第47話 不安、怒り
すみません。テスト期間中だったので投稿することが出来ませんでした。
でも、もう解放されましたので、これから頑張って投稿していきたいと思っています!!
皿を洗い終わり、3人は国立警察署へ行く準備をしていた。
花輪が準備している間、智は熱を測った。1晩ゆっくり寝たからか、熱は引いて、体も怠くなくなった。
「ねえお兄、疾兄。この服でも大丈夫かな」
花輪は、白と黒のギンガムチェックのブラウスに、茶色の短パンというコーディネートだった。
「いいと思うよ。似合ってる」
智はグーサインを出した。
「女性って、服を変えるだけでもこんなに可愛く見えるんだね」
疾登は智の方を向いて言った。智は苦笑いして、花輪を見ろ、と目で合図をした。
「あ、ごめん!本当にごめん!」
花輪はハサミを握っていた。
智はため息を吐いた。
「殺しましょうか?」
花輪は不気味な笑みを浮かべる。
「ごめんって!ふざけて言ったんだよ。本当は似合ってるって思ってた!」
疾登は必死に伝える。
「本当?」
花輪は首を傾げた。
「本当だよ」
それを聞いた花輪は、途端に笑顔になり、ハサミを元の位置に戻した。
「そっか。安心した」
そう言って、花輪は髪を部屋で整え始めた。
「もう、疾登。前にも言っただろ?1言多いって。もっと素直になれよ」
智はまた大きなため息を吐いた。
「いや、花輪をいじりたくなるんだよ。自然と」
疾登は笑う。
「お前、もうちょっとでマジで殺されてたぞ」
智は疾登を冷たい視線で見た。
「ま、まあな。間一髪ってことで」
疾登はまた笑った。
「陽気だなぁ。一緒に居て疲れるよ」
「ちょっと、今の言葉けっこうグサッて来たんだけど」
疾登は胸に手を当てて、悲しそうな顔をした。
「あ、そう。陽気な人でも傷つくんだな」
「兄貴、今日いつも以上に冷たくない?」
疾登は智の顔を覗きこむ。
「そうか?俺はいつも通りに接してるけど」
そこで、花輪が戻ってきた。髪はさっきまでった寝癖を直し、毛先が少しカールしていた。
「お、いいじゃん花輪」
智は素直に感想を述べた。
「おう、綺麗になったな。花輪」
「それ、本当?」
花輪は確認する。
「本当だよ」
疾登は微笑んだ。
花輪は嬉しくなったのか、満面の笑みになった。
「じゃあ、行くか」
智と疾登は立ち上がり、花輪もバックを持った。
3人は徒歩で国立警察署へ向かった。
現地に着き、中へ入ると、丁度、田崎が横を通った。智はすぐさま話しかけた。
「おお、野々神さん。どうしました?」
いつも通り、優しく話掛けてくれた。
「挨拶をしに来ました。2人はまだ顔を合わせたことが無いので」
そう言うと田崎は、智の後ろにいる疾登と花輪を見た。
「初めまして、佐名木警部の部下の田崎です」
田崎は軽く頭を下げた。
「初めまして。野々神疾登です」
「花輪です」
2人も同じく頭を下げた。
「それにしても、良い兄弟ですね。わざわざ挨拶しに来てもらって」
田崎は感心したように言う。
「いえいえ、とんでもないです」
智は首を振ったあと、付け足した。
「あの、瀬良さんにも挨拶をしたいのですが・・・」
「ああ、全然構いませんよ。こちらです」
田崎は刑事課へ連れて行ってくれた。
「係長、おられますか?」
声を上げると、1人の男性が立ち上がった。
「どうした?」
瀬良だった。
「さあ、中に入ってください」
智が中に入ると、瀬良は真剣な顔から笑顔に変わった。しかし、疾登と花輪を見た途端に、首を傾げた。
智は瀬良の元へ向かった。
「初めまして。野々神疾登です。智の弟です」
「お世話になっております。野々神花輪です」
それを聞くと、瀬良は納得したように頷いた。
「そうだったのか。初めまして、係長の瀬良です」
疾登と花輪は頭を下げた。
「あの、佐名木さんは無事なんでしょうか」
疾登は瀬良に問うた。
「はっきりとしたことは分からないが、恐らくまだ危害は加えていないようだ」
疾登は、それを聞いて安堵の息が漏れた。
「そういえば野々神さん、高峰の事調べてくれていたんですよね」
田崎のその言葉で、はっとなった。完全に忘れていた。
「すみません。報告するの忘れてました」
「では、ちょっと話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
智は頷いた。
「疾登さんと花輪さんはどうしますか?」
「家に帰るか?」
智は2人を見た。
「じゃあ、そろそろ」
疾登は返した。帰るという事だろう。
「そうですか。では、送って行きますよ」
田崎の言葉を2人は拒否した。
「いえ、大丈夫です。家近いんで」
そう言って、2人は頭を下げた。
「お気をつけて」
田崎は優しい口調で言った。
2人は刑事課から出て行った。
「さて、本題ですが・・・」
