第29話 休憩
今回は、いつもより長いです。
まずは、さっき高峰と会った場所に行った。
――確か、あそこに旅館のフロアの地図があったような気がするのだが。
行ってみると、智が記憶していた通り地図があった。
「食堂、食堂・・・」
呟きながら、指で地図を辿っていった。
「あった」
食堂は、1階の受付の近くにあった。ここからそう遠くはなかった。
「よし、行くぞ」
智は2人に声をかけた。
3人は急いで食堂まで向かった。
食堂は、意外とシンプルな造りだった。長机が6つあり、椅子が1つの机に5つ並べてある。壁には時計が掛かっておるり、前にはホワイトボートがあるだけ。机には、もう夕食が並べられていた。
夕食は、白ごはん、味噌汁、サラダ、ハンバーグの4種類だ。
時計を見ると、ちょうど6時になっており、全員集まっていた。皆、高峰を恐れているのだろう。
3人は入り口に近い席に静かに座った。
「皆さん揃いましたね。では、今から夕食の時間にします。それから、この後の予定をお話しします。夕食は6時30分に食べてくださいね」
高峰はそれだけ言い残して奥へ消えていった。
「じゃあ、食べるか」
智は2人の顔を見ながら言った。
「また、睡眠薬とか入ってるんじゃねーの?」
疾登が小さい声で囁いた。
「もう、ここまで来たらいろんなこと疑うようになっちゃうよ・・・」
花輪もボソッと呟いた。智はそんな2人を明るくさせようと、笑顔を見せて言った。
「まあ、今はそんなこと考えるな。ほら、食べよ」
智は先にいただきます、と両手を合わせて箸を持った。
「そうだな。考えすぎだよな。いただきます」
「そうよね。ご飯食べる時くらい、何も考えない方がいいよね。いただきます」
2人はそう言うが、まだ戸惑っている様子だった。
「美味しかったね。味もおかしくなかったし」
「そうだな。この旅館、ご飯だけはちゃんとしてるな」
花輪と疾登は小声で言った。
「皆さん、味わって食べていただけましたか?誰かさんがご飯だけはちゃんとしてるな、と言ったのが聞こえましたが、まあ、それはさておき、皆さん。今からこの後の予定について話します」
「やっべ。聞こえてたのかよ」
疾登は小さく呟いた。
「大丈夫だ。何もされないよ」
智は小声で言った。
「では、この後7時から女性限定でゲームをしたいと思います」
智たちの予感は的中していた。やはりこのままでは終わらなかった。危険でなければそれでいいのだが。しかも、女性限定というのが心配だ。
「まあ、少し工夫を加えたビンゴです。このゲームにも、今までと同様に、敗者には罰ゲームがあります」
「罰ゲーム・・・」
智は小さな声で復唱した。
「ルールの詳しい事は後で説明します。では、7時に旅館の玄関に集まってください。それまでは、部屋で待機しておいてください」
高峰はそれだけ言い残してそそくさと食堂を出て行った。
食堂の扉が閉まると、緊張の糸がプツリと切れ、溜まっていた息をドッと吐いた。
「やっぱり、ゲームか・・・」
疾登は頭を抱えて言った。
「私、もうこんなのしたくないよ。誰かが傷つくところなんて見たくない。私も罰を受けるかもしれ――」
「もう、それ以上考えるんじゃない」
智はそれ以上聞きたくなかった。智は疾登と同じように、頭を抱えて考え込んだ。
――これから行うゲームは女性限定と言っていた。ということは、俺と疾登は花輪を守ることが出来なくなるという事だ。花輪が助かることを祈るしかないのか。これでは花輪が危ない。
「どうすればいいんだ・・・」
智は大きなため息を吐いた。
「兄貴、部屋戻るぞ」
声がした方を見ると、疾登と花輪が食堂から出ていた。食堂には、もう智しか残っていなかった。
「ごめん。考え事してたんだ」
智は笑ってごまかした。
「お兄、大丈夫?」
花輪が智の顔を覗きこんだ。
「花輪の事が心配なんだよ」
「え・・・」
智は視線を落として言った。
「ほら、次のゲーム、女性限定って言ってたろ?だから、花輪が1人になるから、どうすればいいかなって考えてた。お腹の中の赤ちゃんだって・・・」
花輪は一拍置いて、ニコッと笑った。
「私は大丈夫だよ。心配しなくていいよ」
「俺も心配だよ。女の子を放っておくことはできないよな」
疾登は智の肩に手を乗せた。
「そうだよ。でも、どうすれば花輪を守れるのか分からない・・・」
「ごめんね。お兄、疾兄」
「いいって」
「いいよ、いいよ」
そうは言ったものの、良いアイデアが浮かばない。
「まあ、とりあえず部屋に戻ろう」
疾登が、先に歩を進めた。
智と花輪は疾登の後について行った。
「どうする?」
部屋に入って、疾登が1番最初に声を出した。
「うーん。妨害とかしたら、また何かやられそうだよな・・・」
智は頭を抱えた。
