ユメクニ
5年前の今日みたいに蒸し暑い夏の日、俺 の親友は青狐に魅せられ心を失った。 とある病室に一人の美少女がぼうっと窓を 眺めている。少女の名前は心無唯。街を歩 けば振り返るレベルの美少女だ。だが唯が 病室をでることはない。 「唯、今日はお前の誕生日だったよな。誕 生日おめでとう」
「…………」
反応は無い。いつものことだ。 いつも俺が気の済むまで話しかけるだけ だ。
唯の親や医者からは唯はもう前のようには 戻らないだろうと随分前に言われた。 あの時、俺が唯から離れなければ……。
今日のような蒸し暑い夏のある日、俺はい つものように唯と神社の近くの公園で遊ん でいた。
そのうち遊び疲れて神社の境内の日陰で二人で休ん でいたら、唯が唐突に、
「龍太って私のこと好き?」
なんて聞いてきた。 思春期バリバリだった俺は、しどろもどろ に、
「ええっと、いや、そう」
「私は龍太の事好きだよ。龍太は私のこと 好き?」
当然俺も唯が好きだったのだが、その時 は、思いの外テンパって、
「ジュース買ってくる!!ファンタのオレ ンジだよな?」
なんて言って自販機まで走って行った。 あれが唯と喋った最後の会話だ。 ジュースを二本抱えて戻ると青い狐のマス クを被った白装束の奴がいた。
そいつの被っている青狐のマスクは、どこ に売っているのか聞きたくなるレベルの完 成度で、本物の狐の頭を青く塗ったみたい だった。 そして、その傍らに唯が倒れていた。
「てめえ、唯に何した?」
青狐は何も答えず、ただじっと俺を見てい た。
青狐の気味の悪い紫色の眼を今でも覚えて いる。
青狐は俺を暫く見ると、すうっと消えた。
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