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僕たちの約束  作者: 翔香
第3章 真実
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第52話 情報

 大伴羽菜の家に着くまで、軽く1時間はかかった。瀬良は疲れているはずなのに、1度も休憩を挟まなかった。それがで事故が起こらないか不安だったが、何とか無事目的地に到着できた。



「瀬良さん、大丈夫ですか」



 智は瀬良と共に、車を降りた。



「ああ。もう年だからちょっとキツいけどな」



 そう言って、疲れの混じった表情で微笑んだ。



「無理しないでください、って言っても僕が無理をさせてしまっているですけど・・・」



 瀬良は首を振り、優しく笑った。そして、大伴羽菜の自宅へ向かう。



 大伴羽菜の家は、建てたばかりと思われるアパートだった。外壁は白で、2階建てだ。



「大伴羽菜の部屋は、確か203号室だったな」



 瀬良は呟き、階段を上って行った。智もその後に続いた。

 インターホンを押し、応答を待った。数秒後、扉が開いた。



「大伴羽菜さんですよね。少しお話をお伺いしたいのですが」



 瀬良は警察手帳を見せた。



「あ、はい。中へどうぞ」



 羽菜は2人を中へ案内した。



「失礼します」



 智は瀬良と共にリビングに入った。



「どうぞ。お掛け下さい」



 羽菜は座布団を2枚持ってきた。



「ありがとうございます」



 2人は座布団の上で正座した。



「あの、ご用件は」



 羽菜が台所に向かいながら訊いた。



「ああ、突然すみません。先日、大伴栄太さんに会ってきましてね」



 羽菜の動きが、一瞬止まった。



「それで、栄太さんの事を調べて行くうちに、羽菜さんの名前が出てきたんですよ。率直にお伺いしますが、あなたは高峰尚子と友達になられているんですよね」



 羽菜はやかんに水を入れながら答えた。



「はい。尚子とはほとんど一緒にいました。兄もよく知っています」



 羽菜の声色は、先ほどよりもトーンが落ちていた。



「そうですか。羽菜さんはお兄さんと仲が良かったのですか」



 瀬良は立て続けに質問する。



「はい。よく一緒に出掛けていました。まあ、昔の話ですけど」



 智は最後の言葉に引っかかり、声を出した。



「昔、ですか」



 羽菜は頷き、2人に背を向けて話し出した。



「昔の兄は、優しくて、皆の事を考えて行動する、私が尊敬する兄でした。それが、尚子が刑務所から出所した後、兄の態度が急に変わったんです。いつも不気味な笑みを浮かべて、笑うんです。それに、今まで以上にパソコンを使うようになりました。多分、誰かと連絡を取っていたんだと思います」



