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現実

少し書き加えました

 太陽が昇り、空が白みだすと森が森特有の生活音に包まれ始める。

森の住民達が眠りから覚め、朝食を取る為に活動を開始する。鳥は木の実を啄み、鼠は虫を捕まえ、猪が土を掘り木の根やミミズを食べる。巣穴から出てきたこれらの動物を捕食する肉食動物も活動を開始する。鳥の囀り、捕食された動物の断末魔、これらは人間社会でいう朝刊の配達のバイクの音、道路を一斉に走りだす車の音であり、森の住民による生活音である。


「はらへっだ……˝あー、喉いでぇ。今何時……。ああ、家じゃなかったな」


 森に響き渡る生活音によって眠りから覚めると、まず空腹と喉の痛みが体を襲う。そして、時間を確認しようとしたが、周りの景色を見て自分の現状を思い出し落胆の声を出す。


「そのまま寝ちまっだのか、づかれてだからな」


 靴を履いたままの足を見てそう呟く。


「とにがくはらへっだ、なんか食いもん˝ねーかな」


 ポッケに残っていた飴玉を口に含み、ベッドから降りて探索を始める。





「取りあえずこんなもんか、思ったよりも汚れてなかったな。」


 軽く掃除をして換気中のリビングの床に、使えそうなものを並べておく。


「食いものは納戸にあった塩と砂糖の漬物の二種類。干し肉数キロ。台所用品は洗剤以外揃っていて、食器各種もある。空になった水瓶もあったな。あと箪笥に入ってた民族衣装っぽい服と大きな布が数枚。んで鉈、斧、シャベルなどの日曜大工セット。ただこれは……」


 干し肉を齧りながら床に並べた物品の数々に書かれた文字を見て唸る。


「どこの国の言語だよ。ここの家主は外人だったのかもな」


 棒と点と曲線でのみ綴られた言語を見てそう判断した。


「食と住は確保した。あとは飲み水が必要か、井戸とかあれば楽なんだけどどうだろ」


 干し肉を数枚と塩の漬物を少しだけ布に包み肩にかけ廃屋から出る。


「草が凄いなこりゃ、この村が捨てられて数年は立っているのかね」


 腰の高さまで伸びた草木をかき分け、廃屋の周りを井戸があるか探す。


「うーん、中々見つかんねーな。となると中庭か……水は絶対に必要だからな、近くで取れるほうがいいし」


 肥料などが捲いてあったのか、中庭は肩の高さまで草木が生えており、足を踏み入れるのをためらう程鬱蒼としていた。自らに言い聞かせるように呟き、鉈を手に持ち中庭に足を踏み入れる。


「案外綺麗に切れるもんなんだな」


 指の太さ程度の木なら簡単に切れる鉈を使いながら自分の持っていた十徳ナイフだともっと苦戦していただろうと思い、自分の幸運に感謝する。


「おっ、あったあった。あとは枯れてなければ……見えねぇ」


 発見した直径1m程の井戸を覗き込み水があるか確認するが、木々のせいで日が遮られ薄暗いため底が暗く水の有無が分からなかった。


「石落とせば分かるか」


 足元にあった小石を井戸に落とすと、1秒位で水音がした。


「よっし、水あるみたいだな。にしても10mくらいか、井戸の平均的な深さがわかんないからなんとも言えないな。あとは桶とかあるはずなんだが」


 井戸の知識が分からない為首を傾げながら桶を探す。


 因みに井戸には浅井戸と深井戸があり、一般的には水面まで20m未満が浅井戸であり、それ以上の深さの井戸が深井戸であるとされている。


「これで水を汲んで……重い」


 すぐ近くにあった桶を井戸に放り込み、水をすくう。


「よいしょっと。綺麗な水だけど一応煮沸しないとな」


 くみ上げた桶の中に満たされた透き通った水を見てそう呟いた。




「あっちち、キャンプファイヤーなんてガキの頃ぶりだな」


 水が入った深鍋を木で支え、たき火の熱で煮沸したお湯を飲む。


 幸い森の中である為、枯れ木はそこら中に落ちていて薪に悩む事は無く、手持ちにライターもあった為火は簡単に点けられた。


「これで誰か気づいてくれたらいいんだが、夜だからあんまり意味ねーかもしんないけどよ」


 廃屋の中に釜土もあったのだが、遭難の身とあって外で火を焚くことにより誰かが気づいてくれる事を望んでのたき火である。


「……ふぅー」


 残り10本を切った煙草に火をつけ、暗くなった夜に赤々と燃える火が肌を温めるのを感じ一息つく。


「今、俺はどこにいるんだ」


 上を見上げると、木々の隙間から光の川と銀色の光を放つ二つの三日月が見え、夜の暗い世界をてらしていた。


「薄々、な。薄々気が付いてはいたんだよ。文字だって見たことねぇ。そこらにいる動物だって記憶と違う。植物だって日本に生えてる奴じゃねぇってな。でも、でもよ。それならオカルト現象かなんかで海外にいるって思えるじゃねぇかよ」


