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僕たちの約束  作者: 翔香
第3章 真実
39/55

第39話 初対面

「お兄、起きて!もう8時だよ」



 目を開けると、1番最初に花輪の顔が目に映った。



「ん・・・8時か」



 智は体を起こし、洗面台に向かおうとした時、背後から疾登の声が聞こえてきた。



「優翔さん、9時に来るんだって」



 その言葉で、智は足を止めた。

 9時?あと1時間しかないじゃないか。朝ごはんも食べていない、部屋の掃除もしていない。1時間では間に合わないかもしれない。



「何でもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」



 智は知らない間に大声を出していた。恐らく、眠れなくて4時まで起きていて睡眠時間が足りなかったうえに、朝は機嫌が悪いというのが重なって、無意識に怒声を放ってしまったのだろう。



「ごめん。うるさかったよね」



 智は2人に謝って、急いで顔を洗いに行った。ついでに髪型を整えた。朝食の準備に取りかかろうとしたが、花輪がそれを阻止した。



「お兄、朝ご飯、作ってあるよ」



 そう言って、台所から味噌汁と、白ごはん、卵焼きを出してきて、テーブルに置いた。冷めないように、ラップをしてくれていた。



「どうぞ。私と疾兄は先に食べたから」



 智は花輪に礼を言った。ゆっくり食べたいのだが、そんな時間などない。時間は止まってくれないのだ。智は箸を止めずに食べた。

 急いで食べた末、5分ですべてを平らげた。



「ごちそうさまでした」



 智は手を合わせて、食器を台所に置いた。皿洗いは後にすることにした。



「お兄、お皿洗っておくね」



「ああ、ありがとう」



 花輪はいつも優しいな、と思う。



「疾登、ちょっとリビングの片付けお願いしてもいい?」



 疾登は分かった、と返事をした。



 智は、時間を確認した。



『8時20分』



――何だ、意外と間に合うものだな。



 智は、少し安堵した。



「兄貴、突っ立ってないで手伝ってよ」



 疾登は少しキレ気味で言った。



「ああ、ごめん、ごめん」



 智は、掃除機をかけることにした。



「お兄、掃除ってリビングだけでいいの?」



 花輪は皿を洗い終わったのか、手をタオルで拭きながら聞いてきた。



「え?だって、リビングしか入らないだろ?」



 智は少し焦った。



「あ、そっか。そうだよね」



 花輪は納得したようだ。

 それから、疾登はゴミ捨て、智は掃除機をかけ、花輪は窓を拭いたりした。

 全ての仕事が終わり時計を見ると、8時50分だった。



「ギリギリだな」



 疾登はソファーに重たい腰を下ろした。



「そうだな」



 智も地面に寝転がった。



「あ、そういえば、あのツアーにいた小父さんいたじゃん?あの、バスで話してた」



 智はああ、と思いだした。



「ツアー中は小父さんからメール来なかったの?」



 智は花輪を見た。



「ああ、来てなかったよ。最近も、あんまり来ないかな」



 花輪は表情を和らげて言った。



「ちょっと待てよ」



 疾登は、突然考え込む仕草をした。



「あのさ、俺思ったんだけどツアー中って携帯高峰に取られてたよな」



「ああ!」



 そこまで聞いて、智はひらめいた。



「となると、あのバスで見つけた小父さんは花輪の不審なメールの犯人か!」



 智は起き上がって言った。



「そう!あ~あ。俺が言いたかったのに」



 疾登は口を尖らせた。



「そっか。じゃあ、せめて名前だけでも聞けばよかった」



 花輪はがっかりした表情を見せた。



「でも、あの小父さんの顔どっかで見たような気がするんだけどな・・・」



 智は記憶を巻き戻そうとするが、睡眠時間が足りなかったせいか、全然思い出せない。



《ピンポーン》



 そこで、玄関のチャイムが鳴った。途端に、智の心臓が暴れ出した。疾登も表情が硬くなる。花輪は、玄関のドアを開けた。



「どうぞ~」



 花輪は嬉しそうな声を出して、奥田村を中に入れた。

 奥田村の顔を見た瞬間、智は呼吸をするのを忘れそうになった。



――かっこいい・・・



 男の智でも惚れてしまいそうな顔だった。これがイケメンと言うのかと改めて実感した。



 身長は180センチくらいで、花輪と20センチくらい差がある。足が長く、顔が小さい。目は二重で、鼻は高く、口も柔らかそうだった。何より、肌が綺麗だ。スーツを着ているので、華があった。



