第53話 再確認
長い間お休みしてすみませんでした。
テストの結果がよろしくなかったのでショックで・・・
まあ、自分が悪いんですけどね(笑)
着いた場所は、墓地だった。両親と一緒に住んでいた家の近くにある。父と母は同じ墓にしてある。
「智くんのご両親のお墓かな」
瀬良が墓の前で屈みながら言う。
「はい。最近来ていなかったものですから」
智は瀬良の隣に屈み、両手を合わせた。瀬良も合掌する。
「父さん、母さん。もう少しで犯人が捕まるよ。やっと親孝行ができる・・・」
智は呟いた。瀬良は目を開け、智の横顔を見た。
「絶対、仇を討つから」
智は強く言った。瀬良は唇を噛みしめ、頷いた。
「じゃあ、また来るから。今度は疾登と花輪も連れて」
そう言って、ゆっくり目を開けた。瀬良は慌てて視線を墓に戻す。
「疾登と花輪、大丈夫ですよね」
智は墓を見ながら瀬良に問うた。
「ああ。きっと大丈夫だ」
瀬良の答えを聞いて、少し安堵した。
「さあ、戻ろうか」
瀬良は立ち上がり、智の肩に手を置いた。
「はい」
智も立ち上がった。
そのまま2人は署へ向かった。
「よし、情報を整理しよう」
瀬良は刑事課に戻ってすぐに、この言葉を発した。
瀬良は真っ白な紙にとボールペンを持ってきた。
「大伴栄太は、高峰と連絡を取っていた。しかも、2人の間には、かなり深い関係ができていた」
瀬良は用紙の中心に“大伴栄太”と書き、その横に“高峰尚子”と書いた。
「大伴と高峰は、智くんのご両親の犯人を見つけるため、情報収集をしていた。だが、なかなか情報が集まらなくて困っていた所に、佐名木が現れた」
用紙に、大伴と高峰の間に佐名木さんの名前を書き込む。
「そして、大伴栄太の義理の妹、大伴羽菜」
栄太の上に“大伴羽菜”と加える。
「栄太さんと羽菜さん、あまり仲が良くない感じでしたね」
智が呟いた。
「ああ。栄太は高峰と会ってから急激に変わったらしいからな」
瀬良はペンを回しながら言う。
「もう、全然分からん」
瀬良はペンを放り、背もたれに全体重を掛けた。
「瀬良さん、少し休んで下さい。すみません。僕のせいで」
智は瀬良に向かって頭を下げた。
「君のせいじゃないよ・・・少し休んでもいいかな」
智は首を縦に動かした。
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
そう言って、瀬良は目を閉じた。
「瀬良さん、すみません」
智は呟き、瀬良に毛布を被せた。
ソファーに戻り、瀬良が書いた用紙を見つめた。そして、智の中である人物が頭に浮かんだ。だが、すぐさまそんなはずないと頭を振る。しかし、どうしても気になる。
智は立ち上がり、“ある人”に関係を持っている人物の元へ向かった。
用事を済ませ、智は刑事課に戻った。相変わらず、刑事課はいろんな刑事が眉間に皺を寄せて考え込んでいる。この異様な空気にはもう慣れてしまっている。
「智くん、どこに行ってたんだ」
瀬良に尋ねられ、智はちょっと散歩してました、と答えた。
「そうか。危険な所に行ったのかと思ったよ」
瀬良は顔を和らげた。
「そんなところ行きませんよ」
智は笑いながら返した。
「ところで、お体大丈夫ですか」
気になっていたことを尋ねた。
「うん。大分疲れがとれたよ」
瀬良は立ち上がり、腰に手を当てた。
「智くん、夕飯食べに行くか」
「えっ」
急な言葉に智は少し驚いた。
「っていってもラーメンだけどな」
瀬良は苦笑した。
「じゃあ、頂きます」
智は頭を下げ、瀬良について行った。
「ここ・・・ですか」
瀬良が足を止めた場所は、屋台のラーメン屋だった。木で出来ていて、所々ひびが入っていたり、腐敗している所もある。お世辞にも綺麗とは言えない。
「まあまあ、見た目は良いともいえないけど、味は最高だから」
そう言って、屋台の椅子に腰かけた。
「おじさん、いつもの2つ」
「はいよ」
智も瀬良の横に座った。屋台の主は、70代後半ほどで、優しそうな人だった。