田崎は、突っ立っている智をソファーに座るよう示した。
「高峰の事について、何か分かりましたか?」
「その前に」
智は質問に答える前に、ずっと前から気になっていた事を訊いてみた。
「あの、高峰って大阪の連続殺人事件の犯人っていう事で、刑事の間では結構大きな事件だったと思うんです。でも、佐名木さんは高峰の事についてあまり情報が入ってない、と言っていました。それって、おかしくないですか?」
それを聞いた田崎は、息を大きく吐いた。
「昔は高峰の情報はたくさん管理されてました。でも、高峰が出所した後、高峰の情報が詰まった書類が盗まれたんですよ」
「え?一体誰が」
智は話に食い入るようにして聞いた。
「それが、まだはっきりとしたことは分かっていないんです。しかし、我々の予想によると、高峰の可能性が高いと」
「そうですか。じゃあ、高峰を取り押さえればいい話じゃないですか」
その発言に、田崎は首を振った。
「解決した事件の犯人の書類は、言ってしまえば、もうお蔵入りです。いちいち解決した事件の書類まで置いておくと、1日何百件と来る事件の書類が収まりきりませんよ」
智はこの答で納得できた。
「そう言われてしまっては、もう何も返せませんね」
智と田崎は、クスッと笑った。
「あの、話を戻してもよろしいですか?」
「あ、そうでしたね。すみません、話逸らしちゃって」
智は頭を下げた。田崎は優しい声で全然構いませんよ、と言った。
「新聞に載っている大きな事件を切り抜くのが趣味の友達がいるんですけど、その友達にお願いして、大阪連続殺人事件についての記事を見せてもらったんです」
「へぇ。そんな人がいるんですね」
田崎は感心したように言った。
「はい。それで、2つの記事見つけたんですけど、遺体は海に投げ入れたと」
田崎は頷き、口を開いた。
「その通りです。3体見つかったんですけど、被害者はすべて、高峰の同級生でした」
「あの、高峰を見つけるのに結構な月日が掛かっていましたけど・・・」
田崎は、智から視線を逸らした。
「はい。1度高峰を捕えたのですが、連行する際に、隙をついて逃げられてしまって。その間に、高峰は青森の山奥に逃げていました。捜査協力を全国に広げて、やっと捕まえることが出来たんです」
「そうでしたか・・・」
智も視線を下に向けた。そこで、もう1つ疑問が浮かんだ。
「あの、さっきの話に戻るんですけど、お蔵入りになった書類って、もう残っていないんですか?」
田崎は顔を上げ、少し考えた後言った。
「一応、お蔵入りでも5年前までの書類なら置いてあります。今が2012年、事件が起きたのが2004年なので、もう処分されてますね」
智は大きな息を吐いた。
――もう、これで何も情報が掴めない。
智は、奈落の底に落とされた気分になった。
「僕が知ってる情報は、これだけです。すみません。役に立てなくて」
「いえ、とんでもないです。ありがとうございました」
田崎は頭を下げた。
「では、そろそろ帰りますね」
智は立ち上がった。
「家まで送ります」
「いえ、大丈夫です。田崎さんもいろいろ大変だと思いますし」
智は微笑み、頭を下げて刑事課を出て行った。
家に入る前、智は胸騒ぎがした。
――何か、不吉なことが起こりそう・・・
そう思ったのだ。
智は頭を振り、嫌な考えをかき消し、部屋の鍵を開けた。
「ただいま」
部屋は真っ暗だった。また、智の胸に嫌な思いが過る。
「疾登、花輪、いないのか?」
返事は、ない。
「どっかに出かけてるのかな」
そう思い込んだ。きっとそうだ。帰ってくるさ。
智は、ソファーに座って、2人の帰りを待っていた。
しかし、思いとは裏腹に、2人が帰って来る気配がない。智が帰ってから、もう3時間は経っている。連絡1つ無い。
耐え切れず、智は疾登の携帯に連絡を入れた。
しかし、何回コールが鳴っても、出ない。花輪も同じく繋がらなかった。
「どうしたんだろう・・・」
智の胸に、不安が募っていく。
そこで、智の目にテーブルの上に載った1枚の紙切れが映った。
「何だ?」
それを手に取った瞬間、智は目を見開いた。
《ハヤトと花リンを誘拐した。返しテホシけれバ、25日二必ず明石工場にコイ。25日までにキタラ、コイつらを殺す》
眩暈がした。家に入る前に、嫌な予感がしたのはこのせいだったのだ。
智は地面に座り込み、しばらく紙切れを見つめていた。
気が付くと、もう1時間も呆然としていた。あまりにショックすぎて、自分を見失っていた。
やっと落ち着いたところで、智は怒りを覚え、体が震えた。
――こんな事しなくても、俺は最初から行く気だったんだ。わざわざ疾登と花輪を誘拐しなくてもいいじゃないか!
智は紙切れを握ったまま、部屋を抜け出した。
短くなってしまいました。
すみません(-"-)