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僕たちの約束  作者: 翔香
第3章 真実
41/55

第41話 再開

今回は、だらだらと文字が並んでいる所が複数出てきます。

目が疲れないように注意してくださいね(笑)

「佐名木さん、何かあったのでしょうかね」



 ベンチに座って、田崎がため息交じりに呟いた。



「あの、佐名木さんは午前3時に突然居なくなったんですよね」



 智も、田崎の隣に座りながら訊いた。田崎は頭を上下に動かした。



「その前の時間は、佐名木さんは何を」



 少し考えた後、口を開けた。



「佐名木さんは午前2時まで刑事課に居ました。でも、それから家へ戻ると言って、自宅へ帰って行きました」



「家へ帰る、ではなく?」



「はい。奥さんに頼み事をされていたようで」



 智は、佐名木さんは自宅へ帰る途中で、何者かと接触したという結論を出した。



「でも、自宅へは帰ってきていないと」



「はい。佐名木さんの奥さん、相当ショックを受けていました」



 田崎は立ち上がり、自動販売機まで足を運んだ。



――何故、佐名木さんが連れ去られる必要があったのだろう・・・



 智の頭にはこの疑問が渦巻いていた。まず考えられるのは、俺たちの両親が殺された事件を捜査していたため、両親の殺害の件に関係している人が連れ去った。もしくは、佐名木さんに恨みを持っている人が実行しているのか。刑事なら、恨みを持っている人は幾らでも居るだろう。



――もしかしたら、佐名木さんを連れて行った人が、両親を殺した犯人かもしれない



 智はそう思った。だが、それなら佐名木さんを連れて行かずに、俺たちを標的にした方が犯人にとっては効率が良いのではないのか。俺たちを連れ去った方が手間のかからないことだと思うのだが。



「野々神さん、疲れてるでしょう。これでも飲んで、元気出してください。って言っても、販売機の飲み物ですがね」



 田崎は笑いながら、ブラックの缶コーヒーを智に渡した。



「ありがとうございます」



 そう言った時には、田崎はもうコーヒーを飲んでいた。

 智は苦笑いをし、プルタブを開けた。



「田崎さん、もう1つ訊いていいですか?」



 智は、缶コーヒーを両手で持って膝に置いた。



「何ですか?」



 田崎は、またベンチに腰を掛けた。



「田崎さん、僕の電話番号はたまたま紙に書かれてあったと言ってましたよね。それは、ただの紙切れですか?それとも、手帳ですか?」



 田崎は考え込む仕草をした。



「手帳に野々神さんの連絡先が書かれてありました。佐名木さんが時々持ち出しているんですけど、たまたまあったもので」



 智はそうですか、と呟き、腕時計を見た。7時30分。まだ集合場所に行くのは早そうだ。このままいろいろ話をしたかったが、仕事も残っている事だろうと思い、智はここで話を打ち切った。



「田崎さん、お時間いただいてありがとうございました」



 智は頭を下げた。



「いえいえ。また、何かあったら知らせてください。あ、例のツアーの事件、何か情報が掴めたら知らせてください」



「はい」



 智は、まだ残っていたコーヒーを飲み干し、傍にあったゴミ箱に捨てて屋上を出た。

 田崎は、ベンチから立ち上がろうとせず俯いていた。











 一輝と会うまでまだ時間があったので、先ほど田崎の居場所を案内してくれた警察官に、佐名木さんの部屋を拝見したい、とお願いしてみた。



「あの、一応上の者の許可が必要なのですが、お名前を教えていただいてもよろしいですか?」



 智は、自分の名前を告げた。



「野々神さんですね。少々お時間いただいてもよろしいですか?」



「はい」



 彼は、受付にあった電話を使い、誰かと連絡を取っていた。

 1分という短い時間で、彼は通話を終えた。



「野々神さん、佐名木さんと長いお付き合いだったんですね。名前を告げたらすぐに、許可が下りました。部屋まで案内しましょうか?」



 1度、女性警察官に案内してもらったので大体は憶えている。それに、何度も仕事の邪魔をしているので断った。



「そうですか。では、僕はこれで」



 彼は軽く頭を下げた。智も礼を言った。彼は、取調室に入って行った。

 智は1度辿った通路を思い出しながら、佐名木さんの部屋に向かった。










 何とか佐名木さんの部屋に辿りついた智は、ドアノブに手をかけ、部屋に入った。

 まずは、変わったところが無いかを確かめるため、辺りを見渡した。景色は、この前来た時と同じ風景だった。荒らされている形跡もない。

 次に、デスクを見た。1番最初に目が付いたのは、さまざまな事件の情報などが載ってある山積みの書類とファイルだった。次に、デスクの上には、ボールペン3本、ものさし1本、赤、青2色のペンが入った入れ物。黒色の手のひらサイズの手帳。デスクの上にあるものはこれだけだった。そこで、智は黒い手帳で思い出す事があった。