 ぽつりぽつりと口から言葉が零れ落ち、現実を睨み付けるように空を見上げ、煙草を口から外す。


「ふぅー。でもよ、月が二つなんて見ちまったら、もうここは地球ですら無いって認めるしかないじゃねーか」


 二つの月と川のような密度で光を照らす星々の下で半分程灰に変わった煙草が火の中に投げ込まれる。そして、廃屋の中に入り、逃げ込むようにベッドの中に身を沈める。





「朝か」


 動物たちの鳴き声で目が醒め、緩慢な動きで自分の周りを確認する。


「もうここは地球じゃねーんだよな」


 自分が地球ではないどこか別の場所にいる事が解り、助けを待っていても誰も助けに来ない事が確定したため、茫然とするしかなかった。


「こんな状況でも腹は減るもんだな」


 自分の胃が空腹を訴え、胃が縮こまるのを感じた。


「取りあえず歩くか」


 半ば自暴自棄になり、未知の森を目的もなく歩く事に躊躇う事は無く、フラフラと廃屋から出て、そのまま廃村が見えなくなるまで歩いて行く。


「こうしてみると全部が新鮮だな、目に見えるもの全部が向うとは違うんだもんよ」


 視界に入る動物、植物の全てが日本でも図鑑でさえも見たことの無いものばかりであった。リスのような小動物は背中が甲羅に覆われ、普通の木に見えるものでも食虫植物であったりと、目新しいものばかりであった。


「こいつらにとって俺は完全な異物何だろうな、何せ違う星から来たんだ。邪魔者でしかない」


 太陽の暖かい光が燦々と射し込み、青々とした生命溢れる森の中に存在する自身の孤独を実感し、震えるような声を出す。


 孤独に身を包まれながらも足は止まらず、歩き続ける。この先に何かあるのを期待するかのように。どのような形でさえ自分を必要としてくれる何かに出会う為に歩き続ける。


 ある時、目の前の景色がいきなり開け、崖に突き当たった。


「……すっげぇ」


 足元には数十メートルはあろうかという断崖絶壁、下には濃い緑の森が広がっており、所々に自分がいる所と同じくらいの高さの山が見える。その山々から下の森に滝が轟々と降り注いでいる。地平線の先にある森を見ると目の錯覚かという程に大きい林があった。一本が高さ百メートルはあるかという巨木の林の中心に、数本の巨木が絡みつきながら天へと延びる巨木の塔がそびえ立っている。下に視線を戻すと森の中で爆発が起き、高さ十メートルはある木々が空中に吹き飛ぶという異常な光景が目に入る。そこでは三本角を赤々と燃やす恐竜のような化け物と全身を水晶のような結晶で覆った巨大な爬虫類のような化け物が戦っていた。戦いの余波を避けるように二者の周囲の森から動物や鳥が逃げていく。その中にはゲームや小説でみるような小型のドラゴンも目に付いた。


「ははは、すっげぇや」


 今まで想像上のものでしかなかった化け物どうしの戦闘や生き物、世界が目に映り、ショックと興奮で力のない声がでた。


 二者の化け物がぶつかる度に森に空白地帯が出来る。三本角が突進するたびにおおよそ十平方メートルの森を炭にし、なぎ倒され、結晶の化け物が鈍器のような尻尾を振り降ろすたびに地面が数メートル隆起し、クレーターができる。この一帯だけ戦争でも起きているかのような苛烈さである。それだけ派手な戦闘であるが故に回りへの被害も甚大で木や石の破片が周囲に飛び散っている。時には木や岩が丸々一個飛ぶので安全地帯がどこか分からなくなるほどである。


「いくらなんでもここまで飛んで来ないよな……」


 食い入るように戦闘を見ていたが、この懸念が脳裏をよぎりつばを飲み込む。その瞬間だった。三本角が大木に角を刺し、炭化させ硬質化した巨大な木炭を結晶の化け物に投げつけた。しかし、それを結晶の化け物は間一髪で避ける。そのまま巨大な木炭は空中に飛んでいき、自分がいる崖に向かってきた。


「やっべぇ!」


 焦って元きた道を走って逃げる。その瞬間さっきまで自分がいたところに巨大な木炭がぶつかり砕ける。


「くくく、くくっ、あーっはっはっはっは! いひひひひっひーひーひー」


 さっきまで自分がいたところが自分の数倍の質量がある木炭に押しつぶされているのを見て笑い出す。


「はぁー、はぁー……なんだよ、生きたいんじゃねーか」


 危険から逃げる、当たり前の事で可笑しなことではないが、さっきまで食べられてもいいと思っていた自身の身体が生きたがっている事が無性に可笑しくなった。


「しゃーない、いっちょ生き延びてやろうじゃねーか。もといた世界よりも面白そうな事が多そうだしな」


 先ほどと異なり、生気に満ちた表情で言葉を吐き出す。



 