「瀬良さんはここの常連ですか」
智は傍にあったおしぼりを2つ手に取り、1つを瀬良に渡した。
「まあな。あ、勝手に頼んじゃったけど、智くんは豚骨ラーメン食べられる?」
「はい。全然大丈夫です」
瀬良はそうか、と呟き、顔を綻ばせた。余程自慢したいのだろう。
「はい特製豚骨ラーメン2つね」
おじさんは並々の汁が入った皿を2人の前に出した。
「ありがとう」
瀬良は礼を言い、割り箸を手に取った。ついでに、智の分も取ってくれた。
「ありがとうございます」
「さあ食べるぞ」
瀬良は熱々の麺を口に運んだ。
「うまいよ、おじさん」
瀬良は笑みを浮かべておじさんに言った。
「だろ?ちょっといつもより量増やしておいたから」
それを聞いて、智はラーメンを口に運んだ。その瞬間、智は首を傾げた。
「どうした?」
瀬良が智の様子に気づいたのか、声を掛けた。
「いや、このラーメン何処かで食べた気が・・・」
思い出した。あの時のだ。
「以前、お店開いてましたよね」
おじさんに問うた。
「ええ。何故それを?」
おじさんは不思議そうな顔で智を見る。
「弟と妹と一緒に食べに行ったんですよ。何かその時のおじさんが凄く印象に残っていて」
正直な所、味も結構印象に残っている。少し油っぽかったのだ。
「ああ。そうだったんですか」
そう言って、おじさんは目を伏せてしまった。
「あ、すいません。余計な事いいましたか」
智は慌てて訊いた。
「あの人、死んじゃったんですよ」
「え・・・」
“あの人”とは疾登と花輪と一緒に行ったラーメン屋のおじさんの事だろう。智は突然の言葉に戸惑った。
「元々体が弱かったんですよ。それなのに、これが生きがいだからとか言って。大して客も入らなかったのに」
そう言って苦笑した。
「まあ、そう言う所が好きだったんですけどね。私は」
おじさんはこちらに背を向けてしまった。
――悲しい記憶を思い出させてしまった――
誰だって過去に悲しい思い出を背負って生きている。智自身もそうだ。智は罪悪感でいっぱいになった。
「すいません」
智はもう1度謝った。おじさんはこちらに背を向けて俯いたままだった。
「おじさん、そのラーメン屋のご主人とはどういう関係なんです」
瀬良は少し遠慮がちに訊いた。それは今訊くことじゃないのでは、と思ったが、止めることが出来なかった。
「私の兄です」
ポツリと言った。
「そうでしたか。いやぁ、美味しいですね。ここのラーメン屋は」
瀬良は重い空気を変えようと、あえて話題を逸らした。
「すみません。食事中なのに、暗いことを」
おじさんはこちらに向き直り、頭を下げた。
「いえ、僕こそすいません」
智は立ち上がってまた頭を下げた。
「2人とも固いよー」
瀬良は手をひらひらさせた。
「すいません」
智は瀬良に頭を下げ、再びラーメンに手を付けた。
それからは、1言も会話を交わさなかった。
「ご馳走様でした」
智は瀬良と並んで国立警察署へ向かっていた。
「何か息子と飯食いに行ってるみたいで楽しかったよ」
瀬良はそう言って、顔色を変えた。
「今日は早く寝た方がいい。明日は何かと忙しくなるからな」
思い出したくはなかったが、いよいよ受け渡しは明後日だ。瀬良はそのことを言いたかったのだろう。智は改めて緊張を実感した。
「そうですね」
智は頭を下げ、智の寝床となっているファイルでいっぱいの部屋へ向かおうとしたが、足を止めた。
「瀬良さん」
瀬良は顔を上げた。
「いろいろご迷惑をお掛けしてすいませんでした」
智は何故この言葉が出て来たのか自分でもよく分からない。ただ、明後日で全てが終わると確信しているのは確かだった。
「どうしたんだよ。急に改まって」
瀬良は苦笑する。
「いえ、何となくです。おやすみなさい」
智は踵を返してその場を去った。
瀬良は智の背中に、絶対守ってやるからな、と呟いた。
最終話も近づいてきました。
ラストスパート頑張りますっ!!