第38話 悩み事
リビングに行くと、疾登と花輪が一緒に夕飯を作っていた。
「誰からだったの?」
花輪が味噌汁をかき混ぜながら訊いた。
「ああ、一輝からだよ」
智は、お皿を食器棚から出しながら答えた。花輪はそっか、と呟いた。
「明日、夜の8時から一輝とご飯食べに行ってくるから」
智は、事前に2人に伝えておいた。
「じゃあ、明日お兄は夕食いらないの?」
花輪は少し寂しそうに言った。
「うん。ごめんな」
智は、花輪の頭を撫でた。花輪はコクリと頷いた。
「兄貴、サラダを皿に盛りつけてもらってもいい?」
疾登がブロッコリーとキャベツを冷蔵庫から出してきた。
智は頷き、適当な大きさに切って、3つの皿に分けた。
分け終わったとき、また智の携帯が鳴った。
「誰だろう・・・」
電話に出てみると、佐名木さんだった。
『智君か?高峰についてちょっと調べてみたんだが・・・』
そこで、佐名木さんは喉を詰まらせた。
「どうしたんですか?」
『実は、高峰は2004年にあった、大阪連続殺人事件の犯人なんだ』
「はい?」
智は、状況が把握できなかったので、思わず聞き返してしまった。
――高峰は何者なんだ?
智は、高峰についてもっと詳しく知りたくなった。
「他に、情報はありますか?」
『ごめんな。まだそんなに情報が入っていないんだ』
「そうですか」
智は、残念そうに呟いた。そこで、智に1つの案が浮かんだ。
「あの、僕が調べてみてもいいですか?」
『え、どうやって?』
智が高校生の時、仲の良かった越元裕貴の趣味が新聞記事の切り抜きというものだった。大きな事件の記事があると、切り取ってノートに張り付けているというちょっと変わった人だ。裕貴に会いに行けば、佐名木さんが言っていた2004年の大阪連続殺人事件の記事が見つかるかもしれない。
「僕の友達が、大きな事件の新聞記事を集めるのが趣味なんです。だから、連続殺人事件の記事がまだ残っているかもしれないんです」
佐名木さんは、少し唸ってから声を出した。
『本当は、警察以外の人は捜査に協力してはいけないのだが・・・まあ、いいだろう。責任は俺が取るよ』
智は、いつも「佐名木さんはかっこいいな」と思う。
「すみません。ありがとうございます」
『情報、調べたら教えてくれないか。些細な事でもいいんだ』
「分かりました。調べ終わったら、すぐに連絡します」
佐名木さんは待ってるよ、と言って電話を切った。高峰以外の事件も溜まっているのだろう。忙しいのに、仕事を増やしてしまって、申し訳ないと思っている。
「佐名木さんからだった。高峰、2004年の大阪連続殺人事件の犯人だったんだって」
智は、リビングに戻り、注ぎ終わった味噌汁を机に運びながら言った。
「え!何それ!熱っ!」
疾登は、驚きのあまり、鍋に指が当たって火傷したらしい。
「もう、疾兄大丈夫?ほら」
花輪は、保冷剤を疾登に渡した。疾登は礼を言った。
「それで、高峰は捕まったの?」
花輪は、焼きあがった肉を、智が取り分けたサラダがある皿に、盛りつけた。
「いや、まだ捕まっていないらしい。情報もあまり無いって」
「そっか。捕まってないんだね」
花輪は残念そうな顔をした。
「俺、高峰が起こした事件の事、調べてみるよ」
「え、どうやって?」
疾登が、佐名木さんと同じ質問をしたので、同じ答え方をした。
「そうなんだ。変わった人だね」
「でも、裕貴いい奴だよ。面白いし」
「ご飯、出来たよぉ~」
花輪の声が、リビングの方から聞こえてきた。
「は~い」
疾登は嬉しそうにして、夕飯が並べてある机の椅子に腰かけた。
「いただきま~す」
3人は、楽しい会話をしながら、夕飯を食べた。
「お兄、疾兄、先にお風呂入る?」
花輪は、食べ終わった皿を洗いながら訊いた。
「いいよ。花輪先に入りな」
