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僕たちの約束  作者: 翔香
第3章 真実
50/55

第50話 訪問

50話きちゃいましたね(゜_゜>)

まさかここまで来るとは思ってませんでした←おい

 やはり、智が予想していた通り、瀬良の車は「大伴」という表札がある一軒家の前で停車した。



「よく場所が分かりましたね」



 智は車から降りながら言った。



「ああ。1度来たことがあるからな」



「えっ」



 一瞬耳を疑った。大伴家は何か法に触れる事でもしたのだろうか。



「ああ、この家は1度泥棒が来たんだよ。まあ、こんな大きな家だったら何かいいものでもありそうだなって思うよな」



 智はもう1度、大伴家を見上げた。確かに、デカい。外壁は黒く、3階建てで、周りに建っている家など目に入らないほどの迫力があった。いかにも、金持ちが住んでいそうな雰囲気を醸し出している。



「犯人は捕まったんですか?」



 瀬良は、苦笑しながらこう答えた。



「まあな。我々が捕まえたというより、大伴栄太さんが投げ技をしたんだがな。よくそんな勇気が出たもんだ。相手は刃物も持っていたからな」



 それを聞いて、段々思い出してきた。大伴のお父さんは大手企業会社の社長で、金持ちだし、大伴は柔道を習っていて、6段を持っているんだ、と父さんが話していた。



「よし、じゃあ行こうか」



 智は頷き、インターホンの前に立った。瀬良がボタンを押した。

 数秒後、奥から声が聞こえた。60代前半ほどの女性がドアを開けた。



「どなた様でしょうか」



 瀬良は警察手帳を女性に見せた。



「警察です。少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」



 女性は頷いた。



「あの、栄太さんはご在宅ですか?」



 瀬良は中に入らず訊いた。もしいなかった場合、すぐに帰ろうと思っているのだろう。



「はい。この奥に」



「そうですか。じゃあ、おじゃまします」



 瀬良は慣れているのか、テンポよく事を進めていく。



「あら、あなた何処かでお会いしましたよね?」



 女性に尋ねられ、名前を告げていないことに今さら気づいた。



「野々神智です。たしか、大分前にお会いしたことが――」



「ああ!智さんね。思い出したわ。夫の友達の息子さんでしょ。さあ、中に入って」



 いきなり大きな声を出されたので戸惑ったが、智は会釈をして、中に入った。



 リビングに続く廊下も長く、リビングに行くまでに部屋がいくつもあった。こんなに多くの部屋を何に使うのか疑問を抱いた。

 リビングに入ると、男女2人がL型のソファーに腰かけていた。その隣の1人掛けのソファーに大伴が足を組んで座っていた。



「初めまして、大伴華子です。こっちが秀幸です」



 2人とも、大伴の子どもらしい。



「2人とも、上に上がっててちょうだい」



 女性が指示すると、返事をしてリビングを出て行った。



「あ、申し遅れました。私、大伴美江です。栄太さんの妻です」



 美江が頭を下げたので、瀬良と智も頭を下げた。



「お久しぶりです。野々神智です」



 智は、栄太に挨拶した。



「おお、久しぶりだね。元気そうで何よりだ。あれ、疾登くんと花輪ちゃんは?」



 智は顔を顰めた。その様子を見て、瀬良が答えた。



「2人は家に居ます。今日は智くんだけで伺いに来ました」



 その答えに、少し不満そうな顔を見せたが、それ以上は問うてこなかった。



「2人とも、そこに座ってください」



 栄太はニコッと笑い、向かいのソファーを示した。



「失礼します」



 智と瀬良は、そこに腰を下ろした。



「では、あまり長居するのもあれなんで、さっそく本題に入ります」



 瀬良は胸ポケットから黒い手帳を出した。



「野々神真人さんについて、詳しく知りたいのですが」



 その瞬間、栄太が智を見た。恐らく、気を使ってくれているのだろう。



「智くん、いいのかい?」



 智は唇を噛みしめ、頷いた。



「真人とは中学で出会いました。部活もバスケ部だったんですけど、同じで。外見ヤクザっぽく見えるけど、中身はすごく優しいやつで、自分の事より、相手の事を優先的に考えていました。いじめられている子を体を張って庇ったりもしていました」



 栄太の言う通りだ。母さんは父さんのそういう所に惚れたって言っていた。智は俯き、今にも溢れ出そうな涙を堪えた。



「そうでしたか。とても心優しい方だったのですね。それと、もう1つ訊いていいですか?」



 瀬良は今訊いたことをメモしながら言った。



「真人さんの友人関係や、知っている限りで構いませんので、会社仲間との関係なども教えていただけると幸いなのですが・・・」



 栄太は1つ頷き、話始めた。



「真人は、さっきも言ったような性格ですから、友達は数多くいます。まあ、主に松田瑛まつだてる田井家誠記たいけもときとはよく一緒にいましたね。いわゆる部活仲間ですかね。会社仲間は、確か石森さんと仲が良いって言ってたような・・・あやふやですみません」



