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僕たちの約束  作者: 翔香
第3章 真実
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第46話 決断

 刑事課に再び戻ると、そこにいた刑事全員が智の方を見た。

 智は小さく頭を下げ、田崎と一緒に、先ほど1番最初に青い封筒を読んだ、60代前半と思われる男性警察官の元へ向かった。



「野々神智です」



 智は自分の名前を告げて、頭を下げた。



「係長の瀬良せら博政ひろまさです。野々神さん、とは呼びにくいので、智くんでいいかな」



「はい。全然構いません」



 そう答えると、1つ頷き、急に真剣な顔になった。



「智くん、さっきは急な事だったから驚いただろう」



「その事なんですが」



 智の横にいた田崎が1歩前に出た。



「何だ?」



 瀬良は、智から田崎さんへ視線を移した。



「実は、野々神さんが脅迫状に書いていた明石工場に行くと・・・」



 その言葉を聞いて、瀬良は驚いた表情を智に向けた。



「それは、本当か」



 智は、頷いて言った。



「もう、決意したんです。佐名木さんにはいろいろ迷惑を掛けました。なのに、僕たちは何もすることが出来なかった。僕が行ったことで、佐名木さんが助かるなら、僕は何の躊躇いもないです」



「瀬良さん、私の立場ではこの決断は下せません。ご決断、お願いします」



 田崎は頭を下げた。



 数秒の沈黙が流れた後、瀬良が口を開いた。



「いいだろう。しかし、私たち警察は現場には向かわないが、現場の近くで待機することにする。何かあってからでは遅いからな」



 智はその言葉を聞いて、思わず安堵の息が漏れた。



「ありがとうございます」



 智は深く頭を下げた。



「智くんは正義感が強いね。普通の人なら、恐れて引き受けないよ」



 瀬良は優しく笑った。その笑みに、智もつられて笑った。



「智くんには、私の連絡先を教えておいた方が良さそうだな」



 智はお礼を言って、携帯のアドレス帳に瀬良のアドレスを登録した。



「困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ。あぁ。田崎もいるけど、俺の方が頼りがいがあると思うぞ」



「ちょっと、それどういう意味ですか」



 田崎は、焦っりを露わにした。



「連絡はどちらでもいいよ。田崎に連絡したって、結果的には私の元に情報が来るのだから」



「はい。分かりました」



 智は携帯をポケットにしまった。



「智くん、さっきから気になっていたんだが・・・」



 智は瀬良を見た。



「熱、あるんじゃないか?」



 智はドキリとした。



「何故、分かるんですか?」



 瀬良は智の額を触った。



「そりゃ、私だって子供がいるんだから。顔色見たら大体わかるよ。それにしても熱いな。大丈夫か?」



 智は頷いた。



「そこのソファーに座ってなさい」



 そう告げると、瀬良は何処かへ行ってしまった。



「野々神さん、熱あったんですか?すみません。今まで気づけなくて」



 智はいえ、と言ってソファーに座った。



 そういえば、家にいた時より熱が上がっているような気がする。頭痛がしてきた。歩いている時に、地面が浮いているという感覚にも襲われた。



「智くん、髪上げて」



 気がつくと、目の前に瀬良がいた。智は言われた通りにすると、また額に熱さまシートが張られた。



「今までずっと無理してたんじゃないのか?」



 瀬良は智の隣に座った。



「すみません」



「今日は此処に泊まっていくか?」



 まさか泊まっていくか、なんて言われると思ってもみなかった。



「お気持ちは有難いのですが、兄弟が家で待っているので。家、飛び出してきたので怒ってるかもしれないし」



 瀬良は頷いた。



「じゃあ、家まで送って行くよ」



「いえ、大丈夫です。忙しいと思いますし」



 頑なに断ったが、結局瀬良に送ってもらう事になった。











 車内では、田崎の仕事ぶりや、疾登や花輪のことについていろいろ訊かれた。瀬良は時々ボケを入れたりしてくれるので、全然飽きなかった。むしろ、ずっと話していたいくらいだった。



「ありがとうございました」



 家に着き、智は車内にいる瀬良に頭を下げた。



「私も、智くんと話が出来て楽しかったよ」



 瀬良は微笑んだ。



「では、また何かあったら連絡します」



 瀬良は頷き、車を発進させようとしたが、止めた。



「智くん、お大事に」



 智は、はいと返し、瀬良の車が見えなくなるまで動かなかった。



「帰るか」



 智は呟き、マンションに入った。











「ただいま」



 智が家に入って早々、2人が飛び出してきた。



「遅かったじゃん!」



 花輪は頬を膨らました。



「本当だよ。何しに行ってたんだよ」



 疾登も怒っているようだ。



「ごめん。ちょっと国立警察暑に、手帳渡しに行ってた。この前、佐名木さんの部屋を見せてもらったときに、何か役に立つかなと思って、佐名木さんの手帳持って帰っちゃったんだ」