「いいよ。私は大丈夫だって。お兄と疾兄は見守ってくれるだけで十分だから」
「でもな」
続きを言おうとしたが、花輪が遮った。
「もう、この話はやめよう、ね。何か楽しい事しようよ」
花輪は優しく微笑んだ。
「本当に、大丈夫なのか?」
疾登が再確認した。
「うん」
花輪は頷いた。
智は、これ以上言っても、いつまでも言い争いが続くだけだと思った。
「そっか、ならいいんだけど・・・」
「それよりさ、何かゲームしない?疾兄、何か持ってきてない?」
「え、ああ。えーっと」
疾登は自分のバックを探り始めた。
「あった!トランプ」
「トランプいいね!」
花輪は両手を叩いた。
智は、次のゲームに備えてゆっくりしておきたいのだが、仕方なく引き受けた。
「ババ抜きする?」
疾登がトランプを切りながら言った。
「私は賛成だけど、お兄は?」
「何でもいいよ」
「じゃあ、ババ抜きに決定な」
そこで、疾登はトランプを切るのを止め、3つに分けて配り始めた。
疾登が配り終えるまで、ボーっとしていると、また、頭が殴られたような強い衝撃が走った。
「いっ」
智は、あまりの痛さに声を洩らした。智の異変に気が付いたのか、疾登と花輪が心配して、声をかけてくれた。
「お兄、どうしたの?」
「兄貴、大丈夫か?」
その時、智の脳裏に、ある残像が映った。それは、血の付いた包丁だった。ほんの一瞬だったが、はっきり映し出された。まるで、現実であったかのように・・・
――今のは、何だ?
智の頭に疑問が浮かんだ。
――これは何かの前兆か?
そう思うと、全身に鳥肌が立った。
「兄貴?」
「お兄?」
智は、2人に残像の事を話そうと思ったが、今は、自分の内に秘めておくことにした。
「いや、何でもないよ。疲れてるのかな」
智は笑って誤魔化した。2人は、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。気を使ってくれたのだろう。
疾登がトランプを配り終え、3人それぞれ同じ数字のトランプを抜き出した。智は14枚、疾登は10枚、花輪は8枚となった。ちなみに、今の所智は、ババを持っていない。
「俺、何かトランプの数多くね?」
「俺の方が多いわ!」
智は疾登に裏に向けたトランプを見せつけた。
「本当だ。なんか、ごめん。というか、花輪少ないな」
疾登は話題を変えた。
「うん。びっくりだよ」
花輪は嬉しそうにしている。
「ほら、始めるぞ」
時計回りで、智、花輪、疾登の順番になった。
最初に、智は花輪が持っているトランプの山から1枚取った。取ったカードは、クローバーの8だった。智は、ダイヤの8を持っていたので、花輪からとったカードと一緒にすてた。
「じゃあ、取るね」
花輪は疾登のトランプを1枚取った。しかし、揃わなかったのか、残念そうな顔をして、疾登のカードを花輪の山に追加した。
「俺、取るよ」
疾登は、智のカードを1枚取った。揃ったのか、疾登のトランプの山から1枚取り出して、雑に放った。
それから順調に進み、智が2枚、疾登が3枚、花輪が1枚となった。今も、智はババを持っていない。
「じゃあ、花輪引くぞ」
智は、花輪のトランプを引こうとした時、智は、はっとなった。
「花輪、俺が取ったら終わるな」
「そうだよ~」
花輪はニコニコしながら言った。智はいつかは引かなくてはいけないんだ、と考え、花輪の最後の1枚を取った。
「やった~!終わった!」
花輪が終わったという事は、ババは疾登が持っているという事になる。
「よし、じゃあ、兄貴取るよ」
疾登は、智のハートの6を取って疾登が持っていたクローバーの6と一緒に捨てた。
「じゃあ、このどっちかがババか・・・」
智は疾登のトランプをじっと見構えて、勘で智から見て左側のトランプを取った。
「やった!俺終了!」
智が取ったトランプはババではなく、ダイヤの8で、智が最後に持っていたスペードの8で揃った。
「うーわ。兄貴に負けるって相当悔しいな」
「どういう意味だよ」
智は疾登の頬を突っついて、少し強めに言った。
「ごめん、ごめん」
疾登は軽く謝った。
「あ!もう、6時50分だよ。早めに行っておいた方がいいんじゃない?」
花輪が少し緊張気味に言った。
「そうだな。そろそろ行こうか」
「分かった。あーもう、行きたくねーな」
疾登が顔を手で覆った。
「皆一緒だよ。みんな必死にあがいてる」
智はため息交じりに言った。
「そっか・・・そうだよな」
疾登は俯いた。
「・・・よし、行こう!ここで弱音を吐いてても何も変わらないんだから」
智は、2人を安心させようと、あえてテンションを高くして言った。
「そうだね」
「やるしかないな」
3人は軽く心の準備をして部屋を出た。
智の頭痛の原因とは!?