 栄太は小さく頭を下げた。



「いえ、全然構いませんよ。ご協力ありがとうございました」



 立ち上がろうとした時、美江がお盆にお茶とお菓子を乗せて持ってきた。



「あら、もうお帰りになるんですか?準備が遅かったみたいね。すみません」



 美江はお盆をテーブルの上に置いた。



「2人とも、少し気休めでもしたらどうですか?顔に少し疲れが出ていますし」



 智はちゃんと睡眠をとったが、花輪と疾登のことが気になり、何度も目が覚める。瀬良は智以上に疲れているだろう。今朝は花輪と疾登の事を調べてくれていたので、寝ていない。2人ともクマが出来ていた。



「じゃあ、お言葉に甘えて、もう少しお邪魔させていただきます」



 その言葉に、智はちょっと驚いた。瀬良の性格なら、断わると思っていたからだ。それだけ疲れているという事だろう。



「どうぞ、智くんも」



「あ、すみません、ちょっと出てきます」



 智は急いでリビングを出た。



「智くん?」



 リビングにいる3人は首を傾げた。











「うっ」



 リビングから抜け出した理由は、また頭痛が襲ってきたからだ。気を失うほどの痛さではないが、金づちで殴られているような痛さだった。



 智はぼやける視界の中、ふらふらと歩き、階段の2段目に腰を下ろした。少し痛みが落ち着いたところで、また残像が出てきた。

 母さんと父さんが黒服を着た人から、家の中のものを黒服に投げつけ、父さんと母さんが黒服から逃げ回っている場面だった。恐らく、黒服が父さんと母さんを殺した犯人だろう。



