第 8 話 寮 俺だけの…!
名前のみの自己紹介を朝会?の時にやらされてから、この世界の一ヶ月が過ぎていた。
流石に1日が何時間なのか?とか一週間、一ヶ月、一年がどの位なのか?なんて事を真顔で聞く事はできないので、余りにも常識的な事は寮や館に貼られていたり書かれている事を解析を使いまくって調べたりした。(一週間が六日、一ヶ月は五週間三十日、一年は十二ヶ月三百六十日だとわかった……)
三の曲輪に厄介払いのように引き渡された直後、時々監視のような視線やこの場にそぐわない近衛の騎士の姿をチラチラと目にする事があった。
一応どんな力を持っているかわからない異世界人。野放しにするにはリスクがあるからだろう。
腕には隷属と魅了の腕輪を付けている上に、王城内に囲っている限りなんとでもできるという考えや、文字は読む事ができず簡単な会話しか出来ないはずの俺が、言われた事に諾々と従いこれといった動きをしていない事もあってか最近は余り監視の目も感じなくなっていたが……。
仕事はBOX持ちという事を知られている事もあって、主な物はやはり荷物運び。
初めて会った時にパルメがしていた洗濯物を運んだり、三の曲輪全部を賄っている食堂の食材を運んだり、一度だけだが、一の曲輪内で、つまり城で行われた舞踏会の準備の為らしい食材などの買い出しに、城下町まで駆り出された事もあった……。
この世界で生きて行く上で、生活水準が中世ヨーロッパ程度しか発達していないと認識していたので覚悟は決めたつもりであったが、21世紀の先進国、清潔大国日本人の俺が生活していけるのかが心配だった。
ただ、この世界には地球には存在しない魔法が在り、電化製品の代わりを務める魔道具という物が存在している。
この世界に誘拐されて初めて通された客間の照明や、外に出でわかった王城内を快適な温度に保っていたセントラルヒーティングの様なものも魔道具による物なのだろう。
しかしその魔道具達はやはりとても高価な物で、今の俺の身の回りには薄ぼんやりと灯るランプ位しかその存在を見る事が出来ていない。(ランプの魔石は、魔力が空になる事がなければ、魔力の少ない庶民でも毎日使う時に吸い取られるほんの少量の魔力で維持できる数少ない魔道具の一つらしい)
金持ちや貴族達は、生活の至る所でその高価で魔力をたくさん消費する魔道具を愛用して、21世紀の日本と行かないまでも結構快適な暮らしをしているみたいで、移転魔法なんぞ使える者にしたら飛行機で移動するよりよっぽど早く移動できるのかもしれない。
そんな生活の中で、俺がいちばん懸念だったのは、日本人としては当たり前の毎日の入浴。
異世界物によくある入浴の習慣が無い、もしくは上流階級の者だけ、であったら……。
なんせここは中世ヨーロッパ!(とよく似た世界)
魔道具を持つ事の無い庶民は、煮炊きするのにマキを使っている世界。
結果として入浴の習慣がこの国に無いわけではなかった、が、やはりお湯を大量に沸かす湯船に入る事ができるのは一部の限られた者達だけで(マキで沸かすのではなく、大量のお湯にはそれ専用の魔道具が使われている)、庶民はせいぜいが水を浴び汗を拭う位という事。(おなじみ、生活魔法のクリーンで綺麗になる方法もあったが……)
だから、庶民が暮らす三の曲輪の寮の各部屋に浴室が有る筈もなく、寮に一ヶ所普段は水浴びの為に使われている水場と、その水場に浴槽くらいの大きさの水桶が有るのみだった。
ただしこの国は聖山に連なる山脈からの豊富な伏流水が王都中至る所に湧いているくらい水資源が潤沢なので、沸かす手段さえ持っていれば毎日の入浴は無理な事ではないのだ……。
つまり、俺が水桶の中身をお湯に変える事ができれば毎日入浴する事も可能なわけで……。
俺は表向き魔法はスキルであるアイテムBOXと鑑定(解析の劣化版)しか使えない事になっているが、事実は全属性魔法を使える(はず……!)。
早速、寮で自分に割りあれられた部屋に落ち着いた初日の夜半、俺は自分のステータスに解析を掛けながら、まずは手頃なカップの中に水を出してみた。
身体の中から何かが少し抜けた感じがした瞬間、カップの中に溢れるくらいの水が現れた。
ステータスを確認すると、MPの数値が減っていた。そしてスキルの所に『水魔法 Lv.1 』が増えていた。
【水魔法 Lv.1 水属性の魔法が表示されたレベルで使用できる。ただし攻撃属性の魔法についてはその魔法スキルを習得(剥奪でも可)しなければ使用できない】
「……」
解析してみたらこんなのが出た!
なんだよこれ……!初めからMAXは面白くない、とか誰かが言っていた気がしたけど、ほぼチートじゃん!一回使うとスキル付くって何?
まあ、攻撃魔法については、流石智天使。習得、すなわち知らなければ使えないって事で、それはセーフ?……なのか……。
少し気を落ち着ける為にも、自分で作った水を飲んでみた。
「……」
エビ◯ンとかヴォル◯ックとかと変わらない?まあ水の味とかよくわからないけど……。
気を取り直して、次に水差しから水を入れて、その水が火によって温められたイメージをしてみた。
またさっきと同じように少し身体から何かが抜けたような感じの後、カップの中の水がお湯に変わっていた。
MPはさっきより減りが少ない。そしてスキル『火魔法 Lv.1』も漏れなく付いていた……。
それを見なかった事にして、考えてみた。
きっと何も無い所から物を生み出した訳ではないのでMPの消費が少ないのだろう、やはり物を生み出すのは魔力が沢山いるのだ。
今度はカップに入れた水を電子レンジの要領を想像して温めてみる。使うのはすでにLv.8ある空間魔法。
結果、MPは一番使わないで温められた。浴槽くらい水の量が多ければこちらの方が使い勝手が良いだろう。(流石にLv.8もある空間魔法は一度だけの使用でレベルが上がる事は無かった……)
その後実際に誰もいない水場の水桶を使って実験もしてみた。
一ヶ月経った今、俺は王侯貴族の誰よりも充実した入浴ライフを送っていると自負している。(今の所誰にも気付かれていない……)
六日に一度の休みには城下に出る事も有ったので、市井の人々と触れ合う機会も増えたのだが、魔族の侵攻だとか亜人の反乱だとか、この王国の上層部が異界の存在に泣きつかなければならない事の噂など、爪の先ほども聞く事は無かった。
勿論、勇者が異世界から召喚された事実を知る者など庶民の中には誰も居なかった。
同じ王城内に居るはずの勇者達の姿を見る事など有るはずもなく、その存在の噂すら聴く事のない中もうそろそろ本格的に活動を始める為にはどのように行動すれば良いのか、真夜中の水桶(良い加減に温め済み)に浸かりながら思いを巡らせた。
明けましておめでとうございます。
サブタイトル…難しいです…。当初は場所攻めで行こうと思っていましたが、まだあまり主人公が動いていないので場所に拘ると同じ所ばかりになってしまいそうです……。で、既に諦めのサブタイです。