 顔が見えなくても、羽菜が恐怖に満ちている事が読み取れた。



「誰と連絡を取っていたかは分かりませんかね」



 瀬良は少し期待を込めて訊いたが、羽菜の反応は、ただ首を左右に振るだけだった。



「困ったなぁ」



 瀬良は羽菜に聞こえないように呟いた。



「あの、羽菜さんは高峰尚子が出所してから会ったのですか」



 智はふと思ったことを尋ねた。



「はい、1度だけ。でも、もう何年も前です。今では連絡も取っていません」



 瀬良はその発言を聞いて、顔を上げた。そして、また質問を続ける。



「最後に会ったのはいつです?」



 羽菜は、沸騰したお湯を茶碗に入れた。



「1年前ですかね。出所してから結構経ってたんですが、どんな話題を出せばいいのか分からず、お互い黙り込んじゃって。結局、話題が出ても長続きしない感じでした」



 瀬良は手帳に羽菜の言葉を書きとめ、再び口を開く。



「その時の高峰の様子は」



 羽菜は2つの茶碗をお盆に乗せ、2人の元へ持ってきた。



「どうぞ」



 茶碗をテーブルに置き、向かい側に正座した。



「ありがとうございます」



 智はお茶を啜ったが、瀬良は手を付けなかった。一刻も早く、情報を手に入れたいのだろう。



「尚子は、いつもと変わりませんでしたよ。だだ・・・」



 羽菜は言葉を濁らした。



「ただ?」



 瀬良は少し前のめりになる。



「よく携帯をいじってました。席を立つことも多かったですし。尚子は、会社からの連絡と言っていたんですけど」



 それを聞いた瀬良は薄笑いを浮かべた。



「ご協力、ありがとうございました。おかげで有力な情報が手に入りました」



 智は首を傾げた。



「そうですか。お役にたてて光栄です」



 羽菜は微笑んだ。



「では、私たちはこれで」



 瀬良はお茶を1口含み、席を立った。智もそれに続いた。



「ご馳走様でした」



 瀬良と智は玄関に向かい、ドアを開けた。



「ありがとうございました。失礼します」



 瀬良はそう言って、階段を下りて行った。



「お邪魔しました」



 智も1言告げ、羽菜に頭を下げ、瀬良の元へ急いだ。



「何か、分かったんですか」



 智は瀬良の背後から問うた。



「ああ。詳しい事は署に戻ってからにしよう」



「はい」



 2人は国立警察署へ向かった。











 再び刑事課に戻り、瀬良のデスクへ向かった。



「これはいい収穫だったな」



 瀬良は笑みを浮かべながら、椅子に腰かけた。



「何がですか?」



 智は向かいのソファーに座る。



「大伴栄太と高峰尚子。この2人は情報交換をしていたんだ」



「えっ」



 智は目を見開いた。



「ほら、羽菜さんが言ってたじゃないか。栄太は高峰の出所後、急激に変わったって。あれは高峰と、もうすでに何らかの関係ができていたんだ」



 智は唇を噛みしめた。そして、1つ提案が浮かんだ。



「あの、もう1度大伴栄太と会うことはできますかね」



 瀬良は頷き、こう言った。



「俺もそう思っていたところだよ。今から行くか」



 瀬良は立ち上がり、腰に手を当てた。



「はい」



 智も立ち上がり、瀬良と共に刑事課を出た。











「先日お会いした瀬良です。失礼ですが、お時間をいただいてもよろしいですか」



 瀬良はインターホンに顔を近づける。



「夫に何か」



 栄太の妻、美江は少し不機嫌な口調で返してきた。



「ちょっと聞き忘れていたことがあるものですから」



 瀬良は笑みを浮かべる。



「・・・分かりました。どうぞ」



 数秒後、扉が開いた。



「失礼します」



 2人は美江を先頭にリビングに入った。



「何の用ですか」



 栄太は、以前来た時と同じ場所に座っていた。そこが定位置らしい。



「あのですね、1つ確認したいことがありましてね」



 そこで、瀬良の携帯が鳴った。



「すみません」



 瀬良は携帯を片手に、リビングを出て行った。その際に、智に目で合図した。今なら何の質問をしてもいい、という合図だろう。



 瀬良がいなくなり、部屋に沈黙が訪れた。



「智くん、ほら座って」



 栄太は向かいのソファーを指さした。



「ありがとうございます」



 智はそこに腰かけ、栄太に目を向けた。



「どうしたんだい?」



 栄太は優しく笑い、智を見返す。智は1呼吸置き、口を開いた。



「あの、突然の話なんですが、僕の弟と妹が行方不明になったんですよ。僕の両親を殺した犯人を捜査してくれている刑事さんも一緒に」



 突然の発言にとても驚いたらしい。栄太は大きく目を開いた。



「えっ、あの2人が。それに、佐名木さんもか」



 智は最後の言葉に首を傾げた。



「あれ、何で栄太さんが佐名木さんの名前を知っているんですか?あなたは佐名木さんの事を知らないはずですが」



 そう言うと、栄太は一瞬目が泳いだが、すぐに元の顔に戻る。



