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深緑

一週間以上間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

これからは気をつけるようにします。

 石同士を叩きつける音の横で焚火の勢いによって枯れ木が小さく爆ぜ、熱により風が巻き起こる。焚火のそばには木の枝で串刺しにした川魚と蛇肉が表面を茶色に焦げ色を付け、所々からふつふつと脂が滴っている。


「おっと、危ない危ない。あっつつ」


 石を叩き削り、尖った刃物を作る作業に集中していたため蛇肉を焦がしそうになり、慌てて掴んだため軽いやけどを負ってしまう。


「いちちち……ふーっふー。ハフッハム、うんめぇ」


 口を火傷しないように気をつけて蛇肉を一先ず地面に突き刺し、焼き魚にかぶりつく。


 最初の狩りから一週間、この世界に来てから十日が経過していた。あれから毎日野イチゴの栽培、水の煮沸、狩り兼周囲の探索、川での釣りを繰り返していた。野イチゴは三日に一度のペースで甘い実をつけるので尽きる事なく安定して栽培する事が出来ている。水の煮沸も慣れたもので手間もかからずに済むようになった。問題の狩りだが、最初の四日は鹿や猪などの大型の動物を狙い、石槍も命中させる事に成功していたのだが分厚い毛皮や筋肉に阻まれて深手を与える事は愚か、血を流させる事も出来ない状況だった。この世界の生き物は小さいものから大きいものまで総じて体力、防御面等が地球の何倍も高く石槍程度の武器では大型の動物を仕留める事が出来ない事が判明した。そこでターゲットを変更し、蛇、蛙、兎、鼠、鳥などの小動物をターゲットにする事にした。蛇と蛙は鉈や素手で簡単に捕まえる事に成功したが、その他の素早い小動物はこちらより素早く捕まえる事は出来なかった。そして、このままだと蛇や蛙、干し肉だけではいずれ食糧が足りなくなる可能性が出てきたので近くの川で釣りをする事にしたのがつい昨日の事である。


「蛇喰うの最初抵抗あったけど意外にイケる味なんだよな、小骨が多いのが少し食べづらいだけでいい食糧だわ」


 喉に刺さる危険がある尖った骨だけ吐き出し、魚とも鳥とも言い難い独特な味わいの肉を小骨と一緒に呑み込む。


「やっぱ漬物ぬったほうが美味いな」


 納屋にあった塩でつけられた漬物、梅干しのような見た目で味噌と梅干し

を混ぜた味であるこれをすりつぶし、塩気のない肉につける事により味の向上は勿論塩分の補給にもなっていた。納屋には大亀三つ分もの量があり、塩が足りなくなるのは数年後だろうと予想している。


「さて、こいつで上手く行けばいいんだがな」


 朝食を平らげ、地面に並べられた十数本のとがった石を風呂敷に詰め、炙って撓らせた竹と枯草を束ねて作った糸で加工した手製の小弓――弓丈1m程――を肩にかける。


 弓矢の作成は小学校の頃の自由研究でやった以来であり、おぼろげな記憶をたどりながらの製作であったため、簡単な弓でも完成するまでに三日かかってしまった。簡単な弓矢であれば竹とタコ糸と葦さえあれば半日で飛距離50m程の弓矢を作ることが出来る。この世界で一番苦労したのは弦の調達であった。最初は布を裂いて糸を取り出したものを束ねて使ったが強度が足りなかった。そのほかにも麻糸のようなものを作ろうとしたが適当に出来るものではなく、上手く行かなかった。だが、気分転換の為に廃村の家を数件捜索していると、ある一軒に漁業用の釣竿、針、網等の用品が揃って放置されてあった。この釣り糸を利用する事で弦の問題が解決したのが昨日の事である。釣りを始めたのもこの発見が切掛けであった。矢のほうは植生豊かな森に救われ、葦に似た草も繁殖していたため矢じりに使う石の加工以外は製作に苦労しなかった。


 石の加工は川辺に転がっていた黒曜石を使用した。黒曜石は地球では世界各地で取れていてなおかつ加工しやすいかなり有用な石である。それはこの世界でも変わることはないらしく、よく探せば簡単に黒曜石を見つけられる事ができた。矢羽に使う羽根は森を散策している途中でかなりの量を拾う事が出来たため、これで弓矢として一応の形となるものが完成した。




「こんなもんでいいか」


 廃村に移動し、太さが50cm程の白がかった灰色の幹に炭で三重丸を書き、的に見立てる。


 的から10m程離れ、手製の弓に矢を番えて的の中心に意識を集中し、弦をキリキリと音がなるまで引き絞り、放つ。


 放たれた矢は、タンッと音を立てて外側の円より20cm程上に深々と突き刺さっていた。


「この威力なら当たれば捕れる……」


 刺さった矢に力を込めて木から抜き、弓の威力を確かめる。

 



 先ほどと同じ位置で練習をし、百発放つ頃には十中八発円の中に安定して当たるようになる。そのうち八中一発は真ん中に命中した。


「動いてる的に当てるのは一朝一夕じゃ無理だな。一応狩りでの訓練も毎日しようか」


 弓矢を百発放ち終わり休憩中に水と飯を腹に詰め、午後の狩りの為の準備を始める。朝と夕方に限定して取れやすい魚と違い、森の小動物は昼の間中草や虫を食んでいる為日中ならいつでも大丈夫なため正午前から四、五時間を狩りの時間に当てはめていた。


