第21話 game2 カード探し(1)
智たちは「105」という標識が掛かってある小さな部屋に連れて行かれた。
「じゃあ、この賭けのルールをもう1度おさらいしておきます。この賭けは、さっきのお化け屋敷のペアでこの山の中のあるフロアで10枚のカードを探してきてもらい、この山は4つに分けているので、1組につき1フロアのなかで探してもらう事になります。フロアの面積はどれも同じにしてるから皆平等になります。まあ、そんなに難しくないからすぐにクリアできるでしょうね。
じゃあ、今から、赤、黄、青、黒、緑、紫、水色、黄緑、茶色、オレンジの中で1つ色を選んでください。それでフロアがどこになるか決まります」
辺りがざわざわしだした。智も2人に聞いた。
「疾登、花輪。何色がいい?」
疾登は考えもせずに発言した。
「俺は何色でもいいよ。花輪決めなよ」
花輪は迷うことなく言った。
「じゃあ私、黄色がいいな」
「そっか。じゃあ、黄色にするか」
ちょうど3人の話し合いが終わった頃に、高峰が声を上げた。
「じゃあ、決まったと思うから言っていくので、手を挙げてください。まず、赤」
若いカップルのグループ1組が手を挙げた。
「じゃあ、黄」
智、疾登、花輪はゆっくり手を挙げた。
「次は、青」
もう1組の若いカップルのグループが手を挙げた。
それから、順調に事が進んだ。
「最後。オレンジ」
残ったあの、おじさんのグループが手を挙げた。
「よし、じゃあ、さっそく始めます。あ!それと言い忘れたことがあります。この賭けは90分という制限時間があります。もちろん、制限時間に遅れた時も罰が下されます」
罰とは何なのだろうか。でも、クリアさえすれば罰も下されないから、今はとにかくこの賭けに集中しなくては・・・
「それでは、今から開始します。よーい・・・スタート!」
高峰が勢いよく笛を鳴らした。皆は慌てて部屋のドアを開けて外に出て行った。急ぎすぎて転倒している人もいた。
残りは、智たちだけとなってしまった。
「じゃあ、俺たちも行くか」
疾登が手を叩きながら言った。
「そうだね。急がないと」
花輪は先に行く疾登の後について行った。智も少し遅れて2人の後に続いた。
小鳥や虫の鳴き声が聞こえる。そのせいか、少し不気味に感じる。
スタートしてから5分ほど歩いていると、神社の鳥居のようなものが立っていた。そこには、『黄のフロア』と黄色の絵の具のようなもので書かれていた。3人は周りの様子を窺いながら、鳥居をくぐった。すると、100メートルほど先に小さな小屋が見えた。
「お兄、あの小屋・・・入ってみる?」
智は少し間をあけて答えた。
「そうだな。あの小屋の中にカードがあるかもしれない」
3人は小走りで小屋の前まで走って行った。
「お兄、開けなよ」
花輪が腕を突っついてきた。智は何か出てきたら・・・と考え、疾登に視線を移して言った。
「疾登、開けなよ。どうしたんだよ。さっきから何も喋ってないじゃないか」
すると、疾登は口の前でひとさし指を立てて、小声で言った。
「何か、気配感じないか?」
3人は辺りを見渡す。智は何もないと感じたが、花輪が「あっ」と言う声をあげた。
「どうした花輪。何かいたのか?」
智が聞くと、遠くに指を指して言った。
「あそこに、何かいる」
花輪が指を指した方を見ると、何か黒い影が動いた。智の直感だが、あれは人間の動きではない。ロボットか?
「あれだったのか。俺たちがスタートしてからいるんだ。でも、何のために・・・」
疾登は腕を組んで顎をさすっている。
一体、何のために・・・もしかして、監視カメラか?
