第36話 ツアー終了
今回は、少し短くなってしまいました。
午前6時、窓からの朝日で智は目を覚ました。
あまり睡眠を摂っていなかったせいか、頭がクラクラする。
隣を見ると、まだ2人は眠っていた。花輪はそろそろ起こさないと、化粧などの準備が間に合わないと考え、花輪を先に起こした。
「あ、おはよう。お兄」
花輪は背伸びをしながら言った。
「顔、洗いに行くか?」
智が聞くと、花輪は小さく頷いた。
2人は、疾登を残して、トイレに向かった。
部屋に戻ると、疾登は座ってボーっとしていた。
「どうした。こんなに早く起きるなんて珍しいじゃん」
智は疾登の肩を叩いた。
「うーん。何か急に目が覚めてさ」
疾登は髪を触りながら言った。
「そっか。じゃあ、布団、片付けるか。疾登、顔洗ってきなよ」
疾登は欠伸しながら返事をして、部屋を出て行った。
智は、花輪に手伝ってもらい、布団を押し入れにしまった。
「私、着替えるから、お兄外に出ててもらっていい?」
智は思わず動揺してしまった。
「あ、わ、分かった。ごめん」
智は急いで外に出た。
その時、疾登が帰ってきた。
「あれ?兄貴花輪に追い出されたの?」
疾登は笑いながら言う。
「違うって!花輪が着替えてるんだよ」
疾登は悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「兄貴、本当は覗きたいんじゃねーの?」
「はぁ!!お前、喧嘩売ってんのか?」
智は疾登の髪を掴んだ。
「ごめんごめん!!冗談だよ。痛い!」
「よろしい」
智は掴んでいる疾登の髪を放した。
それから15分経ってから、花輪から部屋に入る許可が下りた。
「あ、化粧もしたのか?」
部屋に入って早々疾登が声を出した。
「うん。ってか、そんなに分かりやすい?」
智と疾登は同時に頷いた。
「何か、酷いなぁ」
花輪は化粧品をバックに入れながら言った。
「ごめん。そんなにテンション下がるか?」
疾登は花輪を覗き込んだ。
「うーん。気分良くはならないね」
「あ、そうなんだ。ごめんな」
智も続けて謝った。花輪はどうでもいいよ、というようにサラッと受け流した。
楽しく会話をしていると、気付けば集合時間7時の5分前になっていた。
3人は昨日言われた通り、食堂へ向かった。
食堂に入ると、もうほとんど皆揃っていた。高峰はまだ来ていなかった。
7時になると、皆適当な席に座って、誰も口を開かずに待っていた。と、そこに、高峰が現れた。
「皆さん、お揃いですか」
高峰はぐるりと周りを見渡した。
「では、まずは皆さんに携帯をお返しします。この段ボールの中に全員分入っているので、取りに来てください」
言い終えた後、皆一斉に携帯を取りに向かった。智たちは人数が少なくなったところを見計らって、取りに行った。
「皆さん、取りましたね。あ、このツアーの事は誰にも言わないで下さい。でも、こう言ったものの、警察に通報する人がいるんですよね。でも、私が捕まることはないでしょうね」
智は眉間に皺を寄せた。
――どういう事だ。あれだけ人を殺しておいて、罪が無いとでも言うのか?
「では、これでツアーは終了と致します。朝食はそこら辺のコンビニで、弁当でも買って適当に食べてください。では、皆さんとはここでお別れです。それでは皆さん、お元気で」
そう言って、高峰は食堂を出て行った。その直後、皆は重たい空気に耐えられなかったのだろう。それぞれ会話を始めた。
「やっと終わったね!お兄、疾兄!」
花輪は満面の笑みを浮かべた。
「ああ。もう、帰れるな」
疾登も安心している。
「疾登、あの男の子の事、訊くんじゃないのか?」
男の子とは、夜中に出た幽霊の事だ。
「そうだった。すっかり忘れてた」
疾登は、近くにいた小父さんに訊きに行った。確か、あの小父さんは最初に幽霊の噂を言っていた人だ。
智と花輪も、小父さんの元へ向かった。
「本当に出たのかい?あの幽霊が。あの男の子はね、小学生の修学旅行で、ここの旅館に泊まったんだ。そこで運が悪く、旅館で火事が起こってね。それで、あの男の子だけ助からなかったんだ。可愛そうに」
小父さんは同情するように語った。
「あの、その男の子は何処の小学校に通っていたのですか?」
疾登は興味深げに訊いた。
「あの男の子はね、ここからすぐ近くに廃校があるんだ。そこに通っていたらしい」
「そうですか、ありがとうございます。すみません、わざわざ」
疾登は頭を下げた。
「いえいえ、とんでもない。では、お元気で」
小父さんは優しく笑った。
「はい。小父さんも、お元気で」
疾登はもう1度頭を下げた。智と花輪も一緒に下げた。
小父さんは、食堂を出て行った。残ったのは、智たち3人だけとなった。
「廃校って、まさかカード探しゲームの時に入って行った・・・」
花輪は息を呑む。
「多分な。だから、あの時疾登に乗り移ったんだろう」
「まあ、これで男の子の幽霊事件は解決ってことで」
疾登は簡潔にまとめた。
「じゃあ、帰るか」
智は2人に声をかけ、適当にタクシーをひろった。
「なあ、このツアーの事、警察に話した方がいいのかな」
疾登がタクシーの中で、質問した。
「でも、高峰が言ってた言葉が気になるよね」
花輪は腕を組んでいる。
「何で、高峰は罪が無いと断定できたんだろう」
智も腕を組んで唸った。
「まあ1回、佐名木さんに相談してみよう」
智は話をまとめた。
それから30分程タクシーに乗って、バスで家まで帰った。
「ただいま~!」
疾登と花輪は両手を挙げて大声を出した。
「元気だな」
智は2人を見て、安心した。
「あ~お腹空いた。何か冷蔵庫に食べ物入ってるかな」
疾登はお腹をさすりながら、冷蔵庫の扉を開けた。
「何もないな」
疾登はため息を吐いて、扉を閉めた。
「じゃあ、そこら辺のお店に食べに行こうか」
朝食を摂っていなかったので、智もすごくお腹が空いていた。
3人は、近くにあるレストランで昼食を済ませた。
「あぁ。美味しかったな」
レストランを出て、疾登が背伸びした。
「ねえ、このまま佐名木さんの所に行かない?ちょっとは運動しないと」
花輪が2人に尋ねる。
「いいよ。ちょっと食べすぎたしな」
疾登はハンバーグセットと、スープを5杯おかわりしている。智は、食べ過ぎだと思い疾登に注意したのだが、結局疾登の手は止まらなかった。
彼らははそのまま国立警察署へ向かった。
ツアー、終了しましたねぇ。
結構大変でした。
これからは登場人物が増えてきますので、皆さん紛らわしくなりますが、より一層楽しく読めるようになると思います!