「よし、水と干し肉、鉈に蛇用の銛、弓に矢十五本、十徳ナイフにライター

、剣鉈にシャベル。こんなもんでいいか」


 荷物を揃え、靴紐を固く結び服装を確認する。


 弓の弦を探している最中に見つかったいくつかの道具の中でとくに収穫だった道具が狩猟用ナイフである。



 剣鉈と鉈の違いは、鉈は刃の部分が長方形の形をしており枝打ち、木を削る、雑草を切り払う、動物を解体するなどの目的で用いられる。対して剣鉈は先がナイフのように刀剣の形となっている。剣鉈の用途は大型の動物を捕まえた時にトドメを刺す。獲物の皮を剥ぐ。獲物を解体する。である。この両者の道具の共通点は刃が分厚く切れ味が良く刃こぼれしにくい。手が滑ってすっぽぬけないように持ち手が端になるほど太くなる振りやすい構造になっている。


 その他にシャベル持参する理由は大型動物用の落とし穴を作る為で、大型の鹿や猪といった動物がハマるほどの深さを掘るのにシャベルが非常に有効だからである。





「ここらへんに仕掛けるか」


 廃村から三十分程離れた場所に蹄型の足跡が散乱している地帯を見つけたので、この一帯に罠を掘る事にする。


「とりあえず五箇所くらいでいいか、あとは刺さるかどうかの賭けだな」


 石槍を弾く毛皮と筋肉、または甲羅のような硬質な肌、甲殻をもっているこの世界の大型の動物を落としわなで捕らえるためには最低でも深さ2.5m、半径80cmは必要であり、底には固く頑丈な木を斜めに切った杭を複数設置する必要がある。いくら頑丈な皮膚をしているといえども、自重で落下した下にある杭には傷を負うはず。そう考えて太さ5~10cmの木を杭として設置することにした。


「ひとまずこれでよし、あとは弓の練習がてら狩りといきますかね」


 罠をほり、杭を設置したあとに小動物が上にのっても落ないように木の棒で格子状に蓋をした上に違和感のないように落ち葉を被せて完成させた。


 最後の罠のカモフラージュが終わると、しゃがんでの作業で固まった体を伸ばして弓を肩から外して頭を狩りへとシフトし罠から数十分離れた場所に移動する。


 狩りを成功させる為にはどうすればいいのか、この一週間こればかりを考えていた。まず気づいた事は匂いと音の重要性だ、自分が獲物の風上に立った瞬間獲物はその場から逃げてしまう。そして今度は風下に回ろうと動いて枝葉を折って音を立ててもすぐ逃げてしまう。最初は近づく事も至難の技だったが、今ではある程度慣れてきて射程圏内に入る事はなんとか出来るようになっていた。そしてここ数日であたらしく気づいた事が一つあった。それは集中すればするほど体がその通りに動くことである。これは普通で、当たり前の事ではあるが、集中や思い込みで出来るレベルを超えていた。例えば、野球を殆どしない人間が自分の最高速度でストライクを決めたいと思って投球したとする。その場合、大抵の場合あさっての方向に飛んでいく事が殆どで、自分の理想通り投球出来るようになるのは一朝一夕ではない。それが半日練習すれば八、九割ストライクになるといった具合なのである。試したことのない黒曜石での矢じりや槍作り、弓矢の射撃といった初めて挑戦する事柄だらけであったが、どれもものの半日で形になっていた。これは今までに経験のない事である。また、身体能力にも影響があるようで早く目的地に着きたいと心の底から思うと普段の二割増しで走る事が出来たり、それと同じように嗅覚や視覚も同じように集中すればするほど強化された。


「来た」


 地面に耳を付け、集中することによって草をかき分けて近づいてくる生き物の気配を感じて立ち上がり影に隠れる。


(殻兎か……)


 草陰から出てきたのは頭と背中をアルマジロのような硬い甲殻で覆い、長い耳を持ち、腹部にはふわふわとした柔毛が生えている殻兎だ。


 殻兎を捕らえる為に弓に矢を番える。ゆっくりと深呼吸をして弦を引き絞る。番えた矢が殻兎の首に命中するイメージを強く浮かべ、集中する。意識が高まり集中が最高潮になると自然と弓から矢が放たれる。その瞬間、目の前に壁が現れた。


「…………」


 そいつは森の地面を覆う木々を容赦なく粉砕しながら空からやってきた。全長約10m、前足二本後ろ足二本の四足歩行、太ももが巨木のように太く、深緑の刺々した甲殻に包まれ間接の裏側などの部分は黄緑色の硬質な皮膚に覆われている。前足には四本の指に長さ15cmはある肉厚で鋭利な爪を携えている。頭部は獰猛なトカゲを思わせ、口から長く鋭利な牙が覗いている。頭部から、胴体の1.5倍はある長い尻尾の先まで白く細い絹のようなたてがみがたなびいている。そして背中から皮膜で出来た翼が生えている。地球では架空の生き物として最も有名なうちの一つであるドラゴンが目の前に君臨していた。


 深緑の鱗と甲殻に包まれた体に一筋の純白のたてがみ、神秘的な雰囲気に凶暴で野性的な肉体を両立した化物が着地の硬直から開放され、ゆっくりと首をもたげ、二本の足で立ち上がり見下ろしてくる。


「おいおい……嘘だろ」


 呆然とつぶやくことしか出来ない自分をよそにドラゴンは体の筋肉に力をいれ、空気を吸い込み自らの存在を見せつけるかのように咆哮した。


「グォオオアアアァアアアオオォォ!」


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