第32話 衝撃の結末
「疾登、大丈夫か?」
智は、倒れたままの疾登に声をかけた。
「なんだよ!また殴りやがった!女のくせに調子乗りやがって!親の顔が見てみたいわ!」
疾登は起き上がって言った。
「まあまあ。落ち着けって」
智は、周りに視線を向けると、皆部屋に戻っていた。ビンゴになった女性と歩いてる人が羨ましかった。そこに、1人の20代前半くらいの男性が俯きながら歩いていた。まるで、生きる気力が無くなってしまった様に見える。恐らくあの男性も、智と同じ思いなのだろう。智は、その男性が心配になった。
「兄貴、あの人大丈夫かな・・・」
疾登も、その男性が気になるのだろう。
「ああ。心配だな・・・」
しばらくの沈黙の後、智は言った。
「疾登、俺たちも部屋戻るぞ」
「あ、うん」
2人は、無言で部屋に戻った。
その頃、花輪らは殺風景な部屋に閉じ込められていた。
部屋の中心に、パイプ椅子4脚が円になって置かれており、円の中心にはテレビ画面があった。
「皆さん、残念でしたね」
部屋の何処かのスピーカーから、高峰の声が聞こえた。
「私たちに何をするの!」
ある、20代後半くらいの女性が怒鳴った。
「そうですねぇ・・・まあ、貴方たちには痛い目に遭ってもらう事になるでしょう。指定された人間だけは。おい、準備しろ」
最後の『指定された人間だけは』という言葉が妙に引っかかる。だが、考える間もなく、先ほどの黒スーツの男4人が此処にいる女性を強引にパイプ椅子に座らせ、手を後ろに組ませ、縄で固く縛った。
黒スーツの男がいなくなると、また、高峰のアナウンスが聞こえてきた。
「では、今から皆さんには5分間の休憩を入れます。その間に、会話をして交流を深めていってください。それでは、また5分後に」
そこで、プツッと音がして、部屋は静まり返った。
この空気の中で、1番最初に声を出したのは、先ほど怒鳴った女性だった。
「まずは、自己紹介から始めましょうか。私は、吉岡加奈です。28歳です」
加奈は、この喋り方から、気が強い女性だと感じた。
加奈は、紹介が終わると、花輪に視線を向けた。次の紹介の合図だろう。
「あ、えっと、野々神花輪です。22歳です」
花輪は、横に座っている女性に目で合図した。
「わ、私は、柚野飛香です。25歳です」
飛香は、少し人見知りなのだろうか、オドオドしている。
「あたしは、佐藤結衣。21」
結衣は、少しヤンキーのような空気を醸し出している。あまり、触れない方がいいのだろうか。
「これから、何が行われるのでしょうか・・・」
飛香が、消えそうな声で呟いた。
「ってか、何であたしたちだけなんだよ!あの高峰って奴、超ムカつくんだけど!」
佐藤が貧乏ゆすりしながら、大声を上げた。
「まあ佐藤さん、落ち着いて」
加奈が結衣を止めた。
「わ、分かったよ」
結衣は、貧乏ゆすりを止め、大きく息を吐いた。
――何だ、意外と素直だった。
花輪は、胸を撫で下ろした。
「これからされる事って、絶対危険ですよね・・・」
飛香は、今にも泣いてしまいそうだ。
「まあ、タダでは帰してくれないだろうな」
結衣は、吐き捨てるように言った。
「そうですね。あれ、野々さん、そのお腹・・・」
加奈は、花輪のお腹に目をやった。
花輪は、戸惑いながら、口を開いた。
「あ、あの、私妊娠してるんです」
「えっ!!!」
他3人は声を揃えた。
「じゃあ、危険ですよ。赤ちゃんが・・・」
「野々神さん、これ、高峰に言った方がいいですよ」
「言っても、何にも対応してくれないんじゃねーの?あんな奴、信用出来るか!」
花輪も、高峰にこの事を言おうと考えたが、どうせ、曖昧な返事をして終わりだろうと思い、あえて黙っていたのだ。
そこで、休憩時間終了の合図の耳触りなブザーが鳴った。
先ほどと同じく、高峰のアナウンスが聞こえた。
「休憩時間終了です。それでは、今から皆さんに罰ゲームのルールを説明します」
「ちょっと待ってください」
加奈が、高峰を止めた。
「何です?」
高峰は、鬱陶しそうに言う。
「野々神さん、実は――」
「妊娠してるんですよね。野々神花輪さん」
突然自分の名前を呼ばれ、花輪はビクリと反応した。それと同時に、疑問が生まれた。
――何故、私が妊娠している事を知っているの?
