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僕たちの約束  作者: 翔香
第2章 不気味なツアー
34/55

第34話 狂い

《では、皆さんの縄を解きます》



 同じく、黒スーツの男が出てきて、花輪の縄を解いた。

 花輪は、結衣に目を向けた。結衣の周りには血の海になっていた。花輪は耐えられなくなって、また顔を伏せた。



「皆さん、お疲れ様でした」



 アナウンスから、高峰の声が聞こえた。もちろん、誰も反応しない。



「それでは、皆さん部屋に戻ってもいいですよ」



「ちょっと待ってください」



 花輪は、高峰を止めた。1つ、気になることがあったからだ。



「何です?」



「さっきのアナウンスの女性は誰だったんですか?」



 花輪は恐る恐る聞いた。



「あ、ああ。あれですか。あれは、私が雇ったんです」



 妙に、高峰は落ち着きがなかった。所々、声が裏返っていた。花輪は、それが気になったが、今は聞かないことにした。



「そうですか」



「で、では、次の指示が出るまで部屋で待機しておいてください」



 そう言ってアナウンスは切れた。



 花輪は、加奈に目を向けた。



「ねえ、野々神さん」



 加奈は俯いたまま声を出した。



「は、はい」



 急に自分の名前を呼ばれたので、少し動揺した。



「私、殺人犯になるのよね」



 花輪は、はっきり答えていいのか分からず、ただ、黙っていた。すると、また加奈が呟いた。



「私、人殺しちゃった・・・。自分の意志で殺ったんじゃないのに」



 加奈は泣き出してしまった。花輪は、加奈の目線までしゃがんだ。



「はっきり言って、貴方は殺人犯になるでしょう」



 花輪は勇気を出して言った。



「でも、貴方は高峰に脅された」



 加奈は小さく頷く。



「だから、貴方はパニックになって引き金を引いてしまった・・・」



 加奈は再び頷いた。



「恐らく、貴方は捕まると思います。でも、大丈夫です。ちゃんと事情を説明すれば、警察もそれなりの対

応をしてくれますよ。高峰も捕まります」



 加奈はゆっくり顔を上げた。花輪は優しく笑った。



「ありがとう。何か、話したら気が楽になった」



 花輪は、ちょっと照れた。



「そ、そうですか。良かったです。こんな私でもお役に立てて」



 加奈は立ち上がった。



「じゃあ、戻りましょうか」



「はい」



 加奈が、ドアを手前に引いた。すると、そこには衣服がボロボロの飛香が立っていた。恐らく、電気ショックで衣服が焦げてしまったのだろう。



「良かった。無事だったんですね」



 花輪は飛香に声をかけた。



「野々神さんは黙ってて」



「え?」



 呆然とした。



「用があるのは貴方じゃない。用があるのはこいつ。吉岡加奈よ」



 今までの飛香とは別人の様に思えた。



「さっきの事は謝ります。だから――」



 飛香は、加奈の言葉を遮った。



「何なの?自分だけ楽になって。こんなの不公平だよ」



 すると、飛香のポケットから鋭く光を放つものが見えた。



「ちょ、ちょっと待ってよ・・・」



 加奈は後ずさる。



「貴方への復讐。佐藤さんまで殺しておいて、よくそこまで平気でいられるわね」



 飛香は、狂ったように加奈に刃物を向けた。



「ま、待って!あれは事故なの!私の意思じゃない!」



 加奈は叫びながらゆっくり後ずさる。



「そんな言い訳通じないわよ。殺したことには変わりないんだから」



 飛香は不気味に笑う。

 花輪は、止めに入ろうとするが、なかなか1歩が踏み出せない。



「何で信じてくれないの・・・」



 その時、加奈の背が壁に当たった。もう、後は引けない状態だ。



「残念。これで終わりね」