疾登も智に賛成した。
「じゃあ、お皿洗ってから入るね」
「いいよ。俺洗っておくよ」
智は優しく言った。
「じゃあ、遠慮なく」
花輪はありがとう、と言って風呂場へ向かった。
「兄貴、俺も手伝うよ」
疾登は、洗った皿を拭く係になった。
智と疾登は、無言のまま、それぞれの仕事をやった。
しばらく経って、最後の皿を疾登に渡したとき、智の頭にまた激痛が襲った。疾登に痛がる姿を見られたくないので、怪しまれないようにして、トイレへ向かった。
「痛っ」
智は、また映像を見た。それは、父さんと母さんがリビングで泣いている残像だった。何故泣いているの
かは、分からなかった。
「何なんだよ」
少し痛みが和らぎ、智は呼吸を整えた。
「何で、泣いてるんだろう・・・」
智は、疑問を抱えたままリビングに戻った。
「花輪、もう上がったのか?」
ソファーには、髪を乾かしている花輪が座っていた。
「うん。あんまり待たせるといけないなと思って」
「そんなこと、気にしなくていいのに」
疾登は、口を尖らせて言った。
「いいよ、いいよ。お皿も洗ってくれたし、疲れてると思うし」
花輪は、優しい言葉をかけてくれた。
疾登、智の順番で風呂に入った。風呂の中でも、頭痛がしたが、映像は出てこなかった。
「ねえ、私、悩み事があるんだけど・・・」
花輪は、俯いて言った。
智は、何となく花輪が何を言いたいのかは察しがついていた。智は、考えていることを言葉にしてみた。
「ツアーゲームの罰、大切な人を失う、の事だろ?」
花輪は小さく頷いた。
「大丈夫だって。花輪の大切な人は、高峰なんかには分からないだろう」
疾登は、軽く励ました。
「でも、お兄と疾兄は、高峰でも知ってるよ」
智は、ドキリとした。確かに、高峰は俺と疾登の事を知っている。大切な人とは、俺と疾登にも当てはまるだろう。
「私のせいで、お兄と疾兄がいなくなったらどうしよう」
花輪は今にも泣きそうだ。
「気にすることないよ。大丈夫。何かあったら・・・まあ、何とか生き延びるよ」
智は、良い言葉が思いつかず、曖昧な言葉になってしまった。
「絶対、何処にもいかないで」
花輪は、智と疾登にすがるように言う。
「それは、無理なお願いだな」
智は、腕を組んだ。
「大丈夫だって。俺も男なんだから、自分の体は自分で守るよ」
疾登が綺麗にまとめてくれた。
疾登の言葉で納得したらしく、花輪は優しく笑った。
「良かった。絶対いなくならないでね」
花輪は何度も念を押す。
「分かってる」
智と疾登は花輪につられて笑った。
「じゃあ、俺寝るわ」
疾登は欠伸をしながら、自分の部屋に入って行った。
「じゃあ、私も寝るね。おやすみ」
智はおやすみ、と返した。
智は、自分の部屋で寝る気分じゃなかったので、リビングのソファーに寝転がった。少し携帯をいじって、瞼を閉じたが、なかなか寝れない。花輪の結婚相手が来るという緊張感でいっぱいで、落ち着けないのだ。試しに、本を手に取って読んでみた。ウトウトはしたのだが、本を目から放すと、また目が覚めるのだ。
「もう、何だよ」
智は髪をぐちゃぐちゃにして、体を起こし、テレビをつけた。
「寝れないなら、起きておこう」
そう決心した。恐らく、明日は頭の回転が良くないだろう。智は暗闇の中、寝そべりながらテレビをボーっと見ていた。
テレビの内容は全然頭に入っていない。ただ、音が聞こえているだけだった。
音楽番組なので、眠気を誘ったのだろう。智は、知らない間に眠りに就いていた。
ヤバイ!!溜めていたネタが無くなっていく・・・
でも、ちゃんと完結まで頑張っていきますよ☆
みなさん、これからもよろしくお願いします。
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