表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちの約束  作者: 翔香
第2章 不気味なツアー
33/55

第33話 躊躇い

「・・・決まったんですか?」



 柚野が、呟いた。



「・・・だな」



 佐藤が答える。



「私の勝ちですね」



 今までとは違う、トーンの低い、吉岡の声が聞こえた。



「あの・・・吉岡さん?」



 花輪は、加奈を覗き込みながら言った。



「勝ったのよ!私は勝ったの!!」



 加奈は、狂ったように不気味に笑い出した。



《それでは吉岡さん。これからは貴方が王様です。この中のメニューから、柚野、野々神、佐藤への罰を選んでください》



 その言葉で、画面にメニューが映し出された。



――メニュー――

1、死ぬ。

2、電気ショック。

3、身近な人を失う。



《さあ、吉岡さん、この中で、1人1つずつ罰を与えてください》



「ちょっ、ちょっと待てよ。これって、吉岡は助かるのか?」



 結衣がアナウンスの女性に問うた。



《その通りです》



 女性は、あっさりと答えた。



「そんな・・・」



 飛香は、今にも倒れそうだ。



《では、吉岡さんの縄を外します》



 また、黒スーツの男が出てきて、加奈の手首を縛っている縄を解いた。



「じゃあ、罰を振り分けましょうかね」



 加奈は立ち上がり、画面に目を向けた。



「お願いです!1番だけは止めてください!!」



 飛香が、これまでに聞いたことのない甲高い声を上げた。



「なあ、あたしも死ぬのだけは嫌だ。だから、あたしを助けてよ。良いでしょ?」



 結衣も懸命に説得する。

 だか、花輪は何も言葉を発しなかった。強がっているのではない。怖いのだ。例え、自分が助かったとしても、目の前で人が殺されるのは耐えられない。

 その時、花輪のお腹の中の赤ちゃんが動いた。

――そうだ、私はこの子の母親になるんだ――

 こんな所で死んではいられない。この子には元気に生きてもらわなければ。

 花輪は加奈に声をかけようとしたが、止めた。ここであれこれ言ったら、それこそ鬱陶しく思われて地獄行きになるかもしれない。花輪はそっと目を閉じ、深呼吸した。



「お願いです!私、此処で死にたくないんです!!」



「助けてくれよ。こんな2人なんか放っておいて――」



「黙れ!!」



 加奈が大声を上げた。



「私が決める事。他は黙っててよ」



 ここで花輪は、ゲームが始まる前に高峰が言っていた言葉を思い出した。



『人は優位に立った時、人格が変わり、簡単に人を裏切るようになる』と。

 


 今、まさに加奈はこの状態に陥っている。

 人間というものは分からない。時には優しい姿を見せ、時には悪魔のような姿を現す。人間は大きく分けて、この2つの姿を上手く利用している。いわば、仮面を被っているのだ。人は誰でも、この仮面を被っているのだろうか・・・



