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僕たちの約束  作者: 翔香
第3章 真実
45/55

第45話 脅迫状

 目を開けると、窓の外は真っ暗だった。時計を見ると、8時をまわっていた。



「寝過ぎたな・・・」



 智は足元をふらつかせながら、リビングへ向かった。

 リビングに入ると、疾登と花輪は夕食の準備をしていた。



「お兄、よく寝たね」



 花輪は、卵焼きを作っていた。

 疾登も、花輪の隣で野菜を切っている。



「ちょっと寝過ぎたな」



「何言ってるの。たまにはいいじゃん、寝過ぎるのも。あ、熱測ってね」



 花輪は、まるで智の母親の様に言う。



「分かった」



 智はソファーに座り、体温計を脇に挟んだ。



「あ~そういえばさ、高峰の事について何か分かったの?」



 疾登は智の横に座った。



「うん。高峰は、大阪で殺した3人の遺体を海に沈めたんだって。でも、1つ気になることがあって・・・」



 そこで、体温計が鳴った。38度だった。熱は少し引いてきたようだ。



「気になる事って?」



 疾登と花輪は揃って訊いた。



「これほど大きな事件なんだから、警察だったら誰でも少しの情報は知っていると思うんだ。でも、佐名木さんはまだそんなに情報が入っていない、って言ってたんだ。調べれば湧き出るように出てくるはずなんだけど」



 智は腕を組んで考え込んだ。



「確かに。佐名木さん、どうしたんだろう。突然いなくなるし。何かが引っかかるな」



 疾登も腕を組んだ。



 それから、しばらくの沈黙が続いた。



「ご飯、食べよっか」



 花輪が重苦しい空気の中、声を出した。



「そうだね。俺、お腹すいた」



 疾登はまた台所に戻って行く。



「俺も手伝うよ」



「あ~!お兄はゆっくりしてて。倒れたら、困るのは私たちなんだから」



 花輪は智を手伝わそうとしなかった。



「花輪ってたまに優しい所見せるよな」



 智はまた、ため息を吐いた。何故、疾登はいつも1言多いのだろうか・・・



「今、包丁持ってま~す」



 花輪は笑みを浮かべた。



「ごめんなさ~い」



 疾登も笑って謝った。花輪はもう1度笑って作業を再開した。



 智は、テレビを点けた。画面には、ニュース番組が映っていた。



『続いてのニュースです。今日午後5時ごろ、国立警察署に脅迫状が送られてきました。内容はまだ公表されていません。恐らく、現在行方不明になっている佐名木警部に関係しているものと思われます』



 智は無意識に体を乗り出していた。智は脅迫状の内容が無性に知りたくなった。携帯を取り出し、田崎に連絡を掛けた。しばらく繋がらなかったが、1分後に応答があった。



「もしもし」



 声の様子からすると、何か慌てている様に思える。



「お忙しい所すみません。野々神智です。あの、ニュースで見たのですが――」



「脅迫状の事ですか?」



 智の言葉を遮って、少し期待交じりの声が返ってきた。



「そうです」



「その事なんだけどね、今、佐名木さんの黒い手帳探してるんです。野々神さん、以前佐名木さんの部屋に入られましたよね。その時、黒い手帳を見ませんでしたか?黒い手帳はたくさんあるのですが、今探してる手帳だけ見当たらないんですよ」



 智はギクリとした。もしや、こっそり持ち帰った手帳ではないか?智は急いで部屋に入り、机の引き出しを開け、手帳を取り出した。



「あの、その手帳は何か大切な情報が書かれてあるのですか?」



 緊張のせいか、少し声が震えた。



「それは分かりませんが、脅迫状の内容に書かれてあったんです。黒い手帳を渡せ、と」



 智は正直に言うべきか躊躇ったが、佐名木さんが関係している問題なので、渡すことにした。



「今から、そちらへ向かいます」



「え?どういう――」



 田崎の言葉を聞かずに、智は通話を切り、手帳を持って玄関へ向かった。



「お兄、何処行くの?ご飯出来たよ」



「ごめん。ちょっと国立警察署行ってくる。ご飯、先食べてて」



 それだけ言い残して、智は急いで向かった。











 警察署に入り、刑事課に向かった。



「すみません、田崎さんおられますか?」



 いきなり入ったので、刑事課に居る全員の視線が智に向けられた。



「野々神さん、どうしたんですか。急に通話が切れたからびっくりしましたよ」



 田崎は髪を毟りながら、智の元へ向かった。



「すみません。あの、これを渡したくて」



 智は田崎に手帳を差し出した。



「これって・・・」



「多分、これが今探している手帳だと思います。以前、佐名木さんの部屋に入らせてもらったときに、何か役に立つのではないかと思って持ち帰ってしまったんです。本当にすみませんでした」



