特化のようだしな。俺とあいつの肉弾戦を見せても仕方ないし、ここはちょっとやそっとじゃ壊れないから魔法をぶっ放すのも大丈夫じゃ。ぶっ放すのはあいつだけだがな」
フェンシングの時に使うような細い先が少し丸まった剣を利き手に持ち、もう一方の手にはどこから出したのか使い込んだ色の短杖を構えたリーリエが、ギルマスから2・30m離れた所に立った。
「いつでもいいぞ」
その声を合図にして、既に口の中で詠唱を唱え終わっていたのかリーリエは、幾つも生み出した水の刃を構えていた杖を振り抜き正面のギルマスに打ち放った。
初手の攻撃もわかっていたのか、四方八方から迫り来る刃をほんの少し身体を傾けるだけで避けてしまうギルマス。
ギルマスに当たらなかった水の刃は、軌道をそのままに訓練場の壁に当たり飛び散る。壁の隅に立てられていた試し斬り用の案山子に偶々当たったそれは、結構大きなその案山子を木っ端微塵に粉砕し消えていった。
ギルマス達を遠巻きに見ていた冒険者達にも水刀は襲いかかる。彼らの中で一番近くで見ていたファルケにもそれは向かってきていたが、ファルケもギルマスと同じ様にただ体重を少し移動させるだけでヒョイヒョイと避けていた。
俺に見せる為のデモンストレーション?でやっているのではなかったのか、攻撃魔法を見るのが初めてでその基準の威力がわからないのだが、まづは結構な威力の水の刃に驚いた。それに際限無く打ち出すリーリエにも驚いた。水を何もない所から生み出すのは随分と魔力を食う物だが、と思いながら見ていると、訓練場内に持ち込まれている誰かの水筒や、火災の時の為の水桶など、この空間内に有るありとあらゆる水分を手元に呼び込んで使っているのがわかった。
リーリエはいつまでもギルマスに軽くいなすだけで避けられる事に焦れたのか、「チッつ!」と、乙女に似つかない大きなここまで聞こえる舌打ちをすると、ギルマスとの距離を半分くらいに縮めてこれまでと違う魔法を打ち出した。舌打ちは聞こえたのに詠唱は聞こえなかった……。
それは短杖から伸びた水の鞭のようで、身体にとてもフィットした黒いチャイナドレスのような装いのスリットから伸びた生足が艶かしい様子は、まるでS○の女王様が鞭を振る姿のようで、口元に薄っすらと浮かんだ微笑みが尚更「実はお姉様も戦闘狂?」の雰囲気を醸し出していた。
そんなリーリエの艶姿にとばっちりを避けながらも男達の視線は釘付けの様で、今まで水刀の届く範囲外だった男達の一部がその余裕からか囃すように口笛を吹く。
一瞬その音のした方向に視線を遣ったリーリエは、ギルマスに水の鞭を振るいながらレイピアを持った手の方を彼らの居る方に向けた。すると剣の先から砲弾を打ち出すように水刀が飛び出して方向を過たず、数人の冒険者が被弾していた。ただ濡れる位の威力のものであったが……。
(同じ属性といえ、違う魔法を一緒に無詠唱で放つ、魔法制御のスキルがハンパないんだろうな……)
冒険者達にも気を取られている隙に、ギルマスに間合いを詰められたリーリエは魔法を諦めて肉弾戦に移行するようだ、とても魔術師に見えないような速さでレイピアを振るう。
そこまで来てもギルマスは得物を構えない。それこそ目にも留まらぬ速さでレイピアを避けるとリーリエの背後に移動する。リーリエも背後を取られぬ様にくるりと体を回しもう一度レイピアを振りかぶり振り下ろそうとするが、ギルマスの左手の二本の指、中指と人差し指で挟まれて空中に止まっていた。
「は〜い!リーリエの負けぇ!おやっさん、次オレねオレ!」
ギルマスとリーリエの勝負が決まった瞬間、子供の様に手を上げながらファルケが二人の元に駆け寄る。
そんなファルケは全く無視して、ギルマス達が俺の方に近付いてきた。
「どう見た?」
例の凄みのある最凶笑顔を浮かべながらギルマスが尋ねてくる。その後ろには悔しそうな顔のリーリエとそんな彼女を揶揄いまた殴られているファルケの姿があった。
攻撃魔法を見たのはこれが初めてだったが、馬鹿正直に申告するのも何だし、これ程の攻撃魔法もそれを難なく避けるギルマスの力量も、周りにいる冒険者を見る限り特別なものだとわかるので驚いた事事態は隠す必要は無いだろう。
「リーリエの攻撃魔法の迫力と、魔力操作技能の高さ、それとギルマスの人間離れした力量に驚愕しました。当たり前ですけど俺なんて全くの瞬殺ですよ」
全く試合つもりが無い事を案に伝える。
しかしそんな俺の言葉を全然気にする事の無いファルケがリーリエの攻撃?を避けながら俺の目の前に身体を滑り込ませる。
「オレの弟子になるんだから、どの位やれるのかを見ておかないとなぁ。さぁ、どっからでも掛かって来なさい」。
両手を広げたドヤ顔に何となくイラっと来る。それは俺だけでは無かったようで、後ろに立つ形になったギルマスの鉄拳と、真上から狙って打たれた水刀がファルケの頭にヒットしていた。
びしょ濡れになった頭を抱えて蹲るファルケをまったく無視して頭上で会話を続ける。
「そもそもなんですが……俺は殆どと言うか全くこのような荒事をした事はありませんよ。だから弟子とか何とかいうのは……。それに俺専属で冒険者できるわけでもないですし、まず第一に俺攻撃魔法を全く使えませんから」
目立つ事も嫌だし、国の上層部と繋がりのありそうなと言うか、上層部の一部でありそうなギルマス達とこれ以上繋がりを持ちたく無いと言うのが本音だ。地下だからわからないが、もうそろそろ日も暮れようかと言う時間だと思う。
「夕飯までには帰る約束があるので」と言い募り、目の保養のような試合を見せてもらった事に感謝して頭を下げ、その場から退出しようとしたその時、下げた頭の目の先でこちらのローブの中を屈んだまま見上げるように覗き見るファルケと目があった。
「……へッ?」
にまぁッと笑ったファルケの掌がこちらに向けられた瞬間、目を開けていられないほどの突風が俺の顔面に打つつけられて、目を開けた時にはローブのフードが頭の上から無くなって、やけにスッキリと周りを見渡せる状態になっていた。
「お、おおぅ……。やっぱりお前俺の弟子な」
しゃがんだまま、ニコニコと見上げて親指を立てるファルケに。
「いやいや!脳筋馬鹿でなく、私が面倒見てあげるからね!……オッドアイとか初めて見たよ……ちょっと位年下の方が……」
最後の方は小さくなってちょっと聞き取れなかったが、ファルケを押しやるように近付いてきたリーリエが、俺に手を伸ばしてくる。
俺のフードが外れた後、何故かシーンと静まり返った訓練場も徐々に騒がしくなり。俺はそれから何もする事なく初めに連れてこられた部屋に引っ立てられると、Eランクになるまではこちらから特に声を掛けたり構ったりしない事をギルマスがファルケとリーリエに約束させて、やっとここから解放される事になった。
「まぁすぐに顔を合わせる事になると思うがな」
そんなギルマスの呪いの言葉を後に、異常に手が掛かって手に入れる事が出来た冒険者ギルドのタグを握りしめて俺は帰路に着いた。
初めてポイント評価もらえました。ありがとうございます。
とても嬉しいです!亀の歩みですが頑張ります!
やっとギルドから出られました……。早く冒険者したい……。




