第7話
WCOの正式サービス開始から三日目。日曜日だということもあり、この日のオルベールは朝から賑わっていた。
中央の噴水広場から東の方向にしばらく進むと、細い道が入り組んだ地域がある。そこには小さな家々が隙間なく立ち並び、綺麗に区画分けされた中央とはまた違った雰囲気が漂っていた。
オルベール東地区、プレイヤーの間では職人区域とも呼ばれるこのエリアでは、現在、トンテンカンという小気味の良い金属音がテンポよく鳴り響いていた。
「どんな武器になるのかな?」
待ちきれない、そんな感情を乗せてハルカが言う。隣に立っているタクが、複雑そうな顔でそれに答えた。
「さあな。てか、俺の武器なのになんでお前の方が楽しそうなんだよ」
「別にいいじゃない。……新しい武器って、なんかワクワクしない?」
「それは分かるけどな」
ハルカとタクの前では、ずんぐりとしたもじゃもじゃのおっさんが難しい顔をしながら、赤熱した金属塊に金槌を振り下ろしていた。金槌が赤い塊を叩くたびに、目が痛くなるような白い光と火花が散る。ほんのわずかな歪を含んだ金属音を鳴らすその光景は、二人して思わず見入ってしまうような魅力を持っていた。
「……ふむ、こんなものか」
二十回ほど金槌を振り下ろしただろうか。もじゃひげのおっさんは一言つぶやいて体を持ち上げ、額に巻いたバンダナで汗をぬぐう。
そして金属塊は、赤いエフェクトとともにその形状を変化させ、片手剣の形をとった。片手で持つにちょうどいいほどの長さの柄。刀身は幅広で肉厚。剣先に進むにつれ、一度緩やかに広がり、そこからは切っ先に向けて一気に収束する形だ。暗い金属光沢を放つ、両刃の片手剣。
「グラディウス」
「……は?」
ハルカの口から、その剣の名がこぼれた。
おっさんに差し出された剣を受け取り、手になじませるように振りながら、タクが疑問の声を上げた。
「古代ローマの剣闘士が使った、割と有名な剣だね。正統派の剣だから使いやすいと思うけど……」
へえ、とつぶやきながらタクが剣を振る。すでに五十時間以上、この幻想世界で戦っているからか、その姿はずいぶんと様になっていた。
WCOの武器生産システムは、ずいぶんと変わっている。
まず、武器の生産を依頼するためには素材が必要だ。それは金属アイテム然り、MOBのドロップする爪、牙、鱗、甲殻などの獣素材アイテム然り。ここまでは他のゲームと何ら変わりはない。
異なるのはここからで、依頼者が持ち込む素材は指定されていないのだ。
依頼者は自分で素材の組み合わせを決め、指示された金額を支払い、剣を作成してもらう。そして、持ち込まれた素材の組み合わせ、ランク、運と称された乱数プログラムによる演算を経て、生み出される武器の種類とパラメータが決定される。
β経験者が言うには、一般に奇剣と呼ばれる形状の武器ほどレア度が高く、さらにその上位に名剣、宝剣などの一品ものがくる。
そこから察するに、かなり有名な剣であるグラディウスは、そこまで高性能なわけではなさそうだ。
「まあ、まだ初めの遺跡すら攻略できていないわけだからな。そんなに期待していたわけじゃない。ただの鉄の剣じゃなかっただけマシだろう」
「そうだね」
WCOのハズレ装備三種類、鉄の剣、鋼の剣、鋼鉄の剣。これらは銘無しと呼ばれ、総じて低いパラメータを持つ。名前の違いは使用した素材アイテムのランクに呼ばれるものだ。プレイヤーの間では、これらが出たら溶かしてインゴットにするしかないなどと言われている。
タクはグラディウスを腰に差し、大きく息を吐いた。
「何はともあれ……ようやく、全員分の装備が整ったな」
そう。
タクのグラディウスで、ハルカ、クオン、シーネ、そしてタク……この四人の装備の強化がすべて終わったのだ。ハルカの装備も一新され、ずいぶんと外見も変わっている。
これまでは、全員初期装備の布のシャツに皮の胸当てという貧相なものだった。防御力などスキル補正の方が大きいんじゃないかという有様である。
それが今や、例えばハルカなど、全身を強化した革の装備で覆っているのだ。
ちなみに外見だが、全てのパーツが黒を基調としているため、どこぞの暗殺者のような格好だ。だが、インナーは臍の上まで、下もホットパンツと脛を覆い隠す編み上げのブーツ、その上に膝まであるロングコートとそれなりに露出があるため、白い肌との対比が目にまぶしい。
ストーリークエストを進めたことで解放された湿地帯に出現する熊型MOBの毛皮をふんだんに使用しており、現段階では最高の装備と言える。
さらに、強化されているのは防具だけではない。
腰にはホルスターが下げられ、銃を出していない間は攻撃を受けても耐久度が減少することがなくなった。また、弾薬合成スキルを所得したことで、さらに高威力の攻撃が可能になり、また片手剣もスクラマサクスと呼ばれる形状のものに変わっていた。これは古代のヨーロッパで使われた、肉厚の刀身を持つ片刃の長剣である。
パーティメンバーであるクオンとシーネにも同等の強化が為されており、またレベルも上昇しているので、第一の遺跡の攻略標準レベルはクリアしているだろう、というのがハルカたちの見解である。
「これで、第二回を決行できるな」
「そうだね」
万感の思いを込めてつぶやくハルカとタク。
ほとんど完全スキル制、さらにプレイヤースキルが重視されるゲーム設計からか、WCOにおける装備生産の難易度は極端に高い。欲した性能と外見が手に入るとは限らない変数処理は勿論だが、そこに辿り着くまでに必要な素材回収の量も半端ではない。当然失敗作であれば集めなおしとなり、必要な素材はまた増える。
そんな苦行を乗り越えたから今があるのだ。思わず遠い目をして過去を振り返っていたとしても仕方のないことだろう。
「さあ、クオンとシーネを呼んで、第二回ボス攻略会議を始めよう!」
「おう!」
高らかにハルカが宣言し、タクが空に拳を突き上げた。