「初めまして、奥田村優翔と申します」



 奥田村は、頭を下げた。智も頭を下げる。



「すみません。こんな早い時間にお邪魔してしまって」



 奥田村は、申し訳なさそうな顔をした。



「いや、大丈夫だよ」



 智は、奥田村をソファーに誘導した。



「いや、僕はここで構わないです」



 奥田村は、机の前に正座した。花輪は、奥田村の横に座った。智と疾登は、2人の向かい側に座った。



「早速ですが・・・」



 奥田村は、1度深呼吸をした。そして、口を開いた。



「花輪さんを、僕にください」



「どうぞ」



 疾登は、智に何も言わずに即答で答えた。



「え?」



 これには、奥田村も困っている様子だ。

 智は、疾登を掴んで2人に背を向けて、小声で話した。



「おい、勝手に決めるなよ。本当は、性格が悪いやつかもしれないじゃないか。花輪を一生支えていく人になるんだぞ。何でも顔で決めるんじゃない」



「そっか。そうだよな。俺たちがちゃんとした決断を下さないと、困るのは花輪だよな」



 智は奥田村の方を向き、1つ咳払いをして言った。



「ちょっと質問していい?」



「はい。何でも構わないです」



 奥田村は、姿勢を正した。



「花輪のどこに惚れたんだ?」



 ここは、訊いておかなければと思ったのだ。



「花輪さんは、優しくて、可愛くて、時々見せるおっちょこちょいな所に惚れたんです」



 当たってる。確かに、花輪は、優しいし、可愛いし、おっちょこちょいだ。

 智は、もう1つ訊いた。



「職業は何を?」



 これは大事だ。職業によって、花輪のこれからの生活が変わってくる。



「職業は、NN自動車工業の社員です」



 NN自動車工業!?智は、思わず驚いた顔をしてしまった。



 NN自動車工業とは、今、1番売れている自動車工業だ。いろいろな国と交流を深めて、日本以外にも、アメリカ、オーストラリア、フランスなど、さまざまな国にNN自動車工業の車を販売している。最近、テレビにもよくNN自動車工業の話題が出る。恐らく、日本国民なら、誰もが知っているだろう。