「何なのよ!もう!気味が悪いよ。こんなゲーム早く終わらそう」
花輪は少し苛立ってきている。
「そうだな。早く終わらせた方がいい。ほら、疾登、扉開けろよ」
智が言うと、疾登は口を尖らせて言った。
「何で俺なんだよ。もしかして、兄貴、怖いのか?」
疾登のその言葉にドキッとした。これ以上、疾登に頼み続けると格好悪い。
智は仕方なくゆっくり扉を開けた。木で出来ているので腐っているのか、ギギっと音が鳴る。
「お邪魔します」
智は恐る恐る小屋の中に足を踏み入れた。その時、足元からカランという音がした。ゆっくり足元を見ると、骸骨が転がっていた。
「ひっ!」
あまりの気味の悪さに智は悲鳴を上げた。智の声を聞いて、2人も入ってきた。
「うわっ!もう、勘弁してくれよ」
「きゃ!もう嫌だ!帰りたよぉ」
2人はブツブツと愚痴を言っている。智は2人に「早く行こう」と言って慎重に先に進んだ。すると、目の前に木でできた古い机が1つだけポツンと置いてあった。その横には大きな本棚があった。
「ちょっと、調べてみるか」
智が言うと2人は小さく頷いた。
智はさっそく、一番上にある引き出しを開けてみた。すると、ポツンと1枚目のカードが入ってた。
カードを見ると、表には真ん中には骸骨の絵があり、まわりは不気味な黒色の模様がプリントされていた。
「なんだ。意外と簡単に見つかるんだね。この調子だと、2枚目もすぐに見つかりそうだね」
花輪は調子が乗ってきたのか、残っている引き出しを開けて、カードを探し始めた。
智はもう1度カードを見た。カードの裏を見ると、そこには赤色の文字で「く」と書いてあった。智は、その言葉については、あまり深く考えなかった。考えるより、早くカードを探す方が、効率がいいと思ったからだ。
智は2枚目を探し始めようと、本棚に手を伸ばそうとした時、花輪が声を上げた。
「あったよ!2枚目」
花輪は急いで、智の所にカードを持ってきた。
「ありがとう」
智は花輪に礼を言ってカードを受け取った。花輪はすぐに3枚目のカードを探しに行った。
花輪からもらった2枚目のカードの裏を見ると、また、赤い字で「ば」と載ってあった。智は1枚目のカードと重ねて両手でしっかり持った。
「あ、このままじゃカード探せないや」
智は両手でカードを持っていると手が空かないから、カードを探せない、というくだらないことで苦笑した。もう、智の精神が参っているのだろう。
「あったよ。3枚目」
今度は疾登がカードを持ってきてくれた。智は礼を言って、それを受け取り、文字を確認した。そこにはまた、赤い文字で「つ」と書かれていた。智はここで、ようやくこのカードには暗号がある事が分かった。一般の人だと、もうすでに分かっている事だとは思うのだが・・・
智は、まだ暗号は解かなくていい、と思い先ほど探そうとした本棚に目をやった。すると、本棚の上から2段目の本と本の間に、カードが挟まれてあった。智は背伸びをしてカードを取った。裏を見ると、またもや「は」とあった。
そこで智は、はっとなり、疾登と花輪を呼んで、今まで見つけたカードを床に置いた。
「あ!ちょっと、これって・・・」
花輪が、急に慌てた様子でカードを並べ変えた。すると、
「ばくはつ・・・爆発!?おいおい兄貴、これって・・・」
その直後、突然小屋の中から「ピピピ」と音が鳴りだした。
智は危険を察知し、疾登と花輪の手を取って言った。
「疾登、花輪!この小屋は爆発する!早く逃げるぞ!」
「お兄、どういう事!?」
「意味が分かんねーよ!」
智は2人の言葉を無視して、疾登と花輪の手を強く握って、なるべく小屋から離れるように、がむしゃらに走った。
小屋から約20メートル程離れた所で、小屋が大きな音を立てて爆発した。それと同時に強い爆風が3人を襲った。
「きゃっ」
花輪がふらついたので、智と疾登は花輪の体を支えた。
「何だよ!やっぱり、おかしいって!何が賭けだよ!ふざけんな!」
疾登は大声で怒鳴った。
智はあくまでも、冷静に答えた。
「そうだな。このツアーは狂っている。ほら、早く次のカード探しにいくぞ。時間がもったいない」
すると、今まで口を開けたままだった花輪が声を上げた。
「お兄、何か冷静だね」
「俺、冷静か?とにかく、先進むぞ」
それからは、2人とも深く聞いてこなかった。
3人は、1歩1歩慎重に進んで言った。
『カード探し』編は、これから、2、3話続くと思います!