 そこで、やっと花輪の金縛りが解けた。花輪はすぐさま飛香の腕を強く握った。



「ちょっと!何するの!」



「落ち着いてください!だいたい、こんなことして何が解決するんですか?」



 その言葉で、飛香の動きが一瞬止まった。



「そ、そんなの、意味なんてないわよ!」



 飛香はまた暴れ出す。



「だったら、もう止めましょう。吉岡さんを殺してしまったら、罪を被るのは貴方ですよ」



 花輪は、あくまで冷静に言った。



「もう、黙っててよ!」



 飛香は花輪の手を力ずくで振り払った。飛香の手にはまだ刃物が握られている。



「頭にきた。野々神さん、貴方しつこいわね」



 嫌な予感が過る。



「野々神花輪さん。覚悟しなさい!」



 その直後、飛香は花輪に突進してきた。



「え、ちょ、待って!」



 花輪は反射的に避けることができた。



「あら、筋がいいのね」



 そう言うと、また花輪に突進してきた。

 花輪は、この狭い部屋だと逃げ切ることが出来ない、と思い部屋を出た。



「面倒だな」



 飛香は小さく舌打ちをして、花輪を追った。

 部屋に1人残された加奈は薄ら笑いを浮かべた。



「野々神さん、馬鹿だなぁ。あたしなんかにかばって自分が標的になるなんて」



 加奈は狂ったように笑った。











「どうしよう・・・どうしよう」



 花輪は昔、足が早い方だったが、今はかなり体力が落ちてしまっている。こんなんで、逃げ切れるだろうか。

 飛香はまだ体力はありそうだ。さほど息は切れていない。



――何処へ逃げよう・・・



 走りながらずっと考えていたが、やはり『あそこ』しか思い浮かばない。

 いや、そこへ逃げると、迷惑を掛けてしまう。だが、もう体力も無い。花輪の呼吸が段々荒くなる。



「あら、野々神さん、もう限界ですか?」



 花輪とは対照的に、余裕の表情を見せる飛香。



――もう、無理かも・・・



 そう思った花輪は、くるりと向きを変え、角を左に曲がった。



――確か、この突き当りだったはず!



 花輪の予想は当たっていた。花輪は容赦なくポケットから303号室のカギを出して、部屋に入った。花輪の考えていた場所は、智と疾登がいる部屋だったのだ。



「おお!花輪!!無事だったのか!!良かった・・・」



「花輪!お帰り!ずっと待ってたんだ!!」



「2人とも!!今はそんな場合じゃないの!私、狙われてるの!!」



「へ?」



 智と疾登は声を合わせた。



「ねえ、どうしよう・・・」



「お、落ち着け花輪。何があった」



 ドアはドンドンと強く叩かれている。



「あのね、吉岡っていう人がいるんだけど、その人が今ドアを叩いている柚野さんに刃物で狙われてたの。それで、止めに入ったら、私がターゲットになったってわけ!」



 パニックに陥っているせいか、説明が雑だ。



「野々神さん。早く出てきてくださいよ」



 飛香は舐めまわす様に言う。



「花輪。あんなの放っておいた方がいい。こんな大きな音だったら、周りが気付いてくれるだろ」



 智は冷静に言った。



「そ、そうだね」



 それから、部屋で助けが来るのを待っていると、外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「あら、柚野さん。どうしたんですか。そんなに興奮して。周りの迷惑ですよ」



 高峰の声だった。



「高峰・・・」



 飛香はその声を聞いて、ドアを叩く手を止めた。



「貴方、とうとう悪魔になってしまったのですね。いつもの自分を押し殺して、裏の姿を現した」



 高峰の足音が近ずいている。恐らく、飛香との距離を縮めているのだろう。



「悪魔にしたのは誰よ。私は悪くない。すべて貴方が悪いの!」



「・・・そうですか。では、こうすれば、貴方も楽になれますよね」

 



バンッ!!