「あなたのお兄さんに聞きましたよ。私にしがみ付いて、必死に訴えていましたよ。本当に鬱陶しかったですよ」
――お兄、疾兄・・・
「でも、妊娠していると聞いても、私は何も思いません。まあ、楽しませてくれてくれるなという感じですね」
「酷い・・・」
飛香は、小さく呟いた。
「野々神花輪さん。事前に言っておきますが、妊娠していても、そのままゲームを続けます。特別扱いなんかはしませんよ」
高峰は冷たく言い放った。
「・・・はい」
ここまで来ると、高峰に従うしか方法が無かった。
「では、ルールの続きを説明します。まず最初に貴方たちにじゃんけんをしてもらいます」
「じゃんけん・・・」
加奈が復唱した。
「じゃんけんの方法は、皆さんの縛られている手に、赤、青、黄のボタンが付いたスイッチを渡します。赤はグー。青はチョキ。黄はパーとなっています。勝敗の決め方は4人の内、1人だけ勝つと終了です。それまで、じゃんけんを続けてもらいます」
「4分の1か・・・」
結衣が唇を噛みしめた。
「では、今から貴方たちの運命を決めるスイッチを渡します」
高峰が言い終えると、先ほどの黒スーツの男が現れ、花輪ら4人の手にスイッチが渡された。
「皆さん、スイッチは渡りましたか?ちなみに、ボタンの色の順番は、上から、赤、青、黄。グー、チョキ、パーとなっています。選択は、10秒以内に行ってくださいね。ちなみに、時間内にボタンを押さなかった場合、こちらが自動的に決めさせてもらいます。ゲームを始める前に、1つだけ言っておきます」
そこで、高峰は1拍置いて言った。
「人は、優位に立った時、人格が変わり、簡単に人を裏切るようになる」
そこで、高峰の声は切れた。
ブ―――――
また、耳障りな音が鳴った。恐らく、ゲーム開始の合図だろう。
《それでは、これよりゲームを開始します》
高峰とは違う、別の女性のアナウンスが聞こえた。
《じゃんけんの結果は、あなたたちの前にある画面に映し出されます。選択のカウントも、この画面に映し出されます。それでは、ゲームスタートです》
そこで、5秒ほど、静寂な時間が訪れた。
《それでは、カウントスタートです》
画面に、10という数字が表れた。数字は、9、8と減っていっている。
「え、もう、始まっちゃうんですか!?」
飛香は、オドオドしている。
「とにかく、このボタンのどれかを押せばいいんだろ?」
結衣は、もうボタンを押したようだ。
――残り時間、後3秒
花輪は、真ん中のボタン、つまり、チョキを選択した。
《選択時間終了です。それでは、結果を画面に映します》
間もなく、手の形で結果が表された。
吉岡・・・グー
柚野・・・パー
野々神・・・チョキ
佐藤・・・パー
《この結果、あいことなりますので、やり直しです》
結衣が小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
「これ、なかなか終わらないですよ」
加奈がため息交じりに言った。
《それでは、2回目のカウント、スタートです》
また、画面が10の数字に変わった。今回は、誰も口を開かず選択を行った。
花輪は1番上、グーのボタンを押した。
《それでは、結果を発表いたします》
同じように、カウント画面からそれぞれグー、チョキ、パーの手の形が映った。
吉岡・・・チョキ
柚野・・・パー
野々神・・・グー
佐藤・・・チョキ
《この結果、あいことなります。やり直しです》
結衣は苛立っているのか、また、貧乏ゆすりを始めた。
《それでは、3回目のカウント、スタートです》
3回目でもあいことなり、4回目、5回目、6回目・・・全てがあいことなった。気が付けば、10回目まで来ていた。
「おい!!全然終わらねーじゃねーか!!」
結衣が足をジタバタさせて怒鳴った。
「止めてください。今そんな事言っても何も変わりませんよ」
飛香が控えめに注意した。
「はいはい」
結衣は、面倒くさそうに返事した。
加奈は、何も言葉を発しなかった。何か考え事でもしているのだろうか・・・
《それでは、10回目のカウント、スタートです》
花輪は目を閉じ、チョキのボタンを押した。
カウントが終了し、画面に結果が現れた。
吉岡・・・グー
柚野・・・チョキ
野々神・・・チョキ
佐藤・・・チョキ
《これにより、勝敗が決定いたしました。勝者は、吉岡加奈。敗者は、柚野飛香、野々神花輪、佐藤結衣となりました》
次回は、ちょっとグロくなるかもしれません!