「決まりました」



 加奈の声で、花輪の思考が停止した。



《それでは、発表してください》



 数秒間の沈黙の後、生死の分かれ道が発表された。



「まず、2番の電気ショックは、柚野飛香にします」



 飛香は、嬉しいのか、悲しいのか、どちらか分からない複雑な顔をしている。



「で、1番が――」



 お願い!1番だけはやめて。



 花輪は心で強く願った。



「佐藤結衣です」



「おい!!!どういう事だよ!!くそ!!裏切りやがった・・・」



 結衣は、涙声で怒声を放っているが、加奈は、結衣を見向きもしなかった。

 花輪は、安心感に包まれ、溜まっていた息をどっと吐いた。

 だが、次の言葉で、花輪はまた恐怖感に襲われる。



「それから、野々神花輪が3番の身近な人を失う」



 そうだ、これで終わりではなかったのだ。身近な人とは誰だろう。友達?まさか、お兄と疾兄では?いや、恐らくそれはないだろう・・・



「野々神さん。貴方がお腹の中に赤ちゃんがいるって聞いたから、仕方なく3番にしたんですよ。黙ってないで、少しは感謝しなさいよ」



 花輪は少しムッとしたが、命を救ってくれたことに変わりはないので、一応、礼を言っておいた。



「なあ、なんであたしが死なきゃなんねーんだよ・・・理由教えろよ、理由!」



 結衣は、涙で顔がびしょびしょだ。



「理由なんかないですよ。まあ、あえて言うならば、消去法ですかね。貴方は、私が1番嫌いなタイプだから。私、じゃんけんが決まる前から罰の振り分け考えてましたからね」



 だからか。10回目のじゃんけんの前、加奈が1言も言葉を発しなかった理由は・・・



《それでは、電気ショックの柚野は別の部屋に移動していただきます》 



 アナウンスで、飛香の縄は解かれた。



 飛香は、黒スーツの男に強引に腕を掴まれ、隣の部屋に連れて行かれた。



「何でよ!!もう、嫌・・・・」



 飛香は、静かに涙を零しながら隣の部屋に行ってしまった。

 数分ほど経って、隣から叫び声が聞こえた。




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




「まあ、しょうがないわよ。これでも、運がいいと思いなさい」



 加奈は冷たく言った。



《では、吉岡さん。1番を佐藤と選択しましたね》



 加奈は頷く。



《これより、吉岡さん自らの手で佐藤を殺してもらいます》



「え・・・」



《今から吉岡さんに銃を渡します》



 黒スーツが、加奈に銃を差し出した。



「ちょ、ちょっと待ってください。そっちで処理してくれるんじゃなかったの?」



《そんなこと、1言も言ってませんよ》



 恐らく、加奈は自分で殺るとは思っていなかったのだろう。自らの手でとなったら、躊躇うのも無理ない。



「私、そんなこと出来ません」



 加奈は俯いたまま言った。



《それは困りますね。貴方が殺らないと終わらないのですが・・・》



「無理です!!」



 加奈はしゃがみ込んだ。



《仕方ないですね。では、こちらが手助けします。貴方は銃の引き金を引くだけです》



「どういう事?」



 すると、黒スーツの男が強引に加奈に銃を持たせ、加奈の人差し指を引き金に乗せた。そして、その銃を結衣に向けた。



《さあ、引き金を引いてください》



「む、無理です!!こんなのしたって、殺すことには変わりないじゃないですか!!」



 加奈は首を横に振る。



《殺さないと、貴方が殺されることになりますよ》



 アナウンスに女性は鋭く言い放った。



「い、嫌よ!そんなの嫌!!」



バンッッ!!



 その瞬間、結衣の腹から血が吹き出た。花輪は、思わず顔を伏せた。



《ありがとうございます。吉岡さん。ようやく終わりましたね》



「ち、違うの・・・今のは違う・・・」



 加奈は、銃から手を放した。



「さい、てい・・・」



 結衣が、力を振り絞ったような声を出した。



「だから、違うの。許して・・・」



 加奈はパニック状態だ。



「だれ、が・・・許す、か・・・」



 だが、その力も儚く、結衣は最後に加奈を鋭く睨んで、力が抜けていった。そして、ビクリとも動かなくなった。



「ど、どうしよう・・・私・・・」



 加奈は、その場に崩れ落ちた。



《では、皆さんを解放します。あと、野々神さん。貴方には、まだ罰が残っていることを忘れないでくださいね》



 その言葉で、花輪は顔を上げた。











「なあ、兄貴」



 疾登が仰向けになったまま呟いた。



「ん?」



「花輪、大丈夫かな」



 智も疾登の隣に仰向けになった。



「大丈夫だろう。きっと」



「そうだよな」



 疾登は大きく息を吐いた。



「ところでさ、疾登に1つ聞きたいことがあるんだけど・・・」



 疾登は智の方を向いた。



「何?」



「他に、忘れていることないか?何か気になることとか」



 智は、この間、ざっくりと今まであった事を話したが、詳しい事は話していない。



「あ、そういえば、俺たちをずっと世話してくれた刑事さんとか居た?」



――そうだ。話していなかったな。



「ああ。居たよ。佐名木浩輔さん。今も俺たちと連絡を取り合ってる」



「佐名木さんか。覚えておく」



「他にはないのか?」



 疾登はしばらく考えた後、こう言った。



「俺たちの父ちゃんと母ちゃん、何処で、どうやって殺されたんだ?」



「ああ、それは・・・家で刃物のような物――」



――待て、刃物?俺がさっき残像で見たのは血の付いた包丁・・・俺は何かを忘れている?いや、忘れている事なんて1つも無いはず・・・



「兄貴、どうした?」



「あ、いや何でもない。それで、父さん母さんどっちも刃物で刺されてたんだ」



「そうだったのか。犯人誰なんだろう・・・」



「まだ、全然情報掴めてないしな」



 それから、しばらくの沈黙があった。



「なあ、俺から質問していい?」



 最初に口を開いたのは疾登だった。



「いいよ。どうした?」



「あのさ、さっき兄貴が急に頭痛そうにしてたじゃん?あれ、たまたま頭痛がしただけ?」



 智は少し動揺した。今、話していいのだろうか。いや、もう少し時間を取った方がいいだろう。



「ああ。急に頭痛がね。大丈夫さ。気にすることない」



「そっか。疲れからかな。兄貴、少し休んだ方がいいよ」



「そうだな」



 智は、しばらくの間、眠ることにした。



 この時、花輪が危険な状態という事を知る由も無かっただろう。

もうそろそろ、ツアーも終盤に入ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