 智は深く頭を下げた。刑事課に居た全員が安堵の息を吐いた。



「そうでしたか、謝らなくてもいいですよ。良かったです。見つかって」



「すみません」



 智はもう1度頭を下げた。



「全然大丈夫ですよ。気にしないでください。あ、脅迫状見てみます?」



「いいんですか?」



「構いませんよ。こちらです」



 田崎は優しく笑って、智を案内した。



「これです。新聞記事の文字を切り取って張り付けてあります。まあ、このようなケースはたくさんありますからね」



 そう言って、智に脅迫状を渡した。智は内容を見た。



《さナぎこうスケを返しテホシければさなぎガ持ッている黒い手帳ト現金1億円ヲを用いしろ。タイムりミッとは10月25ニチのゴゴ3時まデだ。アカシ工場でマッテいる。メい令にシタがわナケれば、佐なぎこうスケの命はナイ》



 新聞記事から切り取った文字なので、読みずらいが内容は把握できた。今、10月20日なので、受け渡しは5日後という事だ。明石工場。何処かで聞いた名前なのだが、思い出せなかった。



「1億円なんて参ったものですよ。そんな金、何に使うんでしょうね」



 こんな事態にも関わらず、冷静だった。だが、他の警察官も慌てる様子は無く、着々と準備を進めていた。これがプロの警察官か、と実感した。



「皆さん!今、こんな物が届きました!」



 20代後半くらいの男性警察官が、青い封筒を頭上に高く上げて叫んだ。此処にいる全員がその人に視線を向けた。



「どれ、貸してみなさい」



 1番偉い人だと思える60代前半の男の警察官が、青い封筒を受け取り、封筒を開けた。すべてに目を通すと、その警察官は目を大きくさせ、驚いた表情で田崎に視線を向けた。



「田崎、これ読んでみろ」



 田崎は短く返事をし、青い封筒を手に取り、目を通した。



 読み終わると、今度は智に視線が向けられた。



「野々神さん、これ・・・」



 田崎は、青い封筒に入っていた1枚の紙切れを智に渡した。智は全文に目を通した。



《用意ガ出きたラ、警察はアカシ工場にクルナ。野ノがみサトルだけ来い。命令にシタがわなけレバ、さなぎの命はナイ》



 智は混乱状態に陥った。何故、自分の名前が出てくるのかが理解できなかった。犯人は、智と繋がりのある人物なのか?だが、繋がりのある人物といえば佐名木さんしか思いつかない。だが、佐名木さんは被害者の方だ。佐名木さん自らでこんな事はしない。一体、誰が・・・



「野々神さん、大丈夫ですか?」



 横から田崎が声をかけてきた。



「すみません。ちょっと頭の整理が」



 智は頭を抱えた。



「野々神さん、屋上行きましょう。そのほうが落ち着くと思います」



 智の返事を待たずに、田崎は智を屋上へ連れて行った。











 2人はベンチに座った。



「野々神さん、大丈夫ですか?」



「はい、何かすみません」



 田崎は頭を左右に振った。



「いえいえ、とんでもない。謝りたいのはこっちですよ。でも何故、野々神さんなんでしょうか」



 2人は頭を悩ませた。智はまだ熱が引いていないので、あまり思考が進まない。



「あの、僕がさっき思ったこと言ってもいいですか」



 智は田崎の顔を見ずに、正面を向いて言った。



「どうぞ」



 田崎は智の顔を見た。



「脅迫状に、明石工場って書いてあったじゃないですか。僕、その名前に何か引っかかるんです。何処かで聞いた名前なんですけど・・・」



 田崎はまた頭を働かせた。



「そうなんですか。思い出せそうにはありませんか」



 智は1拍置いて答えた。



「すみません」



 田崎は肩を落とした。



「そうですか」



「あの僕、当日に明石工場に行きます」



 智はこの短時間で決意した。

 その言葉を聞いて、田崎は目を大きく見開いた。



「危険です。野々神さん1人では心配です。私が着いて行きます」



 智は首を振った。



「いえ、それはダメです。もし犯人に見つかったら、佐名木さんは殺されるかもしれない。長年僕たちの世話をしてもらってるんです。それなのに、僕たちは何も恩返しが出来ていない。佐名木さんを助けるためには、僕が必要なんです。だから、僕は行きます」



 田崎は不安を隠せないようだった。



「ちょっと、上の人と相談してみます。僕はこんな大事な事、決められる立場じゃないので。野々神さん、戻りますか?」



 田崎は立ち上がった。



 智は頷き、田崎と一緒に刑事課に戻った。

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