「一つ目、クリア。二つ目、衣食住はクリア、現在地、地球以外のどこか。三つ目、大体のものは揃っている。四つ目、助けはこない、生き延びる為に必要な事を考える。ってとこか。」


 崖から廃村まで戻ってきて最初にしたことは現状の確認であった。これは新しくここで生活を始めるということを自身に言い聞かせる意味合いを含んでいる。そして、自分の感情を確かめると絶望はなく、今朝と打って変わって生きる気力に満ちている。活力に満ち溢れ、顔には笑みが浮かんでいた。


「こんな状況だってのになんで笑ってんだか俺は。まー実際地球に思い残す事は殆ど無いし、生きてられりゃ御の字って事かね」


 両親は大学卒業1年後に事故で亡くし、両親が祖父に勘当されていたため親戚ともかかわりが無く。仲のいい友人はいるが一生会えなくて後悔するような奴らじゃない。少し寂しいが。


 こう思い、この世界で生きてゆく事を心に決める。


「取りあえずこの星にも知的生命体と文明があることは分かった。廃村を見るに生活スタイルは人間と殆ど変らないみたいだし意思疎通も出来るだろう。言葉は通じないと思うが。」


 廃村で見た様々な事を思い出し、そう呟く。


「いきなり他の村を探しに旅に出かけたらまず間違いなくお陀仏だろうから、ここを拠点にして徐々に探索するしかないか」


 いくら普段から筋トレしていても山道に慣れているわけでもなく、ましてあの崖でみた化け物がうようよしてるようなこの森を準備もなしに動くのは自殺行為、そう考えてこの廃村を拠点にして生活を安定させ、捜索をする事に決めた。


「そんじゃ、まずは食糧があるうちに新居の大掃除と行きましょうか」


 干し肉を齧り、水を流し込み新居である廃屋を掃除する事にし、ベッドから立ち上がる。


 箪笥にあった布を十徳ナイフで切り、雑巾代わりにし、井戸から新しく汲んだ水で濡らし廃屋を掃除していく。その際に虫や鼠などの小動物が隅から出てきて潰すか追い出すを繰り返すうちにある事に気づく。


「なんか妙に硬かったりトゲトゲしてるな、さっきもみたけどこの星の生き物は皆こんな感じなのか?」


 蟻やゴキブリのような甲虫類を潰す時やつまんで庭に放り投げる時に地球で慣れ親しんだ者達よりも頑丈であったり、身体の至る所に硬質なトゲが生えている事に気が付き。鼠には柔らかい体毛ではなくアルマジロのような硬質な甲殻が背中を覆い、ごわごわした硬質な毛が腹を覆っていた。


 これだけでも地球で慣れ親しんだ生き物とは異なっていたが、より顕著だったのは植物であった。


「成長早すぎだろ……」


 昨日膝の高さまで伐採した草木が一晩たった今、太ももの高さまで成長していたのだ。


「こいつらもほっといたらあんだけ高く伸びるのかね。まぁ伸びられたら困るから抜くしかないんだが」


 崖でみた空まで伸びる巨木を思い出し、そしてこの成長スピードだと伐採するよりも抜くしかない、そう思い目の前に広がる鬱蒼とした植物群をみて憂鬱に呟く。


「これでラストっと、ふん! だぁーつっかれたー!」


 最後の低木を抜き取り、それを山のように積み上げられた草木に投げ入れる。


「腹減ったなぁ、飯にするか」


 新居の掃除を終え、中庭の草ぬきを終えたころには日が真上に登っていた。


干し肉を齧り、残り少なくなった水を飲む。


「また新しく煮沸しなきゃな、助けを呼ぶ必要もなくなったし家の釜土使うか。あとは野菜だ、肉だけってのは味気ないし何より栄養失調起こしそうだ。食える山菜とか採れればいいんだが」


 そう呟きながら干し肉を腹に流し込む。


「取りあえずこんなもんか、作業作業っと」


 手に残った干し肉の油を払うように手を叩き、井戸の水を汲むべく歩きだす。


「ふっ、あと三回くらいか」


 二回目となると初回よりも慣れた動作で水をくみ上げ水瓶に水を足していく。今回は水瓶に水を入れそのまま運ぶ事にした。


「流石にこれは入れすぎたか?」


 水が8割程溜まった水瓶をみて苦笑いを浮かべる。


「ものは試しっと、ふっ! 重いが、いけるな」


 一歩歩くたびに淵から水が零れるが何とか持ち上げ歩く事ができた。この水瓶を中庭から調理場まで持っていく。調理場は中庭と家のどちらからも行く事が出来、外と室内の間といった様相をしている。


「しょおっ! あー重かった、後は釜土に火をつけて深鍋に水を入れて放置すればいいか」


 火つけたらこのあたり軽く散策して食える実とか草あるか探そう。そう考えながら作業を進める。

 


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