 疾登と花輪は呆れたのか、ため息を吐いた。



「そ、そういえばさ、2人ともご飯食べたの?」



 2人は首を振った。



「え、食べてなって言ったじゃん。もう10時近いのに」



「だって、お兄がいないと美味しくないもん」



 花輪は恥ずかしかったのか、俯いてしまった。



「そうだよ。兄貴がいないと、何かつまらないんだよ。会話も盛り上がらないし」



 疾登は、智の腕を掴んでリビングに連れて行った。花輪もついてきた。



 テーブルには、ハヤシライスが3つあった。作ってから大分時間があったのだが、何故か湯気が立っていた。



「兄貴の帰りが遅いから、50回くらい電子レンジで温めたんだぜ」



「50回は無いだろ」



 3人は笑った。智はこの空気が1番落ち着く。



 花輪は机の前に座った。疾登と智もいつもの定位置に座った。



「それじゃあ、いただきます」



 疾登に続いて、花輪と智も手を合わせた。



「・・・何か、いつもと違うな」



 疾登は1口食べて2人に話しかけた。



「もう、お兄が早く帰ってこなかったから美味しくなくなったじゃん」



 花輪はまた怒った。



「ごめん。本当にごめん。2人とも」



 智が反省してると、花輪はクスッと笑った。



「さっきのは演技だよ。お兄、面白いね。私、お兄のそういう所好き」



 智は少し照れた。花輪にこんなことを言われるのは、久しぶりだった。



「兄貴、手帳渡しに行っただけなのに、何でこんなに遅い時間になったんだよ」



 疾登はハヤシライスを口に運んだ。



「あ~、話すと長くなるからさ、食べた後ゆっくり話すよ」



 智はあえて遠回りした。



「分かった。じゃあ、早く食べる」



 疾登はハヤシライスを次々に放り込む。



「バカだな」



 智は呟き、ハヤシライスを味わって食べた。











 食器洗いも終わり、疾登と花輪はソファーに座り、智は地べたにあぐらをかいた。



「お兄、話の続きして」



 花輪は興味が湧いているらしい。疾登も聞きたそうだ。



「じゃあ、話す。長くなるよ?」



 智はもう1度確認した。話すのは面倒くさいからだ。



「いいよ」



 2人は声を揃えた。

 智は1つため息を吐き、話した。



「実はな、手帳を渡しに行こうと決めた理由があるんだ。ニュースで言ってたんだけど、国立警察署に脅迫状が来たらしいんだ」



「その脅迫状って、佐名木さんに関係しているのか?」



 疾登が身を乗り出して訊いた。智は頷き、話を再開した。



「その脅迫状が2つ届いたんだ。1つ目は犯人が要求している金額や、受け渡しの場所が書かれてあった。でも、2つ目には・・・」



 智は言葉を詰まらせた。



「どうしたの、お兄」



 花輪は智の顔を覗き込んだ。智は俯きながら話を続けた。



「2つ目には、その受け渡しの場所に俺を連れて来いって書かれてたんだ」



「えっ、つまり、犯人は兄貴に関係している人物って事?」



 疾登は首を傾げた。



「多分な」



「お兄、それ引き受けたの?」



「うん。案外あっさりと決めてた。自分でもびっくりしたよ」



「びっくりしたよ、じゃないよ!どうなるか分かんないんだよ」



 花輪は立ち上がった。智は顔を上げ、花輪を見ながら言った。



「俺たち、佐名木さんにいろいろ迷惑かけたろ?なのに、俺たちは何も恩返ししてない。だからこそ、助けに行くんだよ。俺は、これが最大の恩返しだと思う」



 言い終えた後、智は微笑んだ。花輪はまだ許してないようだ。



「兄貴だけで行くのか?」



「ああ。警察は連れてくるなって書いてたから、警察は近くで監視してるって」



 疾登は俯いた。



「危険すぎるよ。私も行く」



 花輪の言葉を、智は即座に拒否した。



「絶対にダメだ。お前たちは何があっても絶対に行かせない」



 智はそう言って立ち上がり、部屋に向かった。



「お兄」



 花輪が声をかけてきた。智は足を止め、振り向いた。



「・・・無理しないでね」



 花輪は泣きそうな顔で言った。



「大丈夫だよ。心配なんかしなくても大丈夫だよ」



 智は2人に微笑んで部屋に入った。











 部屋に入り、そのままベットに飛び込んだ。



「ついに言ってしまった」



 そう呟き、ため息を吐いた。瀬良に車で送ってもらっている途中に、脅迫状の事は当日ぎりぎりまで話さないでおこうと考えていたのだ。

 智は携帯をポケットから取り出し、画面を見ると、メールが1件来ていた。瀬良からだった。



『受け渡し前日の24日に刑事課に来てもらってもいいかな。打ち合わせがしたいんだ』



 智は妙に緊張した。



――下手したら、殺されるかもしれない。



 頭に嫌な思いが過った。智は頭を振って、かき消した。

 智は了解です、と返信をし、携帯を傍にあったテーブルに置いた。



 既に11時をまわっていたので、智はそのまま眠りに就いた。









――10月21日

受け渡しまで、あと4日――



 智は目を開け、時計を見た。



「もう9時か」



 智は体を起こし、リビングに向かった。



「おはよう」



 疾登と花輪は寝起きの顔だった。起きたばっかりなのだろう。



「おはよう」



 智は返して、洗面所に向かった。

 顔を洗い、軽く寝癖を直しリビングに戻った。



 2人も智と同じ行動をし、花輪はパンを焼き始めた。



「今日暇だね。何する?」



 疾登は2人に訊いた。



「みんな暇なんだったらさ、国立警察署に行こう。2人とも、まだ佐名木さんの事調べてくれている人たちに、あいさつしてないだろう」



 智はそう提案した。



「そういえばそうだね。1回行っておいた方がいいよね」



 花輪は焼きあがったパンに、バターを塗りながら答えた。



「じゃあ、そうするか」



 疾登も賛成した。



「昼ごはん食べてから行こっか」



 疾登と花輪は頷いた。



「パン出来たよ」



 花輪は、パンが乗っている皿をテーブルに3つ並べた。

 智と疾登は席に着いた。



「いただきます」



 3人は声を揃えた。

最近、投稿できてなかったので、今回はちょっと長めにしました。

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