第35話 幽霊
今回、ちょっと幽霊とか超常現象の話が出てきますが、全て作り話なので安心してください(笑)
風呂には、智と疾登を合わせて7人しか居なかった。恐らく、皆疲れて寝てしまったのだろう。2人とも体を洗い終わり、露天風呂へ向かった。
「気持ちいい~」
疾登は風呂に入って背伸びした。
「そうだな」
「こうやって2人で風呂入るのも久しぶりだな。足、大丈夫?」
疾登が、智の足に目を落とした。
「あ、うん。全然」
「ならいいんだけど。それより、兄貴」
疾登は急に真剣な顔になった。
「ん?」
「花輪、無理してるだろうな」
疾登は俯きながら言った。
「なあ、疾登。花輪の事・・・好きか?」
智は聞こうか迷ったが、どうしても気になったから聞いてみた。
「好きだよ。兄貴は?」
「好きだよ」
即答だった。
智と疾登は空を見上げた。雲1つなく、星が無数にあった。周りにあかりが無いため、いつも見る星より一層綺麗に見えた。
「もうそろそろ出よっか」
「うん」
智と疾登は風呂を出た。
部屋へ帰ると、まだ花輪は帰ってきてなかった。
「女の子は風呂長いよな」
疾登は布団を敷きながら言った。
「そうだな。風呂くらいゆっくりしたいんだろう」
智も自分の布団を敷きながら言った。
「花輪の布団も敷いておこう」
疾登が花輪の布団を1人で敷いていたので、智も手伝った。
「ありがとう」
そこで、花輪が帰ってきた。
「あ~すっきりした」
花輪はタオルで拭きながら入ってきた。
「良かったな」
智と疾登は同時に声を出した。
同時に声を出したのに驚いたのか、花輪は一瞬目を丸くしたが、すぐに穏やかな笑みに変わった。
こんな普段の会話が、今になって懐かしく思えた。恐らく、ツアーのゲームがあったからだろう。
「あ、私の布団敷いてくれたの?」
智と疾登はまた同時に頷く。
「ありがとう!」
花輪はニコッと笑った。
「じゃあ、寝ますか」
疾登は布団にドサッと寝転がった。
「あれ、疾兄忘れたの?」
「何が?」
花輪が言おうとしていることが智には分かった。だが、それを言うと、疾登が寝られなくなるので止めようとしたが、間に合わなかった。
「この303号室には、幽霊が出るって最初に話してたじゃん」
ここで、智が花輪にツッコミを入れた。
「今、言わない方が良かったんじゃないか?ほら、疾登見てみなよ」
智の目に映っている疾登は、俯いていて、テンションガタ落ちの疾登だった。
「あ、ごめん」
花輪は疾登に向かって顔の前で両手を合わせた。
「はぁ」
疾登は布団に包まった。
「ま、まあ、本当かどうか分からないじゃないか。寝てたら分かんないし。そんなに落ち込むなよ」
智は懸命にフォローするが、布団から顔を出さない。
「もう、寝ようか。早く寝た方がいい気がする」
智は布団に寝転がった。
「電気、消した方がいい?」
「あー!消さないで!」
いきなり疾登がガバッと起きて、大声を出した。
「あ、ごめん。点けておくね」
「こっちこそ、ごめん。大声出して」
その後、左から花輪、疾登、智という順番でそれぞれ布団に入った。
疾登が窓際は嫌というので、仕方なく1番安心できる真ん中にしてやった。本来は、花輪が真ん中になる所だが、誤って寝ている間に変な事でもしたらタダでは済まされないので、花輪は廊下側になった。
「じゃあ、おやすみ」
智は2人に告げた。
「おやすみ」
花輪と疾登は言った。
その夜、智は家じゃないところでは、安心して眠れないのでなかなか眠れなかった。それは、疾登も同じだったらしい。花輪は疲れていたのか、すやすやと寝息を立てて寝ている。
「兄貴、なんか、気配感じないか?」
突然、疾登が声を出した。
「そうか?俺は全然感じないけど。疾登、霊感強いのか?」
「うーん。多分ね」
初めて知った。疾登は霊感が強いという事を。そういえば、廃校の中にいたときも、疾登は気配を感じていた。その気配も見事的中していたし・・・。
「なあ、兄貴の所に移動していい?」
「はぁ!?何だよ、気持ち悪いな」
智は思わず大きな声を出してしまった。
「え、だって怖いし・・・。もう、そっち行くから」
そういって、智の許可も無しにこっちへ移動してきた。
「もう、何だよ」
「いいじゃん」
智はため息を吐いた。
――こんな状態で、よく今まで1人で寝られたな。
智は、ふと思った。
「あ、兄貴!!」
疾登が窓の方を指して足をジタバタしている。
「どうしたんだよ・・・まさか、いるのか?」
「いるいるいる!!」
智は怖かったが、気になって窓の方を見た。
「出たぁぁぁ!!」
智と疾登の声で、花輪が起きてしまった。
「もう、何?2人して」
「か、花輪、ほ、ほら霊がいるだろ!」
花輪は窓を見た。
「きゃっ!!!出たぁぁぁ!!!」
花輪は布団の中にもぐってしまった。
「あれ?この男の子って・・・」
疾登が目を細くして言った。
「この男の子、廃校で俺に取り憑いた男の子だ」
「え?」
智は勇気を出して男の子の霊をじっくり見た。
浮いているので、はっきり分からないが、身長は120センチくらいだ。髪はおかっぱで、顔立ちはまだ幼い。七分のズボンにTシャツを着ている。何故か、悲しそうな顔をしている。
「この子、話しかけられるのかなぁ」
疾登が急に不思議なことを言った。
「お前、幽霊とか無理なんじゃなかったのかよ」
「これは別問題だよ。この男の子、何かあったのかな」
疾登は窓に手をかけた。その瞬間、男の子が消えた。
「あれ?」
疾登が窓を開けるが、もうそこには男の子はいなかった。ただ、冷たい風が体に吹きつけるだけだった。
「消えた・・・」
疾登は肩を落として窓を閉めた。
「あの男の子、何か辛い過去があったのかな」
智は呟いた。
「多分な。明日、皆に聞いてみようかな。誰か1人は知ってるかもしれない」
疾登は布団に戻りながら言った。
「お兄、疾兄!もう、消えた?」
花輪が、布団からひょこっと顔を出して聞いてきた。
「ああ、もう消えたよ」
疾登が答えた。
「そっか。良かった~」
「あの霊、廃校で疾登に取り憑いた男の子だったんだって」
智は説明した。
「え、そうだったの?何でここまで来たんだろう」
智と疾登は首を捻った。
「もう、寝よう。もう12時過ぎてるから」
智の発言で、疾登と花輪は布団にもぐった。
智はそれから1時間後くらいにやっと眠りに就くことが出来た。
その時、智は夢を見た。父さんと母さんが殺され、智、疾登、花輪が寄り添って泣いている夢を。犯人は黒い影で、顔は見えなかった。
今回、ちょっと短かったですよね。
すみません(-"-)