 残像が終わると、痛みは完全になくなった。



「はぁ」



 思わずため息が出る。そして、この残像を見るたび、いつもこう思う。



 何故、今頃になって記憶にない映像が出てくるのだろう、と。











「さっきはすみません」



 智は頭を下げ、中に入った。



「どうした、何かあったのか?」



 瀬良が不安そうな顔で訊いてきた。



「あ、ちょっと連絡が入りまして。そんなに大した話では無かったんですけどね」



 智はプロの警察官に嘘が見抜かれないか、不安だった。



「・・・そうか。なら良いんだがな」



 数秒の間があった。恐らく、嘘に気が付いたのだろう。あえてそこには触れないといった感じだ。



「すみません」



 智はもう1度頭を下げた。いろいろな意味を込めての言葉だった。



「何も謝ることはないよ。さあ、智くんも座って」



 栄太にそう言われ、智は瀬良の隣に腰かけた。



「それにしても、真人さんと奥さんを殺した犯人は捕まったんですか?」



「美江」



 気にしてくれたのか、とっさに栄太が止めに入った。



 智は顔を伏せた。



「あ、ごめんなさい」



 美江は気づいたらしい。



「犯人は、捕まっていません。今は違う事件についての犯人を追っています。智くんのご両親を殺した犯人も関わっていると予測しているのですが」



 瀬良はお茶を啜った。



「そうなんですか!」



 栄太は前傾姿勢になった。栄太も犯人の事を気にしているのだろう。無理もない。親友を殺した犯人が捕まっていないというのは屈辱だろう。



「はい。あくまでこちらの予測ですからね」



 栄太は2、3度頷き、息を吐いた。



「それでは、そろそろ。ご協力、ありがとうございました」



 瀬良が立ち上がったので、智も立ち上がった。



「真人の犯人、必ず見つけ出してください」



 栄太は立ち上がり、深々と頭を下げた。



「はい。全力を尽くします」



 瀬良は心強い言葉を残し、玄関に向かった。智の後に、栄太と美江もついてきた。



「では、おじゃましました」



 智も同じ言葉を告げ、家を出た。扉が閉まるまで、2人は頭を下げていた。



「智くん」



 瀬良車に向かう途中で足を止めた。



「はい」



 智も立ち止まる。



「さっきは何があったんだい。電話ではなかったんだろう?」



 その話か、と心の中で呟いた。いつかは訊かれるだろうと思っていたのだ。智は正直に答えた。



「ちょっと頭痛がして。目の前で人が急に苦しみ出したら、皆さん驚くだろうなと思って」



「そうだったのか。もう、治まったのか?」



 瀬良は、智に1歩近ずいた。



「はい。もう大丈夫です」



 そう言って、微笑んだ。



「じゃあ、次に行くぞ」



「はい」



 行き先は予測できた。恐らく、母さんの親友、坂木友恵の家へ向かうのだろう。



 車は2人を乗せ、目的地へと向かった。











 やはり予測していた通り、坂木友恵の家で車が停車した。今日は勘が当たるな、と思う。



「マンションですか」



 智は車から降り、目の前の建物を見上げた。



「ああ。あまり豪華なマンションではなさそうだな」



 そう言って、瀬良は歩を進めた。



 確かに、マンションは高級とは言えなかった。6階建てで、外壁は白い。オートロック式で、中は薄暗い。所々にヒビがあり、大きな地震が起きれば、崩れてしまいそうだった。



 智は瀬良の元に向かった。瀬良は、坂木の部屋番号を押して、応答を待っている所だった。



「はい・・・どなたでしょうか」



 瀬良は胸ポケットから警察手帳を出した。



「こういうものです。坂木さんですよね。少しお時間いただいてもよろしいですか?」



 瀬良は、大伴家と同じ様に事を進めていく。



「はい。どうぞ」



 その後、ロックが解かれ、中に入ることが出来た。

 エレベータに入り、5を押した。扉が閉まり、動き出した。



「何かボロいエレベーターだな」



 瀬良が呟いた。



 確かに、はっきり言うとボロい。動くたびにギシギシ鳴るし、揺れが大きい。今すぐにでも壊れそうだった。それだけではない。エレベータが異様なにおいで包まれているのだ。生ごみのような臭いがする。



 そう考えてるうちに、5階に着いた。



「あ~臭かったな」



 瀬良は思ったことをすぐ口に出すようになった。恐らく、疲労で相手の事を考える思考が働いていないのだろう。



 坂木の自宅は、503号室だった。エレベーターから出て1番右にあった。



 瀬良はインターホンを押し、智と共に応答を待った。



「はい」



 ほんの僅かにドアが開いた。



「警察です。坂木さんにお訊きしたいことがあるのですが」



 瀬良はもう1度警察手帳を出して、坂木に見せた。



「はい。では中へどうぞ」



 瀬良は、結構というように、片手を出した。



「ここで構いません。すぐに終わりますので」



「あ、そうですか」



 坂木はドアを全開にした。そこで、智がいることに気が付いたのか、驚いた顔を見せた。



「あら、智くん?」



 智は少し口元を緩め、頭を下げた。



「久しぶりね。そういえば、疾登くんと花輪ちゃんは?」



 この質問については、答え方は決まっていた。



「2人は家に居ます。今日は僕だけで伺いました」



 坂木は残念そうな顔をしたが、すぐに和らげた。



「そうだったのね」



「では、突然ですが、質問に入ります」



 瀬良は黒い手帳を取り出して、メモを取る準備をしていた。



「野々神紗由さんをご存知ですよね」



 坂木は頷く。



「紗由さんについて詳しく知りたいのですが」



 坂木は表情を曇らせた。殺された悲しみが蘇ってきたのだろう。



「紗由とは高校の同級生で、とても優しい子でした。少し控えめな所もあるのですが、すごく空気の読める人で、皆と上手く打ち解けていました。よく、私と紗由、2人きりでカラオケに行ったり、買い物をしたりしました」



 坂木の言う通り、母さんはそんな性格だった。またじわじわと涙が浮かんできた。

 瀬良はすべてをメモし、質問を続けた。



「紗由さんの友人関係や、知っている限りで構いませんので、会社仲間との関係も教えていただけると助かるのですが・・・」



 紗由は髪を耳にかけて、こう言った。



「越原奈菜とはよく一緒に居ましたね。でも、彼女は親が厳しくて、なかなか一緒に遊ぶことは出来なかったんですけどね。会社仲間は・・・うろ覚えですが、郷田さんにいろいろ教わっていると聞きました」



 瀬良は手帳を閉じ、一礼した。



「貴重な情報、ありがとうございました。これで終わりです」



 坂木は首を傾げた。



「もう、終わりですか?」



「はい」



 瀬良は早く仕事を終わらせたいらしい。



「そうですか。あの、1つ訊いていいですか?」



 坂木は、また表情を曇らせた。



「紗由を殺した犯人って、また捕まっていないんですよね」



 この質問も、瀬良が答えた。



「はい。今はちょっと違う事件の犯人を追っています。さあ、智くんの犯人が関わっているという可能性が高いと思われます」



 その瞬間、坂木の表情が輝いた。



「本当ですか!」



 大伴と同じ顔だった。



「はい。しかし、あくまでも予測です」



 坂木は頷いた。



「では、私たちはこれで」



 智も頭を下げ、この場から去ろうとすると、坂木に腕を掴まれた。



「智くん」



 真剣な顔で呼び止められたので、少し戸惑った。



「私ね、勘がよく当たるの。それでね、今、直感で思ったんだけど、これから悪い事が起こるわ。気を付けてね」



 智は眉間に皺を寄せた。



「あ、ごめんなさいね。びっくりしたでしょう。でも、これから危険な行動をしないように。嫌な予感がするわ。じゃあ、元気でね」



 智は数秒の間を空け、はい、と返事をした。



 エレベーターに向かうと、瀬良がドアを開けて待っていてくれた。



「すいません」



 頭を下げながら中に入った。



「どうしたんだ?何か言われたのか」



「はい。これから悪い事が起こる。だから、危険な行動をしないようにって」



 瀬良は腕を組んだ。



「危険な行動しなきゃ、佐名木さんと2人を守れないんだ」



 智はそう呟いた。

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