『手帳に野々神さんの連絡先が書かれてありました。佐名木さんが持ち出していたんですけど、たまたまあったもので』



 田崎が言っていた事は本当なのか、調べてみた。

 手帳の連絡先が書かれている欄を開くと、ページいっぱいにいろいろな連絡先が書かれていた。この中から探し出すのは大変になりそうだ。

 智はため息を吐きながら、デスクの前にある椅子に腰かけた。30ページあったので、軽く10分程パラパラめくっていると、25ページ目に、1つだけ丸で囲まれている2つの番号があった。それを見ると、智の携帯の番号と、家の番号だった。



「やっと見つかった」



 智は手帳をデスクの上に戻そうとしたが、家に持ち帰ることにした。何かあったときに役に立つと思ったからだ。



 智はその後、デスクの隣に置いてある引き出しの中身を拝見した。1番上には、今まで使った手帳が20冊ほどあった。2番目には、佐名木さんの娘さんや、家族みんなで映っている写真が収納されているファイルが3つあった。1番下の引き出しを開けると、気になるものが入っていた。サングラスだ。他の人なら、サングラスが入っていても気にはならないが、佐名木さんはサングラスなど絶対に使用しない。3年ほど前、佐名木さんと智たちで買い物に行ったとき、疾登がふざけて「佐名木さん、サングラスかけてみてくださいよ」と言ったとき、「絶対に無理だ」と怒鳴ったのだ。急に怒鳴ったので、智たちはびっくりした。今でも、記憶に残っている。何故、あの時佐名木さんは怒声を放ったのか。そこで、智は何かか閃いた。先ほど見た、家族写真などが収納されているファイルを開けると、奥さんは、ほとんどの写真はサングラスをかけていたのだ。智は、そこで自分なりに結論を出した。

“サングラスをかけるのを嫌がったのは丁度、その時奥さんと喧嘩していて、その記憶を思い出してしまったんだ。それで、今は奥さんが恋しくていつも愛用しているサングラスをデスクにしまっているのではないか”

と。あまりはっきりとはしていないが、智はこれで満足した。

 他には、CDやノートパソコンなど趣味に使うものが入っていた。



 もう、他には気になるものが無かったので、智は、腕時計で時間を確認した。8時ちょっと過ぎたところだった。



「もうそろそろ行こうかな」



 智は、もう1度佐名木さんの部屋を見渡して部屋を出た。



「あ、終わりましたか」



 ドアを開けると、目の前に先ほど案内してもらった男性の警察官が、お茶を乗せたお盆を持って立っていた。



「お茶、持っていこうと思ったのですが」



 彼は、少し残念そうな顔をしている。このままでは悪い気がしたので、お茶をもらう事にした。



「何か、気になることはありましたか?」



 智がお茶を飲んでいると、彼は横から話しかけて来た。

 智は脳裏にサングラスが浮かんできたが、あえて話さないことにした。代わりに、手帳を拝見したという事だけを伝えた。本当は、1冊持ち帰っているのだが、何か言われそうなので伝えなかった。



「そうですか。怪しい所もないですから、やっぱり佐名木さんは、何者かに連れ去られたのでしょうかね・・・」



 彼は腕を組んだ。その間に、智はお茶を飲み干した。



「ありがとうございました」



 智はお盆に空のグラスを乗せ、頭を下げてその場を去った。集合時間に遅れそうなので、少し態度が雑になってしまった。



 智は警察署を出て、走って集合場所の江東中学校へ向かった。車なら15分で着くのだが、徒歩で来てしまったので、短くても20分はかかるだろう。1回家に帰って車で行こうとも思ったが、面倒くさいので止めた。でも、走っている途中で思ったことがある。“走った方が家に戻るよりも面倒くさいな。家に帰って車で来たらよかった”と。











 結局、江東中学校に着いたのが8時40分だった。

 智は肩を激しく上下させながら、正門に向かった。そこには、黒い大きな物体があった。それを見て、智はまた走りを再開させた。一輝だと分かったからだ。



「ごめん!遅れた」



 智は膝に手を乗せて、呼吸を整えた。



「智、遅いわ!待ちくたびれたで」



 智はもう1度謝った。



「嘘やて。俺もさっき来たところや」



 一輝は、智の肩に優しく手を置いた。



「そっか。良かった」



 智は体を起こし、改めて一輝の顔を見た。



 一輝の顔は、5年くらい見ていない。たった5年でも人の顔は多少変わるものだな、と智は実感した。髪型のせいかもしれないが、5年前、一輝はちょっとしたヤンキーだったので金髪にしていたのだが、今はサラリーマンをやっているので黒髪に戻っていた。顔も、彫が濃くなり大人っぽく見えた。



「最近全然会ってなかったな。かれこれ、もう5年やな」



 一輝は考え深そうに言った。



「そうだな」



 智は腕を組んだ。



「ご飯、食べに行こか」



 そう言って、智を強引に車に乗せた。



「何処に行くんだよ」



 智は助手席に座り、シートベルトを着けた。



「まあ、そんな気にすることないで」



 一輝は猛スピードで車を発進させた。

目、大丈夫ですか?

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