 その後、何かが倒れた音がした。



「全て、貴方が悪いのよ」



 高峰はそう言ってその場を去った。



「な、なあ、兄貴」



 疾登の声が震えている。



「な、何だ?」



「今、高峰、撃ったよな」



 智は頭を上下に動かした。



「もう、嫌・・・」



 花輪はその場に倒れ込んだ。

 智と疾登は花輪に駆け寄った。



「大丈夫か?」



 花輪は、無言で小さく頷いた。



「ちょっと、休んだ方がいいよ」



 疾登は、花輪を横に寝かせた。



「ごめん。ありがとう」



 花輪はゆっくり瞼を閉じた。



「花輪、かなり疲労が溜まってるな」



 智は花輪を見ながら呟いた。



「うん。体に問題なかったらいいんだけど・・・」



 それから、しばらくの沈黙があった。



「兄貴」



 この空気で最初に口を開いたのは疾登だった。



「何?」



「花輪が言ってた柚野っていう人、まだドアの前に倒れてるのかな」



 智もそう思っていたが、見るに若干の勇気が必要だったので、見ようとしていなかったのだ。



「・・・外、見てみるか?」



 疾登は少し躊躇ったが、頷いた。



「兄貴が開けろよ」



 ドアの前に立って、疾登が言った。



「わ、分かってるよ」



 智はゆっくりドアを開けた。



「あれ?」



 智は目の前に映っている光景を見て、首を傾げた。



「どうした?」



 疾登が横から聞いてきた。



「ちょっと、見てみろよ」



 智は疾登が見えるようにドアを全開にした。



「え・・・どういう事だよ」



 そこには、柚野がいない。それだけでは、どこかへ運ばれたのだろうと予測がつくが、銃で撃たれたのならば、血の跡がどこかにあるはずなのだが、見渡しても血の痕跡がない。



「え、柚野さんって打たれてないのか?」



 疾登が外に出て周りを見渡している。



「いや、でも、銃声は聞こえたし、倒れた音もしたし・・・」



「うーん。まあ、気にすることないか」



 疾登は背伸びした。



「雑だなぁ」



 智はこんな疾登に呆れた。



「っていうか、もうこれでツアー終了になるよな?」



 疾登は少し期待を込めて言った。



「多分な。俺も、もうこりごりだよ」



「よっしゃ~!」



 疾登はガッツポーズした。



「シッ!花輪が起きるだろ」



 智は口の前で人さし指を立てた。



「あ、ごめん。なあ、今何時?」



 智は腕時計を見た。



「10時前だ。なんか、今日は時間が経つのが遅かったな」



「うん」



 そこに、アナウンスが入った。高峰の声だった。



「皆さん。今日はお疲れ様でした。ツアーはこれで終了と致します。これより、消灯の時間と致します。お風呂はいつ入っても結構です。携帯は明日皆さんにお返しします。明日は、7時に食堂集合でお願いします。それでは。」



 アナウンスはそこで終わった。



「兄貴」



「ああ。やっと終わったな!」



 智と疾登はハイタッチした。



「あ~疲れた。風呂入ろっかな~」



「そうだな」



 寝ているところ悪いが、花輪を起こした。



「ごめんな。花輪」



「ううん。それより、明日も続くの?」



 花輪が泣きそうな目で智を見つめる。

 智は優しく微笑んだ。



「もう終わったよ」



 その瞬間、花輪の顔に笑顔が戻った。



「良かった。家に帰れるんだよね」



 智はゆっくり頷いた。



「やっと終わった。もう疲れたよ」



「花輪、風呂入ってから寝る?」



「うん」



 花輪は立ち上がった。



「よし、じゃあ、また後で。なるべく早めに部屋に帰ってくるんだぞ。心配なんだから」



 智は念を押した。



「分かった」



「じゃあ、疾登行くか」



「おう」



 そこで花輪と分かれて、疾登と一緒に風呂場へ向かった。

次の話で、ツアーは終了になると思います(多分)。

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