「そうか。素晴らしいな」



 智は、動揺を隠すので精一杯だった。



「ありがとうございます」



 奥田村は、少し照れた様子だった。



「それと、最後にもう1つ」



 智は、1つ咳払いをした。



「うちの家族の事情を、ちゃんと受け入れてくれるか?」



 家族の事情とは、両親が殺されたという事だ。これをちゃんと把握してもらわないと、花輪も智と疾登と離れると、事件の相談相手がいなくなって困るだろう。



「はい。花輪さんから、全て聞いております。大丈夫です。僕も――」



「ん?」



「いや、何でもないです」



 智は、続きが気になったが、あえて触れないことにした。



「花輪は本当に、この人でいいんだな?」



 智は、もう1度確認した。



「うん」



 花輪は頷いた。



 智は、少し考え込んで決断を下した。



「奥田村優翔さん」



「はい」



 奥田村の顔が、真剣なものに変わる。



「花輪を、よろしくお願いします」



 智は、頭を下げた。疾登も同じ動作をした。



「ありがとうございます。花輪さんを、絶対幸せにします」



 奥田村は、深く頭を下げた。











「いや~びっくりしたよ。あんなかっこいい人も居るもんだね」



 奥田村が帰った後、疾登は背伸びしながら言った。



「あんなにかっこよかったら、会社の社員にもモテるんじゃないのか?」



 智は、ふてくされた様に言った。



「うん、モテるよ。大学でも、イケメンがいるって有名だったからね」



 花輪は、3つのコップにお茶を分けながら言った。



「花輪、すごいな。NN自動車工業の社員と結婚できるなんて。あ、そういえばさ」



 智は、さっきまで気になっていたことを花輪に訊いてみた。



「あのさ、奥田村に家族の事情を、ちゃんと受け入れてくれるか、って質問した時、何か言いたそうだったんだけど、花輪何か知ってるか?」



 花輪は、話していいのか分からないのか、俯いてしまった。



「あ、ダメだったら無理に話さなくてもいいいよ」



 智が自分の部屋に向かおうとした時、花輪の声がした。



「あのね。優翔さんは・・・」



 智は花輪の方を向いた。



「優翔さんは、小さい頃お父さんを亡くしたの。殺されてしまったんだって」



 花輪は、悲しそうな顔をした。



「犯人は、捕まったのか?」



 疾登が訊く。



「うん。犯人は捕まったらしい。私たちと同じ過去を持った人が傍にいると思ったら、何だか安心しちゃって」



 花輪の顔から、笑顔がこぼれた。



「そっか。犯人捕まって良かったな。花輪、これから奥田村にずっとついて行くんだぞ」



 智はそう言って、自分の部屋に入って行った。



「はぁ」



 智は部屋に入り、ベットに飛び込んだ。



――花輪が結婚か・・・



 智は、改めて実感した。花輪が居なくなると、寂しくなるだろうな。花輪が主婦になると、子供の事で忙しくなって、犯人の事なんか手に負えなくなるのだろうか。まあ、それもしょうがない事だ。これからは、俺と疾登でやっていくしかないな。

 智が目を閉じた直後、携帯が鳴った。



「もしもし」



 受話器から発せられた声は、聞き覚えのないものだった。



「野々神智さんですか?」



「はい、そうですけど・・・」



「あの、私国立警察署の田崎と申します。佐名木警部の部下です」



 佐名木さんの部下と聞いて、少し安心した。



「どのようなご用件で」



「佐名木警部、そちらのお宅にご在宅でしょうか?」



「いえ、来ていません。何かあったのですか?」



 田崎は、がっかりしてしまったのか、声のトーンが先ほどよりも低くなっていた。



「実は、佐名木警部が今日の午前3時から行方不明なんです。携帯に電話を掛けても出ないんです。自宅にもいらっしゃいませんでした」



 そこで、智は頭に引っかかることがあった。それを、田崎に訊いてみた。



「あの、田崎さんはどうやって僕と連絡しているのですか?佐名木さんの携帯にしか、僕の連絡先は記録していないはずですが」



「これは、たまたま佐名木さんが紙にメモしてあったんです」



「そうですか」



 何かおかしい気がする。



「では、また連絡します」



「あの」



 田崎が通話を切ろうとしたが、それを止めた。



「何でしょう」



「僕たちも、佐名木さんを捜してもいいでしょうか?まだ、調べられてない事もたくさんありますし・・・」



「調べられていない事?」



 田崎が智の言った言葉を、一部復唱した。



「佐名木さんに調べ終わったら教えてくれと言われていたんです」



「それって、貴方が行ったツアーの事件ですか?」



 智がはい、と答えると、田崎はまた数秒黙ってから、声を出した。



「いいですよ。人手が多い方が見つけやすいですよね」



「ありがとうございます。あの、僕の弟と妹も協力してもよろしいでしょうか?」



 田崎は智の考えに賛成してくれた。



「では、私の連絡先を教えておきますね」



 携帯の携帯番号を教えてくれた。



「では、また何が情報が見つかったら教えて下さい」



「はい」



 そこで、通話が切れた。



 智は、部屋を出てリビングに向かった。疾登と花輪に伝えるためだ。

評価をしてくださった皆様、ありがとうございました!

すっごく感激しました!!!


これからも、よろしくお願いします!

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