「そ、それは1度、僕の所にも事情聴取で来たんですよ」



「そうですか。まあ、あなたが嘘をついているかどうかは、署に帰れば分かるんですけどね」



 智は笑みを浮かべた。栄太は不審な目で、智を見た。

 その時、瀬良が帰ってきた。



「いやぁ、すみません。部下からの連絡でした」



 瀬良はそう言って、智の隣に腰かけた。



「では、あまり長居するのも迷惑だと思いますので、率直にお聞きします。あなたは、高峰尚子の事を知っていますよね。恐らく、連絡も取っている事でしょう」



 栄太は、苛立ちを見せ始めた。



「あ、その様子だと、図星ですかね」



 瀬良は満足げに笑う。



「いい加減にしてくださいよ!」



「お前は黙っておけ」



 美江が横から入ってきたが、栄太がそれを制した。



「美江は出て行ってくれ」



 栄太は俯きながら言った。彼女も俯きながら、無言で部屋を出て行った。



「・・・何故、分かったのですか」



 数秒の沈黙の後、栄太が呟いた。



「先ほど、大伴羽菜さんに会いに行ってきました。これは彼女からの情報です」



 瀬良は落ち着いた声で言った。



「あいつ・・・」



 途端に、栄太の雰囲気が変わった。何処か殺気に満ちているようなものが感じ取れた。



「栄太さん?」



 智は栄太の顔を覗き込んだ。栄太が鋭い目つきで睨み返してきたので、智は少し怯んだ。



「確かに私は尚子の事を知っています。でも、それが何だというんです?」



 栄太は、高峰の事を尚子と呼んだ。それほど仲が深いということなのだろう。瀬良もこれを聞き逃さなかった。



「尚子って、随分なれなれしいですね。これほど仲が良かったら、高峰が犯した大きな罪の事もご存じでしょうね」



 瀬良は、まるでゲーム感覚でやっている様に事を進めていっている。



「罪?そんなの知りません」



 こればかりは、本当に知らないらしい。表情がそれを表している。



「うーん。そうですか。では、質問を変えます。あなたは高峰と、何の情報を交換していたのですか」



 栄太は1つため息を吐き、正直に語りだした。



「尚子とは、真人を殺した犯人についての情報を共有していました。でも、警察じゃないので、勝手にあれこれ探るのはできませんでした。その時です。佐名木さんが現れたのは。彼と出会ってから、情報量がドッと増えました。でも、犯人が誰かは全く予測が出来ませんでした」



 そこで、智は首を傾げた。



――警察が、勝手に捜査の情報を一般人に教えてもいいのだろうか――



 そう思い、瀬良に尋ねてみた。



「いや、一般に情報を教えるというのは禁止されている。でも、佐名木はそんなことする奴じゃなかったのだが・・・」



 瀬良は目頭に手を当てた。



「佐名木さんとは、どこで出会ったのですか」



 智が瀬良の代わりに訊いた。



「尚子が出所してから、尚子の生活状況を確認するために、佐名木さんが追跡していたんだ。それで尚子が私の家に頻繁に出入りするものだから、気になったのでしょうね。佐名木さんが私の家に訪問してきたんですよ。それがきっかけです」



 智はそうなのか、という言葉を目で伝えた。瀬良は頷いた。



「言ってきますけど、私は犯人ではありませんよ。私が真人を殺す理由なんて、どこにもありません」



 栄太はきっぱりと言い放った。智も、栄太は犯人ではないと思う。



「私は、あなたが犯人ですとは言ってませんよ。別に、あなたを疑っているわけではありませんから。ただ、高峰との関係を知りたかっただけです。では、私たちはこれで」



 瀬良は立ち上がり、足早にリビングから去った。智も後に続く。



「突然お邪魔してすみませんでした。では」



 瀬良と智は頭を下げ、大伴家を出た。栄太は、見送りに来なかった。



「瀬良さんは、栄太さんの事どう思います?」



 さり気なく訊いてみた。



「あいつは犯人じゃない気がするな。とても嘘をついているようには思えない」



 2人は車に乗り込んだ。



「僕もそう思います。あ、そういえば、僕の両親が殺されたときに、栄太さんの事情聴取をした人って分かりますか」



 訊いた後になってから、無茶な質問をしたなと思った。もう15年も前の話だ。憶えているはずがない。



「確か・・・田崎だったような気がするな。本当は、佐名木が行く予定だったんだが、体調を崩してね」



 これにはさすがに驚いた。こんなにまともな答えが返って来ると思っていなかった。



「瀬良さん、記憶力良いんですね」



 そう言うと、瀬良は自慢げな顔をして



「よく言われるよ」

と返した。



「さあ、署に戻るか」



「あ、その前に、ちょっと行きたい所が・・・」



 瀬良は智を見た。智は少し顔を和らげた。

皆さん、お知らせがあります。


やって来てしまいました。テスト期間が。

テスト期間中、更新できない状態となります。でも、テストが終わったら執筆に専念します。


では、次回も楽しみにしていてください。

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