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幻想世界の銃使い  作者: 月乃 綾
第一の遺跡
6/10

第5話

お久しぶりです。

そして短いです。すみません。

 始まりの街オルベールにある酒場の一角。そこでは四人のプレイヤーたちが、料理を摘みながら話をしていた。


「やっぱ、早期の攻略を目指すなら回復職と重火力のメンバーを加えるしかないな」


 タクの言葉にハルカは頷きを返す。


「そもそも、適正レベルに到達してるかも怪しいけどね。いや、もしかしたらあれレイドボスじゃないの」

「それはない」

「なんで? 姉さん」


 否定したのは相変わらず無表情かつ言葉の短いクオン。ハルカが促すと、一つ頷いて口を開く。


「部屋が狭い」

「あー、なるほど。確かに大人数は入らないかな」


 レイドボスとは、多数のパーティが協力して挑む敵のことだ。それはつまり、ボスフロアでは数十人のプレイヤーがアグレッシブに動き回るという事である。あの部屋の広さでは入れたとしても戦う事などできはしないだろう。


「つまり、あの蛇はワンパーティで対応できるようになってるってことか?」

「レベルが足りてれば、ね」

「始まりの街の隣のゾーンだぞ? そこまで高レベルを要求されるはずはないだろ。……おいハルカ、食べ過ぎ」

「いいじゃん。ボクも払ってるんだから」


 LCOの酒場を含む料理店では、食材アイテムを持ち込んで調理してもらうことができる。料理には味を楽しむ以上の意味はないが、LCOの味覚再生エンジンは随分と高性能らしく、リアルではなかなか食べられないような高級料理を味だけでも楽しめるとあってなかなか好評だ。

 彼らが持ち込んだのは当然、遺跡で大量に倒した蛇型MOBのドロップアイテム、蛇肉だ。淡白な味の肉に照り焼き風のタレをかけて焼いたこれが意外とハルカの口にあったらしく、先ほどから手が動き続けている。ちなみにドロップ主である蛇型MOBのことは考えないようにしている。


「そもそも食材アイテムなんて、こういうことにしか使えないんだから、ボクのは正しい消費だよ」

「いやまあ、そうなんだけどな」

「私も食べる」

「クオンまでっ」

「あ、姉さんそれボクの」

「もらい」

「あー」


 途端に騒がしくなる彼ら三人は、ゆっくりと未だ一言も話さないシーネに視線を向ける。


「まだ気にしてるの?」

「え? あ……」


 ハルカの軽い口調に戸惑った様子のシーネ。


「ボスなんてまた挑めばいいだけだしさ、そんなに気にしなくてもいいんだよ」

「でも……私のせいで……」

「あー」


 おそらくシーネは、これがゲームなのだと未だに実感できないでいるのだろう。

 この世界では、プレイヤーたちは自らのキャラクターを己の体のように動かし、活動している。五感もあり、現実と遜色ないリアリティを誇るVRゲームの中で起こることをゲームだと割り切れない人も中にはいるだろう。特に、初めてプレーする人には多い。


「シーネ」

「クオンさん?」


 クオンの瞳の奥にはどこか面白そうな光が宿っていた。シーネの声に戸惑いが混ざる。


「ゲームは、楽しんでこそ」

「ははっ、その通りだな。負けたからって凹んでちゃゲームやってる意味ないぜ」

「そうそう。楽しくないゲームはゲームじゃないよ」


 シーネは少しの間ポカンとした表情を見せ、そして可笑しそうに笑った。


「そう、だね。楽しんでこそ、か」

「うん。失敗して、どうしたら勝てるのかって悩んで、また挑戦する。それもゲームの、もっと言うと最前線で戦うボクらだけの楽しみ方だよ。こうして、どうしたら勝てるのかって考えるのが楽しいんだ」

「ああ、そうだぜ。だから、別に失敗なんて気にしなくてもいいんだよ」

「……そうだね。ありがとう」


 そうして、ようやくシーネはいつもの楽しそうな笑みを浮かべた。


「さて、んじゃ攻略会議の続きだ。回復と火力のメンバーを加えたいってことでいいのか?」

「うん、それでもう一回挑んで、ダメならまた考えるでいいんじゃないかな」

「だな。どんなやつがいいとか、意見あるか?」

「薬師」

「魔術師じゃなくてか?」

「MP」

「なるほどな」


 クオンは回復職として薬師をご所望のようだ。たしかに、現在の最大火力であるクオンが魔術師であることを考えると、MP回復の手段があった方がいい。下級の回復魔術にはMP回復の手段がないので、薬師を加える方が都合がいいのだ。


「魔術師がいいやつは……いないな」

「クオンの意見に賛成だよ。MP回復の手段は絶対に必要になる」

「しかし、序盤から生産職、それも薬師を育ててるやつがいるかだな」

「うん。生産といえばやっぱり鍛冶師が花形だからね」


 まだこのゲームは正式サービスが始まって数日。そんな序盤から生産職に手を出すのは……いないとは言わないが、かなり珍しい部類に入るだろう。

 そして、その中で、遺跡攻略に同行してくれるプレイヤーとなると、さらに枠は狭くなるだろう。


「んじゃ、薬師はまた探すとして。火力メンバーなんだが、ちょっと俺の方に当てがあるんだ」

「アスカ?」

「そう」

「アスカって誰?」


 納得顏のクオンとタクの二人にハルカが首をかしげる。


「ああ、βで知り合ったプレイヤーで、打撃武器の使い手だ。実力的にも申し分ない」

「ふーん。タクに女の知り合いねえ。……ま、実力があるならボクは構わないよ」


 疑うように視線を向けるハルカに、タクが困ったように笑う。


「俺はお前の中身を知ってるからいいけど、知らない奴から見たら完全に嫉妬だぞ。気を付けろよ」

「そう思わせるのもおもしろそうだね。なにせこのパーティ、タクのハーレムだから」

「おいっ」

「はわわ……タクくんの……」

「シーネも乗り気みたいだよ」

「ちょ、陽菜? 帰ってこーい」


 思わずリアルの名前を呼んでしまうほど動揺しているらしい。

 これで薬師も女性プレイヤーだったら、本格的にタクのハーレムだ。


「フラグが立ったね」


 こっそりとガッツポーズのハルカだった。

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